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第9章 第5節 タイムポリス隊のけじめ~それぞれの選択

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アナン「う~ん、遅いですね……」

アナンは地下室であおいが戻ってくるのを待っていたが、いつまで経ってもあおいは戻って来なかった。

アナン「別れ惜しいのかな。様子を見にいきますか……」

アナンは地下室を出て、1階の中央実験室に入った。しかしあおいは、室内にいなかった。

「おや? あおいさん、いないですね」

アナンは室内を見渡すと、部屋の中央の机に、あおいのバッグが置いてあることに気づいた。アナンは、バッグの置いている机に向かった。

「あおいさん、バッグを置いてどこにいったのかな? バッグも開けっ放しで……ん? これは……」

バッグの近くには、ノートが数冊、置いてある。ノートに書かれた題名を見ると……「霊界通信機の原理」と書かれてあった。そして残りのノートを確認したら、いずれも霊界通信機の内容の本だった。

「霊界通信機って……この研究がはじまるには、少なくともあと30年はかかるかず。しかもあおいさんが……なぜこのノートを持っているんだ。それにあおいさんは、奏太さんの実験を見ていただけって言っていたはず……」

それからアナンは、床にA4サイズの紙が落ちていることに気づいた。アナンは紙を拾った。どうやら星のような図形が描かれている。しかしこれを見たアナンは、冷や汗をかいた。

「こ、これは逆さ五芒星!」

それからアナンは。A4用紙の右下に書かれた文字を読んでみた。そこには次のように書かれていた。

【黒魔術の秘宝~死者を召喚する逆さ五芒星の作り方】



「黒魔法、逆さ五芒星って……まさか、あおいさんと奏太さんが行っていた実験って……」

アナンはすぐさまアオイが置いて行ったノートをバッグを持って研究所を出ていき、奏太の家に向かって走った。

「あおいさん、いや奏太さんが危ない!」

アナンは、奏太が行っていた実験については、何も調べていなかった。なぜならあおいから、高校物理の実験と聞かされていたからだ。アナンは高校生が行う実験と聞いたので、調べる必要はないと判断していたのだ。

「あの黒魔法の秘術は、24世紀では危険すぎて使用禁止になったものだ。まさか、あの実験を行っていたなんて……たいへんまずい!」





そのころあおいは、奏太の家の庭にいた。

あおいは冷や汗をかいて、緊張した顔をしている。今あおいの目の前に、小柄の中年の男がいる。しかしその男は奏太ではない。あおいの前に立っていたのは、タイムポリス班長のカルだった。



* *  *



話は10分ほど遡る。

研究所を出たあおいは、奏太の家に着いた。玄関には明かりがついていた。あおいは玄関から呼び鈴を鳴らしながら、奏太を呼んだ。

「奏太! 奏太!」

しかし反応がなかった。そこであおいは、勝手に家に上がって家の中を探し出した。

「奏太の部屋はどこ? 明かりのついている部屋? 大きな家なので探すのが大変!」

あおいは1階の廊下を見渡したが、どの部屋も明かりはついてなさそうだ。次に階段の上を見てみた。すると2階へ続く階段の奥からわずかに明かりが見える。

「2階の部屋ね!」

あおいは2階への階段を上がった。2階に上がると、一番奥の部屋から明かりが漏れていた。

「あの部屋だ!」



ガチャ

あおいは、半開きの扉を開けた。しかし部屋の中は、明かりがついているだけで誰もいなかった。

「一体、奏太はどこにいるの?」

あおいは部屋の窓を開けて広い家の庭を見てみた。すると……大きな庭の端にある、倉庫のような建物の窓からうっすらと明かりが漏れていた。

「なんであんなところから明かりが……はっ、きっとあそこね!」



あおいは急いで階段を下りて、外に出た。そして、倉庫に向かって走りだす。

しかしそのとき、目の前に小柄の男が現れた。

「やっと見つけましたよ、お嬢さん」

その男はタイムポリス隊、ボルトン部隊長の配下のカル班長だった。

あおい「あなたは確か、タイムポリス隊の……」

カル「カル班長ですよ。いや正式には元班長ですけどね」

あおい「元班長?」

カル「はい、そうです。先日、あなたたちを捕まえるときの失態で、なぜか私だけが降格を言い渡されたのですよ」

あおい「一体何を言いたいの? そこをどいて!」

カル「あなたは無罪になりましたね。連邦防衛軍の決定ですから、さすがに私も、それに従うしかありません」

あおい「あたし、とても急いでいるの!」

カル「相方の男は、どこにいらっしゃるのですか?」

あおい「奏太に何の用があるのよ……」

カル「あなたは未来に戻り、これからの人生を楽しめばよいのですよ。しかし、私はあなたの相棒さんに一発殴られて気絶してしまいました。その失態を見たボルトン部隊長は私の降格を決定したのです。あの坊やは私に恥をかかせました。だから……」

あおい「だから、なんだって言うのよ」

カル「あの坊やには消えてもらうのですよ」

カルは、光線銃を中指にはめた。



あおい「あなた、自分の言ってることがわかってるの? さっき私たちは、無罪になったと言ったじゃないの?」

カル「おほほ。無罪になったのはあなただけで、男のガキに対しては何も判決を言われてないです。だから、ボルトン部隊長からの『邪魔をしたものがいたら消せ!』と言われた指示は今でも活きているのですよ」

あおい「それっておかしいじゃないの? あたしが無罪になったら奏太だって無罪になるに決まってるじゃないの! あのアナンっていう人に確認すればわかるんじゃないの?」

カル「私はアナンやボルトンが大嫌いなのです! アナンは若いくせに生意気だし、ボルトンは私を降格させました。ここで奏太を私がうっかり消したとなったら、アナンはがっかりし、ボルトンも降格でしょうね。いい気味ですよ。キャハハ」

カルは、降格したのは奏太というガキのせいと考えていた。それは完全な責任転嫁だったが、出世欲にまみれたカルは、理性が吹っ飛んでいたのだ。

あおい「それって、逆恨みじゃないの?」

カル「おだまりなさい! さあ、ガキの男はどこなの! 白状しなさい!」

カルはおとなしい口調から激しい口調に変わった。この男は、本当に奏太を消すつもりだ。

あおい「だめ、絶対にあなたなんかに教えてやるもんですか!」



このときカルは、思った。

――この女のガキは、こんな夜に慌ててどこに走っていくのだろうか……と。

カルは、あおいが慌てて向かおうとした先を振り向いた。そこには倉庫があって、窓から明かりが漏れていた。

「なるほど……あのガキはあの倉庫にいるんですね」

カルは振り向いて倉庫に向かって走り出した。

あおい「だ、だめ!」

あおいはカルを捕まえようとしたが、一瞬、遅かった。あおいは捕まえそこなって転んでしまった。

「そ、奏太……」

「おほほ、堪忍しなさいよ。私自身が消してやるのですから……坊や、光栄に思いなさい。キャハハ」

カルは勝ち誇ったかのように、大声を出しながら高笑いした。しかしその次の瞬間……



バタッ

カルは倒れてしまった。



え?

あおいは、何が起きたのかわからなかった。よく見ると、カルが倒れた先に、あのボルトン部隊長が立っていた。ボルトンはカルを軽く叩いて気絶させたのだ。

ボルトン「この度はすまなかった。俺の失態だけでなく、部下の失態までかぶせちまって」

あおいはボルトンの意外な態度に驚いてしまった。



「お前たちに一言、詫びを入れに来ただけだったが、こんなところにまで、こいつがやってくるなんてな。だいたい状況は理解している。おまえが無罪になれば、当然彼も無罪だ。どうやらカルは、降格を逆恨みして、復讐しようと思ったようだ。ほんとうにすまなかった」

「いえ、こちらこそ、助けてくれてありがとう……」

「ところでカルは、あの倉庫に向かって走っていたが……一体どうゆう状況だ」



「そうだ! 急がないと、ごめん、事情はあとで説明するから!」

あおいは倉庫に向かって走り出した。ボルトンもカルを足で軽く蹴っ飛ばしたあと、あおいの後を追いかけた。

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