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第9章 第2節 霊界通信センサーの試作品~それぞれの選択

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「あおいちゃん、未来からこの時代にやって来たんだろ。でもいつか……もとの世界に帰ってしまうんだよね」

「うん……」

「もしあおいちゃんが良ければだけど……このまま未来に戻らず、この家にいてほしいなって……」

「そうた……」

「もちろん、あおいちゃんにも、向こうの世界の事情があるから、すぐに返事しなくていいよ。でも……なにか特別な事情があって……あえて危険を冒して、この時代にやってきたんじゃないの?」

「うん……」

奏太の言っていることは当たっている。あおいは、奏太が亡くなったことを思い出し、少し下を向いて寂しい表情をした。

「もしもだよ、未来にあおいちゃんの居場所がなくて、この時代にやってきたんなら……俺はかまわないよ。それに俺の家、広いから……ここに住んでいいよ。もちろん……その……特別な意味はないから。自分たちの家族になったような軽い気持ちで全然かまわないから」

奏太は恥ずかしそうに、顔をポリポリかいた。

あおいは黙って、ずっと下を見たままだった。あおいは思いがけないことを言われ、返事に困っていた。あおいの様子を見て、奏太は、この話はさすがにまずかったかなと思った。

「あ、あおいちゃん、困らせちゃった? ごめん、急に変なこと言っちゃって……今の話は忘れていいから。気にしないでね。あはは」

「うんうん…… 違うの、奏太の気持ちがとてもうれしいの」

あおいの表情が少し明るくなって、奏太を見つめた。

「でも、やっぱり……すぐに返事できないの……」

「そうだよね。それに、いつかもとの未来に戻っても、きっとまた、この世界に遊びに来れるんだよね!」

「うん!」



奏太は、あおいの事情を知らない。タイムマシンの燃料もあと片道分しか残っていない。タイムマシンの燃料は、21世紀で手に入れるのは不可能だ。一度未来に戻ったら、二度とこの時代に行くことはできない。つまり、奏太とは二度と会えないことになる。



あおいはこのことを理解していた。奏太を悲しませないため、あおいは明るい態度を装い、この事実を奏太に話さないようにした。

「奏太、あたし、着替えもしたいし、そろそろ家に戻ろうかなっと思って……」

「じゃあ、駅前のホームセンターまで送るよ!」

奏太は、あおいが研究所の地下室に住んでいることをすでに知っている。しかし奏太は知らないふりをした。タイムポリスから守る意味でも、あおいが奏太のすぐ近くにいた方がいいし、なによりあの地下室以上に、安全な場所はない。



奏太は、あおいをスクーターでホームセンターまで送り、そこで別れた。奏太は自宅に帰るふりをして、あおいに見つからないようにホームセンターにユータウンしてきた。

案の定、あおいは、研究所に向かって歩き始めた。

奏太は、あおいが研究所まで無事にたどり着けるように、あおいのあとをついていった。途中、奏太の隣を一台の車がゆっくりと走っていった。その車にはアナンが乗っていて、奏太を見るなり、アナンは軽く会釈した。

奏太(あいつ、いいやつだな。本当に俺たちを見守っている。しかしどうやって車の免許をとったんだ。まあ、あいつなら免許の偽造なんて簡単にできそうだしな)





――あおいは無事に研究所に着いた。

(ここまでくれば安心かな、アナンも見守っていることだしな)

奏太は、通り道のずっと先で停車しているアナンの車を見て思った。



奏太はとりあえず自宅に向かい、部屋に戻った。奏太は今、もう一つ、とても気になっていることがあった。それは昨日、地下室の不良品棚で見つけた霊界通信機のセンサーと、同じ引き出しに入っていた解説書だった。

他にもタイムマシンの原理が書かれた文献の画像を撮っていたが、これについては、読んでもまったくわからなかった。

「アナンの言うとおりだ。わからない数式だらけだ。タイムマシンは近現代ではつくれそうもないなあ」

そこで奏太は、タイムマシンの文献を読むのをやめて、霊界通信機のセンサーの解説書を読んでみた。霊界通信機についてはさすがに意味がわかったようだ。

「これは……もう完成間近ではないか。俺はこのセンサーをつくるために、岬教授の開発したセンサーに興味を持ち、栄一君と会うことになった。しかしこのセンサーはもう完成しているのではないか……なぜ不良品置き場の棚に入っていたんだ?」



研究所一階の中央実験室で見つけたおじいちゃんの解説書には、霊界通信機本体についての解説が中心に書かれていた。しかし奏太が、地下室の不良品棚で見つけた霊界通信機センサーの解説書には、四次元以降の波長をキャッチする方法について詳しく書かれてあったのだ。

「この波長をキャッチする方法……岬教授が開発中のセンサーがひょっとしたらと思い、この研究を始めようとしたんだよな。俺は……」

解説書を見るかぎり、霊界通信機の実験に成功するために、第一段階として必要なのが、霊の念波に感応するセンサーの開発である。そして第二段階としてこのセンサーがキャッチした念波の解読方法である。そしてこの解説書のそばにセンサーの試作品があったのだ。

奏太は今、センサーをじーっとみている。

「このセンサー、試作品という札がつけられて不良品棚に入っていたが……ひょっとしたら使えるのではないか……よし、試してみよう!」



奏太は、部屋にある実験機とセンサーを接続してみた。そしてパソコンを使ってセンサー内部を解析した。解析中にいくつかのロックが掛けられていたが、おじいちゃんの古びた解説書に書かれていたコードを入力し、ロックを解除できた。

奏太はセンサー回路の数式を読んでみた。さすがに奏太でも詳しい数式までは読み切れなかったが、このセンサーはただのセンサーではないことは理解できた。

――これがあれば栄一と何年もかけて研究する必要がなくなるかも。いや、ひょっとしたら今すぐにでも霊界通信ができるのではないか。



奏太は午前から夜まで、実験機とセンサーの解明に無我夢中になっていた。



* *  *



そして夜の8時。

「できたぞ!」

奏太はさっそく霊界通信機を作動してみた。実験機は正常に動いた。最初は無反応だったが、2分経過後、反応があった。

ピピピー

霊界通信機は、確かに何かの目に見えない波長に反応している。

ピポポパポピピピピピ

「よし、もう少し! いけそうだ!」

だんだん反応が大きくなった。



ポピピピ……

しかしもう少しでキャッチできる思ったら、波長のキャッチが途切れてしまった。

奏太は1時間ほど実験を繰り返した。しかしいずれも似たような状態だった。

「ち、またダメだったかあ。でもあと、もうちょっとの気がするなあ」

奏太はふと思った。

(きっとこのセンサー、まだ三次元と四次元の変換が完全でないのかも。だからおじいちゃんは、このセンサーを失敗作として不良品棚に置いたのかな)

「もっと感度の良いセンサーでないとだめなのか。それか、もっと霊エネルギーの強い波長を捕らえられれば……ん? ひょっとしたら、もっと強い霊エネルギーの波長なら……」



このとき奏太は思い出した。強い霊エネルギーを呼び出す方法にぴんと来るものがあった。

「そうだ! 確かおじいちゃんの書斎に……」

奏太はおじいちゃんの書斎に向かった。奏太の家は、古いがとても広い。見た目は農家の大地主のように見える。1階と2階合わせて部屋が10以上あった。その一つの部屋におじいちゃん専用の大きな書斎がある。

本は1万冊くらいあるだろうか。おじいちゃんの本の多くは、もちろん科学書や科学雑誌だが、哲学や宗教書もかなりそろえている。そのなかに心霊コーナーがあったのを思い出したのだ。おじいちゃんは霊や魂を深く信じていて、大のオカルトマニアでもあった。

書斎には時々、奏太が足を運んで本を借りて読んでいたので、意外にきれいだ。ただ、心霊コーナーはほとんど立ち寄っていなかったので、埃(ほこり)がかなりかぶっていた。



奏太は埃を払いのけ、心霊コーナーの前に立っている。

「確かここらへんにあったよな……」

奏太は何かの本を探している。

「あった、あった。これだあ!」

その本のタイトルは「黒魔術の秘宝~死者を召喚する逆さ五芒星の作り方」だった。

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