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第7章 第2節 霊界通信機を壊すのは今~あおいの葛藤
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話は30分前に遡る。
奏太は11時46分の電車に乗るために切符を買って、駅のホームで電車を待っていた。
そのとき、栄一から電話があった。
「あ、奏太君か。悪い悪い、急用ができてな。今日はだめになってしまってね。もう家から出ちまったか?」
「ああ、ちょうど電車に乗る前だったから、まだ出発前だよ」
「悪いな」
「ああ、俺の方なら大丈夫だよ。今日は研究所に戻って、実験計画案をもっと練り上げてみるよ」
栄一と電話を終えると、奏太は駅から降りた。駅前の蕎麦屋でうどんを食べて、その後、スクーターで家に戻ろうとしたとき、ふっと思い出したことがあった。
「そうだ、あの部品の在庫、研究所にもう、なかったかな。家に戻る前に、ホームセンターで買って行こうか」
奏太は急遽、ホームセンターに向かった。そしてホームセンターの入口に着いた時、30メートル先の出口に個性的な帽子と、だてメガネをかけた女性が目に入った。
「あれ? 彼女はもしや……」
もう一度、彼女をよく見てみた。
「あの帽子、ダテメガネ。間違いない、うみちゃんだ」
それはあおいだった。あおいは、ちょうどパン屋さんでパンとスイーツを買って、研究所に戻るところだった。
「うみちゃん、今日は来ない日だったはずなのに……」
しかし心なしか、あおいがとても寂しそうに見えた。
(何かあったのかな。どこにいくのかな?)
奏太は未だに彼女の本名すらわからない。彼女は隣町に住んでいると言っていたが、それもどうも怪しい。しかし彼女は、命をかけてまで奏太を守ってくれた女性。命をかけた行動から、彼女のことを心から信じていた。彼女が正体を言わないのも、きっと深い事情があるからと、あえて奏太は、彼女のことについて深く追求しなかった。
ただ彼女の様子がいつもと違うように感じた。奏太は心配になり、こっそり彼女について行こうと考えた。あおいは、奏太がこっそりついてきていることを知らず、そのまま自転車で研究所に向かった。
* * *
あおいは、自転車に乗りながら、今、考え事をしている。そして奏太は、あおいに見つからないように適度な距離を保って、あおいの後ろを追いかけている。
あおいは考えていた。
(実験機は壊さないと、なにも始まらない。なにもしないで元の世界に戻っても奏太は亡くなったままだ。でも……奏太が生き返る可能性があるなら……それにかけたい。いや、それにかけるためにこの時代にやって来たんだ。
この時代の奏太は、例え実験機を壊しても奏太は生きている。仮に9月に中二のあたしと奏太が会わなくなっても、お兄ちゃんとすでに知り合いだから、きっとどこかで二人はめくり合うはず……やはり実験機を壊さないと……)
あおいは、これ以上躊躇せず、実験機を破壊しようと決意し始めた。
このときふっと、あおいは思いついたことがある。
(そういえば……今日は奏太、午後から千葉に行くと言ってたけど、午前中は、実験室にいるとも言ってたよね……ひょっとしたら、今、研究所に実験機があるかもしれない……)
あおいは、自転車を漕ぐスピードを早めて研究所に向かった。そして研究所に着いた。
そしてスクーターでこっそり追いかけてきた奏太はびっくりした。
「うみちゃん、なんで研究所に……」
あおいは門をくぐり、研究所の建物の玄関前に立った。そしてあおいは、キョロキョロと周りに人がいないかを確認した。
「やば……」
奏太はとっさ身を隠した。元から隠れるようにあおいを見張っていたので、あおいには見つからなかった。それからあおいは、なんと研究所の玄関を開けたのだ。
(え、どうしてうみちゃんが、研究所のカードキーを持っているんだ!)
奏太は自分のポケットを調べた。カードキーは確かにある。残りのカードキーは、母が持っている一つだけだ。母は見ず知らずの人に、俺の許可なしに貸すことはありえない。
(うみちゃん、カードキーをどうやって手に入れたんだ)
あおいが研究所に入った後、奏太はばれないようにこっそり研究所の建物に近づいた。
そして建物の外庭から、中央実験室の窓に近づいた。そして窓から中央実験室の中を覗いた。
実験室にはあおいがいた。あおいは、実験機の置いてある机の前で立っている。しかしあおいにいつもの明るい表情はまったくない。今までみたこともない、かなり思い詰めたような表情をしている。
(うみちゃん、いったい、何があったの)
あおいは今、心の中で思っている。
(あった……やっとあたしが一人のときにこの実験機と出会えた)
やっとこのときが来たのだ。この時代にあおいがやって来て、あっという間に一週間が経過した。
(今、奏太はお兄ちゃんに会いに行っていて、しばらく帰ってこない。壊すなら今しかない)
あおいは顔を引き締めた。
(長かった。本当に長かった……)
あおいは実験機を両手に持った。そして床の方へ振り向き、さらに実験機を両手で高く持ち上げた。そして今、実験機を床にたたきつけようとしている。
奏太(うみちゃん……ま、まさか)
あおいは今にも実験機を床に叩つける寸前だった。
奏太は11時46分の電車に乗るために切符を買って、駅のホームで電車を待っていた。
そのとき、栄一から電話があった。
「あ、奏太君か。悪い悪い、急用ができてな。今日はだめになってしまってね。もう家から出ちまったか?」
「ああ、ちょうど電車に乗る前だったから、まだ出発前だよ」
「悪いな」
「ああ、俺の方なら大丈夫だよ。今日は研究所に戻って、実験計画案をもっと練り上げてみるよ」
栄一と電話を終えると、奏太は駅から降りた。駅前の蕎麦屋でうどんを食べて、その後、スクーターで家に戻ろうとしたとき、ふっと思い出したことがあった。
「そうだ、あの部品の在庫、研究所にもう、なかったかな。家に戻る前に、ホームセンターで買って行こうか」
奏太は急遽、ホームセンターに向かった。そしてホームセンターの入口に着いた時、30メートル先の出口に個性的な帽子と、だてメガネをかけた女性が目に入った。
「あれ? 彼女はもしや……」
もう一度、彼女をよく見てみた。
「あの帽子、ダテメガネ。間違いない、うみちゃんだ」
それはあおいだった。あおいは、ちょうどパン屋さんでパンとスイーツを買って、研究所に戻るところだった。
「うみちゃん、今日は来ない日だったはずなのに……」
しかし心なしか、あおいがとても寂しそうに見えた。
(何かあったのかな。どこにいくのかな?)
奏太は未だに彼女の本名すらわからない。彼女は隣町に住んでいると言っていたが、それもどうも怪しい。しかし彼女は、命をかけてまで奏太を守ってくれた女性。命をかけた行動から、彼女のことを心から信じていた。彼女が正体を言わないのも、きっと深い事情があるからと、あえて奏太は、彼女のことについて深く追求しなかった。
ただ彼女の様子がいつもと違うように感じた。奏太は心配になり、こっそり彼女について行こうと考えた。あおいは、奏太がこっそりついてきていることを知らず、そのまま自転車で研究所に向かった。
* * *
あおいは、自転車に乗りながら、今、考え事をしている。そして奏太は、あおいに見つからないように適度な距離を保って、あおいの後ろを追いかけている。
あおいは考えていた。
(実験機は壊さないと、なにも始まらない。なにもしないで元の世界に戻っても奏太は亡くなったままだ。でも……奏太が生き返る可能性があるなら……それにかけたい。いや、それにかけるためにこの時代にやって来たんだ。
この時代の奏太は、例え実験機を壊しても奏太は生きている。仮に9月に中二のあたしと奏太が会わなくなっても、お兄ちゃんとすでに知り合いだから、きっとどこかで二人はめくり合うはず……やはり実験機を壊さないと……)
あおいは、これ以上躊躇せず、実験機を破壊しようと決意し始めた。
このときふっと、あおいは思いついたことがある。
(そういえば……今日は奏太、午後から千葉に行くと言ってたけど、午前中は、実験室にいるとも言ってたよね……ひょっとしたら、今、研究所に実験機があるかもしれない……)
あおいは、自転車を漕ぐスピードを早めて研究所に向かった。そして研究所に着いた。
そしてスクーターでこっそり追いかけてきた奏太はびっくりした。
「うみちゃん、なんで研究所に……」
あおいは門をくぐり、研究所の建物の玄関前に立った。そしてあおいは、キョロキョロと周りに人がいないかを確認した。
「やば……」
奏太はとっさ身を隠した。元から隠れるようにあおいを見張っていたので、あおいには見つからなかった。それからあおいは、なんと研究所の玄関を開けたのだ。
(え、どうしてうみちゃんが、研究所のカードキーを持っているんだ!)
奏太は自分のポケットを調べた。カードキーは確かにある。残りのカードキーは、母が持っている一つだけだ。母は見ず知らずの人に、俺の許可なしに貸すことはありえない。
(うみちゃん、カードキーをどうやって手に入れたんだ)
あおいが研究所に入った後、奏太はばれないようにこっそり研究所の建物に近づいた。
そして建物の外庭から、中央実験室の窓に近づいた。そして窓から中央実験室の中を覗いた。
実験室にはあおいがいた。あおいは、実験機の置いてある机の前で立っている。しかしあおいにいつもの明るい表情はまったくない。今までみたこともない、かなり思い詰めたような表情をしている。
(うみちゃん、いったい、何があったの)
あおいは今、心の中で思っている。
(あった……やっとあたしが一人のときにこの実験機と出会えた)
やっとこのときが来たのだ。この時代にあおいがやって来て、あっという間に一週間が経過した。
(今、奏太はお兄ちゃんに会いに行っていて、しばらく帰ってこない。壊すなら今しかない)
あおいは顔を引き締めた。
(長かった。本当に長かった……)
あおいは実験機を両手に持った。そして床の方へ振り向き、さらに実験機を両手で高く持ち上げた。そして今、実験機を床にたたきつけようとしている。
奏太(うみちゃん……ま、まさか)
あおいは今にも実験機を床に叩つける寸前だった。
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