恋は秘密のパスワード

ちえのいずみ

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第6章 第4節 二人だけの実験~未来からの来訪者

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時は翌日の13時、奏太との待ち合わせ時間になった。

あおいは12時30分に研究所を出て、奏太の実家の前を通らず、遠回りしてホームセンターに向かう。あおいは研究所の物置にあった自転車を使って、ホームセンターまで出かけ、ホームセンターの自転車置き場に自転車を止めた。あおいはキャップをかぶり、ペンダントを身に着け、ホームセンターの入口の前で、奏太が来るのを待っていた。



ブオーン

すると目の前にスクーターが止まった。スクーターの運転手はヘルメットをかぶっているから、誰だかわからない。

「やあ、うみちゃん!」

「あら、奏太だったのね! ヘルメットをかぶっているから、一瞬、誰だかわからなかったよ!」

「うみちゃん、こんな目立つところに座っていると、奴に見つかっちゃうよ」

「大丈夫よ。ここは人が結構いるし、奏太からもらった如意棒ペンもあるしね。それにあたし、悪いことしてないのに、なんでこそこそしないといけないの?」

「あはは、うみちゃんらしいな…… あ、そうだそうだ。はい、これ!」

奏太は、ポケットからメガネを出した。

「あれ~、これ、あたしのメガネじゃないのー」

「うん、弁償しようと思ってメガネ屋で調べてもらったら、ダテメガネってわかってね。それで同じようなメガネを買ってきたんだ。それにメガネかけていれば、あの男も見つけづらくなるよ」

「ありがとう、奏太! 使わせてもらうね!」

あおいは、だてメガネをさっそく装着した。

「後ろに乗って。今から研究所にいくよ」

「うん!」

奏太はスクーターを走らせ、やがて研究所前についた。



「ここがおじいちゃんの研究所だよ」

「へえ~、周りは林で囲まれたところにあるんだねえ」

当然あおいは、奏太にばれないように、初めて研究所にやってきたふりをした。まさかあおいが、研究所の秘密の地下室に住んでいるとは、奏太も思っていないだろう。

あおいはこの研究所の地下室で寝泊まりしている。お風呂や洗濯機、ベッドがあり、電気、ガス、水道まで整っていて生活には困らない。そもそも地下室の電気は地上の電源とはつながっていない。奏太のおじいちゃんは、未来では当たり前になっている自家発電装置をつくって電気を起こしていた。ただあおいは、なぜ地下室の電気がついているかについて、疑問にすら思っていなかった。



奏太は研究所入口の扉を開け、中央実験室に向かった。すると整理された机の上に見覚えのある装置が置いてあった。それはまさしく、未来の奏太が、大学の部室で調査していた霊界通信機だった。

――ああ、これだ。

あおいがこの時代にやってきて、ずっと探していた霊界通信機にやっとたどり着いたのだ。

奏太「これが霊界通信機だよ!」

奏太は霊界通信機の構成や原理を、解説書を持ちながら夢中になって説明した。もちろんあおいにはわからないことだらけだ。ただ、おじいちゃんのノートを何度も読み直したためか、多少のことは理解できた。そして現代では摩訶不思議まかふしぎなことでも、あおいはタイムワープでこの時代にやって来たのだ。

それに霊界通信機は、おじいちゃんがもともといた未来では存在していたから、おじいちゃんは試作品をつくれたのだ。別に摩訶不思議なことでもないとあおいは思っていた。



あおいは「うんうん」と、丁寧にうなずいた。そんなあおいを見て、奏太は声をかけた。

奏太「本当にうみちゃんって不思議だね」

あおい「ん、どうして?」

奏太「だって、霊界通信の実験をすると言っても、一切否定しないし、びっくりもしていないでしょ」

あおい「うん、奏太が興味もったものだから、応援したくてね」

奏太「その気持ち、俺、とてもうれしいよ。でもうみちゃんって、まるで霊界通信機のこと、最初からわかっているみたいでさ」。

あおいはもちろん、奏太が説明している解説書の深い意味を理解できたわけではない。

ただ一つ分かったことがあった。奏太が1階の実験室で見つけた霊界通信機の解説書と、地下室の机の引き出しに入っていた霊界通信機の解説ノートには明らかな違いがあることだ。

あおいが見つけた地下室のノートは2種類あり、タイムワープと霊界通信機について書かれていた。地下室に保管してあった霊界通信機のノートは4冊あり、1冊の説明書の厚みは、奏太が今、手にしている解説書よりもさらに分厚かった。あおいは、地下室のノートには、霊界通信機の原理について、さらに詳しく書かれているように感じた。そしてそれは、まさしく当たっていたのだ。しかし、奏太には地下室のことは秘密にしなくてはならなかった。



「じゃあ、うみちゃん。これから実験するね」

奏太の説明から、霊エネルギーをキャッチできるセンサーの材質を調べようとしていることがわかった。奏太は、様々なサンプルを用意して、机の上に並べている。日常、普通に使われているものから河原の石ころのようなものまである。100種類はあるだろうか。ホームセンターで売っていそうな材料まであった。

奏太は電流計のようなものを使って、材料の測定を開始した。用意したものを順番に測定している。一つのサンプルにつき、調査にかかる時間は20分ほどかかるようだ。1時間で3つの調査がやっとだ。奏太は測定計の波長の変化をじーっと観察している。

実験は、奏太一人で十分にできることだった。というよりも奏太が夢中になりすぎて、あおいにお願いすることすら忘れているように見える。特にあおいが手伝うことはない。あおいは奏太のすぐ脇で、奏太が実験する姿を見ているだけだった。



(高校時代の奏太も、夢中になるとこんなに生き生きするんだね)

あおいは新鮮な目で奏太を見ていた。そしてあおいは、奏太の実験する姿をただ見ているだけで、幸せな気持ちになっていた。





……実験を開始してから2時間経過した。あおいは冷たいコーヒーをつくって持ってきた。

「奏太、冷たいコーヒー。すこし休憩したらどう?」

「うみちゃん、ありがとう! へえ、給湯室、よくわかったね。おじいちゃん一人の研究所なのに、広さだけはあるからね」

「えへへ、トイレに行ったとき、少し奥の方も探検したから。そしたら給湯室を見つけちゃった」

「じゃあ、コーヒーでも飲もうかな」

奏太はコーヒーを一気に半分飲んだ。

「うみちゃん、結局、俺一人で実験しているようなものだね。退屈しない?」

「うんうん、全然。見ていて楽しいよ」

あおいは本当に、奏太が実験している姿をみているだけで、幸せだった。未来には奏太はいない。もう会えないと思っていた奏太が目の前にいる。その姿を見ているだけで、大学の部室で奏太が実験していた頃の姿を思い出し、いとおしい気持ちになっていた。

そして奏太も、あおいがそばで見ていることに何の違和感もなかった。いや、あおいがいてくれるだけで元気が出て、あおいに見守られているようにさえ感じた。



奏太はコーヒーを全部飲んで、再び実験を行った。そして時は、夕方になる。

「夕方になったね。今日はここまでかな。うみちゃん、ホームセンターまで送っていくよ」

「ありがとう」



……二人は、ホームセンターに着いた。

「うみちゃん、今日は付き合ってくれてありがとう。でも手伝うことなかったね。俺一人で夢中になっちゃって...」

「うん、見ているだけでとても楽しかったよ。明日も行くからね」

「そう言ってくれるとほんとに嬉しいよ! それに悪い奴らも、結局現れなかったね。さすがに研究所までは追って来れないよね。でも一様、気をつけてね」

「うん、心配してくれてありがとう。じゃあ、電車の時間になるから!」

「また明日、ここで……」



奏太はスクーターで戻っていった。



……よし。

あおいは、1時間ほどホームセンターそばのレストランで時間が過ぎるのを待っていた。

あおいは、時間をずらして研究所に自転車で向かった。あおいは19時に研究所に着き、奏太が中にいないことを確認して、研究所内に入った。あおいは、霊界通信機の置いてあった中央実験室に入った。しかし机の上には実験機がなかった。

「なんだ。実験機はないのね。きっと奏太、自分の家の部屋に持っていって、実験しているんだろうな。奏太らしいな。ほんと、実験オタクなんだから……」



ただあおいは、たとえ今、目の前に実験機があっても、今すぐ実験機を壊すことはなかっただろう。もうしばらく……奏太と一緒にいたい気持ちの方が大きかったからだ。

「もう少し、一緒に実験できる雰囲気を楽しみたいな……今、壊してしまうと、もう、高校時代の奏太と会えなくなるんだよね」

あおいは今、奏太のそばで一緒にいることが何よりも嬉しかったのだ。



* *  *



――次の日も、その次の日も実験は続いた。奏太は、昼はあおいと一緒に研究所で実験を行い、夜は実験機を家の部屋に持ち帰って実験の続きをしていた。奏太も、あおいと一緒に実験ができることがうれしく、とても楽しみにしていた。



そして実験が始まって4日目になった。

いつものとおり、あおいはホームセンターで待っていた。あおいはスクーターで研究所まで送ってもらい、中央実験室に入った。すると実験機の置いてある机の上に、一冊の科学雑誌があった。奏太は雑誌をとって、記事をあおいに見せた。

「うみちゃん、いい素材になりそうなのを見つけたよ!」

(え、この記事は……)

科学雑誌に掲載されている記事は、なんとあおいの父の記事だった。
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