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第6章 第3節 歴史が変わってしまった!~未来からの来訪者
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奏太とあおいの二人はホームセンターまで逃げてきた。ちなみにこのホームセンターは奏太がよく買い物で来るところだ。
「ふう~、どうやらうまく逃げられたようだな」
「奏太、助けてくれてありがとう……」
「いえいえ、ところでうみちゃん……。あの中年の男は一体誰なの?」
「わからない」
「わからないって……何か心当たりないの?」
「わからない、あ! たしかこう言っていた……」
あおいは、あの男から「タイムマシンはどこに隠したか」「タイムワープは極刑だ」と言っていたことを思いだし、それを奏太に話そうとした。しかしタイムマシンのことを話したら、あおいが未来からやって来たことが奏太にばれてしまう。それにあの男は、なぜあおいがタイムマシンで未来からやってきたことを知っていたのか……。
あおいにも、わからないことだらけだった。あおいはだんまりして、うつ向いてしまった。
「ふう~」
奏太は一呼吸、ため息をついた。しかしそのあと、あおいにほほ笑んだ。
「俺のおじいちゃんも日本中のあらゆるマスコミを敵にし、そのことで俺は小さい頃、クラスメイト全員からいじめられてな。先生もみんな、見て見ぬふりだったしね」
「え……」
「大人でさえ、誰も俺、いや俺たち家族を守ってくれる人はいなかった。最初の頃は、おじいちゃんを応援していた教授や取引先も少しはいたけど……大学や学会、マスコミを敵にしたら、仕事を失ってしまうからね。結局、味方だった人たちにも見放され、おじいちゃんは完全に孤立しちゃったよ。
でもね、たとえ大学教授陣や学会、マスコミのすべてがおじいちゃんを悪者にしても、何が正しく、何が間違いってことくらい、ガキの俺にだってわかったさ」
「……」
「なんだか事情よくわからないけどさ。俺がうみちゃんを守ってやるよ! 安心して!」。
あおいの顔に明るさが戻った。
「奏太!」
「それによ、あの男のいかにも『俺が正義だ』って態度、俺の最も嫌いなタイプなんだよな」
「うれしい!」
あおいはすっかり奏太の気持ちに嬉しくなり、奏太に飛びついた。さすがに奏太は照れてしまった。
「その……、うみちゃんは、俺にとっての命の恩人だから……。俺、うみちゃんを守ってあげたいんだ」
あおいは目をウルウルさせて奏太の顔を見つめた。あおいは今、奏太に飛びついていたことを知り、少し赤くなって奏太から離れた。
「あ、ところでうみちゃん。明日から研究所に来ないかい? うみちゃんって、家でじっとしていられる性格ではないでしょ。もし奴がやって来たら俺がさっきのように、この足でのしてやるから! はっ、はっ」
奏太は力強く空気に向かって足蹴した。
「うん、ありがとう、奏太」
「それとこれ!」
奏太は万年筆のようなペンをあおいに渡した。あおいがペンを見るとペンの頭付近にボタンがあり、ボタンには頭に輪をつけたお猿さんマークが描かれてあった。
「これは、俺のおじいちゃんが開発したペン型如意棒だよ。『伸びろ、如意棒』というと、ペン先が伸びるんだよ!」
「ありがとう、奏太のおじいちゃんらしいね。でも奏太、これっておもちゃじゃないの?」
「うみちゃん、『伸びろ、如意棒ー』って叫んで、孫悟空の顔が描いてあるボタンを押してごらん」
あおいは、「伸びろ如意棒ー」と叫びながらボタンを押した。すると本当にペン先が伸びた。10センチほどのペンがなんと1メートルの長さに伸びたのだ。
「びっくり! こんなに長く伸びるんだあ。いったいどんな仕掛けなの?」
「仕掛けは話すと長くなるから。うみちゃん、もう一度、ボタンを押してごらん」
あおいは孫悟空の顔が描いてあるボタンを押してみた。すると伸びたペン先が光って、伸びた棒がビリビリと震えだした。
「これに相手が触れると、しばらくしびれて動けなくなるんだ。もちろん、しびれるだけで命を落とすことなんてないから大丈夫だよ」
「奏太のおじいちゃんって、本当にユニークなものを作るんだね!」
「これはおじいちゃんの形見でもあるんだ。常に持ち歩いているんだけどね」
「そんな大切なもの、あたしに渡していいの?」
「いいから、いいから。おじいちゃんだって同じことするさ。それにおじいちゃんも言っていたけど、開発品って人のためにつくるんだよ!」
「じゃあ、これ、しばらく借りておくね。本当にいろいろありがとう」
「あ、もう5時だね。そろそろ」
「うん」
「じゃあ、明日は13時にこのホームセンターで待ち合わせだね。ここから俺のスクーターで研究所まで送るよ。ここなら人が多いから、奴だって簡単に手は出せないしね。いざという場合は、この如意棒でやっつけてよ」
あおいは奏太とバイバイして、ホームセンター内の休憩室で30分ほどくつろいだ。
そして例のごとく、自転車置き場に行って自転車に乗り、研究所に向かった。
あおいは研究所に奏太がいないことを確認した後、自転車を研究所の倉庫に停めて、研究所の地下室の中に入った。
「ふう、まさかあたしが、研究所の秘密の地下室で宿泊しているなんて、奏太は夢にでも思わないだろうな……」
あおいは洗濯機をかけながら、シャワーを浴びた。それからパジャマに着替えてベッドの上に寝転んだ。あおいは今、襲ってきた男について考え事をしていた。
(あの男は誰なの? なぜ、タイムワープのこと知ってるの? それにガドムとか連邦防衛軍だとか、わからないこと言ってたなあ)
いくら考えても、あおいは何もわからなかった。手がかりはおじいちゃんのノートにしかなさそうだ。
あおいはもう一度、読んでいないところも含めて、おじいちゃんのノートを読みなおした。
しかしあの男に関することは書いてなかった。ただあおいは、おじいちゃんのノートをざっと読み直して、改めて思い当たることがあった。
歴史を絶対変えてはならないこと。
タイムワープ先で、深い間柄の人と会ったり、話したりしないこと。
仮に深い間柄の人とつながりができてしまっても、タイムワープで違う時代からやってきたことを悟られないこと。
特に時代の異なる自分本人と、直接会うことは極力避けること。
……これらを守れなかったとき、自分自身が消滅、いや、最悪、宇宙が消滅してしまうかもしれないと書かれてある。特に本人同士が出会うことは、厳重注意として、次の補足説明が書かれてあった。
「本来、同じ人は同じ時代に、一人しか存在できない。もし二人が同じ時間に存在したら、それは虚数的存在、つまり「無」に等しい存在になる。違う時代の本人同士の存在が衝突した場合には、激しい反作用が起きるかもしれん……」
「あの男が『タイムワープは極刑だ』と言ってたことと、おじいちゃんの注意事項が関係するのかな。……となると、謎の男は、おじいちゃんと同じ未来人ってこと……」
しかしここで、あおいに疑問が生じる。あおいはすでに、深い間柄の奏太と出会って、しかも親しくなっている。だが何も起きていない。宇宙の消滅はもちろん、自分自身の消滅さえ起きてなく、今のところ、何も変わりはない。
あおいは考えた。
(あたしが奏太と出会って接触したっていうことは……すでに歴史が変わったってことでしょ。それに奏太、トラックに衝突しそうになったけど、あのままだったら奏太は命を落とすか、少なくとも大けがをしていたはず……。もし奏太がトラック事故に遭っていたら、大けがしてその年に、お兄ちゃんと会うことなんてなかったよね。……ん? 待てよ)
あおいは疑問に思った。
(でも本来の世界では、奏太はお兄ちゃんと普通に会えてるよね。つまり、あたしが助けなくても奏太は助かってたってこと……)
(う~ん、頭が混乱するなあ……あ!)
ここであおいは、今日、河川敷で奏太と話しているとき、奏太の首元にあざがなかったことを思い出した。
(そうだ……あたしがいる世界では、奏太の右首にあざがあったはず……)
あおいは未来の世界で、奏太の首元のあざを見た時の会話を思い出そうとしてした。
「そうそう、あれはあたしが高校一年のときのことだったかな……」
(時はあおいが高校1年、奏太が大学1年の夏休み)
あおいがエジソン研究室に、アイスキャンディとジュースを運びに行ったときのことだった。部室には奏太と兄の栄一がいる。二人は机に座って、熱心に研究を行っている。
ガチャ
「お兄ちゃん、ジュースとアイスの差し入れ、持ってきたよ!」
栄一「おお、ありがとう。奏太、少し休憩しようか?」
奏太「おれはいい。忙しいから……」
栄一「そう言わずに、休憩しようぜ。あおいがせっかく持ってきてくれたんだからさ」
奏太「俺、いらない」
あおいは、とことこと部室内に入ってきた。そして奏太のすぐ脇を通った。そのときあおいは、アイスキャンディーの先を奏太の首元にくっつけた。
奏太「つ、冷たい!」
あおい「あら~、ごめんなさい! 当たっちゃったかしら?」
奏太「あおいちゃん、今、わざとやっただろ!」
奏太は「すげー冷たかったぞ」と言いながら、首元を手で触った。
あおい「ふん、奏太が冷たい態度をとるから、首元が冷たくなったんでしょ!……ん?」
そのときあおいは、奏太の首元をみると、薄黒い大きめのあざがあった。
あおい「奏太。ところで、この首元のあざはなあに?」
奏太「ああ、このあざか。これはなあ、俺が高校2年の夏休み、本を読みながら歩道を歩いていたら、危うくトラックに引かれそうになったことがあってね。ただトラックに衝突する直前に、歩道に落ちていたバナナの皮を踏んづけて、こけてしまってな。そのとき、トラックに気づいて、慌ててトラックから逃げのびたんだ。その時に、歩道の角に首元をぶつけて、できたあざだよ。まさに間一髪だったよ」
あおい「え! 大丈夫だったの? 他にけがはなかったの?」
奏太「なんともなかったから、こうして今、実験できてるんじゃない」
あおい「そうよね」
奏太「奇跡的にけがはしなかったけど、あざが残ってしまってね。でも俺にとっては幸運のあざだよ」
あおい「ふ~ん」
(回想シーンはここまで)
(ああ~そうだった!)
あおいは完全に思い出した。
「そうだ、確かに奏太は高校2年のときに、トラックにぶつかりそうになったと言ってた! それと……歩道にバナナやミカンの皮がいっぱい落ちてて……。
あたし、バナナを踏んづけてその勢いで奏太を助けられたけど……。
――ってことはあたしが助けに行かなくても、奏太は自分でバナナの皮ですべって、助かっていたってこと……ええ~!」
(奏太は完全にあたしを命の恩人だと思ってる……。あたし、あの時からすでに歴史を変えちゃったみたい……)
あおいは、奏太を助けた時点で歴史を変えていたことに気づいた。しかし、自分自身に変化は何も起きていない。ましてや宇宙の崩壊や消滅が起きていないのはもちろんのことだ。
「そういえば、おじいちゃんのノートには、まだ仮説の段階とか書いてあったかな。とりあえず、今のところ、大丈夫のようだね。
ただ、おじいちゃんのノートに書かれていたように、未来から来たことだけは、ばれないようにしないといけないかな。そしてあの男のことは、明日考えるようにしよう。街中の人通りの多いところで待ち合わせをして、奏太と一緒なら大丈夫そうだしね。この如意棒ペンもあることだし……。
ふああ~。それにしても、今日もすっかり疲れちゃったなあ」
あおいはそのまま、眠りについた。
「ふう~、どうやらうまく逃げられたようだな」
「奏太、助けてくれてありがとう……」
「いえいえ、ところでうみちゃん……。あの中年の男は一体誰なの?」
「わからない」
「わからないって……何か心当たりないの?」
「わからない、あ! たしかこう言っていた……」
あおいは、あの男から「タイムマシンはどこに隠したか」「タイムワープは極刑だ」と言っていたことを思いだし、それを奏太に話そうとした。しかしタイムマシンのことを話したら、あおいが未来からやって来たことが奏太にばれてしまう。それにあの男は、なぜあおいがタイムマシンで未来からやってきたことを知っていたのか……。
あおいにも、わからないことだらけだった。あおいはだんまりして、うつ向いてしまった。
「ふう~」
奏太は一呼吸、ため息をついた。しかしそのあと、あおいにほほ笑んだ。
「俺のおじいちゃんも日本中のあらゆるマスコミを敵にし、そのことで俺は小さい頃、クラスメイト全員からいじめられてな。先生もみんな、見て見ぬふりだったしね」
「え……」
「大人でさえ、誰も俺、いや俺たち家族を守ってくれる人はいなかった。最初の頃は、おじいちゃんを応援していた教授や取引先も少しはいたけど……大学や学会、マスコミを敵にしたら、仕事を失ってしまうからね。結局、味方だった人たちにも見放され、おじいちゃんは完全に孤立しちゃったよ。
でもね、たとえ大学教授陣や学会、マスコミのすべてがおじいちゃんを悪者にしても、何が正しく、何が間違いってことくらい、ガキの俺にだってわかったさ」
「……」
「なんだか事情よくわからないけどさ。俺がうみちゃんを守ってやるよ! 安心して!」。
あおいの顔に明るさが戻った。
「奏太!」
「それによ、あの男のいかにも『俺が正義だ』って態度、俺の最も嫌いなタイプなんだよな」
「うれしい!」
あおいはすっかり奏太の気持ちに嬉しくなり、奏太に飛びついた。さすがに奏太は照れてしまった。
「その……、うみちゃんは、俺にとっての命の恩人だから……。俺、うみちゃんを守ってあげたいんだ」
あおいは目をウルウルさせて奏太の顔を見つめた。あおいは今、奏太に飛びついていたことを知り、少し赤くなって奏太から離れた。
「あ、ところでうみちゃん。明日から研究所に来ないかい? うみちゃんって、家でじっとしていられる性格ではないでしょ。もし奴がやって来たら俺がさっきのように、この足でのしてやるから! はっ、はっ」
奏太は力強く空気に向かって足蹴した。
「うん、ありがとう、奏太」
「それとこれ!」
奏太は万年筆のようなペンをあおいに渡した。あおいがペンを見るとペンの頭付近にボタンがあり、ボタンには頭に輪をつけたお猿さんマークが描かれてあった。
「これは、俺のおじいちゃんが開発したペン型如意棒だよ。『伸びろ、如意棒』というと、ペン先が伸びるんだよ!」
「ありがとう、奏太のおじいちゃんらしいね。でも奏太、これっておもちゃじゃないの?」
「うみちゃん、『伸びろ、如意棒ー』って叫んで、孫悟空の顔が描いてあるボタンを押してごらん」
あおいは、「伸びろ如意棒ー」と叫びながらボタンを押した。すると本当にペン先が伸びた。10センチほどのペンがなんと1メートルの長さに伸びたのだ。
「びっくり! こんなに長く伸びるんだあ。いったいどんな仕掛けなの?」
「仕掛けは話すと長くなるから。うみちゃん、もう一度、ボタンを押してごらん」
あおいは孫悟空の顔が描いてあるボタンを押してみた。すると伸びたペン先が光って、伸びた棒がビリビリと震えだした。
「これに相手が触れると、しばらくしびれて動けなくなるんだ。もちろん、しびれるだけで命を落とすことなんてないから大丈夫だよ」
「奏太のおじいちゃんって、本当にユニークなものを作るんだね!」
「これはおじいちゃんの形見でもあるんだ。常に持ち歩いているんだけどね」
「そんな大切なもの、あたしに渡していいの?」
「いいから、いいから。おじいちゃんだって同じことするさ。それにおじいちゃんも言っていたけど、開発品って人のためにつくるんだよ!」
「じゃあ、これ、しばらく借りておくね。本当にいろいろありがとう」
「あ、もう5時だね。そろそろ」
「うん」
「じゃあ、明日は13時にこのホームセンターで待ち合わせだね。ここから俺のスクーターで研究所まで送るよ。ここなら人が多いから、奴だって簡単に手は出せないしね。いざという場合は、この如意棒でやっつけてよ」
あおいは奏太とバイバイして、ホームセンター内の休憩室で30分ほどくつろいだ。
そして例のごとく、自転車置き場に行って自転車に乗り、研究所に向かった。
あおいは研究所に奏太がいないことを確認した後、自転車を研究所の倉庫に停めて、研究所の地下室の中に入った。
「ふう、まさかあたしが、研究所の秘密の地下室で宿泊しているなんて、奏太は夢にでも思わないだろうな……」
あおいは洗濯機をかけながら、シャワーを浴びた。それからパジャマに着替えてベッドの上に寝転んだ。あおいは今、襲ってきた男について考え事をしていた。
(あの男は誰なの? なぜ、タイムワープのこと知ってるの? それにガドムとか連邦防衛軍だとか、わからないこと言ってたなあ)
いくら考えても、あおいは何もわからなかった。手がかりはおじいちゃんのノートにしかなさそうだ。
あおいはもう一度、読んでいないところも含めて、おじいちゃんのノートを読みなおした。
しかしあの男に関することは書いてなかった。ただあおいは、おじいちゃんのノートをざっと読み直して、改めて思い当たることがあった。
歴史を絶対変えてはならないこと。
タイムワープ先で、深い間柄の人と会ったり、話したりしないこと。
仮に深い間柄の人とつながりができてしまっても、タイムワープで違う時代からやってきたことを悟られないこと。
特に時代の異なる自分本人と、直接会うことは極力避けること。
……これらを守れなかったとき、自分自身が消滅、いや、最悪、宇宙が消滅してしまうかもしれないと書かれてある。特に本人同士が出会うことは、厳重注意として、次の補足説明が書かれてあった。
「本来、同じ人は同じ時代に、一人しか存在できない。もし二人が同じ時間に存在したら、それは虚数的存在、つまり「無」に等しい存在になる。違う時代の本人同士の存在が衝突した場合には、激しい反作用が起きるかもしれん……」
「あの男が『タイムワープは極刑だ』と言ってたことと、おじいちゃんの注意事項が関係するのかな。……となると、謎の男は、おじいちゃんと同じ未来人ってこと……」
しかしここで、あおいに疑問が生じる。あおいはすでに、深い間柄の奏太と出会って、しかも親しくなっている。だが何も起きていない。宇宙の消滅はもちろん、自分自身の消滅さえ起きてなく、今のところ、何も変わりはない。
あおいは考えた。
(あたしが奏太と出会って接触したっていうことは……すでに歴史が変わったってことでしょ。それに奏太、トラックに衝突しそうになったけど、あのままだったら奏太は命を落とすか、少なくとも大けがをしていたはず……。もし奏太がトラック事故に遭っていたら、大けがしてその年に、お兄ちゃんと会うことなんてなかったよね。……ん? 待てよ)
あおいは疑問に思った。
(でも本来の世界では、奏太はお兄ちゃんと普通に会えてるよね。つまり、あたしが助けなくても奏太は助かってたってこと……)
(う~ん、頭が混乱するなあ……あ!)
ここであおいは、今日、河川敷で奏太と話しているとき、奏太の首元にあざがなかったことを思い出した。
(そうだ……あたしがいる世界では、奏太の右首にあざがあったはず……)
あおいは未来の世界で、奏太の首元のあざを見た時の会話を思い出そうとしてした。
「そうそう、あれはあたしが高校一年のときのことだったかな……」
(時はあおいが高校1年、奏太が大学1年の夏休み)
あおいがエジソン研究室に、アイスキャンディとジュースを運びに行ったときのことだった。部室には奏太と兄の栄一がいる。二人は机に座って、熱心に研究を行っている。
ガチャ
「お兄ちゃん、ジュースとアイスの差し入れ、持ってきたよ!」
栄一「おお、ありがとう。奏太、少し休憩しようか?」
奏太「おれはいい。忙しいから……」
栄一「そう言わずに、休憩しようぜ。あおいがせっかく持ってきてくれたんだからさ」
奏太「俺、いらない」
あおいは、とことこと部室内に入ってきた。そして奏太のすぐ脇を通った。そのときあおいは、アイスキャンディーの先を奏太の首元にくっつけた。
奏太「つ、冷たい!」
あおい「あら~、ごめんなさい! 当たっちゃったかしら?」
奏太「あおいちゃん、今、わざとやっただろ!」
奏太は「すげー冷たかったぞ」と言いながら、首元を手で触った。
あおい「ふん、奏太が冷たい態度をとるから、首元が冷たくなったんでしょ!……ん?」
そのときあおいは、奏太の首元をみると、薄黒い大きめのあざがあった。
あおい「奏太。ところで、この首元のあざはなあに?」
奏太「ああ、このあざか。これはなあ、俺が高校2年の夏休み、本を読みながら歩道を歩いていたら、危うくトラックに引かれそうになったことがあってね。ただトラックに衝突する直前に、歩道に落ちていたバナナの皮を踏んづけて、こけてしまってな。そのとき、トラックに気づいて、慌ててトラックから逃げのびたんだ。その時に、歩道の角に首元をぶつけて、できたあざだよ。まさに間一髪だったよ」
あおい「え! 大丈夫だったの? 他にけがはなかったの?」
奏太「なんともなかったから、こうして今、実験できてるんじゃない」
あおい「そうよね」
奏太「奇跡的にけがはしなかったけど、あざが残ってしまってね。でも俺にとっては幸運のあざだよ」
あおい「ふ~ん」
(回想シーンはここまで)
(ああ~そうだった!)
あおいは完全に思い出した。
「そうだ、確かに奏太は高校2年のときに、トラックにぶつかりそうになったと言ってた! それと……歩道にバナナやミカンの皮がいっぱい落ちてて……。
あたし、バナナを踏んづけてその勢いで奏太を助けられたけど……。
――ってことはあたしが助けに行かなくても、奏太は自分でバナナの皮ですべって、助かっていたってこと……ええ~!」
(奏太は完全にあたしを命の恩人だと思ってる……。あたし、あの時からすでに歴史を変えちゃったみたい……)
あおいは、奏太を助けた時点で歴史を変えていたことに気づいた。しかし、自分自身に変化は何も起きていない。ましてや宇宙の崩壊や消滅が起きていないのはもちろんのことだ。
「そういえば、おじいちゃんのノートには、まだ仮説の段階とか書いてあったかな。とりあえず、今のところ、大丈夫のようだね。
ただ、おじいちゃんのノートに書かれていたように、未来から来たことだけは、ばれないようにしないといけないかな。そしてあの男のことは、明日考えるようにしよう。街中の人通りの多いところで待ち合わせをして、奏太と一緒なら大丈夫そうだしね。この如意棒ペンもあることだし……。
ふああ~。それにしても、今日もすっかり疲れちゃったなあ」
あおいはそのまま、眠りについた。
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