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第5章 第6節 高校時代の奏太~未来のあおいと過去の奏太
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「クスッ、未来の奏太もわからなかったから、3年前の奏太もきっとわからないだろうな」
あおいは「私と海と電話」というキーワードをラインメッセージの最後に付け加えた。
そして、あおいは送信した。
「よいしょっと、これで送信完了!」
奏太の元にメッセージが届いた。奏太はすぐに、彼女からの返信を読んでみた。
あおい【よかったー。じゃあ今日の五時。川のグラウンドそばにある、大きな木の前で待ってるね♪バイバーイ!
奏太へ 私と海と電話】
奏太は、このメッセージを読んで思った。
「バイバーイって……。俺の都合、まだ聞いてないのになあ。まあ、夕方5時なら大丈夫だけどね……。ん?」
奏太は、メッセージの最後に書かれている「私と海と電話」に目が止まった。
「んんー? なんだこれは?」
やはり奏太は、考えてもわからなかった。奏太は気になって、彼女にメッセージの意味を教えてもらおうと思った。
再び、奏太とあおいのメッセージのやりとりが、再びはじまる。
奏太【バイバーイって、俺、返事まだしてないけど。まあ、五時は大丈夫だよ。
ところで最後の『私と海と電話』だけど、これってなに?】
あおい【さあ、なんでしょうね笑】
奏太【教えてくれてもいいじゃん】
あおい【当ててごらん♪】
奏太【考えてもわからないから、聞いているのに。おせーて!】
あおい【だめ、教えないもん!】
奏太【なんだよ、ケチ!】
あおい【い~だ!】
奏太【こ、この女ー】
まるで仲のよい友人同士のやりとりになっていた。奏太は、さっきまで彼女に対してドキドキしていたことすら忘れてしまった。そしてあおいも、まるっきり奏太が生きていたときと、同じ対応をしていた。
――あ! あおいは気づいた。
あおい(そうだ!あたしったらいけない。相手は過去の奏太だった!)
あおいは奏太とラインでやりあっているうちに、夢中になってしまい、相手が3年前の奏太であることを忘れてしまったのだ。しかし馴れなれしい態度をしたのはあおいだけではない。奏太も同じだ。あおいと同様に、奏太もしまったと思っていた。
奏太(やべー、彼女のこと、まだ何もしらなかったんだっけ。しかも俺を助けてくれた恩人。なんてひどいメッセージを送ってしまったんだ、俺は……)
二人は我に返った。お互いに出過ぎたメッセージを送ってしまったことに後悔して、しばらく何もいえなくなったのだ。するとあおいからメッセージが入った。
あおい【……笑】
これを見て、奏太はぷっと吹き出した。
奏太【だから、沈黙するときまで送らなくていいよ笑】
あおい【えへっ】
奏太【じゃあ、夕方5時に】
あおい【うん、待ってるね!】
奏太はとりあえず、ほっとした。彼女のことを質問しようと思ったが、それは止めた。
メッセージで確認するよりも直接会って、話を聞こうと思ったのだ。
ドキドキ
奏太は再びドキドキしてきた。メッセージをやりとりしていたとき、奏太のドキドキは収まっていたが、今になって奏太はドキドキしてきた。奏太の交友関係はけっして多くない。友人と遊ぶよりも研究している方が好きな性分だ。だから友人は少ない。それでも気さくに話せる友人はいる。しかし友人でもここまで馴れなれしい人はいない。女性ならなおさらだ。
(彼女はまるで、俺のことをよくしっているようだ。しかも馴れなれしい。どう考えてもはじめて話す様子ではない。まるで何年も付き合っているか友人のような……。そう、まるで恋人……? まさか、そんなはずはない……)
奏太は小さい頃に、仲のよかった女の子がいたかを思い出そうとした。しかし当然、思い出せるわけはない。
(直接会って話を聞けば、彼女のことがわかるかもしれない……)
* * *
やがて時は夕方になる。奏太は自転車で移動し、待ち合わせ場所に向かった。そして河川敷のグラウンドに自転車を止めて、待ち合わせ場所の一本の大きな木に向かって歩いた。
そして木の前に着いたが、彼女が見当たらない。
――あれ? まだ来ていないのかな。
彼女が近くにいないか、奏太はキョロキョロと周りを見回した。すると……。
「わ!!」
背後から女性の声が聞こえたと同時に、奏太の背中が両手で押された。
「おわあ!」
奏太は驚いた。そして後ろを振り返くと、目の前に彼女が立っていた。
「キャハハ」
彼女は笑っていた。木の影に隠れていて、脅かすつもりだったようだ。
奏太「キャハハじゃないよ……」
あおい「ゴメンゴメン。電話してからずっとここで待ってたら、退屈しちゃって」
奏太「え、あの電話からずっと待ってたって……。この近くの人じゃないの? 家に戻ってないの?」
あおいは、研究所の地下からやってきたとは言えず、とっさにウソをついた。
あおい「あ……家はこの近くではないかなあ。隣町だけどね。でも一度だけ、近くのコンビニに行って、コーヒー休憩したけどね」
奏太「そうなんだあ。ところで君、本当に怪我はないの?」
あおい「うん、大丈夫よ。このとおり!」
あおいは、力こぶを見せるようなポーズで、元気なことをアピールした。
奏太「大丈夫そうだね。ほっとしたよ、俺。ところでこれ、君のじゃない?」
奏太はバッグから何かを取り出した。それはキャップとメガネだった。
あおい「あ――!」
あおいは慌てて携帯バッグの中を開けて、キャップとメガネを探した。当然ながらバッグに入っているわけがなかった。
あおい「あたしの大切なキャップ、それにメガネー!」
そもそもキャップがないとタイムマシンは動かせない。あおいにとって、もっとも大事なものだ。
あおい「それよりなんで奏太が、あたしの荷物、持ってるのよ!」
あおいは、はじめて奏太と会ったときのことが思い浮かんだ。携帯とカバンをのぞかれ、憧れの先輩の写真を見られた思い出が重なり、急にムカーっとしたのだ。
あおい「そうた! いつの間に女子の持ち物を! 歩道であたしが泣いているときに、こっそり持ち出したんでしょ!」
奏太「え、え、え――!」
奏太はわけがわからず、混乱した。あおいは立て続けに話した。
あおい「なんでまた、女子の持ち物、勝手に持ち出すの!」
実はあおいは、過去の思い出を今でも根にもっている。あおいは、最初に奏太と出会ったときのイメージが強烈に残っていて、奏太をすっかり誤解してしまったのだ。
奏太「またって……あの歩道で拾って……」
あおい「ウソ、このバッグに入れてたはずよ。いつ抜き取ったの! 白状しなさい!そうたー!」
奏太「いつって……、ちょっとそれ、君がもともと身に付けていたものだよ」
あおい「あ……」
あおいは思い出した。
(――そうだ。人に見られても大丈夫なように、キャップとダテメガネをして外出したんだっけ)
あおい「ゴメンゴメン、そうだった。ふだん、キャップやメガネしないから。すっかりキャップとメガネをしていたこと、忘れてたあ。えへへ」
あおいは笑いながら頬をぽりぽりかいた。
奏太は心の中で思っている。
(なんなんだあ、彼女は。俺を命がけで助けていきなり大泣きしたと思ったら、なれなれしくなったり、怒ったり……)
ちなみに未来の奏太も、あおいとはじめて出会ったとき、あおいにいきなり変質者のような扱いをされていた。しかし奏太は、あおいの「えへへ」と笑った顔が、無邪気で愛らしく思えた。
(理由があって何か隠しているようだけど、悪い人ではない。でもおっちょこちょいで、早とちりする女子みたいだな……)
奏太は、彼女に対する親近感がさらに強くなったのだ。
奏太「メガネ壊れちゃったから弁償するよ。キャップも洗って返すから」
あおいは慌てた。メガネはともかく、キャップはとても大切なものだ。あおいは、未来からやって来たことがばれないように、適当にごまかそうとした。
あおい「うんうん、いいのいいの。メガネは度が入っていないダテメガネだし、キャップは安物で、汚れても全然気にしないから」
奏太「ん? だってさっき、大切なキャップって……」
――う、さすが奏太。変なところで理屈っぽいのは同じね。
あおいはごまかすために、とっさにウソをついた。
あおい「ん、あーそうだね。憧れの先輩からプレゼントでもらってね……だから大切にしてたんだあ」
それを聞いて、奏太はがく然とした。
ガーン
奏太「憧れの先輩からのプレゼントって、君、好きな人いたの?」
あおい――はっ
あおいは奏太を見ると、奏太の顔がひどくひきつっていた。
――し、しまったー!。
あおいは、再びごまかす。
あおい「いやあ、憧れたっていうのは昔の話で。たまたま今日、キャップかぶってただけで。今ではこれっぽっちも思ってないのよ。おほほ」
奏太(なんてわざとらしい笑いだ。絶対にごまかしている……)
奏太はよけいにショックが大きくなった。そして奏太の表情がますます硬くなった。
――しまったあ、奏太、ますます誤解したあ。
あおいの言い訳は、まるで浮気をごまかしているような言い方だ。あおいは、過去の奏太に話していることを、すっかり忘れているようだ。未来の延長上で、奏太と話している気持ちになっていた。
そして奏太は、「彼女は自分のことをきっと好きなんだ」という強い期待を持っていた。
奏太も、すっかりその気になっていた。だから奏太はすごいショックを受けた。
あおい(はっ! 待てよ。奏太が手紙で告白をしたのは、奏太が亡くなってからで……。
亡くなる前は、奏太、告白してなかったんだっけ。それに……この時代の奏太は、そもそもあたしのこと、まだ知らないんだよね。
あー、もう、頭が混乱しそうだよ)
あおいは過去の奏太か、未来の奏太か、頭の中では、ごちゃまぜになっていた。
あおい(それにこうなると、奏太ってどんどん理屈っぽく考えるからなあ……。よし!)
あおいは、理屈っぽい、ごちゃごちゃした話が嫌いだった。あおいは奏太の性格をよく知っていたので、うまく話をそらそうと考えた。
あおい「まあまあ、奏太、気にしないで。奏太にはほんとに感謝してるんだよ。だから会いたいって思ったんだよ」
あおいは目を大きくして、奏太をじーっと見つめていた。
奏太「そうか……」
奏太の表情も柔らかくなった。
――よし、いい感じ。
あおい「ところで奏太……」
あおいはあいかわらず、目を大きくして奏太を見つめている。奏太は照れたためか、目を少しそらした。
奏太「な、なんだよ」
あおい「いろいろありがとね。ムリして呼び出しちゃって。それにキャップとメガネも届けてくれて」
あおいの頬が少し赤くなって、照れている様子だ。
奏太(か、かわいい)
奏太は、さっきの先輩のことなど、どこかに吹き飛んでしまった。奏太はドキドキしながら返事した。
奏太「いや、お礼をいうべきなのは俺の方だよ。命がけで助けてもらったのは俺の方だし……」
あおい(あれ、高校時代の奏太って……はっきりお礼いうのね。それにけっこう照れ屋なんだあ……同じ年くらいの女子だからそうなのかな。でもそんな奏太もいいなあ)
あおい「えへっ」
あおいはにっこり笑った。奏太も頭をかいて、照れている様子だ。
あおい(ふう~、キャップのことは、なんとか話題をそらせたようね)
あおいは少し安堵した。
(――そうだ、まずは実験機のことを聞き出さないと。そのために奏太と会いに来たんだよね。今、実験機がどこにあるかを聞き出さないと……実験機を見つけて破壊し、こっそり未来に戻れば、奏太はきっと生きかえるはず……)
あおいはどうやって奏太から怪しまれず、実験機のことを聞き出すかを考えていた。
あおいは「私と海と電話」というキーワードをラインメッセージの最後に付け加えた。
そして、あおいは送信した。
「よいしょっと、これで送信完了!」
奏太の元にメッセージが届いた。奏太はすぐに、彼女からの返信を読んでみた。
あおい【よかったー。じゃあ今日の五時。川のグラウンドそばにある、大きな木の前で待ってるね♪バイバーイ!
奏太へ 私と海と電話】
奏太は、このメッセージを読んで思った。
「バイバーイって……。俺の都合、まだ聞いてないのになあ。まあ、夕方5時なら大丈夫だけどね……。ん?」
奏太は、メッセージの最後に書かれている「私と海と電話」に目が止まった。
「んんー? なんだこれは?」
やはり奏太は、考えてもわからなかった。奏太は気になって、彼女にメッセージの意味を教えてもらおうと思った。
再び、奏太とあおいのメッセージのやりとりが、再びはじまる。
奏太【バイバーイって、俺、返事まだしてないけど。まあ、五時は大丈夫だよ。
ところで最後の『私と海と電話』だけど、これってなに?】
あおい【さあ、なんでしょうね笑】
奏太【教えてくれてもいいじゃん】
あおい【当ててごらん♪】
奏太【考えてもわからないから、聞いているのに。おせーて!】
あおい【だめ、教えないもん!】
奏太【なんだよ、ケチ!】
あおい【い~だ!】
奏太【こ、この女ー】
まるで仲のよい友人同士のやりとりになっていた。奏太は、さっきまで彼女に対してドキドキしていたことすら忘れてしまった。そしてあおいも、まるっきり奏太が生きていたときと、同じ対応をしていた。
――あ! あおいは気づいた。
あおい(そうだ!あたしったらいけない。相手は過去の奏太だった!)
あおいは奏太とラインでやりあっているうちに、夢中になってしまい、相手が3年前の奏太であることを忘れてしまったのだ。しかし馴れなれしい態度をしたのはあおいだけではない。奏太も同じだ。あおいと同様に、奏太もしまったと思っていた。
奏太(やべー、彼女のこと、まだ何もしらなかったんだっけ。しかも俺を助けてくれた恩人。なんてひどいメッセージを送ってしまったんだ、俺は……)
二人は我に返った。お互いに出過ぎたメッセージを送ってしまったことに後悔して、しばらく何もいえなくなったのだ。するとあおいからメッセージが入った。
あおい【……笑】
これを見て、奏太はぷっと吹き出した。
奏太【だから、沈黙するときまで送らなくていいよ笑】
あおい【えへっ】
奏太【じゃあ、夕方5時に】
あおい【うん、待ってるね!】
奏太はとりあえず、ほっとした。彼女のことを質問しようと思ったが、それは止めた。
メッセージで確認するよりも直接会って、話を聞こうと思ったのだ。
ドキドキ
奏太は再びドキドキしてきた。メッセージをやりとりしていたとき、奏太のドキドキは収まっていたが、今になって奏太はドキドキしてきた。奏太の交友関係はけっして多くない。友人と遊ぶよりも研究している方が好きな性分だ。だから友人は少ない。それでも気さくに話せる友人はいる。しかし友人でもここまで馴れなれしい人はいない。女性ならなおさらだ。
(彼女はまるで、俺のことをよくしっているようだ。しかも馴れなれしい。どう考えてもはじめて話す様子ではない。まるで何年も付き合っているか友人のような……。そう、まるで恋人……? まさか、そんなはずはない……)
奏太は小さい頃に、仲のよかった女の子がいたかを思い出そうとした。しかし当然、思い出せるわけはない。
(直接会って話を聞けば、彼女のことがわかるかもしれない……)
* * *
やがて時は夕方になる。奏太は自転車で移動し、待ち合わせ場所に向かった。そして河川敷のグラウンドに自転車を止めて、待ち合わせ場所の一本の大きな木に向かって歩いた。
そして木の前に着いたが、彼女が見当たらない。
――あれ? まだ来ていないのかな。
彼女が近くにいないか、奏太はキョロキョロと周りを見回した。すると……。
「わ!!」
背後から女性の声が聞こえたと同時に、奏太の背中が両手で押された。
「おわあ!」
奏太は驚いた。そして後ろを振り返くと、目の前に彼女が立っていた。
「キャハハ」
彼女は笑っていた。木の影に隠れていて、脅かすつもりだったようだ。
奏太「キャハハじゃないよ……」
あおい「ゴメンゴメン。電話してからずっとここで待ってたら、退屈しちゃって」
奏太「え、あの電話からずっと待ってたって……。この近くの人じゃないの? 家に戻ってないの?」
あおいは、研究所の地下からやってきたとは言えず、とっさにウソをついた。
あおい「あ……家はこの近くではないかなあ。隣町だけどね。でも一度だけ、近くのコンビニに行って、コーヒー休憩したけどね」
奏太「そうなんだあ。ところで君、本当に怪我はないの?」
あおい「うん、大丈夫よ。このとおり!」
あおいは、力こぶを見せるようなポーズで、元気なことをアピールした。
奏太「大丈夫そうだね。ほっとしたよ、俺。ところでこれ、君のじゃない?」
奏太はバッグから何かを取り出した。それはキャップとメガネだった。
あおい「あ――!」
あおいは慌てて携帯バッグの中を開けて、キャップとメガネを探した。当然ながらバッグに入っているわけがなかった。
あおい「あたしの大切なキャップ、それにメガネー!」
そもそもキャップがないとタイムマシンは動かせない。あおいにとって、もっとも大事なものだ。
あおい「それよりなんで奏太が、あたしの荷物、持ってるのよ!」
あおいは、はじめて奏太と会ったときのことが思い浮かんだ。携帯とカバンをのぞかれ、憧れの先輩の写真を見られた思い出が重なり、急にムカーっとしたのだ。
あおい「そうた! いつの間に女子の持ち物を! 歩道であたしが泣いているときに、こっそり持ち出したんでしょ!」
奏太「え、え、え――!」
奏太はわけがわからず、混乱した。あおいは立て続けに話した。
あおい「なんでまた、女子の持ち物、勝手に持ち出すの!」
実はあおいは、過去の思い出を今でも根にもっている。あおいは、最初に奏太と出会ったときのイメージが強烈に残っていて、奏太をすっかり誤解してしまったのだ。
奏太「またって……あの歩道で拾って……」
あおい「ウソ、このバッグに入れてたはずよ。いつ抜き取ったの! 白状しなさい!そうたー!」
奏太「いつって……、ちょっとそれ、君がもともと身に付けていたものだよ」
あおい「あ……」
あおいは思い出した。
(――そうだ。人に見られても大丈夫なように、キャップとダテメガネをして外出したんだっけ)
あおい「ゴメンゴメン、そうだった。ふだん、キャップやメガネしないから。すっかりキャップとメガネをしていたこと、忘れてたあ。えへへ」
あおいは笑いながら頬をぽりぽりかいた。
奏太は心の中で思っている。
(なんなんだあ、彼女は。俺を命がけで助けていきなり大泣きしたと思ったら、なれなれしくなったり、怒ったり……)
ちなみに未来の奏太も、あおいとはじめて出会ったとき、あおいにいきなり変質者のような扱いをされていた。しかし奏太は、あおいの「えへへ」と笑った顔が、無邪気で愛らしく思えた。
(理由があって何か隠しているようだけど、悪い人ではない。でもおっちょこちょいで、早とちりする女子みたいだな……)
奏太は、彼女に対する親近感がさらに強くなったのだ。
奏太「メガネ壊れちゃったから弁償するよ。キャップも洗って返すから」
あおいは慌てた。メガネはともかく、キャップはとても大切なものだ。あおいは、未来からやって来たことがばれないように、適当にごまかそうとした。
あおい「うんうん、いいのいいの。メガネは度が入っていないダテメガネだし、キャップは安物で、汚れても全然気にしないから」
奏太「ん? だってさっき、大切なキャップって……」
――う、さすが奏太。変なところで理屈っぽいのは同じね。
あおいはごまかすために、とっさにウソをついた。
あおい「ん、あーそうだね。憧れの先輩からプレゼントでもらってね……だから大切にしてたんだあ」
それを聞いて、奏太はがく然とした。
ガーン
奏太「憧れの先輩からのプレゼントって、君、好きな人いたの?」
あおい――はっ
あおいは奏太を見ると、奏太の顔がひどくひきつっていた。
――し、しまったー!。
あおいは、再びごまかす。
あおい「いやあ、憧れたっていうのは昔の話で。たまたま今日、キャップかぶってただけで。今ではこれっぽっちも思ってないのよ。おほほ」
奏太(なんてわざとらしい笑いだ。絶対にごまかしている……)
奏太はよけいにショックが大きくなった。そして奏太の表情がますます硬くなった。
――しまったあ、奏太、ますます誤解したあ。
あおいの言い訳は、まるで浮気をごまかしているような言い方だ。あおいは、過去の奏太に話していることを、すっかり忘れているようだ。未来の延長上で、奏太と話している気持ちになっていた。
そして奏太は、「彼女は自分のことをきっと好きなんだ」という強い期待を持っていた。
奏太も、すっかりその気になっていた。だから奏太はすごいショックを受けた。
あおい(はっ! 待てよ。奏太が手紙で告白をしたのは、奏太が亡くなってからで……。
亡くなる前は、奏太、告白してなかったんだっけ。それに……この時代の奏太は、そもそもあたしのこと、まだ知らないんだよね。
あー、もう、頭が混乱しそうだよ)
あおいは過去の奏太か、未来の奏太か、頭の中では、ごちゃまぜになっていた。
あおい(それにこうなると、奏太ってどんどん理屈っぽく考えるからなあ……。よし!)
あおいは、理屈っぽい、ごちゃごちゃした話が嫌いだった。あおいは奏太の性格をよく知っていたので、うまく話をそらそうと考えた。
あおい「まあまあ、奏太、気にしないで。奏太にはほんとに感謝してるんだよ。だから会いたいって思ったんだよ」
あおいは目を大きくして、奏太をじーっと見つめていた。
奏太「そうか……」
奏太の表情も柔らかくなった。
――よし、いい感じ。
あおい「ところで奏太……」
あおいはあいかわらず、目を大きくして奏太を見つめている。奏太は照れたためか、目を少しそらした。
奏太「な、なんだよ」
あおい「いろいろありがとね。ムリして呼び出しちゃって。それにキャップとメガネも届けてくれて」
あおいの頬が少し赤くなって、照れている様子だ。
奏太(か、かわいい)
奏太は、さっきの先輩のことなど、どこかに吹き飛んでしまった。奏太はドキドキしながら返事した。
奏太「いや、お礼をいうべきなのは俺の方だよ。命がけで助けてもらったのは俺の方だし……」
あおい(あれ、高校時代の奏太って……はっきりお礼いうのね。それにけっこう照れ屋なんだあ……同じ年くらいの女子だからそうなのかな。でもそんな奏太もいいなあ)
あおい「えへっ」
あおいはにっこり笑った。奏太も頭をかいて、照れている様子だ。
あおい(ふう~、キャップのことは、なんとか話題をそらせたようね)
あおいは少し安堵した。
(――そうだ、まずは実験機のことを聞き出さないと。そのために奏太と会いに来たんだよね。今、実験機がどこにあるかを聞き出さないと……実験機を見つけて破壊し、こっそり未来に戻れば、奏太はきっと生きかえるはず……)
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