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第5章 第5節 奏太の一目ぼれ~未来のあおいと過去の奏太

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奏太は、あおいに一目ぼれしてしまった。

(俺は彼女をしらない。でも彼女は、俺のことをよく知っているみたいだ。また会いたい。しかしここで、彼女を見失ったら……)

奏太は大きな声を出して、あおいに呼びかけた。

「君! ちょっと待って!」

だがあおいは、ずいぶん先にいる。奏太の声は届きそうにない。奏太は走って追いかけようとした。

――ん? あれは……。

そのとき奏太は、二人がトラックに衝突しそうになった歩道のそばに、キャップとメガネが落ちていることに気づいた。キャップとメガネに気を取られている間に、奏太は彼女を見失ってしまった。

「ふう、彼女を追いかけるのはもう無理かな。しかしあのキャップとメガネ……それとあの光は……」

奏太は、最初に彼女を見たときの一瞬の出来事を思い出していた。

「たしか……彼女が飛び込んできた時は……そうだ! キャップとメガネをしていた。きっと、彼女が飛び込んだときに落としてしまったんだ……」

さらに歩道を見渡すと、バナナやみかんの皮がたくさん落ちていた。そしてその中に、バナナの皮を踏んで滑った跡が、かすかに残っていた。それを見て奏太は気づいた。

(彼女は俺を助けようとした瞬間、バナナの皮を踏んで足を滑らせ……、それで飛び込むように倒れ込んできたんだ……。でもそのおかげで、二人は助かったのかもしれない……)



奏太はあおいを追いかけるのをあきらめ、歩道に落ちているキャップとメガネを拾った。

ちなみに奏太が拾ったキャップは、あおいがタイムマシンに乗るときにかぶっていたキャップだ。

あ……

奏太がメガネを見てみると、レンズにヒビが入っていて、さらにメガネの縁が折れていた。



* *  *



あおいは今、川の土手にある木陰で座っていた。

「あーあー。これからどうしよう~」

あおいは、ぼんやりと川の流れを眺めながら、この先どうするか考えていた。とりあえずあおいは、携帯を取り出し、いろいろなサイトを見ていた。

「へえー、インターネットは、タイムワープした年の情報が表示されてるんだね」

ふっとそのとき、あおいは思ったことがあった。

「そもそもこの携帯で、奏太と連絡とれるのかな?」

あおいの携帯は、中学2年からずっと同じ機種を使っている。

(――この時代にやってきたのは奏太を助けるためでしょ。そのためにはあの実験機を壊さないと……。でも実験機は奏太がすでに見つけて、研究所から持ち去ったし……。

今から10年前には戻れないし。やっぱり、この時代で実験機を壊すしかないかなあ……)



あおいは今、もう一つ疑問に思っていたことがある。それはおじいちゃんのノートに書いてあったコメントだ。あおいは今、そのことについて考えている。

(縁の深い人と直接会うと、私が消滅するかもしれないって書いてあったけど……私、別に何ともないよね……)

あおいは、縁の深い奏太とばったり出会ってしまい、会話までしてしまった。しかし別に、何も起きてはいない。

(おじいちゃんのノートには「……かもしれない」って書いてあったから……。必ずしも消滅するわけではないのかも……)



「よし、決めた!」

あおいは、奏太にメールしようと考えた。しかし先程、奏太と会話したとき、奏太のメルアドを教えてもらうのを、あおいは拒否してしまったのだ。

「あ、いっけない! 奏太のメルアド聞いてなかった。やっぱりあのとき聞いておけばよかったなあ」

あおいは、自分の携帯の登録リストから奏太のメルアドを開いた。

「過去の世界でもきちんと連絡とれるのかなあ? そもそも奏太が、3年前も同じメルアドを使っているとも限らないし……ええい、考えてもしょうがない!」



あおいは、新しいメルアドを取得して、メッセージを送ることにした。そしてあおいは、次のようにメッセージを書いた。

【奏太、さっきはごめんなさい。突然、逃げ出したりして。また会ってくれるよね?】



あおいはメッセージを書き終えた。そしてメッセージの最後に、あおいのラインIDを付け足した。あおいのラインIDは、高校1年の時に取得したものだ。この時代に生きている中学2年のあおいは、まだラインIDを取得していないはず。だから奏太がこのラインIDに返信してきても、この時代の中二のあたしにはメッセージは届かないだろう。



「どうか、奏太に届きますように……」

祈るような気持ちで、あおいは送信ボタンを押した。送信完了というメッセージが出た。しばし待ったけど、エラーメッセージが出ない。

「うまく送れたのかな?」

するとすぐに着信が入った。着信が届いたのはラインの方だ。ラインメッセージを開いたら、やはり奏太だった。



奏太【君、昼間、俺を助けてくれた人だよね?】

奏太はどうやら、高校2年からラインIDを登録して使っていて、あおいのラインIDを難なく登録できたようだ。あおいと奏太は、ラインで連絡を取り合うようになった。



あおい【うん、そうだよ。あれからどこか痛くなったかなって心配に思って……】

奏太【やはり君かなって思ったよ。俺は大丈夫だよ】

あおい【よかったあ】

奏太【俺のことよりも君の方が心配だよ】

あおい【あたしももちろん大丈夫よ!】

奏太【それならよかったよ。ところで君って誰? どこかで会ったっけ?  何で俺の名前をしっていたの? しかもメルアドまで】



あおいは返事に困って何も書けなくなった。すると、奏太から続けてメッセージが届いた。

奏太【何で俺のこと、命の危険をおかしてまで助けてくれたの?】

あおい【……】

奏太【君の名前は? 小学校や幼稚園の頃の知り合いとか?】

あおい【……】

奏太【『……』って……。普通、黙っているとき「……」ってメッセージ入れないよ】

あおい【えへっ】



奏太は、このあおいからの返信で、あおいのキャラが少しわかってきた。けっこう楽しく、おもしろみのある女性だ。



奏太【言いたくなかったらいいよ! とにかく、本当にありがとう】

あおい【いえいえ、ところで奏太、会ってくれるよね?】



ドキ

奏太はドキっとした。命がけで守ってくれた女性。年は俺と同じくらい。見ず知らずの女性だ。でも俺を命がけで助けてくれたのだから、悪い人のはずがない。奏太は返事した。



奏太【もちろんだよ】



ほっ

あおいは、奏太からOKの返事が届いてほっとした。あおいは次のように返事を書いた。



【よかったー。じゃあ、今日の5時。川の土手の河川敷グラウンドの木陰で待ってる♪】

このメッセージを送ろうとした瞬間、あおいはひらめいた。

――-そうだ、わたしの名前……

あおいは、最後に一言だけ付け足した。

【奏太へ 私と海と電話】
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