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第5章 第3節 追跡~未来のあおいと過去の奏太
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「燃料注意、燃料注意。燃料残量は3年と40日」
――これっていったい……
なにやら警報のようなものが鳴っている……。
「あっれー、おかしいなあ。確かおじいちゃんのノートには往復十年分の燃料があるって書いてあったよね」
あおいは、机に戻っておじいちゃんのノートを読んでみた。
「警報関係は、え~っと。確かこのノートのどこかに書いてあったかな……あった、あったあ」
あおいは、解説書を読むコツが少しわかってきたようだ。あおいは、「補足-燃料アラート(警報)に関する項目」というページを見つけた。そのページには次のように書かれてあった。
【タイムカプセルツールの燃料じゃが、これだけは21世紀では手に入らないだろう。なぜなら火星の地下に存在する鉱石を主原料に使っておるからじゃ。火星で地下採掘を行えるようになるには、少なくとも百年かかるじゃろう。燃料には限りがある。しかし奏太のことだから、『タイムマシンを使うな』といってもいつか使ってしまうじゃろう。ただ燃料残量には気をつけるんじゃ。
一様、主原料の元素構成を示したノートは別に用意した。奏太なら何十年と時間をかけて研究すれば、地球上に存在する鉱石を使って、代替エネルギーを開発できるかもしれん。
あと燃料アラートについてじゃが、タイムカプセルツールは、タイムワープ先で燃料が少なくなった場合、自動で警報が出るようになっている。黄色い文字のアラートが出たら”燃料はわずか”。赤文字のアラートなら”燃料切れ”じゃ。
簡潔に言えば、黄色いアラートが出たら、タイムワープが使えるのはあと一回じゃ。
その場合は、帰りの分しかタイムワープの燃料がない。たとえ短い日数であってもムダなタイムワープは絶対してはならん。これを守らないと二度と元の世界に帰れなくなる】
あおいはノートを読み終えてびっくりした。
「え~~! これって、残り3年分と40日分のエネルギーしかないってこと。過去にくる前は往復10年のエネルギーがあったのにー」
何と燃料が減っていたのだ。
「ひょっとして、10日前に戻れないってこと……」
あおいは携帯の計算機能を使って計算してみた。10日前に戻って、それから元の世界に戻れるかを計算してみた。
「ぎりぎり足りない……どうしようー」
10日前にタイムワープしたら、元の世界に帰る燃料がぎりぎり足りなかったのだ。
あおいはしばし考えた。しかしいくら考えても答えは出ない。あおいは、今から10日前にタイムワープして、霊界通信機を破壊しようと考えていたが、それは叶わぬ願いであると悟った。
(――よし! 今、この時代で実験機を壊すしかない!)
あおいはこのように結論づけた。
すでに奏太は実験機を見つけている。しかし今からでも実験機を壊してしまえば、今後、奏太は、霊界通信機の実験ができなくなる。奏太はがっかりするだろうが……少なくとも3年後の奏太の命は助けられる。
「あとは実験機をどうやって壊すかだね。実験機は今、奏太の部屋にあるのかな……。研究所にもう一度、実験機をもってきてくれないかなあ」
あおいは、ベッドの上に寝転んだ。
「ふう~。目が覚めていきなりトラブル起きるなんて……これでは体がいくつあっても足りないなあ」
あおいは再び眠ってしまった。
* * *
お昼の12時30分を過ぎた。あおいは目を覚ました。
「ふああ。あたし、また眠ってしまったのね」
――うーん!
あおいは起き上がって背筋を伸ばした。2時間ほど仮眠したためか、だいぶ疲れがとれたようだ。
「朝は携帯食しか食べてないから、そろそろお腹すいてきたなあ。よし、今日のお昼は外でお弁当を買って食べよう!」
あおいは携帯バッグを持って、地下から一階に上がり、中央実験室に入った。ふと、あおいは思った。
「奏太、午前中はここに来ていないのかなあ。実験機を置いていったとか、そんなうまい話ないよね……」
あおいは中央実験室をぐるっと回って実験機を探したが、やはり実験機はなかった。
「やっぱりないなあ。とりあえずお弁当を買いに行こうかな」
あおいが研究所の玄関入口に向かおうとしたときだった。
ガチャ
誰かが玄関入口を開けようとしている。
「やっばーい!」
あおいは奥の部屋へ行こうとしたが、間に合わない。あおいは慌てて、中央実験室の柱の陰に隠れた。
「ここじゃ、近くに来られたら見つかってしまうかも……」
研究所の玄関入口の扉が開き、誰かが中央実験室に入ってきた。あおいは、柱の陰からそーっと覗いて見た。研究所の中に入ってきたのはやはり奏太だった。
――そうた~、ひっく、ひっく。
あおいは鼻水を出しながら、また泣いてしまった。そして柱の陰から奏太にばれないように、泣きながら奏太を見ていた。
奏太は3つの棚が並んであるところに向かっている。棚の前にたどり着くと、奏太は片っ端から棚の引き出しを開けている。なにかを探しているようだ。
「あったー!」
奏太は、引出しの中から長い鉄線のようなものを取り出した。
「これなら実験に使えるかも」
奏太は鉄線を持ち出して、研究所から出ていった。
「ふう~、見つからないでよかったあ。でも今度は、どこに出かけるのかな。……そうだ。実験に使えるかもって言ってたから……きっと実験機があるところに向かったんだ」
あおいは奏太の後を追って、研究所を出ようとした。
あ……
あおいは、さすがにこのままの恰好で出るのは不味いと思った、そこで何か変装するのはないかと考えた。
「あ、そうだ!」
あおいは、バッグからタイムワープで使ったキャップを取り出してそれをかぶり、次にダテメガネを取り出して装着した。
「あとこれもかな……」
そしてあおいは奏太からのプレゼント、ペンダントを首にかけた。
あおいは急いで研究所を出て道路の向こうを見ると、奏太は自転車に乗ってどんどん遠ざかっていった。
「え~~、歩きではなく自転車で来たの。もうあんなに遠くにいる! これじゃあ、追いつかないよー」
――そうだ!
あおいは研究所の外にある物置小屋に自転車があったことを思い出した。あおいは物置に行って自転車に乗り、奏太を追いかけた。
「そうた~、ひっく。ひっく、声をかけたいよー」
あおいは相変わらず泣いている。そして奏太を見失わないように自転車で追いかけた。
あおいは奏太に声をかけたかった。しかしあおいは今、おじいちゃんのノートを思い出している。
――過去の自分や縁の深い人とは絶対会うな。おまえが違う次元からやってきたとわかった時点で宇宙、あるいはおまえの存在が消滅してしまうかもしれん。
(そう、あたしはこの時代の奏太と会ってはだめなの……)
あおいは感情をぐっと堪えていたのだ。
――奏太は家には寄らず、そのまま通り過ぎた。
「あれ? 家には行かないのかな」
あおいは、奏太に見つからないように追いかけた。
「奏太が向かっているのは、駅の方ね」
10分ほど自転車で走った。奏太はまずホームセンターで自転車を止めて、ホームセンター内に入っていく。十分ほどすると奏太がホームセンターから出てきた。今度は自転車に乗らないで、歩いて外の道路に出るようだ。それを見たあおいも、ホームセンターに自転車を置いた。
あおいは奏太の約10メートル後ろを見つからないように歩いている。
狭い道を歩いているためか人通りは少ない。それでもあおいを見ると、クスッと笑う通行人が時々いる。あおいは尾行が下手だった。帽子をかぶり、ダテメガネをかけて、物陰にささっと隠れながら奏太を追っている。しかしそのしぐさが、かえってわざとらしく滑稽こっけいだ。普通に歩いた方がかえって目立たない。
しかしあおいの不可思議な動きを見ても、通行人の誰も怪しいと思わない。それどころか笑っている人ばかりだ。どうやら学生の遊びと思われているらしい。ただあおいを見ていると、人を貶めようという雰囲気はまったく感じない。これはあおいのよき個性でもある。
クスッと笑った通行人に、あおいは常にニコニコしながら「どうも、どうも」と声をかけていた。その愛らしい表情を見たら、悪いことをする女の子ではないと通行人の誰もが感じたからだ。
あおい「ん?」
あおいは奏太をみると、歩きながら何かを夢中で読んでいるようだ。あおいは目がとてもよい。ちらっと表紙が見えた。奏太が読んでいる本は、実験機と一緒に入っていた解説書のようだ。
それから奏太のすぐ脇を、三台続けて車が通った。しかし奏太のすぐ脇を通っても、奏太は車が通ったことに気づかないようだ。解説書を読むのにすっかり霧中になっている。
「もうー、奏太ったら。歩きながら読むなんて危ないんだから。でも……奏太らしいな」
数分歩くと、先に二車線の広い通りが見えてきた。奏太はその通りを右に曲がって歩道を歩いている。すると少し先の反対側の歩道に、古そうな電気屋が見えてきた。
「奏太はあの電気屋に向かっているようね」
あおいは、奏太から4メートル後ろにいた。ずいぶん間近まで近づいている。しかし奏太は夢中になって解説書を読んでいて、あおいが追いかけていることに気づいていない。
奏太は信号のない横断歩道を渡ろうとしている。
そのときあおいは、こちらに向かって走ってくる一台のトラックが目に入った。
「ん?」
トラックは少し不安定な動きをしている。中央車線ぎりぎりを走っていて、ときどき中央車線をはみ出してくる。とてもあぶなっかしい運転だ。あおいは運転手の表情が見えた。視力のよいあおいの目でもぼんやりとしか見えないが、運転者が眠っていることだけはわかった。
――あのトラックの運転手、眠っている……。
奏太は横断歩道を渡ろうとしているところに、トラックがすぐ近くまでやってきた。
あおい「え、嘘……」
奏太は解説書を夢中で読んでいて、トラックに気づかない。
「そうた――!」
あおいは奏太に向かって、声をあげながら走った。
奏太「ん?」
奏太は自分を呼ぶ声に気づいたようだ。
しかしトラックは、奏太の目前だった。そこにあおいが走っていく。しかし、とても間に合いそうになかった。しかしあおいは、あきらめなかった。
あおい(奏太を、奏太を二度と死なせやしない!)
そのとき、ペンダントの宝石が一瞬、7色の強い光を放った。
「きゃ!」
その瞬間、あおいは足を滑らせる。
奏太が横を見るとトラックが目の前まで近づいていて、後ろからは、きれいな複数の光線が放っていた。光が放たれている方に奏太の視線がいくと……帽子をかぶり、メガネをした女子がすぐ目前にまで近づいていた。あおいは足をおもいっきり滑らせ、奏太の方に勢いよく飛び込むような形になった。あおいは奏太を両手で強く抱いて、奏太をかばうように自分の身を挺ていしたのだ。
――そうた、もう二度と君を死なせたりしないから……。
しかしトラックは、容赦なく二人に突っ込んできた。
――これっていったい……
なにやら警報のようなものが鳴っている……。
「あっれー、おかしいなあ。確かおじいちゃんのノートには往復十年分の燃料があるって書いてあったよね」
あおいは、机に戻っておじいちゃんのノートを読んでみた。
「警報関係は、え~っと。確かこのノートのどこかに書いてあったかな……あった、あったあ」
あおいは、解説書を読むコツが少しわかってきたようだ。あおいは、「補足-燃料アラート(警報)に関する項目」というページを見つけた。そのページには次のように書かれてあった。
【タイムカプセルツールの燃料じゃが、これだけは21世紀では手に入らないだろう。なぜなら火星の地下に存在する鉱石を主原料に使っておるからじゃ。火星で地下採掘を行えるようになるには、少なくとも百年かかるじゃろう。燃料には限りがある。しかし奏太のことだから、『タイムマシンを使うな』といってもいつか使ってしまうじゃろう。ただ燃料残量には気をつけるんじゃ。
一様、主原料の元素構成を示したノートは別に用意した。奏太なら何十年と時間をかけて研究すれば、地球上に存在する鉱石を使って、代替エネルギーを開発できるかもしれん。
あと燃料アラートについてじゃが、タイムカプセルツールは、タイムワープ先で燃料が少なくなった場合、自動で警報が出るようになっている。黄色い文字のアラートが出たら”燃料はわずか”。赤文字のアラートなら”燃料切れ”じゃ。
簡潔に言えば、黄色いアラートが出たら、タイムワープが使えるのはあと一回じゃ。
その場合は、帰りの分しかタイムワープの燃料がない。たとえ短い日数であってもムダなタイムワープは絶対してはならん。これを守らないと二度と元の世界に帰れなくなる】
あおいはノートを読み終えてびっくりした。
「え~~! これって、残り3年分と40日分のエネルギーしかないってこと。過去にくる前は往復10年のエネルギーがあったのにー」
何と燃料が減っていたのだ。
「ひょっとして、10日前に戻れないってこと……」
あおいは携帯の計算機能を使って計算してみた。10日前に戻って、それから元の世界に戻れるかを計算してみた。
「ぎりぎり足りない……どうしようー」
10日前にタイムワープしたら、元の世界に帰る燃料がぎりぎり足りなかったのだ。
あおいはしばし考えた。しかしいくら考えても答えは出ない。あおいは、今から10日前にタイムワープして、霊界通信機を破壊しようと考えていたが、それは叶わぬ願いであると悟った。
(――よし! 今、この時代で実験機を壊すしかない!)
あおいはこのように結論づけた。
すでに奏太は実験機を見つけている。しかし今からでも実験機を壊してしまえば、今後、奏太は、霊界通信機の実験ができなくなる。奏太はがっかりするだろうが……少なくとも3年後の奏太の命は助けられる。
「あとは実験機をどうやって壊すかだね。実験機は今、奏太の部屋にあるのかな……。研究所にもう一度、実験機をもってきてくれないかなあ」
あおいは、ベッドの上に寝転んだ。
「ふう~。目が覚めていきなりトラブル起きるなんて……これでは体がいくつあっても足りないなあ」
あおいは再び眠ってしまった。
* * *
お昼の12時30分を過ぎた。あおいは目を覚ました。
「ふああ。あたし、また眠ってしまったのね」
――うーん!
あおいは起き上がって背筋を伸ばした。2時間ほど仮眠したためか、だいぶ疲れがとれたようだ。
「朝は携帯食しか食べてないから、そろそろお腹すいてきたなあ。よし、今日のお昼は外でお弁当を買って食べよう!」
あおいは携帯バッグを持って、地下から一階に上がり、中央実験室に入った。ふと、あおいは思った。
「奏太、午前中はここに来ていないのかなあ。実験機を置いていったとか、そんなうまい話ないよね……」
あおいは中央実験室をぐるっと回って実験機を探したが、やはり実験機はなかった。
「やっぱりないなあ。とりあえずお弁当を買いに行こうかな」
あおいが研究所の玄関入口に向かおうとしたときだった。
ガチャ
誰かが玄関入口を開けようとしている。
「やっばーい!」
あおいは奥の部屋へ行こうとしたが、間に合わない。あおいは慌てて、中央実験室の柱の陰に隠れた。
「ここじゃ、近くに来られたら見つかってしまうかも……」
研究所の玄関入口の扉が開き、誰かが中央実験室に入ってきた。あおいは、柱の陰からそーっと覗いて見た。研究所の中に入ってきたのはやはり奏太だった。
――そうた~、ひっく、ひっく。
あおいは鼻水を出しながら、また泣いてしまった。そして柱の陰から奏太にばれないように、泣きながら奏太を見ていた。
奏太は3つの棚が並んであるところに向かっている。棚の前にたどり着くと、奏太は片っ端から棚の引き出しを開けている。なにかを探しているようだ。
「あったー!」
奏太は、引出しの中から長い鉄線のようなものを取り出した。
「これなら実験に使えるかも」
奏太は鉄線を持ち出して、研究所から出ていった。
「ふう~、見つからないでよかったあ。でも今度は、どこに出かけるのかな。……そうだ。実験に使えるかもって言ってたから……きっと実験機があるところに向かったんだ」
あおいは奏太の後を追って、研究所を出ようとした。
あ……
あおいは、さすがにこのままの恰好で出るのは不味いと思った、そこで何か変装するのはないかと考えた。
「あ、そうだ!」
あおいは、バッグからタイムワープで使ったキャップを取り出してそれをかぶり、次にダテメガネを取り出して装着した。
「あとこれもかな……」
そしてあおいは奏太からのプレゼント、ペンダントを首にかけた。
あおいは急いで研究所を出て道路の向こうを見ると、奏太は自転車に乗ってどんどん遠ざかっていった。
「え~~、歩きではなく自転車で来たの。もうあんなに遠くにいる! これじゃあ、追いつかないよー」
――そうだ!
あおいは研究所の外にある物置小屋に自転車があったことを思い出した。あおいは物置に行って自転車に乗り、奏太を追いかけた。
「そうた~、ひっく。ひっく、声をかけたいよー」
あおいは相変わらず泣いている。そして奏太を見失わないように自転車で追いかけた。
あおいは奏太に声をかけたかった。しかしあおいは今、おじいちゃんのノートを思い出している。
――過去の自分や縁の深い人とは絶対会うな。おまえが違う次元からやってきたとわかった時点で宇宙、あるいはおまえの存在が消滅してしまうかもしれん。
(そう、あたしはこの時代の奏太と会ってはだめなの……)
あおいは感情をぐっと堪えていたのだ。
――奏太は家には寄らず、そのまま通り過ぎた。
「あれ? 家には行かないのかな」
あおいは、奏太に見つからないように追いかけた。
「奏太が向かっているのは、駅の方ね」
10分ほど自転車で走った。奏太はまずホームセンターで自転車を止めて、ホームセンター内に入っていく。十分ほどすると奏太がホームセンターから出てきた。今度は自転車に乗らないで、歩いて外の道路に出るようだ。それを見たあおいも、ホームセンターに自転車を置いた。
あおいは奏太の約10メートル後ろを見つからないように歩いている。
狭い道を歩いているためか人通りは少ない。それでもあおいを見ると、クスッと笑う通行人が時々いる。あおいは尾行が下手だった。帽子をかぶり、ダテメガネをかけて、物陰にささっと隠れながら奏太を追っている。しかしそのしぐさが、かえってわざとらしく滑稽こっけいだ。普通に歩いた方がかえって目立たない。
しかしあおいの不可思議な動きを見ても、通行人の誰も怪しいと思わない。それどころか笑っている人ばかりだ。どうやら学生の遊びと思われているらしい。ただあおいを見ていると、人を貶めようという雰囲気はまったく感じない。これはあおいのよき個性でもある。
クスッと笑った通行人に、あおいは常にニコニコしながら「どうも、どうも」と声をかけていた。その愛らしい表情を見たら、悪いことをする女の子ではないと通行人の誰もが感じたからだ。
あおい「ん?」
あおいは奏太をみると、歩きながら何かを夢中で読んでいるようだ。あおいは目がとてもよい。ちらっと表紙が見えた。奏太が読んでいる本は、実験機と一緒に入っていた解説書のようだ。
それから奏太のすぐ脇を、三台続けて車が通った。しかし奏太のすぐ脇を通っても、奏太は車が通ったことに気づかないようだ。解説書を読むのにすっかり霧中になっている。
「もうー、奏太ったら。歩きながら読むなんて危ないんだから。でも……奏太らしいな」
数分歩くと、先に二車線の広い通りが見えてきた。奏太はその通りを右に曲がって歩道を歩いている。すると少し先の反対側の歩道に、古そうな電気屋が見えてきた。
「奏太はあの電気屋に向かっているようね」
あおいは、奏太から4メートル後ろにいた。ずいぶん間近まで近づいている。しかし奏太は夢中になって解説書を読んでいて、あおいが追いかけていることに気づいていない。
奏太は信号のない横断歩道を渡ろうとしている。
そのときあおいは、こちらに向かって走ってくる一台のトラックが目に入った。
「ん?」
トラックは少し不安定な動きをしている。中央車線ぎりぎりを走っていて、ときどき中央車線をはみ出してくる。とてもあぶなっかしい運転だ。あおいは運転手の表情が見えた。視力のよいあおいの目でもぼんやりとしか見えないが、運転者が眠っていることだけはわかった。
――あのトラックの運転手、眠っている……。
奏太は横断歩道を渡ろうとしているところに、トラックがすぐ近くまでやってきた。
あおい「え、嘘……」
奏太は解説書を夢中で読んでいて、トラックに気づかない。
「そうた――!」
あおいは奏太に向かって、声をあげながら走った。
奏太「ん?」
奏太は自分を呼ぶ声に気づいたようだ。
しかしトラックは、奏太の目前だった。そこにあおいが走っていく。しかし、とても間に合いそうになかった。しかしあおいは、あきらめなかった。
あおい(奏太を、奏太を二度と死なせやしない!)
そのとき、ペンダントの宝石が一瞬、7色の強い光を放った。
「きゃ!」
その瞬間、あおいは足を滑らせる。
奏太が横を見るとトラックが目の前まで近づいていて、後ろからは、きれいな複数の光線が放っていた。光が放たれている方に奏太の視線がいくと……帽子をかぶり、メガネをした女子がすぐ目前にまで近づいていた。あおいは足をおもいっきり滑らせ、奏太の方に勢いよく飛び込むような形になった。あおいは奏太を両手で強く抱いて、奏太をかばうように自分の身を挺ていしたのだ。
――そうた、もう二度と君を死なせたりしないから……。
しかしトラックは、容赦なく二人に突っ込んできた。
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