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第5章 第2節 タイムワープのやり直し?~未来のあおいと過去の奏太

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夏休みに入ってすぐの日に、奏太が霊界通信機を見つけたと聞いて、あおいはタイムマシンの行先を、夏休み前の7月15日に設定していた。しかしよりによって、奏太が実験機を発見する7月25日にタイムワープしてしまったのだ。

「どうしよう、どうしよう~」

あおいはすっかり焦ってしまった。奏太は実験機を置いた机の前で座り、箱の中に一緒に入っていた解説書のようなものを取り出して、読んでいる。

奏太「こ、これって、まさか……霊界通信機!!」

奏太は声を張り上げて驚いていた。その驚き方は尋常でなかった。それから奏太は、ずっと解説書を読みふけっている。奏太らしい。夢中になると、とことん没頭してしまう性格はまったく同じだ。



* *  *



奏太が解説書を読みふけってから30分は経過しただろうか。奏太がようやく椅子から立ち上がった。

奏太「これはきっと、世紀の大発明になるに違いない!」

奏太は実験機をエアキャップで大事そうに包んだ。そして別の木箱に実験機を入れ直した。それから奏太は台車を持ってきて、その上に実験機が入った箱を置いた。

奏太「今日はもう夕方近くだ。あとは部屋でじっくり見よう!」

あおい(うっそー! 実験機、持ってってしまうの――!)

実験機とともに、奏太は研究所から出て行ってしまった。あおいはただ呆然としている。

「あーあ。実験機もっていかれちゃったなあ」



奏太が遠くに去ったのを確認してから、あおいは研究所の中に入った。そして地下室に行き、携帯バッグに最低限の荷物を入れ、バッグを持って研究所の外に出た。もちろん、地下室への扉を本棚で隠したのはいうまでもない……。

携帯バッグを持って、あおいは研究所を離れた。そして研究所の近くにある川に行き、木の陰に座り込んだ。

「……なんで日にちがずれてしまったのかなあ? やはり、タイムワープ中のあの突風が原因なのかなあ……」

あおいは座りながら考えこんでいた。時はすでに6時を過ぎ、夕方になっていた。



「ええーい、いくら考えてもきりがない! 今日はもうゆっくり休もう……」

あおいは、中学2年の時に宿泊した旅館に行き、そこで宿泊の手続きをしようとした。

受付「学生証と親の同意書はお持ちですか?」

あおい「学生証はありますが、親の同意書は……」

受付「高校生の場合は、親の同意書がないと宿泊できないことになっております」

あおいは、学生証があれば宿泊できると思っていた。

あおい「え、だって以前、お兄ちゃんと泊まったとき……」

あおいは、「以前は、お兄ちゃんも奏太も高校生だったのに泊めてくれたじゃない」と言おうとした。しかしその先を言えなかった。

「……そうだ。ここは過去の世界。お兄ちゃんと奏太が旅館で会うのは今から2ヶ月先のことだ。それにしっかりしたお兄ちゃんのことだから、親の同意書も事前にとっていたんだろうな……。私ったら、全部お兄ちゃんに任せっきりだったしね……」

受付「こちらから直接、親元に電話をかけてご確認する方法もありますが……」

あおい「い、いえ。けっこうです。今日は家に帰りますから……」

――さすがに家に電話をかけられるのはまずい。家には中学生の自分もいる。



あおいは、旅館を出ていった。あおいは行く場所もなく、再び河川敷の土手で座っていた。

「あ~あ~、あたし、これからどうしよう」

あおいは困っていた。時間は19時になって空も暗くなりはじめた。



「しょうがない、あそこにいったん戻るか……」

あおいは、研究所に向かう。

――しばらくして研究所に着いた。念のため、周りに誰もいないことを確認して、研究所内に入り、本棚がある部屋に入った。秘密の扉は本棚で隠してあるので、本棚をずらそうとした。

「けっこう本棚動かすのってきついんだよね。うんしょっと!」

あおいは本棚をずらし、秘密の扉を開けて地下通路に入った。そして再び、本棚をずらして秘密の扉を隠した。

それからあおいは階段を降りて地下室に向かう。あおいが地下室に入ると同時に太陽光のような明かりが自動でついた。冷房も瞬時につくようになっている。今の時代にはない未来技術が使われているようだ。



あおいは、とりあえず地下室の壁際の机に座った。そしてバッグから、おじいちゃんのノートを取り出して読んでみた。

あおいが取り出したのは、タイムカプセルツールのマニュアルだ。あおいは過去に来る前からノートを読んでいたが、数式や文字だらけで、難しいことが書いてあるところは理解できず、読み飛ばしていた。

しかしタイムワープにずれが生じたときの対処法をどうしても調べる必要がある。そこであおいは、難しくて読み飛ばしていたページを読み直そうと考えた。

解決法は、おじいちゃんのノートに求めるしかなかったからだ。



「難しいのは苦手だなあ……」

あおいは頭を抱えながら、小さな文字だらけのノートを徹底的に読んでみた。すると気になることが書かれてあるページを見つめた。そこには「タイプワープに誤差が生じたとき」と書いてある。

「あったあ。これよ、これ。今あたしが困っていること。どれどれ……」



さっそくあおいは、目を細めて読んでみた。

「う~ん……」

しかしあおいは、ずいぶん顔をしかめているようだ。どうやらあおいにとって、かなり難しいらしい。

【タイムワープは常に危険を伴う。しかし物質や肉体を霊エネルギーへと等価変換させることで、タイムワープが可能となった。タイムワープ中、等価変換させた物質や肉体はいわばエネルギー体となっている。しかしこのエネルギー体は、地上世界ではとくに不安定で、ある種の衝撃を受けると悪影響を受けるのじゃ。

我々は地上に生きている。タイムワープ中の空間は四次元空間と地上界の境界線にいるようなものじゃ。ここでは、物質エネルギーと霊界エネルギーが衝突し、時空間嵐を生じることがある。

タイムカプセルツールの精度が上がれば、完全な霊エネルギーとなってより安全になるのじゃが、まだまだそこまではいたっていない。わし自身がタイムワープして、はじめて改善点がわかったことじゃ】



あおいは、一旦読むのを止めた。

「あ~ん、ぜんぜ~んわからないよ~」

あおいはノートに書いてあることがさっぱりわからなくて、読むのをやめようと思った。しかしノート以外に頼るものがない。あおいは内容を理解できなくても、我慢して先を読むことにした。



【わしはタイムカプセルツールの回路を改善し、計算上は時空間嵐を回避できるように設定した。しかしそれでも、時空間嵐を完全に避けられるという確証はない。もし時空間嵐に巻き込まれたら、設定した日付より数日ずれてしまうかもしれん】



あおい「そうかあ、やっぱり時空間嵐の影響で、設定した日付より十日ずれてしまったんだね……。じゃあどうすればいいのかな……」



あおいは、続きを読んだ。

【もし、設定日よりずれてしまった場合は、もう一度タイムワープをやりなおすしかない。

ずれると言っても数日前後くらいだろう。ずれた日数分だけタイムワープすればよい。数日くらいなら、よっぽど運が悪くない限り、時空間嵐に出くわすことはないじゃろう。移動する年月が長いほど、時空間嵐と出くわす恐れがあるのじゃ】



あおい「そうか、なるほど。もう一度、十日前にタイムワープすればいいんだね!」

「ん?」

あおいはパラパラと数ページめくると、奏太宛に興味深いことが書いてあることに気づいた。



【好奇心の強い奏太のことじゃ。タイムカプセルツールを使うなといっても、おまえはきっと研究し、欠点を改造して、やがてタイムワープの実験をするじゃろ。わしの血がおまえには流れておるしな。おまえはわしと同じで、「止めろ」と言えばいうほど、おまえはチャレンジするじゃろ。

だからタイムワープを行うときの要注意点だけは述べておく。

一つ目は、タイムカプセルツールは、今の状態では決して乱用するな。とくに燃料タンクの強度に欠陥がある。時空間嵐による衝撃があったときに、燃料が時空間にこぼれてしまう恐れがある。燃料タンクの強度を改良することじゃ。



二つ目は、過去や未来の人との接触をできるだけ避けるのじゃ。とくに過去のおまえ自身やおまえと親しい間柄の人と深く接触したら、未来は大きく変わる恐れがある。

これを守れないと、タイムパラドックスの影響で最悪、宇宙が消滅するかもしれない。宇宙が消滅しなくともおまえ自身は消滅するじゃろう。なぜなら未来と過去のおまえは、けっして遭遇することのない同質のエネルギーだからじゃ。



よいか。おまえ自身やおまえと親しい人とは絶対に接触するな。それでも万が一、接触したら、未来や過去の世界からタイムワープしたことを絶対に悟られるな。過去と未来の意識が共鳴しなければ、ひょっとしたら消滅は避けられるかもしれん。

少しわかりづらい説明かもしれんが、魂のエネルギーは過去から未来まで一つの直線でつながっている、いわば一つの意識体なんじゃ。

お互いに同一人物と認識しなければ、例え深く接触してもしょせん赤の他人だから、なにも起きないかもしれん】



あおいは理解できたような、できないようなあやふやな様子だ。ただ二点、わかったことがあった。



タイムワープで、日にちがずれた場合は、ずれた日数分をタイムワープすればよいこと。

そして過去の世界では、特に過去の自分や親しい人と接触してはいけないこと。



あおいは、このふたつだけはどうにか理解できたようだ。

「もとから霊界通信機をこっそり壊すために過去へやって来たので……。過去の自分や親しい人と接触するつまりはないかな。でも接触すると大変なことになるみたいね……。再度タイムワープしたら、奏太に見つからないように壊す必要があるね……

それにしても、またタイムワープするのかあ。今度は十日前なのでずっと短いけど…… タイムワープって苦手だなあ。また車酔いみたいになっちゃうのかな。酔い止め薬でも持ってくればよかったかなあ」



あおいは一回目のタイムワープで、気分が悪くなったことを思い出していた。



ふああ

「それにしても眠くなった…着替えはもってきたけど……汗でべとついていやだなあ。せめて洗面所とかないかな」

あおいは、地下室で一ヶ所だけよく見にいなかった台所へ向かった。すると台所の奥にシャワー室のような部屋がある。あおいはその部屋を開くと、そこにお風呂があった。

「あー! お風呂がある!」

あおいはシャワーの蛇口を回すと、お湯がきちんと出てきた。

「よかったあ。これでお風呂に入れる」

さらに台所の奥をみると四畳ほどの小さな部屋があり、そこにはベッドがあった。

「お布団も思っていたよりきれいだ。何とか休める場所ができたあ」



あおいはシャワーを浴びて、その後、ベッドの上で横になった。

「タイムワープは気分悪くなるから、今日はゆっくり休んで、明日、もう一度タイムワープしよう」

あおいは松濤のスイッチを見つけ、明かりを消した。そして横になったらあっという間に寝込んでしまった。

そして次の日の早朝。

あおいは目を覚まし、明かりをつけて時計をみると、10時を過ぎていた。

――もう、こんな時間になっちゃったんだ。地下にいて太陽の光が入らないから、時間の感覚がわからなくなってるな。

あおいはずっと眠り込んでいたのだ。

「とりあえずなにか食べようかな……」

あおいは普段着に着替えて、携帯食を食べはじめた。

「ふああ。なんだか疲れとれないなあ」

あおいはとても眠かった。それもそのはず。過去に行くというプレッシャーとタイムワープのトラブルが重なって、疲れない人はいないだろう。



(――過去にいくのは明日にして…… 今日はゆっくり眠っていようかな。体力を回復させないといけないもんね)



あおいは、タイムワープを明日に延期しようと考えていた。するとそのとき、タイムマシンの中から黄色い点滅が灯っていることに気づいた。

「あれ? あの点滅は、一体なんだろう……」

あおいはタイムワープで使用したキャップをかぶり、タイムマシンのなかに入った。

すると目の前の空間に「燃料注意、燃料注意」と文字が点滅し、それからその文字は、「燃料残量、3年と40日」と切り替わった。

「3年、40日」という数字は、あおいが未来に戻るためのギリギリの日数だった。
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