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第5章 第1節 3年前の奏太~未来のあおいと過去の奏太
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あおいは3年前の過去にたどり着いた。
「たぶん……研究所の本棚は地震で本が落ちる前だったから、本棚に本がいっぱい入ってたんだ。そういえば……玄関前に、エジソン研究室から送られた荷物もなかったかな……」
あおいは、先ほどまで感じていた違和感の正体が今、はっきりと理解できた。そして心が躍った。
「やったあ! あたし、過去にやってこれたんだね!」
両手を大空へ上げて、あおいは喜んだ。
――おっとまだ喜んでいる場合ではない。喜ぶのは目的を果たして無事に帰れてからだ……。
おおいは心を引き締め、研究所に向かって歩き始める。
「……そういえば、霊界通信機ってどんな形だったかな?」
あおいは歩きながら、奏太がいじっていた霊界通信機がどのようなものかを思い出だそうとしていた。あおいは、奏太の実験にはまったく関心がなかった。しかし何度も大学に足を運んでいたので、実験の中身はわからなくても、実験機の形は何となく覚えている。
しかし研究所には、ものすごい数の実験品がある。
「あの研究所って実験品がたくさんあったよね……。似た形の実験品も多そうだし。あたしに見つけられるかな?」
あおいは霊界通信機を無事探し出せるか、不安になってきた。
ん?
ここであおいは、思い出したことがある。
「そうだ……おじいちゃんの手紙だ。確かおじいちゃんの手紙には……」
――なお霊界通信機の本体は、一階の中央実験室、鍵をかけた箱の中に入れておいた。
「……鍵のかかった箱を探せばいいのね!」
あおいは再び目を輝かせた。
「よし、希望が見えた!……待てよ? 何かもうひとつ大事なことを忘れているような……」
あおいはもう一度頭を整理する。
「えーっと。あたしは、霊界通信機を壊すために未来からやってきたのよね……。
でも過去へのタイムワープは失敗したと思って、東京の自宅に帰ろうと研究所を出て、奏太のお母さまに一度挨拶に行って……。
そしたら『奏太は、買い物が終わったら研究所に行くよ』と言われて、あたしは再び研究所に向かって……。
でもあたしは、今、タイムワープが成功したことを知って、実験機を壊すために研究所に向かっている……。奏太も研究所に向かっている……」
「あ――! 地下室の秘密の扉、本棚で隠してこなかった――!」
あおいは隠し扉から出るとき、本棚をずらして地下通路から出てきたが、気分が悪かったためか、隠し扉を隠すのをすっかり忘れていたのだ。
「急いで研究所に戻って隠し扉を隠さないと……。万が一、奏太があの部屋に入ってしまったら、タイムマシンが見つかってしまう……」
奏太が霊界通信機を発見する前に、霊界通信機を壊す……。
あおいは、その目的を果たすために未来からやって来た。しかしその前に、タイムマシンがばれたらまずいことになる……。あおいは、研究所に向かって急いで走りだした。
はあ、はあ
真夏の中、急いで走ったので、すっかり息苦しくなった。あおいは研究所に着いた。そして研究所の玄関の鍵を開けようとしたが、なんと鍵は開いていた。
「うっそー! きちんと鍵をかけたのに……。さすがに玄関の鍵は、閉めたのをはっきり覚えてるわよ。――ま、まさか……」
あおいは、窓がある場所に行き、そこから室内をそーっと覗いた。
その窓からは、研究所で一番広い中央実験室が見える。すると誰かが、ごそごそと作業をしていた。それは、まさしく奏太だった。
(そうたー!)
あおいは心の中で叫んだ。目がうるうるしてきて、滝のように涙が流れた。
(やっと会えた! 奏太に会いたかった。君を見たかったんだよ。良かった――)
あおいは、奏太を助けるためだけに危険を覚悟で過去にやって来た。あおいはもう一度、窓から奏太をそーっと覗いてみた。そのときあおいは、奏太の手紙を思い出した。
――あおいちゃん 君を愛している。
「そうた、うぇ~ん。うぇ~ん」
あおいは鼻水をたらし、今度は大粒の涙を流して泣き出した。あおいは今すぐ奏太に飛びつき、ぎゅっと抱きしめたい気持ちになった。しかし、この時代の奏太はあおいを知らない。あおいはぐっと感情を押さえ、自分で自分を言い聞かせた。
「落ち着かなきゃだめよ、あおい。奏太を助けるために過去にやってきたんだから……。泣いている場合じゃないよね!」
あおいは涙をふいて理性を取り戻し、もう一度窓から室内を覗いた。奏太は今、買い物袋から新品の工具を取り出している。これから何かをはじめようとしているところだ。
「よかったあ。どうやら、秘密扉の部屋には、まだ行ってないようだね」
たった今、奏太が、新品工具を取り出したのを見て、買い物から戻ってきたばかりとあおいは思った。奏太は工具のセットを終えたようだ。すると……
ギ――
激しい音が響いてきた。窓を閉めているにも関わらず、外にまで音がはっきり聞こえてくる。奏太はどうやら、電動ノコギリやバールを使って何かを壊そうとしているようだ。
しばしあおいは、奏太に見つからないように窓からこっそり覗いていた。
「奏太、一体何を壊しているんだろ?」
あおいはじーっと見ていると、何やら鍵がかかっている箱をこじ開けようとしている様子だ。そのときあおいは、先ほどのおじいちゃんの手紙を思い出した。
「奏太が今、いじっている箱って……鍵がかかっている。ひょ、ひょっとして……」
あおいは青ざめた。
奏太「やったー、開いたあ! やっと開いたぞ~」
室内から奏太の叫ぶような声が外にまで聞こえた。奏太は箱から中身を取り出して、それを机の上に置いた。机の上に置かれた実験機は、あおいが見覚えのあるものだった。
あおい「ま、まさか……」
それは紛れもなく霊界通信機だった。
あおい「え――、どうしてー!」
あおいはもう一度、携帯の日付を確認した。
――2018年7月25日16時14分
「あ、あれえ――!7月15日ではないの~!」
なんとあおいが到着した日は、設定した夏休み前の7月15日ではなく、10日後の7月25日だった。
「たぶん……研究所の本棚は地震で本が落ちる前だったから、本棚に本がいっぱい入ってたんだ。そういえば……玄関前に、エジソン研究室から送られた荷物もなかったかな……」
あおいは、先ほどまで感じていた違和感の正体が今、はっきりと理解できた。そして心が躍った。
「やったあ! あたし、過去にやってこれたんだね!」
両手を大空へ上げて、あおいは喜んだ。
――おっとまだ喜んでいる場合ではない。喜ぶのは目的を果たして無事に帰れてからだ……。
おおいは心を引き締め、研究所に向かって歩き始める。
「……そういえば、霊界通信機ってどんな形だったかな?」
あおいは歩きながら、奏太がいじっていた霊界通信機がどのようなものかを思い出だそうとしていた。あおいは、奏太の実験にはまったく関心がなかった。しかし何度も大学に足を運んでいたので、実験の中身はわからなくても、実験機の形は何となく覚えている。
しかし研究所には、ものすごい数の実験品がある。
「あの研究所って実験品がたくさんあったよね……。似た形の実験品も多そうだし。あたしに見つけられるかな?」
あおいは霊界通信機を無事探し出せるか、不安になってきた。
ん?
ここであおいは、思い出したことがある。
「そうだ……おじいちゃんの手紙だ。確かおじいちゃんの手紙には……」
――なお霊界通信機の本体は、一階の中央実験室、鍵をかけた箱の中に入れておいた。
「……鍵のかかった箱を探せばいいのね!」
あおいは再び目を輝かせた。
「よし、希望が見えた!……待てよ? 何かもうひとつ大事なことを忘れているような……」
あおいはもう一度頭を整理する。
「えーっと。あたしは、霊界通信機を壊すために未来からやってきたのよね……。
でも過去へのタイムワープは失敗したと思って、東京の自宅に帰ろうと研究所を出て、奏太のお母さまに一度挨拶に行って……。
そしたら『奏太は、買い物が終わったら研究所に行くよ』と言われて、あたしは再び研究所に向かって……。
でもあたしは、今、タイムワープが成功したことを知って、実験機を壊すために研究所に向かっている……。奏太も研究所に向かっている……」
「あ――! 地下室の秘密の扉、本棚で隠してこなかった――!」
あおいは隠し扉から出るとき、本棚をずらして地下通路から出てきたが、気分が悪かったためか、隠し扉を隠すのをすっかり忘れていたのだ。
「急いで研究所に戻って隠し扉を隠さないと……。万が一、奏太があの部屋に入ってしまったら、タイムマシンが見つかってしまう……」
奏太が霊界通信機を発見する前に、霊界通信機を壊す……。
あおいは、その目的を果たすために未来からやって来た。しかしその前に、タイムマシンがばれたらまずいことになる……。あおいは、研究所に向かって急いで走りだした。
はあ、はあ
真夏の中、急いで走ったので、すっかり息苦しくなった。あおいは研究所に着いた。そして研究所の玄関の鍵を開けようとしたが、なんと鍵は開いていた。
「うっそー! きちんと鍵をかけたのに……。さすがに玄関の鍵は、閉めたのをはっきり覚えてるわよ。――ま、まさか……」
あおいは、窓がある場所に行き、そこから室内をそーっと覗いた。
その窓からは、研究所で一番広い中央実験室が見える。すると誰かが、ごそごそと作業をしていた。それは、まさしく奏太だった。
(そうたー!)
あおいは心の中で叫んだ。目がうるうるしてきて、滝のように涙が流れた。
(やっと会えた! 奏太に会いたかった。君を見たかったんだよ。良かった――)
あおいは、奏太を助けるためだけに危険を覚悟で過去にやって来た。あおいはもう一度、窓から奏太をそーっと覗いてみた。そのときあおいは、奏太の手紙を思い出した。
――あおいちゃん 君を愛している。
「そうた、うぇ~ん。うぇ~ん」
あおいは鼻水をたらし、今度は大粒の涙を流して泣き出した。あおいは今すぐ奏太に飛びつき、ぎゅっと抱きしめたい気持ちになった。しかし、この時代の奏太はあおいを知らない。あおいはぐっと感情を押さえ、自分で自分を言い聞かせた。
「落ち着かなきゃだめよ、あおい。奏太を助けるために過去にやってきたんだから……。泣いている場合じゃないよね!」
あおいは涙をふいて理性を取り戻し、もう一度窓から室内を覗いた。奏太は今、買い物袋から新品の工具を取り出している。これから何かをはじめようとしているところだ。
「よかったあ。どうやら、秘密扉の部屋には、まだ行ってないようだね」
たった今、奏太が、新品工具を取り出したのを見て、買い物から戻ってきたばかりとあおいは思った。奏太は工具のセットを終えたようだ。すると……
ギ――
激しい音が響いてきた。窓を閉めているにも関わらず、外にまで音がはっきり聞こえてくる。奏太はどうやら、電動ノコギリやバールを使って何かを壊そうとしているようだ。
しばしあおいは、奏太に見つからないように窓からこっそり覗いていた。
「奏太、一体何を壊しているんだろ?」
あおいはじーっと見ていると、何やら鍵がかかっている箱をこじ開けようとしている様子だ。そのときあおいは、先ほどのおじいちゃんの手紙を思い出した。
「奏太が今、いじっている箱って……鍵がかかっている。ひょ、ひょっとして……」
あおいは青ざめた。
奏太「やったー、開いたあ! やっと開いたぞ~」
室内から奏太の叫ぶような声が外にまで聞こえた。奏太は箱から中身を取り出して、それを机の上に置いた。机の上に置かれた実験機は、あおいが見覚えのあるものだった。
あおい「ま、まさか……」
それは紛れもなく霊界通信機だった。
あおい「え――、どうしてー!」
あおいはもう一度、携帯の日付を確認した。
――2018年7月25日16時14分
「あ、あれえ――!7月15日ではないの~!」
なんとあおいが到着した日は、設定した夏休み前の7月15日ではなく、10日後の7月25日だった。
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