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第3章 第5節 あおいの恋のパスワード

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奏太にメッセージを送った数分後、あおいの携帯に着信が入った。

もちろん奏太からだ。あおいは奏太から届いたラインメッセージを読んでみた。



【あおいちゃん、ほんとうにありがとう。

俺もあおいちゃんの気持ち、とっても嬉しかったよ。

ところで、最後の「私と海と電話」って何?】



あおいはものすごくドキドキした。

あおい(どうしよう、どうしよう~~)

いざ奏太から質問されると、こんなに焦るとは思っていなかった。あおいは返事にすっかり困ってしまった。あおいがなんて返事をするか考えがまとまらないうちに、奏太から再びメッセージが届いた。



奏太【3年前のあの九十九里の海岸のことかな?】



あおい「え?」

さらに続けて奏太はメッセージを送ってきた。



【あおいちゃんと初めて出会った海岸の岩場で、俺、あおいちゃんの携帯を拾っただろ。

あおいちゃん、まだ、あのときのこと、根に持ってるんだなって。好きな男子の写真もすっかり見られちゃったからね笑

だから、あの海辺での電話事件のこと、私は忘れないぞ~って呪い(笑)を込めて、『私と海と電話』という暗号で送ったんだろ?】



確かにあおいは、奏太と出会った海辺と携帯電話をヒントに、この暗号を思いついたのは当たっている。しかし奏太の解釈は、まったくの的外れだった。あおいは奏太にメッセージを送り返した。



あおい【ちょっと、過去の話でしょ~。いつまでも根にもっているわけないでしょ~。それに先輩の写真だってだたの憧れで、今は何とも思ってないよ~】

奏太【え、違うの?】

あおい【当たり前でしょ~。あの暗号はおまじない。実験に成功しますようにと願いを込めたおまじないよ】

奏太【なんだ、おまじないか~】



あおいはほっとした。いかにも奏太らしい奇想天外な発想だなあと思った。

あおい【そうよ、暗号、いや、パスワードかな? それを解いたら、奏太がと~~っても元気づくメッセージが込められてるよ~】

奏太【それはうれしいな。でもパスワードを解かないとわからないのかあ。俺ってそういうの、苦手なんだけどなあ】

あおい【じゃあ、ゆっくり時間かけて解いてね】

奏太【あはは、永遠に解けないかも(笑)。それにしても、海と電話って聞いたら、3年前、あの岩場の海辺であおいちゃんと出会ったときのことを思い出したよ】

あおい【うん、最後の日に二人で眺めた海辺、本当にきれいだったね】

奏太【そうだな、隣に騒々しい女の子がいなければもっとよかったのになあ】

あおい【コラ、そう言うか、普通。そもそも、奏太が女子の携帯、勝手に覗いたのがいけなかったんでしょ~】

奏太【そんなに見られたくなかったら、さっきのようなパスワードでもかけておけよ】

あおい【パスワード? あ、暗号のことね。そうだね、いつどこで、奏太みたいなストーカー男に覗かれるかわからないからね。これからそうする】

奏太【ごめん、ごめん、冗談だよ。でもいつかまた二人であの海辺を見ようか】

あおい【ほんと?】

奏太【本当だよ、じゃあ、日にち決めようか。発表会が終わった次の週の11月11日、土曜の11時11分ということでどう?】

あおい【うん! 1111ね。オール1なんて縁起いいじゃん! じゃあ、約束ね】

奏太【約束】

あおい【これで、過去ののぞきは許してあげるね】

奏太【おいおい、のぞきはやめろよ笑】

あおい【冗談だよ笑】

奏太【じゃあ、俺、今日、実験あるからこれで~】

あおい【がんばってね、明日のお昼にお弁当持っていくからね】

奏太【本当にすまないね、じゃあ、明日】

あおい【ばいば~い】



二人のラインでのやり取りはこれで終わった。

「長々と、実験の邪魔しちゃったかな?」

あおいは、実験の邪魔をしたことをちょっと心配した。しかしあおいは、とても嬉しかった。本当は喜びを思いっきり表現したかった。

(奏太とまた、あの海辺を二人で見れるなんて~)

あおいは携帯を両手で大事そうに握り、祈るような気持ちで奏太と二人で海辺を眺められる11月11日を心より待ち望んだ。



* *  *



次の日の午前10時。

あおい「よし!」

あおいは奏太と兄の二人分の弁当を作り終えたところだった。兄の栄一も、今日はまだ家にいた。

栄一「あおい、久しぶりに弁当を作ったんだな」

あおい「うん、今日は普段より時間をかけてつくったよ!」

栄一「奏太のやつ、喜ぶだろうな」

あおい「えへへ~」

栄一は、いつになく機嫌がよく、幸せオーラが漂っているあおいに気づいた。

「どうした? あおい、今日は特に機嫌よさそうだな、何かあったのか?」

あおいは、奏太と仲直りしたこと、そして何よりも奏太と海岸を眺める約束をしたことで心が弾んでいた。

「うんうん、別に何でもないよ。お兄ちゃん! ルンルン」

「なんでもないって言いながら、ルンルンって普通言うか?」

「あたしはいつもと一緒よ!」

「ま、いいか」

栄一は、あおいが張り切っている様子を見て、奏太のことで吹っ切れたと思った。

栄一「俺は12時頃に部室に行くから、久しぶりに一緒に大学までいくかい?」

あおい「うん!」



あおいは、最後の仕上げでお弁当に風呂敷を包んだ。

あおい「でっきあがり~ねえ、お兄ちゃんできたよ!」

あおいは、兄の方を見た。しかし兄は、昨日の夜と同様に浮かない表情をしていた。

あおい「お兄ちゃん、どうしたの。昨日からときどき心配そうな顔をしてるけど……」

兄「ああ、ちょっと今日の午後3時からの実験のことでね」

あおい「ふ~ん」

あおいは、今日はとても難しい実験をする日なんだなと思った。

(そうか、だから奏太は昨日、夜遅くまで部室にいて、今日の実験の準備をしていたんだな……)

あおいは兄に、昨日の夜、奏太と連絡していたことを話さなかった。兄に知られるとからかわれると思い、昨日のことは黙っていた。



……そのときだった。栄一の携帯に電話がかかってきた。

プルルル、プルルル

栄一「あれ? 大学の窓口からだ。珍しいな」

栄一は電話をとった。

栄一「お世話になります。岬です」

栄一は電話を取ってしばし黙って話を聞いていた。しかし間もなくして、栄一の表情は硬直し、血の気が引いたような表情になった。そして栄一は、携帯をポトッと床に落としてしまった。あおいは、兄の様子を見て、ただならぬことが起きていることに感づいた。

「お、お兄ちゃん……」

あおいは小さな声で兄に声をかけた。

栄一は顔を硬直したまま、ゆっくりとあおいに顔を向けながら一言、言葉を発した。

栄一「奏太が亡くなった……」

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