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第3章 第4節 私と海と電話~あおいからのメッセージ

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栄一は部室を出た後、途中で本屋に立ち寄った。今日は父が出張で母が同窓会で家にいないので、レストランで夕食を済ませから自宅に戻ってきた。

自宅に着いた頃は、すでに夜の9時を過ぎていた。栄一が自宅に着くと、そのままリビングに入って椅子に座り、テレビをつけずに一人で考え事をしていた。そこにあおいが現れた。

「お兄ちゃん、お帰り!」

「あおいか」

栄一は、少し鬱っぽかったあおいが、普段通りの元気そうな表情になっていたので、ほっとした。

栄一「元気になったみたいだな」

あおい「何言ってんのよ。あたしは、もとから元気よ!」

栄一「朝はぶつぶつ独り言、言っていたくせに」

あおい「えへへ……」



あおいは、兄と向かい側のテーブルの椅子に座った。

あおいん「?」

普段なら、兄がリビングに入ったら真っ先にテレビをつけるのに、テレビをつけずに兄は何やら考えごとをしているように見えた。あおいは兄がいつになく深刻そうな表情をしていたので、兄に尋ねてみた。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「いや、何でもないよ」

「ふ~ん」

あおいは、兄が実験のことで考え事をしているのかなと思った。そして栄一は、あおいに余計な心配をかけてはいけないと思って、いつもの明るい表情をした。

「ところで、あおい。秋の学園祭で俺たちエジソン研究会の発表会があるのを知っているよな?」

「うん、知ってるよ」

「おまえも来ないかい。会場の席は毎年埋まってしまうから予約制になっているんだ。来るなら早めに招待状を渡しておくよ」

「う~ん、どうしようっかな。お兄ちゃんの発表だしね」

「発表者は俺でなく奏太だ。俺はサポートするだけさ。だから、当然いくよなあ~」

「え?」

さっきまで深刻そうな表情をしていた兄は、まるで何事もなかったかのようにニヤニヤしてあおいを見ていた。

「奏太なんて、関係ないもん!」

あおいは、赤くなった顔を兄に見られたくないためか、リビングから去っていき、自分の部屋に戻った。





――あおいは、今、自分の部屋にいて机の椅子に座っていた。1週間、あおいは奏太のことばかり考えていて、落ちつかなかった。

「あ~あ~、あたしってなんでこうなんだろう。さっきの発表会だって本当は行きたかったのに……」

あおいは、午前中、兄と会話したとき次の一言が頭に浮かんできた。

「奏太のやつ、昨日もおとといも、『今日、あおいちゃんはお昼に、弁当持ってきてくれるかな?』って俺に聞いてきたな」



(お兄ちゃんの言うとおり、奏太は本当に、あたしのお弁当を楽しみにしてくれてるのかなあ。でも奏太って、口に出して言ってくれないし……あ~あ~、奏太の本当の気持ちがしりたいなあ)

あおいは奏太の気持ちを考えていると、ふっと自分のことも振り返っていた。

(そうだ……自分の本当の気持ちを伝えていないのは……あたしも一緒だよね。あたしが奏太の本当の気持ちがわからないように、奏太もあたしの気持ち、きっとわからないよね。

……奏太ばっかり責められないよね。ひょっとしたら、奏太もあたしの気持ちを知りたいって思っているかも……)



それからあおいは、1週間前に奏太へ放った、次の言葉が思い浮かんだ。

「もう~~、奏太なんて本当に死んでしまえばよかったんだよ!」



あおい「……あれは言い過ぎたかな……よし、決めた!」

あおいは、奏太へ電話することにした。あおいは携帯電話をとり、奏太に電話をかけた。

「プルルル、プルルル……ただ今留守にしております。御用の方は、メッセージをお入れください」

あおい「なんだ、留守電になっちゃった」

あおいは、留守電にメッセージを伝えた。

『奏太、え~~っと……この前はごめんね。辞書で思いっきり叩いちゃって。それに、あたし、『死んじまえ』ってひどいこと言っちゃって……。あと……お兄ちゃんから聞いたんだけど、秋の発表会、あたし、絶対行くからね。だから、実験、頑張ってね』

あおいは留守電を終えた。



それから数分後、携帯電話が鳴り、パネルを見ると奏太からだった。

あおい「奏太だあ~」

あおいはすぐさま電話を取った。

あおい「もしもし、あおいだよ」

奏太「あおいちゃん、久しぶりに声を聞いたよ」

あおい「久しぶりと言ってもまだ1週間よ」

奏太「ずいぶん長く声を聞いていない気がしたよ。あと、留守電を聞いたよ。あおいちゃんらしくないトーンで正直びっくりした。でも、とても嬉しかったよ」

あおい「こら! 奏太、あたしらしくないってどうゆう意味よ」

奏太「ごめん、ごめん。留守電、聞いたときは、別人じゃないかって思ったよ。妙に優しそうな声のトーンだったから」

あおい「なに言ってるのよ。あたしは元からと~~っても優しいんだからね」

奏太「あはは、知ってるよ。おいしいお弁当つくってくれるし、俺たちのお使いも代わりに行ってきてくれたり、部室を掃除してくれたり……感謝してるよ」

「奏太こそ、普段、弁当食べても。感謝してるなんて言わないぞ~。奏太こそ、別人じゃないの~」

「なんだよ~、せっかく年上の男が頭下げてるのによ」

「なによ~、部室だってあたしが行かなかったら、ごみやほこりでいっぱいでしょ。全然、掃除しないし、いい大人がだらしないんだから~。少しはあたしに感謝しなさい!」

「その年上の人を見下す傲慢ごうまんさ。やはり、普段のあおいちゃんだ」

「そうくるか、普通。ったく、この男は~」



あおいは、やれやれという思いをしたと同時に、おもわず吹き出してしまった。

「ぷっ」

「あははは」

「あははは」

二人はしばし思いっきり笑っていた。

奏太「ところで、発表会も来てくれるんだって」

あおい「うん!必ず行くからね」

「ありがとう! あと、実は俺、まだ大学の部室にいてさ」

「ええ~、もう10時になるよ」

「そうだなあ。今日は、どうしても夜に実験したいことがあってね」

「へえ~、でもあんまり無理しないでね」

「ところであおいちゃん……俺の方こそごめん。気色悪いなんて……変なこと言っちゃって」

「うんうん、気にして…」

あおいは、「気にしてないよ」と言おうとしたが、思い出したら、やはり腹がたってきた。

「こらあ、奏太、やっぱり気にしてるぞ~」

「あははは、実はあのとき、本当にあおいちゃんに照れちゃって……。それを隠そうとしたら、あおいちゃんにばれてしまったと思って、つい……」



(え、そうた……)

あおいは、ポッとして心の中で思った。

(何だかいい雰囲気じゃないの……あたし、告白しちゃおうかな)

あおいは、ドキドキしていた。

(でも、今、告白したら奏太は迷惑かな。研究も山場で忙しいみたいだし……。奏太ってとても頭いいけど、あたし、おてんばで釣り合わないし、やっぱり付き合うとなると……嫌がるかな……)

いろいろ考えてあおいは思った。

(奏太、発表会前で頑張っているから、今、あたしのことで煩わしたら悪いよね)



あおいが考え込んでいる間、しばし、沈黙の時間が走った。

一方、奏太は、「照れちゃって」と言ったことに、あおいがひいてしまったと思った。

奏太「あ、いや~。あおいちゃん、今、何かまたまずいこと言っちゃったかな」

あおい「うんうん、そんなことないよ」

奏太「よかったあ。ところであおいちゃん、今日、これから大切な実験があるから……」

「うん、わかったよ。明日のお昼、お弁当もっていくね!」

「明日のお昼、楽しみにしてるよ。ありがとね」



ここで2人の電話は終わった。電話を切ったあとも、あおいはまだドキドキしていた。

(やっぱり、想いを伝えればよかったかな。とてもいい雰囲気だったし……でも、電話だと恥ずかしくなって言えなさそう。ラインで伝えようかな。でも……告白って直接会って、奏太の目の前で言うべきよね)

あおいは、告白するなら直接会ったときにしようと思った。

(でも今日は、奏太とお話が出来てよかったあ。一様、お礼のメール、送っておこうっかな。告白は、奏太の秋の発表会が終わってからにしよう!)

あおいは奏太宛に、ラインメッセージを書いた。メッセージの内容は、次のとおりだった。



【そうた、電話ありがとね♪

とっても楽しかったよ。そして、と~~っても嬉しかった、奏太の気持ち。

発表会まで忙しそうなので、それまでにお昼のお弁当作って、もってってあげるね!

発表会、うまくいくといいね。

あたし……いつでも奏太のこと、応援してるからね。

じゃあね♪】



「これでよしっと!」

あおいはラインメッセージを作り終えた。あおいはもう一度、文章に誤りがないか読み直して、奏太と初めて出会ったときのことを思い返していた。

(奏太と初めてあったのは夕方の海辺だったなあ……。あのとき奏太、あたしの携帯を勝手に覗のぞき見してたっけ~。それで大喧嘩になって、そのときは本当に最低男って思ってたな。喧嘩は今もあいかわらずしてるけどね)



「そうだ! 海と電話だから……」

あおいは、何やらおもしろいことがひらめいたようだ。

「今は直接会って、告白できないけど……一言だけ書いちゃおっかな♪」

あおいは、ラインメッセージの最後に一言、付け加えた。

「クスッ、奏太、わかるかな。鈍感な奏太なら絶対わからないだろうな。

送信、これでよしっと・・」

あおいはメッセージを奏太宛に送った。

あおいのラインメッセージの最後の一行には、次のメッセージが付け加えられていた。



【奏太、私と海と電話】
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