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第3章 最後のラブレター 第1節 奏太が照れた!あおいの勘違い?

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話は現代に戻る。

高校も大学も、夏休みに入ったばかりの7月下旬の朝5時。

大学は高校より一足先に夏休みに入っていたが、あおいが通う高校は、今日から夏休みに入った。今、あおいは、早起きして二人分の弁当をつくっている。ちょうどそのとき、兄の栄一が起きてきた。

栄一「よう、おはよう、あおい」

あおい「あー、お兄ちゃん! おはよう、早いね」

栄一「おいおい、あおい。夏休み初日から、こんなに早く、お昼の弁当つくらなくてもいいんじゃないか?」

あおい「早く目が覚めてね。今日はお兄ちゃん、大学の部室に行く日でしょ。だから腕を振るっておいしい弁当を作りたいと思ってね」

栄一「面倒くさがりのあおいが、熱心に弁当作るようになるなんて思わなかったよ」

あおい「えへへ……確か1年くらい前からだよね。弁当つくってあげるようになったの。お兄ちゃんに研究、頑張ってもらいたいからね」

栄一「とかなんとか言っちゃって、本当は奏太に食べてもらいたいんだろ?」

あおい「なんで、奏太なんかに……」

栄一「何、赤くなってんだ」



兄の栄一はニヤニヤしている。あおいにはその笑いが、「あおいは、奏太のことが好きなんじゃないの?」って言っているように見えた。

栄一「まあ、奏太には黙っているから」

あおい「何を黙ってるというの? 別に奏太のことなんか好きでもないもん……」

栄一「おいおい、あおい。別に奏太のこと、好きかどうかなんて聞いていないだろ。こんなに朝早く起きて、弁当作っていることを、黙っててやるって意味で言ったんだぜ」

あおいはますます顔を赤くした。

あおい「お兄ちゃん! もう、お弁当作りの邪魔だから、あっちに行っててよ~」

あおいは、手に持っていたボウルを上にあげて、怒っていた。

栄一「発狂したら奏太に嫌われるぞ~」

あおい「お兄ちゃん! こら!」

あおいは、ますますむきになった。

栄一「お~こわ、俺、朝のランニングに行ってくるから~」

栄一はあおいを。楽しそうにからかっていた。

あおい「もう~お兄ちゃんたら……」





お昼の時間がやってきた。

あおいは、お昼前の11時50分頃に大学の部室に着いた。

とんとん

あおいは部室の入口のドアを叩いた。

あおい「お兄ちゃん! お弁当持ってきたよ!」

しかし、部屋からは誰の声もしなかった。

「あれ、誰もいないのかな?」

ガチャ

あおいはドアを開け、部室に入ると、中央部屋には誰もいなかった。

ん?

あおいは中央部屋の奥にある部屋の扉が開いていることに気づいた。その部屋は小さな設計室だ。あおいは設計室に向かって歩き、設計室を覗いてみると、奏太が本を見ながら、パソコンで何やらつくっているようだった。

あまりに夢中になっていて、奏太はまだ、あおいが近くにいることに気づいていない。

以前から奏太は夢中になると、周りの声や音が耳に入らなくなるくらい、集中することがよくあった。それだけ、発明に対する熱意と情熱があった。

あおいは設計室にそーっと入って、静かに奏太のそばに近づいた。あおいは、奏太の真後ろまで近づいたが、奏太はまだ気づいていない。

あおいは、奏太が夢中になって見ている本を後ろからこっそり覗いた。



あおいは心の中で思った。

(奏太、本を見ながら、パソコンで何か図面を作ってるのかな? ん?星のような……)

奏太が見ている本のページには、星の形をした五角形の模様が描かれてあり、その星の周りには長さや角度など細かい数式らしきものがたくさん書かれていた。

次にあおいがパソコン画面を見てみると、何かの図面のようなものが描かれてあった。



あおいはもっとよく見るために、パソコン画面にさらに顔を近づけた。

あおい「奏太、何つくってるの?」

あおいが声をかけた時、あおいの顔は、奏太の顔からわずか数センチ隣にまで、近づいていた。奏太は、急に声をかけられたことにびっくりしたが、ちょっと振り向いたら、あおいの顔が接触してしまいそうな位置にまで、あおいが近づいていたことに一番驚いた。

奏太「あ、あおいちゃん!」

あおい「ん? なあに?」

パソコン画面を見ていたあおいは、振り向いて奏太を見た。奏太から数センチ手前の真正面で、あおいと奏太の顔が見つめあう状態になった。

さすがに奏太は焦ってしまった。

「あ、あおいちゃん、くっつきすぎだよ!」

奏太は、慌ててあおいから離れて距離をおいた。あおいが奏太を見てみると、奏太の顔が少し赤くなって照れているようだった。奏太がふだん見せない表情だ。

あおいと奏太はよく言い争いになる。ただそれは、あおいと奏太が会うと、普通によくあることだった。さらにあおいがムキになると、奏太の頭をグリグリしたり、奏太の背中をふいに叩いたりすることがあった。けっして顔を近づけることは珍しいことではない。

あおいは、「きっと奏太はあたしのことを女として見ていないだろう。奏太はあたしのことガキ、あるいは男の後輩のようにしか思っていない」とさえ思っていた。そんな奏太が、顔が近づいただけで顔を赤くしたことに、あおいは驚いた。しかし奏太の意外な反応に、嬉しい気持ちにもなった。

あおいは、そんな奏太の反応がかわいく見えてしまい、奏太をからかいたくなっただ。

「奏太、なに赤くなってんだよ~」

「い、いや~」

奏太は、あおいがニヤニヤしている表情をみて焦った。するとあおいは、焦った奏太を見て、ますますからかいたくなった。

「ひょっとして奏太、あたしに照れてるの~」

「そんなわけねーだろ!」

内心、あおいはうれしくって仕方がなかった。「奏太、ありがとう。嬉しい!」って言いたい気持ちさえあった。でも、こんなときでさえ、つい、いたずら心が出てしまったのだ。

「あたしを見て照れてるんだ~。奏太、ますます赤くなった~」

奏太は慌てて、一生懸命、ごまかそうとした。

「これは違う! 絶対違うぞ! そ、そうだ。研究に夢中になっていたら、すげー気色わりー顔が急に近づいてきたので、お化けが出たと思って頭に血が上ったんだ!」

あおいのうれしい気持ちがこの一言で消し飛んでしまった。あおいは、奏太が照れたのではなく、頭に血が上っただけと言われ、内心がっかりした。



(そ、そんな~~)

あおいはしょぼんとしたと同時に、奏太の言葉が、心に何度もこだまするように響いた。

気色わり~

お化け~

気色わり~



ゴゴゴゴ……

あおいの静かな怒りが次第に大きくなっていった。

「そうた!!!」

あおいは机の上に置いてあった、分厚くて幅の広い辞書を両手に取って、奏太の頭を真上から思いっきり叩いてしまった。

ガツン!!!

「いくらなんでも気色悪い、お化けはないでしょ!!!」

「ひえ~~……」

分厚い辞書が奏太の頭に見事に直撃し、そのショックで奏太はのびてしまった。


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