恋は秘密のパスワード

ちえのいずみ

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序章 私はあおい

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あたしはみさきあおい。年は16歳の女子高2年。

同級生からは、「みさきちゃん」「あおいちゃん」って呼ばれているんだよ。

性格は明るく、ノー天気、前向き、こだわらない性格って言われるけど……

本当はとても繊細なんだけどな……。

え、彼氏はいるのかって。それはまだひ・み・つ。
物語が進んでいけばわかるかな。

それでは、「恋は秘密のパスワード」始めるね♪

***

今日は、夏休みが始まる前の7月の中旬の土曜日。あたしはお兄ちゃんにお昼のお弁当を届けるために、大学に足を運んでいる。お弁当は3つ。あたしの弁当と、3つ年上の大学2年の栄一えいいちお兄ちゃんの弁当。そして……え~っと、お兄ちゃんのサークル仲間の奏太の分……。

え、何で弁当をわざわざ届けるのか? 何で年上なのに「そうた」って呼び捨てするのかだって。それも物語が進んでいくうちにわかりますよ。目指すは西凛せいりん大学のエジソン研究会の部室へレッツゴー!

あおいは大学に到着し、部室のドアを開けた。

「ガチャ」 

栄一「あおい、いつもすまないな」

あおい「えへ、あたしもお兄ちゃんの研究のお役に立ってるかしら?」

栄一「助かるよ、俺、研究にバイト代をほとんど使っちまって。お昼の弁当さえ買う金ないからな。もっとも、研究
費のほとんどは奏太に出してもらっているけどな」

同じ部室にいた奏太は、研究の手を止めずに一言しゃべった。

奏太「栄一、お金のことは俺がどうにかするから、無理するな」

栄一「じゃあ、お言葉に甘えて、これから全部、奏太に出資してもらおうかな」

すると、あおいは顔色を変えて、怒ったように言ってきた。

あおい「お兄ちゃん! 絶対ダメよ!」

栄一「なんだよ~、またおまえかよ~。奏太だって、ああ言ってるじゃないか」

あおい「だめよ、だめ。お兄ちゃん、奏太にばかり負担かけるなんて、仲間としてみっともないよ。それに金欠なのは、お兄ちゃんの無駄使いもあるんでしょ。お金ないわりにはしょっちゅう、女子大の集まる合コンは参加するんだから。だから、あたしがこうやってお弁当を持ってきてるんでしょ」

栄一「わかった、わかった。そんなにムキになるなって……」
あおい「ふう~」

あおいは、安堵のため息をついた。

それからあおいは、奏太の方に近づいた。そして片手で弁当を吊りさげ、奏太に弁当を差し出した。しかし、ずいぶんぶっきらぼうで失礼な渡し方だ。

あおい「はい、これ、奏太の分」

奏太は、椅子に座って、机の上にある実験機に夢中になっていて、返事をしなかった。

あおい「そ・う・た! 聞こえてるの! 弁当よ!お弁当!」

奏太は研究を止めて、あおいの方を向いた。

奏太「別に俺の分は、つくらなくていいって言ったんだけどな」

あおい「奏太の分は、お兄ちゃんのつ・い・で。一人だけお昼なしでは困るでしょ!」

奏太「大学の食堂で食べるから、無理して不味い弁当つくらなくっていいよ」

ムカー
あおいは、奏太の失礼な言葉にムカッとした。

あおい「不味いって言ってるわりには、いつもご飯粒一つも残さずきれいに食べてるじゃないの!」

奏太「あおいちゃん、冗談だよ。ほんと、おいしいよ!」

あおい「まったく、かわいい女子高生がお弁当作って、大学まで持ってきてるんだから、少しは感謝しなさいよ」

奏太「え、かわいい? どこにいるのかな、そんな女性?」
奏太はわざとらしく、キョロキョロと回りを見渡した。

ムカムカムカー

あおいはますます怒った。

あおい「奏太! 今日という今日は、もう許さないから! とっちめてやる~」

あおいは座っている奏太の頭を、両方のこぶしでグリグリした。

奏太「いててて!」

あおい「そんないじわるな性格だから、いつまでたっても奏太は彼女できないんだよ~」

奏太「なんだよ~、あおいちゃんだって彼氏いないだろ。そんなおてんばじゃ、誰も彼女にしたくないよ。俺も絶対ごめんだし」

あおい「なによ~、あたしだって、奏太みたいな研究オタクなんて絶対まっぴらよ!」

あおいは、奏太の頭の両側を、両手でさらに強くグリグリした。

「いててて!」

奏太はあおいのこぶしを振りほどき、あおいを睨みつけた。

あおい「ふん!」
奏太「ふん!」

お互い、腕を組んでプンプンしていた。

栄一「おいおい、二人でいつまで漫才やってんだ」

あおい「いい、お兄ちゃん。絶対、研究費、奏太だけに出させたらダメだからね。奏太が全部出したら、奏太はます
ますつけあがるんだからね。私はお兄ちゃんを応援しているんだからね! 奏太なんかどうでもいいんだから!」

栄一「わかった、わかった」

あおい「絶対、絶対、約束だからね!」


あおいは、部室の入口に向かって歩いていく。

栄一「あおい、今日は俺たちと一緒に弁当食べないのか?」

あおいは、栄一たちの方へ振り返った。

「今日は一人で食べるよん。奏太なんて嫌い! だいっ嫌い!」
奏太は顔をしかめ、栄一は「やれやれ」という表情をした。


ガチャ

あおいは研究室を出ていった。


あおいは、大学の門を出て、「ふ~」と安堵した。

(お兄ちゃんったら……。奏太が研究費を全部出したら、あたし、部室にお弁当作ってもっていく理由がなくなるじゃないの……)

あおいは少し顔を赤らめながら思った。

(お兄ちゃんが金欠だから奏太にお弁当作ってもっていけるのに……。もし、奏太が全額出したら、お兄ちゃん、きっと学食かレストランに行くでしょ。そうなると、あたしが奏太に会いにいく理由、なくなってしまうんだから)

そう……あおいは、兄のために弁当を作っているわけではない。奏太に会いたいがために弁当を作っていたのだ。そして、奏太が自分の作った弁当を食べてくれていると思うと、胸がドキドキした。

(奏太のバカ。あたしの気持ち、全然、気づいてくれないんだから……)

あおいは、奏太のことが好きだった。
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