世界の終わりでキスをして

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 俺は一度事務所へ戻ると、叔父さんも事務所へ戻っていた。

「おつかれ!」
 叔父さんが俺に缶コーヒーを投げる。
「ありがとう。」
 俺はそう言いながら腰をさする。
「まだ腰痛いのか?若いのに運動不足じゃねーか?」
 叔父さんには言われたくない、と思いながら俺は缶コーヒー開けて口に流しこむ。
「今日、流華ちゃんこない日だっけ?」
「さあ?デートで忙しいんじゃないの?」
 叔父さんは驚いた顔をして俺に聞いてくる。
「なんだよ、恭弥。流華ちゃん本当に彼氏ができちゃったのかよ。お前それでいいのかよ。」
 いいのかよ。と言われてもどうしようもない。俺なんか元々眼中にないんだから。

「何度も言ってるけど、俺何回も振られてるから。しかも結構傷ついてるから。これ以上傷に塩を塗るような事言わないでもらえる?」

 俺が少し怒りながらそう言うと、叔父さんは楽しそうな顔をして
「傷に塩ね~」
 と言っている。

「まあ、お前にしちゃ珍しいな。負け試合はしないたちだと思ってたわ。」

「どうゆう事?」

「お前昔から、負けそうな戦いには挑まないタイプじゃん?友達とのかけっことか、数学もそうだし。負けて傷つくのが嫌なんだと思ってた。」

 思い返せば、叔父さんの言っていた通りかもしれない。
 俺は、負けるとわかった瞬間にその勝負を降りるくせがあった。

 負けて嫌な思いをするくらいなら、始めから挑まない方が楽だと思っていた。
 わざわざ、嫌な思いをしたり、自分から傷つきになんて行きたくない。

 ずっとそう思っていた。
 けれど
 流華に対しては違った。
 俺が初めて、傷ついてでも手に入れたいと初めて思った人なのかもしれない。

 まあ結局挑んだ所で手に入れる事は出来ずに、ただ心の傷だけが残った形なんだけど。

「しかし、イブの奴すばしっこかったなぁ。一瞬にして街の中に溶け込んでいなくなっちまった。」

 叔父さんが悔しそうに、ディスクの椅子にもたれかかって言う。

「叔父さんがいくら運動不足だからって、まかれる事あるんだね。何処かのビルにでも入ったか、、、。ただでさえ、人の多い新宿だからね、尾行をまくには有利かもね。」

「でも、俺達から逃げたって事は何かやましい事があるって事だな。何もなければ堂々としてたらいいんだから。少女達の更生の為に、NPOを立ち上げるとか、色々やりようはあるだろう。」

 本当にそうだ。
 真白から事前に俺の話しを聞いていた様だったな。俺がイブを探しているって。
 だから逃げたのか?

「俺達に警戒して、イブはしばらくあの広場にはこないかな。」
「そうかもなぁ。他にイブが来そうな場所って何処だ?」

 叔父さんが俺に聞く。

「今日、迷い猫ルナの依頼人に聞いたんだけど、凛ちゃんがルナを保護猫ボランティアとして、依頼人に手渡したらしいんだよ。」

「なんだよその話し。凛ちゃんとルナがまさか繋がってたのかよ。」
 叔父さんが感心した様に俺に言う。
「ただの偶然かわからないけどね。とりあえず俺は凛ちゃんが手伝っていた、保護猫センターに行ってこようと思う。何か手がかりがあるかもしれないし。もしかしたら、そのボランティアでイブと知り合ったのかも。」

 叔父さんは少し笑って言う。
「あんな黒づくめがボランティア活動してたら、だいぶ目立つけどな。」
 それもそうだ。
 じゃあ何故、イブは何処で凛ちゃんに近づいた?
 しかも須羽がわからない様な場所で。

 とりあえず今日はもう自宅に帰る事にした。腰の痛みが強くなってきたし、五反田ならすぐに行ける。

「ただいまー!」
 俺は玄関を開けて叫ぶと、里さんが奥からやってきた。
「恭弥さん、お帰りなさい。夕飯の支度できていますよ。」
 と言ってリビングにすすめる。
 リビングに行くと、奥からエプロン姿の流華がやってくる。

「あれ?流華家にいたの?てっきりデートかと思ってたよ。」

「違うわよ。恭弥ほら。どうぞ。」

そう言って流華は俺にほかほかのだし巻き卵を出してくる。
上手に巻けていて美味しそうだ。

「え?流華が作ったの?里さんじゃなくて?」
朝の失敗が相当悔しかったらしく、流華はだし巻き卵の練習をしたみたいだ。

1日でここまで仕上げるとは流石としか良いようがない。

「恭弥、早く食べてみて。」
流華が待ちきれなさそうに言う。
俺は言われた通りに、卵を口に運ぶ。
ふわふわして、優しい味付けが口の中に広がっていく。

いつも食べている里さんのだし巻き卵となんら変わらなかった。
「美味い!美味しいよ流華!里さんの卵焼き食べてるみたい!」
と俺が言うと、流華は子供みたいに。
「やった!」と言って喜ぶ。

流華は、全て自分のものにしてしまうんだなぁと、良く出来た卵焼きを眺めながら俺は思う。

この良く出来た卵焼きも好きだけど、俺は朝食べたスクランブルエッグの方が好きだった。

「どうしたの恭弥?」
「いや、朝流華が作ったスクランブルエッグ良かったなぁって。なんか焦げてて、苦くて。」
「あれ失敗作じゃない?なんであんなのが良かったの?」
「いや、流華が失敗したやつがなんか良かったなぁって。完璧じゃないやつが。」

俺がそう言うと流華は不思議そうに俺をみる。
「いや、このだし巻き卵も好きだけどね。」

流華が作ってくれたら俺はなんでも嬉しいのが事実だけど。

夕飯を食べてから、俺は流華に今日イブと会った話しをする。

「恭弥を見たら逃げたのね。恭弥につかまりたくない理由があったのかしら。」

「前から、俺がイブを探っている事バレてたと思うんだよ。真白とか他の子から聞いて、だから逃げたのかも。」

「なるほどね、、、。それで恭弥は明日、保護猫団体に話しを聞きに行くの?」

「流華も一緒にいかない?凛ちゃんの事何かわかるかも。」
俺が言うと、あっさり断られる。
「明日は、篠田さんの家に呼ばれてるの。無理だわ。」

なんだって!?家!?
展開早くないか?
「いや!家はだめだろ!まだ早い!」
「何が早いのよ。恭弥に関係ないじゃない。なんでも、麻布のマンションに住んでるらしくて、それが良いマンションらしいのよ。」

「そりゃ、良いマンションだろうね。でも行く事ないじゃん?まだ付き合って日も浅いし。」

付き合ってるんだから、家を行き来するなんて当たり前だとわかっていても、俺は許せなかった。
むしろ、付き合ってもいないのに、うちに流華が住んでる方が不自然な話しだけど。

「とにかく。誘われたから行ってくる。」
流華が俺の言う事なんてきくわけがない。
まあ、きく理由もないんだけど。

俺はとりあえず、流華の事は一旦忘れて、バイトの事だけに集中しようと思った。

そうじゃないと身がもたないと思った。
片思い相手が近くにいすぎるのも、考えものだ。

次の日俺は五反田へ行った。
保護猫譲渡会 ヘブンは、駅から歩いて5分くらいの駅側にあった。

小さいビルの2階にあって、俺は階段を登って、ヘブンと書かれたドアを開ける。

「こんにちは。」
と言って中に入ると、中には沢山の猫がいて皆んな思い思いに過ごしている。
ゲージに入っている猫も沢山いた。

そこへ、若い女性がやってきた。
「こんにちは。猫をお探しですか?」
とその女性は俺に聞いてくる。
「いえ、違うんです。最近まで友人がここでボランティアをしていて、下田凛ってご存知ですか?」

俺が聞くと女性は驚いた顔をする。
「知ってますよ。凛ちゃんはよくボランティアに来てくれてましたよ。凛ちゃんがどうかしましたか?」

「ちょっと行方がわからなくなっていて、探しているんです。こちらにはまだ来ていますか?」
俺が尋ねると女性は思いついた様に、
「そういえばここ1ヶ月くらい来ていないかも。以前はよく来て、猫の世話したりしてたんだけど、、、。」

と言う。やはり、ここにも来なくなっていたのか。
俺は一応井崎未来の写真を見せる。
「この子はここへ来た事ありますか?」
俺が聞くと、女性は首を振る。
「いいえ、見た事ないです。」
「凛ちゃん、何かあったんでしょうか?事件か何かに巻き込まれたとか?」
女性が心配そうに聞いてくる。

「まだ全然わからなくて、凛ちゃん最近、変わった様子なかったですか?」
女性は少し考えこむ。
「凛ちゃん最近、元気そうでした。前よりも明るかったし。なんかレベルが上がって嬉しいとか、ゲームの話しかと思っていたんですけど。」

レベル、、、?sweepの階級の事か?
階級が上がったからもうこなくなった、、、?

「凛ちゃん本当に猫が好きだったんですよ。1匹、1匹丁寧にお世話してね。愛情を持ってお世話してました。猫の仕事で生きていきたいって言ってたけど、両親に反対されてたみたいね。『そんな仕事じゃ食べていかれないから。』って。」

そうだったのか。凛ちゃんはきちんとやりたい事があったのだ。

「それを知った、篠田さんがここを凛ちゃんに紹介したみたいね。」

えっー?俺は突然出てきた知った名前に驚く。

篠田?


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