世界の終わりでキスをして

T

文字の大きさ
上 下
8 / 35

3

しおりを挟む
その後のBBQは、ショックであまり覚えていない。

何か豪勢な肉が出て、皆んな楽しそうにしていたが、俺の気分は最悪だった。


俺は篠田さんを眺める。
分け隔てなく、皆んなに優しく、尚且つ場を盛り上げて肉を焼いて配っている。

社長だからといって偉ぶる事もなく。周りからの信頼もあつい。

そりゃ女が皆んな篠田さんを好きになるのはわかる。
誰だって好きだろう。
嫌いなやつがいるか?

けれど、流華だぞ?
そんな、その他大勢の女が群がるような男を選ぶのか?

いや?流華だからこそ、そんなハイスペな男と付き合えるのか、、、?
考えていたら俺はよくわからなくなってきた。
食べてる肉の味さえもよくわからない。
しょっぱいんだか、辛いんだか、旨いんだか、まずいんだか、、、。

流華が、篠田さんの隣に行き何か楽しそうに話している。
あんな笑顔で俺に向かって話す事あるか?

客観的に見ても2人はよく似合っていた。
少なくても、俺よりは似合っているだろう。

俺は2人を見ながら、1人でもくもくと肉を食ってると、須羽がきた。

「お前、交流会なのに全然誰とも交流してないじゃん。」
「元から苦手なんだよ。こうゆうの。お前は良く知ってるだろ?俺は大勢でワイワイするタイプじゃない。」

須羽は少し笑っていう。
「そうだな。お前っていっつも1人でひたすら、数学解いてたイメージだよ。今数学やってないの?」

須羽が俺に聞いてくる。
「いや、まったく。」
「もったいねーな。あんだけ数学得意だったのに。大学も絶対理工学部行くと思ったのに行かないし。」
「あきたんだよ。数学に。」

小さい時から何故か、数学好きだった。
数字を見るだけで、ワクワクしたし、問題が解けた時の、パズルのピースがぱちっと収まる感覚が大好きだった。

けれど、いつからだろう。
数学を解く事が辛くなってきたのは。
上には、上がいる。
俺は、狭いカテゴリーの中では凄かったかもしれないが、所詮その辺のちょっとできるやつにしかなれないとわかってしまったのだ。

だから、潔くきっぱりと辞めたのだ。
才能がないとわかったから。

だからといって他にやりたい事もない。
ここにいる、皆んなみたいに高い志しもない。

「こんな俺が選ばれるわけないよな。」
俺は1人で呟く。

「え?なんだって?流華ちゃん、篠田さんと随分仲良くやってるけど、あれなんかフラグたってる?」

須羽がまた、俺が聞きたくもない事を言ってくる。

「フラグ立ち過ぎだろ!」

俺は叫ぶ。
須羽がびっくりして、俺を見る。
「須羽、悪いけど俺もう帰るわ。」

そう言って俺はBBQ会場を後にした。
本当に自分でも子供っぽいとわかっているが無理だった。
これ以上2人が仲良く話している姿を見ていられない。

俺は、そのまま家に帰る気にならず、叔父の事務所へ向かった。

別に用があるわけじゃなかったが、なんとなく足がむいたのだ。
ビルのエレベーターを上ると韓国人らしい女の子と鉢合わせた。

その、女の子は俺がエレベーターに乗っていると思っていなかったのか、驚いた顔をして、カタコトの日本語で
「こんにちは~。」
と言った。俺も一応「こんにちは。」
と言って、エレベーターを降りる。

あの韓国語教室、本当に韓国人がいるんだな。と変な事を思って事務所の扉を開ける。

「恭弥?あれ?今日バイトの日だっけ?」

と叔父さんは、書類から目を上げて俺に言ってくる。

「いや。違うけど、なんとなく暇だからきてみただけ。」
と言って、事務所のソファーに横になる。

「なんだよ?なんか、お前臭いな。」
「BBQしてたからね。」
「ああ、今日なんかゴミ拾いして、BBQするって言ってたな?流華ちゃんも一緒だったんだろ?いいな~大学生は暇そうで。」

俺は返事もせずに天井を眺める。

俺の様子が変な事に気づいたのか、叔父が冷蔵庫からコーヒーの缶を取り出して俺にくれる。
「ありがとう。」
俺が言うと、叔父が笑って
「バイト代から引いとくわ。」
と言う。
「せこいね。」
「当たり前だろ、新宿のこの一等地に部屋借りるのにいくらかかってると思ってんだよ。こっちは毎日ヒーヒーよ!」

確かに。俺には検討もつかない。
缶コーヒーを開けて俺は一口飲むと、小さいため息をつく。

「流華ちゃんと何かあったのかよ。」
と叔父が聞いてくる。
「別に。元から振られてるし、何も起こらないよ。その次元にすら俺はいない。」
「お前、本気で流華ちゃんの事好きなの?」

と叔父が聞いてくる。
本気って、本気じゃない恋なんかあるんだろうか、初めて渋谷駅で流華を見かけた時から、俺はずっと流華の事ばかり考えている。

本気じゃなければ、この気持ちは一体なんだって言うんだ。
「本気だよ。虫除けスプレーにしかなれなくても。」
そう言うと叔父は笑う。
「虫除けスプレーか!それはいいな!一応役にたってるんだ。」

一応は役に立ってる。絶対になきゃいけないレベルではないが。

「恭弥、彼女が好きなら絶対に離すな。どんな手を使ってでも、自分で彼女を手に入れるんだ。片思いするのは簡単だが、面倒なのは自分の意思で終わらす事が出来ない事だぞ。」

叔父さんが珍しく真面目なトーンで話してくる。

「最悪なのは、叶わない恋愛をいつまでも辞められない事、、、。」

このまま永遠に思いが叶わず、ずっとこんなに苦しい思いをしていくのか。
それはかなり辛そうだ。
「辛いな、、、。」

俺が言うと、叔父がいきなり俺の背中を叩く。
「よしっ!恋愛でもんもん悩んでる時は仕事するのに限るな!とりあえず迷い猫探しに行ってこい!」

「え?俺今日バイトの日じゃないから嫌なんだけど。」

「うるせー!タイムリミット過ぎてんだよ!早く黒猫のルナを見つけてこいよ!違う家で飼われちまうだろ!」

そう言って俺を事務所から追い出す。
なんて横暴なんだ。
甥がこんなに落ち込んでいるのに、、、。

俺は仕方なくまた猫を探し出す。
猫なんて縄張りの習性があるから、そんな遠くには行ってないはずなのに。

「ルナールナー」
俺は声を出して探す。
歌舞伎町で異様なやつだろう。
また聞き込みするしかないかなと思っていると、目の前を猫が歩いている。

茶色の猫だから、ルナではないが同じ縄張りならルナもいるかもしれない。
俺は土曜日の人出が多い歌舞伎町を猫を追いかけて走っていく。

俺は一体何やってんだ!!

そう思いながら猫を追う。
今この瞬間にも、流華と篠田さんの距離は近くなっているかもしれないのに!
猫なんて追いかけてる場合か!?

人混みで猫を追いかけてる奇妙な男を皆んなが振り返る。

そりゃあ不審者だよな。
茶色の猫がビルの中へと吸い込まれていく。
このビル、昨日見たビルか?
いつの間にかこんな所にこんなビルが建っていたのか?

猫を追いかけて行こうと思ったが、入り口にゲートの様なものがあり、パスがないと入れないようになっている。

まさか、こんな綺麗なビルの中に猫の縄張りがあるわけないしな。
と思って、戻ろうとしたら、そこに流華がいた。

「流華?」
俺が驚いて声をかけると、流華は怖い顔して俺に言う。

「恭弥、なんで声もかけずに先に帰るのよ、用があったのに!」
と怒っている。
「ご、ごめん、、、。」
とりあえず俺はまた謝る。
あのまま、篠田さんと一緒にいるのかと思っていた。
「携帯に連絡しても出ないから、わざわざ事務所にまで行ったのよ!
そしたら健一さんがルナ探しに行ったっていうから、この辺にいるのかと思ってきたのよ。」


俺は段々嬉しさが込み上げてきた。
「お、俺に会うためにわざわざ?」
「そうよ、大事な用事があるのよ。」
「それって、、、。」
俺は流華を見つめる。

「恭弥の家泊めてくれない?」
えっ、、、?
泊まる?うちに?
流華が?
どう言う事だ?
それって、もしかして俺のこと、、、。



「水漏れしたの。」
え?
「み、水漏れ?」
「そう。私のマンション、水漏れして水びたし。直すのに時間かかるんだって。行く所ないから、しばらく恭弥の家に行くから。」

えー、、、。なんだよそれ!
「いや、でもうち実家だぜ?自分の実家戻ったら?」
「うちの実家遠いから無理。だから頼んでる。」

「だからって、、、。いや、俺親父と2人暮らしだし、流石に女の子を家に泊めるのは賛成しないと思うけど。女友達に頼んだら?」

、、、友達作らない主義って言ってたから、女友達いないのか、、、。
流華が俺を睨みつける。
「あのさあ。それを説得するの!良いの?私が篠田さんの家に行っても!」

「いや、いや!それは無理!絶対にやだ!」
「じゃあ、お父さんに頼むしかないわね。」
流華がにやりと笑う。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】婚約破棄されたから静かに過ごしたかったけど無理でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,551pt お気に入り:728

聖女の秘密

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:7

【本編完結】旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,249pt お気に入り:6,830

本当に愛しているのは姉じゃなく私でしたっ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,838pt お気に入り:155

灰かぶり侍女とガラスの靴。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:32

【完結】三角関係はしんどい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:16

天使がくれた恋するスティック

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:3

処理中です...