91 / 92
3
しおりを挟む
まったく一緒だった…
あの日と一緒…
一彩の顔に次々と車のライトが当たって通り過ぎて行く。
私は、一彩の顔を見つめる。
「話しって何?」
私は覚悟を決めた。
一彩からどんな言葉が出てくるか、想像できなかったから。
一彩はいつもと違う真剣な顔で私を見つめる。
そして一彩が話しだした。
「瑞稀俺、無精子症だった。」
えっ?………無精子症?
私は一彩の突然の言葉にびっくりして、よく理解できなかった。
「それって、つまり、、、。」
「男性不妊って事だよ。」
男性不妊……。
私は何も言えず、ただ一彩の次の言葉を待った。
「俺の親父も、男性不妊だったらしいんだ。
お袋が俺を産んでから、兄弟を作りたいねって話しになったんだけど、なかなか出来なくて調べたら、お袋じゃなくて、親父に問題があったらしい。
だから、妹二人は不妊治療してやっとできたんだよ。」
だから、一彩は妹達と年齢がだいぶあいていたのか……。
「正直に話すと、今日瑞稀にプロポーズしようとずっと考えてたんだ。
でも、親父の話しも聞いてたから、なんとなく気になって、男性不妊の検査をしてみようと思って病院に行ってきた。」
「それで、わかったの…?」
「あぁ。無精子症って言われた、子供を授かれる確率はゼロに近いって。一応、治療や色々な方法はあるけど、女性側の負担が大きい治療が多いって…」
そんな事…。
一彩がなんで…。
私は強い衝撃を受けて、なんて言ったらいいか言葉が出てこなかった。
もしかして、一彩はだから私を…?
「俺は、瑞稀が子供を好きな事をよくわかってるつもりだよ。
だから幼稚園の先生にもなって、当然自分の子を望んでいるだろ?
って言うか、大半の人間がそうだと思う。
でも、俺と結婚したらその夢は叶えられない。」
一彩が辛そうな顔で私を見つめる。
この告白をするのに、一彩はどれだけの勇気がいったのだろうか。
「だから、本当は瑞稀と何も言わずに別れようって思ってた。
他に好きな人ができたとか、適当に嘘ついて瑞稀と別れれば、瑞稀も他の人と幸せになれるだろうって考えてた。」
だから、一彩は私をあの日振ったの?
私を嫌いになったわけでも、他に好きな人ができたからでもなかったの?
私の幸せの為に別れを告げたって事?
「いつ…いつから知ってたの?
自分が病気だって…。」
私は自然と目に涙が溢れてくる。
「夏くらいに、検査うけたから三ヶ月前くらいかな…。」
一彩が悲しそうな顔で言う。
そんな前から知っていて、今まで一人で悩んでいたの?
そんな辛い気持ちを抱えて、私と普段通りに付き合っていたの?
私は自分の将来の事ばかり考えて、目の前の一彩が苦しんでいる事に全然気づいてあげられていなかった…。
一彩はあの日、一体どんな気持ちで私に別れを告げたの?
あの日の一彩の辛そうな顔が頭に浮かぶ。
私は涙が止められなかった。
自分の事ばかり考えて、辛いと泣いていた自分が心底嫌になってしまう。
一彩はいつでも、私の事を一番に考えてくれているのに…。
「瑞稀、ごめん。
俺、結局瑞稀を何度も諦めようとしたけど、やっぱり無理だった。
諦めきれなかった。
俺の我儘でしかない事はわかってるけど、
俺はこれからも、どうしても瑞稀の誕生日を毎年一緒にお祝いしたい。
だから、プロポーズさせて下さい。」
一彩がポケットから、小さな箱を取り出して、ふたを開ける。
そこには、きらきらと指輪が輝いていた。
「立花 瑞稀さん。俺と結婚して下さい。」
『今度はあなたが選ぶ番ですよ。
彼と別れるか、別れないか。』
マスターの言葉が頭に浮かぶ。
マスターが言っていたのはこの事だったのか。
私は、何が正解で何が間違っているかわからなかった。
だって、答えはいつも今にはなくて未来にしかないから。
正しい答えなんてわからなくて当然だ。
でも、唯一今わかるのは、私が今一番大切な人は一彩だって事だ。
一彩と人生を歩んでいきたい。
ただそれだけが、私の望みだ…。
私は、指輪を受け取る。
「私も、一彩と結婚したいです。」
私がそう言ったその瞬間、一彩の目に涙が溢れた。
そして、崩れ落ちるようにうずくまった。
私は、その一彩を上から優しく抱きしめた。
「瑞稀、本当にいいの?子供作れないかもしれないんだぜ?よく考えて、返事はいつでもいいから。」
一彩が私に言う。
でも、よく考えた所で、私の気持ちは変わらないだろう。
だって、知ってしまったから。
私は知ってしまった、一彩を失う辛さも、過去に戻って、どれだけ一彩が私の事を愛してくれて、支えてくれたかも。
私は、一彩を捨てる選択なんて絶対に出来ない。
この恋を、捨てる事も諦める事も絶対に出来ない。
「一彩、一人で悩ませてごめんね。
辛かったよね…これからは二人で考えよう。
私達夫婦になるんだから、良い方法がないか二人で一緒に考えていこうよ。」
一彩が私を抱きしめた。
私は、一彩に強く抱きしめられて、苦しいくらいだった。
今日は私が望んでいた、最高の誕生日だ。
最低最悪な日が、人生で一番幸せな日になった。
「一彩。記念に写真撮ろうよ!プロポーズ記念!」
「え?今?俺泣いて顔面最悪だけど。」
「大丈夫だよ!ほら撮ろうよ!」
私は携帯でシャッターをきる。
その瞬間、また意識が遠のいていった──
あの日と一緒…
一彩の顔に次々と車のライトが当たって通り過ぎて行く。
私は、一彩の顔を見つめる。
「話しって何?」
私は覚悟を決めた。
一彩からどんな言葉が出てくるか、想像できなかったから。
一彩はいつもと違う真剣な顔で私を見つめる。
そして一彩が話しだした。
「瑞稀俺、無精子症だった。」
えっ?………無精子症?
私は一彩の突然の言葉にびっくりして、よく理解できなかった。
「それって、つまり、、、。」
「男性不妊って事だよ。」
男性不妊……。
私は何も言えず、ただ一彩の次の言葉を待った。
「俺の親父も、男性不妊だったらしいんだ。
お袋が俺を産んでから、兄弟を作りたいねって話しになったんだけど、なかなか出来なくて調べたら、お袋じゃなくて、親父に問題があったらしい。
だから、妹二人は不妊治療してやっとできたんだよ。」
だから、一彩は妹達と年齢がだいぶあいていたのか……。
「正直に話すと、今日瑞稀にプロポーズしようとずっと考えてたんだ。
でも、親父の話しも聞いてたから、なんとなく気になって、男性不妊の検査をしてみようと思って病院に行ってきた。」
「それで、わかったの…?」
「あぁ。無精子症って言われた、子供を授かれる確率はゼロに近いって。一応、治療や色々な方法はあるけど、女性側の負担が大きい治療が多いって…」
そんな事…。
一彩がなんで…。
私は強い衝撃を受けて、なんて言ったらいいか言葉が出てこなかった。
もしかして、一彩はだから私を…?
「俺は、瑞稀が子供を好きな事をよくわかってるつもりだよ。
だから幼稚園の先生にもなって、当然自分の子を望んでいるだろ?
って言うか、大半の人間がそうだと思う。
でも、俺と結婚したらその夢は叶えられない。」
一彩が辛そうな顔で私を見つめる。
この告白をするのに、一彩はどれだけの勇気がいったのだろうか。
「だから、本当は瑞稀と何も言わずに別れようって思ってた。
他に好きな人ができたとか、適当に嘘ついて瑞稀と別れれば、瑞稀も他の人と幸せになれるだろうって考えてた。」
だから、一彩は私をあの日振ったの?
私を嫌いになったわけでも、他に好きな人ができたからでもなかったの?
私の幸せの為に別れを告げたって事?
「いつ…いつから知ってたの?
自分が病気だって…。」
私は自然と目に涙が溢れてくる。
「夏くらいに、検査うけたから三ヶ月前くらいかな…。」
一彩が悲しそうな顔で言う。
そんな前から知っていて、今まで一人で悩んでいたの?
そんな辛い気持ちを抱えて、私と普段通りに付き合っていたの?
私は自分の将来の事ばかり考えて、目の前の一彩が苦しんでいる事に全然気づいてあげられていなかった…。
一彩はあの日、一体どんな気持ちで私に別れを告げたの?
あの日の一彩の辛そうな顔が頭に浮かぶ。
私は涙が止められなかった。
自分の事ばかり考えて、辛いと泣いていた自分が心底嫌になってしまう。
一彩はいつでも、私の事を一番に考えてくれているのに…。
「瑞稀、ごめん。
俺、結局瑞稀を何度も諦めようとしたけど、やっぱり無理だった。
諦めきれなかった。
俺の我儘でしかない事はわかってるけど、
俺はこれからも、どうしても瑞稀の誕生日を毎年一緒にお祝いしたい。
だから、プロポーズさせて下さい。」
一彩がポケットから、小さな箱を取り出して、ふたを開ける。
そこには、きらきらと指輪が輝いていた。
「立花 瑞稀さん。俺と結婚して下さい。」
『今度はあなたが選ぶ番ですよ。
彼と別れるか、別れないか。』
マスターの言葉が頭に浮かぶ。
マスターが言っていたのはこの事だったのか。
私は、何が正解で何が間違っているかわからなかった。
だって、答えはいつも今にはなくて未来にしかないから。
正しい答えなんてわからなくて当然だ。
でも、唯一今わかるのは、私が今一番大切な人は一彩だって事だ。
一彩と人生を歩んでいきたい。
ただそれだけが、私の望みだ…。
私は、指輪を受け取る。
「私も、一彩と結婚したいです。」
私がそう言ったその瞬間、一彩の目に涙が溢れた。
そして、崩れ落ちるようにうずくまった。
私は、その一彩を上から優しく抱きしめた。
「瑞稀、本当にいいの?子供作れないかもしれないんだぜ?よく考えて、返事はいつでもいいから。」
一彩が私に言う。
でも、よく考えた所で、私の気持ちは変わらないだろう。
だって、知ってしまったから。
私は知ってしまった、一彩を失う辛さも、過去に戻って、どれだけ一彩が私の事を愛してくれて、支えてくれたかも。
私は、一彩を捨てる選択なんて絶対に出来ない。
この恋を、捨てる事も諦める事も絶対に出来ない。
「一彩、一人で悩ませてごめんね。
辛かったよね…これからは二人で考えよう。
私達夫婦になるんだから、良い方法がないか二人で一緒に考えていこうよ。」
一彩が私を抱きしめた。
私は、一彩に強く抱きしめられて、苦しいくらいだった。
今日は私が望んでいた、最高の誕生日だ。
最低最悪な日が、人生で一番幸せな日になった。
「一彩。記念に写真撮ろうよ!プロポーズ記念!」
「え?今?俺泣いて顔面最悪だけど。」
「大丈夫だよ!ほら撮ろうよ!」
私は携帯でシャッターをきる。
その瞬間、また意識が遠のいていった──
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
出来立てダンジョンに入ったら道具が擬人化しだした~後に見つけたマジカルスパイスで最強へ
夜行回
ファンタジー
冒険者に憧れていた悠人と仲間たちが悲劇教団と戦うファンタジー。
悠人は妹の足を治す冒険を始め、リュセラや凛音らと奇妙なダンジョンに挑む。ダンジョンでは魔法や擬人化した物体が登場します。
へんてこな彼らに辟易する悠人達、だが100均と調味料が大好きな悠人、トライ狂いの凛音、道具が絡むと情けないリュセラ達も大概ですよ。
人生の最高のスパイスは悲劇なんかじゃない。喜びというスパイスを足そう。
それはそれとして掛けすぎだと思うなー。
体調の都合で途中から文字数が減少しますが、ご心配なく。まだ飲めます。
更新を2日に一度にします。もう一つ小説を書くための準備です。
この作品も他作と交互に進めるようにします。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる