晴れのち智くん

豪雨

2(！)

放課後、
統万は自身の思惑を叶えるため、智が帰路に着くのを待ってから教室を出た。

智にバレないように一定の距離をとって歩き尾行する。

人目の少ない場所に差し掛かった所で、統万は一気に智との距離を詰め、ガッチリと肩を掴み話しかける。

「とーもくん。」

「ひっ？！！」

智は急に肩を掴まれ悲鳴をあげた。
振り返り統万を視認すると、みるみる顔が青ざめていく。

「な、なんで、綾野がここに…っ？」

智の瞳には怯え、唇を震わせている。

(あー。その可愛い口で、多田のきったねぇチンコ咥えたんだ…。ムカつく。)

そんな怒りを悟られないように、統万はニコリと笑顔を作った。

「昨日は俺、無神経だったみたいでゴメンね？でも、どうしても智くんに話したいことがあってさ。これ、多田から画像回ってきたんだけど…」

そう言って統万は智にスマホの画面を見せる。
昼間、トイレでパンツを取り上げられた時の写真だ。

「…！」

智は瞬時に顔を赤くし、統万の方を勢いよく見ると何か言いたげに口を開きかけたが、何も言わずに口を噤んでしまった。
統万は気にせず続ける。

「これ、智くんだよね？かなり虐められてるじゃん…。なんで言ってくれないの？俺、今からでも多田に写真消すように言おうか？イジメも、俺が言えば止まると思うよ？」

統万は出来るだけ心配するふうを装って話した。

統万は、自己採点満点の演技力に、
これで智も、統万に八つ当たりし無視した事を後悔し、心を開いてくれるだろうと思った。

しかし智の表情は、統万の予想と違い険しいものだった。

「気持ち悪いっ！」

「………。えっ？」

何を言われたのか理解できないでいる統万に、智は追い打ちをかけるように口を開く。

「何がしたいのお前？！特に仲良くもないお前に、何で、実は虐められてます。って言わなきゃいけないのっ？
てか、イジメから助けたいって思ってんなら、わざわざ俺に聞かずに勝手に行動すればいいじゃん！恩着せがましいんだよ！！しかも、こんな所まで付いてきて、ストーカーかよ！？キモイんだよ！！」

智に息継ぎなしで思いの丈をぶちまけられ、統万は何かプチッと糸の切れるような音がした。

次の瞬間、統万は智の頬をグーで殴っていた。


ゴッ
と骨と骨がぶつかる様な鈍い音と共に、智が「い゛っ？！」とくぐもった声をあげ地面に倒れる。

「あっ、ごめんね智くん。思わず…。でもお前が悪い。智くんが悪い智くんが悪い。」

智は頬を押さえ、恐怖に振るえながら狂ったように呟く統万を見上げた。

(あー、あの漫画…。好きなのに殴っちゃうってこんな理由だったのかな。)

統万は、あの日見たBL漫画の2つ目の話をボンヤリと思い出していた。

「あーーーあー。俺、智くんの優しい王子様になりたかったのに…。智くんが、意地悪な多田の言う事は聞くくせに、俺には冷たくするから…。俺も多田みたいにするしかないじゃん。」

「っ…だ、誰か、たすけ、ぐぇ゛っ？！」

統万のお気持ち表明中にも関わらず、助けを求めようとする智の横腹を蹴りあげた。

「やめてよ智くん。智くんのお家行こっか。どうせ誰もいないでしょ？」

智は一人っ子で父親は単身赴任中。母親も仕事で遅くまで帰ってこない。
全部、本田がまなみにベッドの中で教えてくれた情報だ。

統万は智を無理やり立ち上がらせる。
しかし、智が足を動かさないので中々前に進めなかった。
統万は諦めてスマホの画面を智に向けた。

「な？！なんっで…」

智のフェラ動画だ。

「これで脅されて多田の言うこと聞いてるんでしょ？俺も持ってるんだから、俺の言うことも聞いてよ。智くんのお家。連れてってくれるよね？」

「っ…。…は、い。」

智が諦めて頷くと、統万は智の指に手を絡め繋いで智の家へ向かった。