拾って下さい。

織月せつな

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魔獣から勾玉以外のものを奪えるのでしょうか?

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 私が泣いてしまった後、ダンディさんがホットミルクを用意して下さいました。
 落ち着いた頃合いを見計らって、話が再開されます。気遣って下さって、日を改めることを提案されたのですが、私だって色々お話を聞きたかったので続行を希望したのです。
 続いては回復薬の材料とされる「魔物の心臓」についてでした。
 魔物……魔獣は倒されると何故か勾玉に変化してしまいます。ドロップアイテムのようでしたから、この世界がゲームのようだという印象を強くさせたものですが、果たしてそれ以外のものを手にいれることは可能なのでしょうか。
 それとも「塔に封印された魔物の心臓」ということで、魔物から奪えるのではなく心臓そのものが封印されているという解釈になるのでしょうか?

「カナルの解釈でも、回復薬の材料としては難題過ぎないかな。それだけ貴重なものなら、宝箱に回復薬そのものが入っていたのは……ちょっと考えにくい」
「そうだねぇ。おじさんは話を聞いただけだから分からないけど、材料がとんでもない代物のわりに、下層階の宝箱に回復薬そのものがあるなんてのは、大盤振る舞いにも程があるってものだよねぇ」

 確かにダンディさんの言う通りです。
 材料だけ手に入るというのであれば考えられますが、完成品が何の罠もなく開けられる宝箱に入っていたのですから、材料の方が入手不可能といった状態にするのは謎です。
 それとも、最初に攻略開始の初回特典といったところなのでしょうか。手に入るのは今のうちだけで、何階層かから入手困難な状況になるとか……というのは、有り得ますでしょうか?
 
「それは不味いな」

 !?

「カナル。頭の中で考えてるだけのつもりだったんだろうけど、駄々漏れだったよ」

 私の思考に答えるようなダンディさんの言葉に、心臓が跳ね上がるくらいに驚いた私ですが、クスクス笑いながらドラクロワさんがそう教えて下さいました。
 駄々漏れだなんて恥ずかしいです。
 内容には問題ない筈ですが、言葉の雰囲気的に。

「不味いって、どうしてですか?」
「いやぁ、だってね。おじさん、シリルから貰った回復薬、全部使っちゃったから。もしもお嬢ちゃんの言うように最初にしか手に入らないようなものだったとしたら、そろそろ品薄になりそうじゃない」
「まだ三階層くらいだけれど、そこでサービス終了とかなってたら、確かに不味いかな。だいたい、おっさんが『のどごし』とか余計なことに興味示すから――」
「だって大事だよね? のどごし」
「ええと……」

 同意を促されて困ってしまいました。大事かもしれませんが、そもそものどごしを確認出来るような量ではなかったような……。というよりも。

「ダンディさん、あれを飲んじゃったんですか?」
「うん。おじさんにはちょうどいい味だったよ」
「……」

 ちょうどいい味とは?
 いえいえそれより、賞味期限とか大丈夫だったんでしょうか。

「ほら。カナルだって俺と同じ反応だよ。あんなの好んで自ら飲んじゃうなんて、普通じゃ考えられないからな」

 ああ、ドラクロワさんもさすがにそれはないと思ったのですね。ちょっと安心しました。
 
「だってほら、おじさん研究者だから。必要な犠牲だよ。尊いことだよ?」
「はぁ。自分で言うかな、それ。――話を戻していい?」

 呆れ顔のドラクロワさんが、そこでまた、今度は私の斜め前で屈んで目線を合わせました。とても近いです。

「塔にいる魔獣に限られているのかどうか分からないから、一先ず『外』の魔獣で兄……シャルルたちに確認して貰っているところなんだ。その結果次第では塔の攻略を進めながら、魔獣から勾玉以外のものを獲得する方法を調査するということになる」
「……はい」
「その際に、このおっさんを連れて行くから、人選が限られている上に少なくなってしまうんだけど――それでもカナルは一緒に来てくれる?」

 ダンディさんの立場って、そんなに危険なものなのでしょうか? 人を選ばなければならないなんて相当なものだと思うのですが、私には分からない事情があるのでしょう。

「勿論です。私で良ければ連れて行って下さい!」

 ぐっと拳を握り締めて言いますと、ドラクロワさんは笑いを堪えるような眼差しで私を見つめながら、頭を撫でてくれます。
 小さい子に対するもののようですが、とても心地よくて、頬がゆるんでしまうのを止めることは叶いませんでした。
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