拾って下さい。

織月せつな

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「……」

 カステラさんからの方向を受けて、ロロさんが考え込むように黙ってしまいました。
 第二階層の攻略が終わり、塔の前……第一階層の入り口近くにいたロロさんに、色の違うポーションを渡しているので、それを手にしたままで身動き一つしません。
 黒い鎧さんはただの鎧さんになって、中身のロロさん――ドラクロワさんは何処かに行ってしまったのではないかと思ってしまった程、長い沈黙でした。
 フォーレさんが何度か呼び掛けましたが、短い返事すらなかったのですから、不安になったのは私だけではありません。

「カナル」
「はいっ」

 唐突に名を呼ばれました。私はピシリと背筋を伸ばし、返事をします。

「本当に、その盾がスケルトンに回復をかけろと言って来たのか?」
「うっ……」

 それは、カステラさんたちが敢えて訊かないようにして下さっていたことでした。
 すぐ隣から突き刺さるような視線を感じます。マルクくんです。

「ギルマス、それは――」
「大事なことだ。明確にしておかなければならない」

 カチン、と小ビン同士がロロさんの手の中でぶつかる音がしました。

「おかしいと思ったことはないか?」

 言い淀む私に、ロロさんは別の形から回り込もうとしたのでしょうか、そのように皆さんを含めて訊ねます。

「数ある遺跡の名前を耳にしたことくらいはあるだろう? この『剣闘士の塔』以外に『射手しゃしゅの庭園』『武闘家の要塞』『魔術師の砦』というものを」

 言われて、皆さんが頷く気配がありましたが、私は初耳です。

「それらが何故遺跡なのか。何の為に存在し、何故そのような名称が定着しているのか。それらの記録が何処かに残されていなければおかしいというのに、何処にもないのだ」
「国家機密的なものでは?」
「何故機密にしなければならない? 隠したいならば、遺跡の名も伏せるべきだった。だが、こうして衆知のものとなっている」
「遺跡の調査も禁じられてはいませんでしたよね? 魔獣が増えたことで頓挫したというくらいで」
「ああ。だが、調査に入った者たちの話に、中がダンジョンになっていたといったものはなかった。ダンジョンとして機能する前の不思議な空間のことすらも、報告されていない」
「……」

 ちょっと難しい話をされているようです。
 この世界が歪であると、ロロさんも気付いていたのでしょうか。

「ブラッディアウルとの戦闘が、或いはその鍵であったとしよう。調査隊は被害者を出すことで、その存在の恐ろしさを知るところとなり、以降、戦闘ギルド員も迂闊には近寄らなくなった。塔から魔獣が出てくるようにならなければ、それは今も続いていただろう」
「他に何か鍵になることがあったとでも? 塔の一部が崩れたのがそうなんですか?」

 レオくんの言葉にロロさんが頭を振り、私を見下ろします。そして。

「もう一つの鍵が……カナル、お前なのではないかと、俺は考えている」
「えっ……?」

 あまりにも思いがけない言葉に、頭の中が真っ白になります。
 だって私は、自分の世界で死んでしまって……それでここに来たのです。そもそもこの世界で存在しているのはおかしいくらいなのです。それが鍵になんて、なる筈がありません。

「カナルが、鍵……?」

 フォーレさんたちの視線が真っ直ぐにこちらに向けられました。
 私は混乱し、視線に対する緊張もあってか、その場に座り込んでしまいました。
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