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遺跡
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出現したブラッディアウルが、遺跡付近に現れるというものと一致するのか、数はあれで全てだったのか、といった点については疑問に思うところですが、あれから数時間が経過したお昼前。私たちは遺跡の前におりました。
「剣闘士の塔」というだけあって、立派な塔です。
塔なんです。……高いです。
雨によって崩れたのは、塔の背後にある斜面が地滑りを起こしたのが原因のようでした。
塔の先も森は続いているようですが、塔の半分くらいの高さを登る斜面があるのです。
二階部分まで土砂が入り込んでいるようでした。木が折り重なっている為、撤去は難しそうです。撤去すれば倒壊する恐れもありました。
階層は塔の外側に螺旋状に伸びた階段の途中途中にある、内部への入口の数で分かりました。十五階です。
しかし、不思議です。この塔、灯台か何かのように細いのです。
私が思う試練の塔のようなものは、大きさは判然としませんが(外観描写も比較するものが描かれてないか、マップ上にキャラクターと同じ大きさで映っているようなものしか知らないので)こういうものなのでしょうか。
「崩れている場所を調べる者と、上に行く者とに分かれよう」
「ならばロロは下だな」
「え」
「えっ?」
遺跡の調査には六人で来ていました。残りの六人は、いつも通りの周辺警戒にあたっています。
ロロさんが六人の中から上に行く人と下に残る人の選出をする前に、ジネットさんが先回りして言い、私は思わず聞き返してしまいました。
ロロさんの方も、ジネットさんの意見とは違っていたのか、不意を突かれたような声を漏らしてしまいます。
「何か不都合があるか? 上に行くのは私とオーバン。そしてカナルだ」
ああ、やっぱりロロさんと一緒にはいられないのですね。
盾役はロロさん以外では私しかおりませんから、一緒でないことは仕方ありませんが、上に行くということに躊躇いがありました。
何故なら、一応盾役でありながら、それらしく働けたことがないからです。
確かに盾さんのスキルで、反射以外のものを重ね掛け出来ることは分かりましたが、盾役といえば、こちらに敵の注意を引き付けて攻撃して貰う……攻撃を一手に引き受ける……といったものではなかったでしょうか。
私、それが出来ません。
まだやったことがないのです。
そんな私がノコノコと上階までお供して良いものでしょうか?
「カナルにはまだ早い。行くなら俺が」
「だが、その重装備で上がるのは無理だ。崩れたらどうする?」
「しかしだな」
「ここで一番軽いカナルを連れて行かない方が悪手だろう」
「それはそうかもしれんが」
ロロさんが圧されています。
確かキアラさんにもこのような状態になったことがありました。私がギルドで初めてステイタスを見た日のことです。
他にもこういった場面を目撃されているのか、皆さん面白がるように眺めていました。
「大丈夫だ。カナルは私が守る」
はい。もう私、盾役として同行させて貰える訳ではないようです。
「団長、男前!」
「誰が男前だ、馬鹿者」
ジネットさんが団長をつとめている『至誠団』の方でしょうか。茶化したように言うものですから、怒られてしまいました。ですが怒られても笑っていて、反省した様子はありません。こんなやり取りもいつものことなのかもしれません。
結局はロロさんが折れたので、私は上に行くことが決定しました。
「行ってきます」
「ああ。中で何があるか分からん。無理だと思ったらすぐにジネットに言え。下手に意地を張ろうとするなよ?」
「はいっ」
上がる前にロロさんに一言挨拶を。
そしてジネットさんとカステラさんの元に行きますと、いよいよ出発です。
「何だかあんたたちは師弟関係というか、兄妹のようだな」
「兄妹、ですか?」
カステラさんの言葉に、私は振り向きながら小首を傾げました。
階段を上っているのですが、順番はジネットさんを先頭にして、私、カステラさんと続きます。
「実際、そうであっても無理はない年齢差だからな。少し離れている分、余計に可愛がる傾向にありそうだ。私も十分カナルの姉になれるぞ」
「ジネットさんがお姉さん、ですか」
「何だ。不満か?」
「とんでもないです! 綺麗なお姉さんとお兄さんが出来るのは嬉しいです」
ジネットさんの声に、前に向き直って答えますと、ジネットさんがピタリと足を止めました。三階入口の手前です。
「カナル。お前はロロの顔を見たことがあるのか?」
「はうっ」
私、何か口にしてはいけないことをしてしまったようです。
「あ、あの、それは……」
「雑談終わらせてくれないかな。俺が振っておいてなんだけど、三階に着いてるから」
「ああ、そうだな」
カステラさんのお陰で、ロロさんの正体について、これ以上触れてしまうことを回避出来ました。
声にしたら怪しまれてしまいそうなので、心の中でお礼を言っておきます。ありがとうございます。
「入るぞ」
辺りを警戒しながら足を踏み入れたジネットさんに続いた私は、外から見た塔の印象と内部の構造が、まるで違っていたことに驚かされました。
「剣闘士の塔」というだけあって、立派な塔です。
塔なんです。……高いです。
雨によって崩れたのは、塔の背後にある斜面が地滑りを起こしたのが原因のようでした。
塔の先も森は続いているようですが、塔の半分くらいの高さを登る斜面があるのです。
二階部分まで土砂が入り込んでいるようでした。木が折り重なっている為、撤去は難しそうです。撤去すれば倒壊する恐れもありました。
階層は塔の外側に螺旋状に伸びた階段の途中途中にある、内部への入口の数で分かりました。十五階です。
しかし、不思議です。この塔、灯台か何かのように細いのです。
私が思う試練の塔のようなものは、大きさは判然としませんが(外観描写も比較するものが描かれてないか、マップ上にキャラクターと同じ大きさで映っているようなものしか知らないので)こういうものなのでしょうか。
「崩れている場所を調べる者と、上に行く者とに分かれよう」
「ならばロロは下だな」
「え」
「えっ?」
遺跡の調査には六人で来ていました。残りの六人は、いつも通りの周辺警戒にあたっています。
ロロさんが六人の中から上に行く人と下に残る人の選出をする前に、ジネットさんが先回りして言い、私は思わず聞き返してしまいました。
ロロさんの方も、ジネットさんの意見とは違っていたのか、不意を突かれたような声を漏らしてしまいます。
「何か不都合があるか? 上に行くのは私とオーバン。そしてカナルだ」
ああ、やっぱりロロさんと一緒にはいられないのですね。
盾役はロロさん以外では私しかおりませんから、一緒でないことは仕方ありませんが、上に行くということに躊躇いがありました。
何故なら、一応盾役でありながら、それらしく働けたことがないからです。
確かに盾さんのスキルで、反射以外のものを重ね掛け出来ることは分かりましたが、盾役といえば、こちらに敵の注意を引き付けて攻撃して貰う……攻撃を一手に引き受ける……といったものではなかったでしょうか。
私、それが出来ません。
まだやったことがないのです。
そんな私がノコノコと上階までお供して良いものでしょうか?
「カナルにはまだ早い。行くなら俺が」
「だが、その重装備で上がるのは無理だ。崩れたらどうする?」
「しかしだな」
「ここで一番軽いカナルを連れて行かない方が悪手だろう」
「それはそうかもしれんが」
ロロさんが圧されています。
確かキアラさんにもこのような状態になったことがありました。私がギルドで初めてステイタスを見た日のことです。
他にもこういった場面を目撃されているのか、皆さん面白がるように眺めていました。
「大丈夫だ。カナルは私が守る」
はい。もう私、盾役として同行させて貰える訳ではないようです。
「団長、男前!」
「誰が男前だ、馬鹿者」
ジネットさんが団長をつとめている『至誠団』の方でしょうか。茶化したように言うものですから、怒られてしまいました。ですが怒られても笑っていて、反省した様子はありません。こんなやり取りもいつものことなのかもしれません。
結局はロロさんが折れたので、私は上に行くことが決定しました。
「行ってきます」
「ああ。中で何があるか分からん。無理だと思ったらすぐにジネットに言え。下手に意地を張ろうとするなよ?」
「はいっ」
上がる前にロロさんに一言挨拶を。
そしてジネットさんとカステラさんの元に行きますと、いよいよ出発です。
「何だかあんたたちは師弟関係というか、兄妹のようだな」
「兄妹、ですか?」
カステラさんの言葉に、私は振り向きながら小首を傾げました。
階段を上っているのですが、順番はジネットさんを先頭にして、私、カステラさんと続きます。
「実際、そうであっても無理はない年齢差だからな。少し離れている分、余計に可愛がる傾向にありそうだ。私も十分カナルの姉になれるぞ」
「ジネットさんがお姉さん、ですか」
「何だ。不満か?」
「とんでもないです! 綺麗なお姉さんとお兄さんが出来るのは嬉しいです」
ジネットさんの声に、前に向き直って答えますと、ジネットさんがピタリと足を止めました。三階入口の手前です。
「カナル。お前はロロの顔を見たことがあるのか?」
「はうっ」
私、何か口にしてはいけないことをしてしまったようです。
「あ、あの、それは……」
「雑談終わらせてくれないかな。俺が振っておいてなんだけど、三階に着いてるから」
「ああ、そうだな」
カステラさんのお陰で、ロロさんの正体について、これ以上触れてしまうことを回避出来ました。
声にしたら怪しまれてしまいそうなので、心の中でお礼を言っておきます。ありがとうございます。
「入るぞ」
辺りを警戒しながら足を踏み入れたジネットさんに続いた私は、外から見た塔の印象と内部の構造が、まるで違っていたことに驚かされました。
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