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穏やかな夜
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皆さんの前では「ロロ」で通すようにと言われましたので、鎧さんの姿の間はそうしておこうと思います。
ロロさんがシャルル=ドラクロワさんの弟さん。ということを知っているのは一部の方だけらしいのです。うっかり呼んでしまっては、名前を変え、姿を隠し、倒れてしまうまでに魔力を酷使させても、スキルを使い続けている意味がありません。
責任重大です。
こちらで休まれる方々が戻って参りました。
テントでは、頑張っても六人が限界だと思ったのですが、男女合わせて十人います。
栄養補助食品を義務的に口に運び、水浴びをしてからお休みに入る方々を見ておりますと、入る人数に合わせてテントが大きくなっていくのが分かりました。
十二~三人辺りまでは横になれるそうです。
ジネットさんは、私が夜の見張りとなることに反対だったようですが、ロロさんが一緒だと分かると折れたようでした。
私はロロさんには休んでいて欲しかったので、反対したかったのですが、魔物の襲撃を感知したら知らせるだけでいいとしても、一人では不安です。
もしも眠ってしまったら。
もしも気配を感知出来ずに、皆さんの休むテントを襲撃されてしまったら。
そう考えると無責任なことは言えません。
「カナル。疲れたら声を掛けてくれ。いつでも私が代わろう」
「ありがとうございます」
ジネットさんの心遣いに感謝しますが、代わっていただくつもりはありません。
「……食べるか?」
皆さんが休まれた後、焚き火を背にして目を凝らしながら辺りを見渡しておりますと、組んだ木の上に腰を下ろしていたロロさんが不意にそう言いました。
手には大きな焼き鳥串を持っています。
お腹が空いていた私は、遠慮なくいただくことにしました。
多分、この遠慮のなさの半分は、ロロさんがドラクロワさんだと分かったからでしょう。
「こんなのもあるぞ」
「わあ、ありがとうございます。いただきます」
野菜ジュースです。飲み物が欲しいと思っていましたし、野菜も欲しかったので一石二鳥なのでした。
「? もしかして、街にいるド……回復役の方が買ったものを共有出来たりしますか?」
「ああ。便利だろう?」
「はい。でも……スキルを酷使していることを考えますと……」
「無駄使いしている。か? ククッ。役に立つうちは何でも使うさ」
「でも、あの……」
あまり無理しないで下さい。
そう進言したい気持ちがありましたが、私なんかが言えることではない気がします。
立場も勿論そうですが、私が既に人にそのようなことを言えないだけのことをしていたからです。そんな私を叱って下さったのがロロさんなのですから、余計です。
「俺を案じてくれているのか。ならば少し気をつけてやろう」
「……そうして下さい」
何故か恩を着せるような調子で言われてしまいました。
何だか穏やかな夜です。
森の恐ろしい気配も、ロロさんとこうしていると落ち着きます。
「ごちそうさまでした」
言うと、ロロさんが手を出しました。
食べ終えてゴミとなった串とカップを渡しますと、すぐに消えていきます。
ロロさんのゴミ箱に飛ばされたようです。
「やっぱり魔法みたいです」
「うん? カナルにも出来るだろう」
「やり方が分かりません」
「そうか。難しく考える必要はないんだが……」
「……?」
ロロさんの言葉が止まりました。表情が窺えないので、魔獣でも出たのではないかと周りを警戒します。
「ああ、すまん。どう説明すればいいのかと考えていた」
そこでロロさんの右手に骨の形を模したぬいぐるみが、現れたり消えたりしていることに気付きました。
もしかしなくてもフルールちゃんのおもちゃですね。
「うっ……」
「ロロさん?」
「否、問題ない。向こうがフルールと遊んでいたのだが、俺がついおもちゃで試してしまったものだから、奪うなとフルールに怒られたのだ」
「……」
それは、なんと返したらいいか、言葉が見つかりません。でもちょっと面白かったです。
「必要な道具を思い浮かべるか、それ自体の名を呼ぶかすれば可能だろう。あまり意識して使っていなかったから、説明するとなると面倒だな」
「すみません」
「面倒なのはカナルのことではないぞ? 伝え方を考えるのが面倒だっただけだ。試しにやってみるといい。お前の私物をここに呼び寄せるつもりで」
呼び寄せる……。それって召喚する感じでしょうか。
「ドラクロワさんのお家にある、私の制服も呼べますか?」
「制服? ああ、あれか。渡す機会がなかったからな。勿論、カナルのものなのだから可能だ」
「じゃあ、やってみます」
フォーレさんからいただいた服をずっと着ていましたから、そろそろ着替えたかったところなのです。
私は意識を集中させ、心の中で唱えました。
いでよ、我が制服!
「!」
……?
???
「ほう。応用まで出来ているじゃないか」
ロロさんが誉めて下さいました。
どうやら私は、着ているもののチェンジをやり遂げたようです。
今まで着ていた服は、ギルドの私の部屋に移動しているのでしょう。
しかしすぐにハッとしてスカートのポケットを探り、ホッとしました。
どうやらポケットの中に入れていたものは、そっくり残るようになっているようです。
魔獣を倒して手に入れた勾玉と、髪に飾れない六花の髪飾りは、無事にそこにありました。
ロロさんがシャルル=ドラクロワさんの弟さん。ということを知っているのは一部の方だけらしいのです。うっかり呼んでしまっては、名前を変え、姿を隠し、倒れてしまうまでに魔力を酷使させても、スキルを使い続けている意味がありません。
責任重大です。
こちらで休まれる方々が戻って参りました。
テントでは、頑張っても六人が限界だと思ったのですが、男女合わせて十人います。
栄養補助食品を義務的に口に運び、水浴びをしてからお休みに入る方々を見ておりますと、入る人数に合わせてテントが大きくなっていくのが分かりました。
十二~三人辺りまでは横になれるそうです。
ジネットさんは、私が夜の見張りとなることに反対だったようですが、ロロさんが一緒だと分かると折れたようでした。
私はロロさんには休んでいて欲しかったので、反対したかったのですが、魔物の襲撃を感知したら知らせるだけでいいとしても、一人では不安です。
もしも眠ってしまったら。
もしも気配を感知出来ずに、皆さんの休むテントを襲撃されてしまったら。
そう考えると無責任なことは言えません。
「カナル。疲れたら声を掛けてくれ。いつでも私が代わろう」
「ありがとうございます」
ジネットさんの心遣いに感謝しますが、代わっていただくつもりはありません。
「……食べるか?」
皆さんが休まれた後、焚き火を背にして目を凝らしながら辺りを見渡しておりますと、組んだ木の上に腰を下ろしていたロロさんが不意にそう言いました。
手には大きな焼き鳥串を持っています。
お腹が空いていた私は、遠慮なくいただくことにしました。
多分、この遠慮のなさの半分は、ロロさんがドラクロワさんだと分かったからでしょう。
「こんなのもあるぞ」
「わあ、ありがとうございます。いただきます」
野菜ジュースです。飲み物が欲しいと思っていましたし、野菜も欲しかったので一石二鳥なのでした。
「? もしかして、街にいるド……回復役の方が買ったものを共有出来たりしますか?」
「ああ。便利だろう?」
「はい。でも……スキルを酷使していることを考えますと……」
「無駄使いしている。か? ククッ。役に立つうちは何でも使うさ」
「でも、あの……」
あまり無理しないで下さい。
そう進言したい気持ちがありましたが、私なんかが言えることではない気がします。
立場も勿論そうですが、私が既に人にそのようなことを言えないだけのことをしていたからです。そんな私を叱って下さったのがロロさんなのですから、余計です。
「俺を案じてくれているのか。ならば少し気をつけてやろう」
「……そうして下さい」
何故か恩を着せるような調子で言われてしまいました。
何だか穏やかな夜です。
森の恐ろしい気配も、ロロさんとこうしていると落ち着きます。
「ごちそうさまでした」
言うと、ロロさんが手を出しました。
食べ終えてゴミとなった串とカップを渡しますと、すぐに消えていきます。
ロロさんのゴミ箱に飛ばされたようです。
「やっぱり魔法みたいです」
「うん? カナルにも出来るだろう」
「やり方が分かりません」
「そうか。難しく考える必要はないんだが……」
「……?」
ロロさんの言葉が止まりました。表情が窺えないので、魔獣でも出たのではないかと周りを警戒します。
「ああ、すまん。どう説明すればいいのかと考えていた」
そこでロロさんの右手に骨の形を模したぬいぐるみが、現れたり消えたりしていることに気付きました。
もしかしなくてもフルールちゃんのおもちゃですね。
「うっ……」
「ロロさん?」
「否、問題ない。向こうがフルールと遊んでいたのだが、俺がついおもちゃで試してしまったものだから、奪うなとフルールに怒られたのだ」
「……」
それは、なんと返したらいいか、言葉が見つかりません。でもちょっと面白かったです。
「必要な道具を思い浮かべるか、それ自体の名を呼ぶかすれば可能だろう。あまり意識して使っていなかったから、説明するとなると面倒だな」
「すみません」
「面倒なのはカナルのことではないぞ? 伝え方を考えるのが面倒だっただけだ。試しにやってみるといい。お前の私物をここに呼び寄せるつもりで」
呼び寄せる……。それって召喚する感じでしょうか。
「ドラクロワさんのお家にある、私の制服も呼べますか?」
「制服? ああ、あれか。渡す機会がなかったからな。勿論、カナルのものなのだから可能だ」
「じゃあ、やってみます」
フォーレさんからいただいた服をずっと着ていましたから、そろそろ着替えたかったところなのです。
私は意識を集中させ、心の中で唱えました。
いでよ、我が制服!
「!」
……?
???
「ほう。応用まで出来ているじゃないか」
ロロさんが誉めて下さいました。
どうやら私は、着ているもののチェンジをやり遂げたようです。
今まで着ていた服は、ギルドの私の部屋に移動しているのでしょう。
しかしすぐにハッとしてスカートのポケットを探り、ホッとしました。
どうやらポケットの中に入れていたものは、そっくり残るようになっているようです。
魔獣を倒して手に入れた勾玉と、髪に飾れない六花の髪飾りは、無事にそこにありました。
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