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ロロさんのスキル
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遺跡「剣闘士の塔」から魔物が大量に輩出されるのは、一定の期間があるそうですが、今はその最も少ない時だそうです。
その期間を見定めるのは、月。月が満ちると共に魔物が塔から現れ始め、新月に近付く頃には激減する、といった感じらしいです。
けれど、そうなるとロロさんが新人の育成にやって来る期間がおかしいのです。
戦闘の要となる存在だというのに、育成をしたり、度々私の前に現れて下さったりとお忙しく出来るのは何故でしょうか?
その問いに答えて下さった方がいました。
フォーレさんです。
またギルドの訓練が始まるので、こちらに戻って来たとのことでした。
「まさかここに来て、またカナルのミソスープが食べられるとは思わなかった」
と、三杯食べて満腹になって眠そうだったフォーレさんを発見したのです。
負傷はしていないとのことでしたが、この結界内に入ってから身体が軽くなった気がすると不思議がっていました。
それからの他愛ないおしゃべりの中で、話題がロロさんのことになったのは、今回の訓練生は何人いるだろう、といった流れからでした。
ちょうど十五歳になった子なんて、たくさんいるものでもありません。私の時はたまたま多かったようですが、中には一人もいなかったことや、一人だけしかいなかったこともあるそうです。一人でもいれば良いものかと思いましたが、それならば逆に一人もいない方が良かったというものだといいます。確かに一人を訓練する為にロロさんが前線に出られないのは痛手ですねと返しますと、フォーレさんはニヤリとして。
「うちのギルマス、増える。大丈夫」
と言いました。
「?」
首を傾げます。
ロロさんが増えるとは、言葉通りの意味でしょうか。でもまさか。増えたら増えた分お得な状態ですが、それだとギルドの皆さんが疲弊著しい感じにはなっていないように思うのですが。
「ドッペルゲンガー」
内緒話をするように、フォーレさんが声をひそめました。
「っていうスキル。最大三人まで増える」
「えっ」
「一人ずっと戦ってる。たまに交替。でも区別つかないから分からない。けど交替しないと大変」
うんうん、とフォーレさんの言葉に頷きます。休息は必要です。
「もう一人、訓練させに行ったり街に行ったりする」
では、私がお会いしたロロさんは、そちらのロロさんということになりますね。
「あと一人、回復。お抱えの療術師がいるらしい」
「回復って、ずっとして貰う感じになりませんか? 戦っているのもずっとで、途中で交替しているとしても、そんなに無理をしたら壊れちゃいますよ?」
「うん。それ、みんな心配してる。ドッペルゲンガーはスキルだから、魔力を継続して消耗していく。魔力回復は時間がかかる。ギルマスくらいの量だと特に大変。魔力回復増進剤を使っても、回復に行ってるギルマスもスキル使って送られたやつだから、存在している間は魔力の消耗続く。大変。それから、同じ場所に二人は存在出来ない。ちょっと不便」
不便というよりは残念です。
もしもロロさんが二人いれば、或いはジネットさんが歯痒く感じていた件が解決していたでしょう。私なんかに、あんな風に頭を下げずとも良かったのです。それに、ここまで討伐期間が長くなることもなかったでしょう。
「カナルは知ってる? なんとかって療術師」
「……分かりません」
「だよねー」
ここは指摘するところでしょうか。「なんとか」じゃ分からないですよー、と。ですが実はナントカさんというお名前だったということならば、やっぱり知らない方なので、私の返しも間違ってはいませんから、問題ないのかもしれません。
だって、ダンディという素敵な家名があるくらいなのですから。
「ダンディさんという療術師さんなら、知っています」
確かにゃんこさんのエマさんもお知り合いのようですよ。――そう何気ない世間話的に続けようとしたのですが。
「それだ。カナル分からなくなかったよ」
「えっ?」
ナントカさんではなかったのですか。敢えて肯定して無理に出した考えが恥ずかしいです。
「そのダンディって療術師が、ギルマスお抱えの療術師」
「!」
まさかの情報に、私はポカンと口を開け、フォーレさんに爆笑されてしまったのですが、それはともかく、バシバシと背中を叩かれたのは痛かったです。
その期間を見定めるのは、月。月が満ちると共に魔物が塔から現れ始め、新月に近付く頃には激減する、といった感じらしいです。
けれど、そうなるとロロさんが新人の育成にやって来る期間がおかしいのです。
戦闘の要となる存在だというのに、育成をしたり、度々私の前に現れて下さったりとお忙しく出来るのは何故でしょうか?
その問いに答えて下さった方がいました。
フォーレさんです。
またギルドの訓練が始まるので、こちらに戻って来たとのことでした。
「まさかここに来て、またカナルのミソスープが食べられるとは思わなかった」
と、三杯食べて満腹になって眠そうだったフォーレさんを発見したのです。
負傷はしていないとのことでしたが、この結界内に入ってから身体が軽くなった気がすると不思議がっていました。
それからの他愛ないおしゃべりの中で、話題がロロさんのことになったのは、今回の訓練生は何人いるだろう、といった流れからでした。
ちょうど十五歳になった子なんて、たくさんいるものでもありません。私の時はたまたま多かったようですが、中には一人もいなかったことや、一人だけしかいなかったこともあるそうです。一人でもいれば良いものかと思いましたが、それならば逆に一人もいない方が良かったというものだといいます。確かに一人を訓練する為にロロさんが前線に出られないのは痛手ですねと返しますと、フォーレさんはニヤリとして。
「うちのギルマス、増える。大丈夫」
と言いました。
「?」
首を傾げます。
ロロさんが増えるとは、言葉通りの意味でしょうか。でもまさか。増えたら増えた分お得な状態ですが、それだとギルドの皆さんが疲弊著しい感じにはなっていないように思うのですが。
「ドッペルゲンガー」
内緒話をするように、フォーレさんが声をひそめました。
「っていうスキル。最大三人まで増える」
「えっ」
「一人ずっと戦ってる。たまに交替。でも区別つかないから分からない。けど交替しないと大変」
うんうん、とフォーレさんの言葉に頷きます。休息は必要です。
「もう一人、訓練させに行ったり街に行ったりする」
では、私がお会いしたロロさんは、そちらのロロさんということになりますね。
「あと一人、回復。お抱えの療術師がいるらしい」
「回復って、ずっとして貰う感じになりませんか? 戦っているのもずっとで、途中で交替しているとしても、そんなに無理をしたら壊れちゃいますよ?」
「うん。それ、みんな心配してる。ドッペルゲンガーはスキルだから、魔力を継続して消耗していく。魔力回復は時間がかかる。ギルマスくらいの量だと特に大変。魔力回復増進剤を使っても、回復に行ってるギルマスもスキル使って送られたやつだから、存在している間は魔力の消耗続く。大変。それから、同じ場所に二人は存在出来ない。ちょっと不便」
不便というよりは残念です。
もしもロロさんが二人いれば、或いはジネットさんが歯痒く感じていた件が解決していたでしょう。私なんかに、あんな風に頭を下げずとも良かったのです。それに、ここまで討伐期間が長くなることもなかったでしょう。
「カナルは知ってる? なんとかって療術師」
「……分かりません」
「だよねー」
ここは指摘するところでしょうか。「なんとか」じゃ分からないですよー、と。ですが実はナントカさんというお名前だったということならば、やっぱり知らない方なので、私の返しも間違ってはいませんから、問題ないのかもしれません。
だって、ダンディという素敵な家名があるくらいなのですから。
「ダンディさんという療術師さんなら、知っています」
確かにゃんこさんのエマさんもお知り合いのようですよ。――そう何気ない世間話的に続けようとしたのですが。
「それだ。カナル分からなくなかったよ」
「えっ?」
ナントカさんではなかったのですか。敢えて肯定して無理に出した考えが恥ずかしいです。
「そのダンディって療術師が、ギルマスお抱えの療術師」
「!」
まさかの情報に、私はポカンと口を開け、フォーレさんに爆笑されてしまったのですが、それはともかく、バシバシと背中を叩かれたのは痛かったです。
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