拾って下さい。

織月せつな

文字の大きさ
上 下
34 / 73

お兄さんと一緒

しおりを挟む
 来ちゃった。ではありません。何ですか、その可愛らしい言い方は。
 白馬に乗った王子様みたいな登場をされた方の台詞とは思えません。
 ドラクロワさんのお兄さんということは、ドラクロワさんより年上で。ドラクロワさんは私より年上みたいな感じですから、つまりは更に年上で。
 そしてそして、ドラクロワさんに似た美人さんだというのに可愛らしさまでくっつけてしまったら、無敵じゃないですか!
 あれですか。世の女性全ての心を鷲掴みにして、天下を取るつもりですか? 女性的な考えの男性もおりますから、お兄さんが投げ縄を飛ばせば芋づる式にズルズルと釣れてしまいますよ、色々と。

「うん? マンドラゴラはやっぱり反応が鈍いのか?」

 お馬さんから降りたお兄さんに、ぷにっと頬に指を刺されました。
 そんなお兄さんの後ろで隊員さんたちがあわあわしています。

「……カナルです」

 取敢えず「マンドラゴラ」は嫌だったので、訂正を求めてみました。何故か分かりませんが、ドラクロワさん以外から呼ばれるのは変な感じがするのです。
 お兄さんも同じドラクロワさんなので、そこは不思議なのですけれど。

「ああ、そうだった。シリルに失礼だと言っておきながら、すっかりそちらで覚えてしまっていたよ。お詫びに今度家に招待しよう。来てくれるかな?」
「――そういうのは結構です」

 社交辞令だと分かっておりますから、頷いても良かったのですが、つい本音が出てしまいました。
 おかしいです。私はこんなにハッキリと自分の意見が言える子だったでしょうか。

「隊長が断られたぞ」
「初めて見た」
「しかもあんなちっちゃい子に」
「むしろ、ちっちゃい子だからじゃないかな」
「日報に書いておくか?」

 お兄さんにならってお馬さんから降りた隊員さんたちの言葉に、しっかり聞こえていたらしいお兄さんは額に手をあてて溜め息をつきました。

「頭の痛くなるようなことを言わないでくれ。それでは俺が節操なしのように聞こえるじゃないか」
「確かに、いつもは相手から誘われるから、断っている方だったな」
「けど、そんな隊長が自分から誘って断られたんだから、やはり日報に残しておくべきかと」
「日報のことは忘れろ」
「……はあ」

 隊員さんが残念そうです。もしかして、お兄さんはいじめられてますか?
 ところで、先程からこちらの皆さんの声がしません。どうしたのでしょうかと見てみますと、皆さんが緊張した表情で私を見返しました。

「?」

 フォーレさんまでだんまりさんなのはどうしてでしょう。この前会ったばかりですし、私より以前からのお知り合いではなかったでしょうか。

「あ。すみません。ロロさんにお会いしていないので、まだお伝え出来ていないです」

 フォーレさんを見て思い出しました。ロロさんに伝言があったのでした。

「そうか。会えていないなら仕方ない。それに、もう来てしまったから、こちらで勝手にやらせて貰うことにするよ」

 にっこりとお兄さんが笑うと、隊員の一人がお兄さんの乗って来たお馬さんの手綱を掴みました。

「本当に宜しいのですか?」
「ああ、勿論だとも。俺一人がいないくらいならば、どうとでも誤魔化せる」

 どうやら他の方々はお帰りになってしまうようです。内緒で力を貸して下さるのが部隊ではなくお兄さん一人になってしまったようですが、どうして内緒なのでしょう。そして、誰に内緒にしているのでしょうか。

「俺のことは気にしないでくれ。状況に合わせて勝手に動かせて貰うからね」

 何度も振り返りながら戻って行く隊員さんたちを見送ると、お兄さんが穏やかな口調でそう言いましたが、皆さんは「無理です」と言いたげな表情で一礼しますと、ぎこちなく辺りに散開してしまいました。

「やはり、難しいものだな」

 ポツリと寂しそうに言うお兄さんの手が、まるで拠り所を求めるように私の頭を撫でておりましたので、私は皆さんのところに行くことも出来ず、ワンちゃんかにゃんこさんになった気分で、暫くされるがままになっておりました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

夫と愛人が私を殺す計画を立てているのを聞いてしまいました

Kouei
恋愛
結婚してから3か月。 夜会である女性に出会ってから、夫の外出が増えた。 そして夫は、私の物ではないドレスや宝飾の購入していた。 いったい誰のための物? 浮気の現場を押さえるために、クローゼットで夫と愛人と思われる女性の様子を窺っていた私。 すると二人は私を殺す計画を立て始めたのだった。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【完結】継母と腹違いの妹達に虐められたのでタレコミしようと思う。

本田ゆき
恋愛
あら、お姉さま、良かったですわね? 私を気に入らない妹たちと継母に虐められた私は、16歳の誕生日によその国の貴族の叔父様(50歳)と結婚の話が上がった。 なんせ私は立場上は公爵の娘なのだから、いわゆる政略結婚というやつだ。 だけどそんな見ず知らずのおじさんなんかと誰が結婚するものですか! 私は見合い前日の夜、ありったけの虐めの証拠を持って逃げることにした。 ※小説家になろうとカクヨムでも掲載しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

処理中です...