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お兄さんと一緒
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来ちゃった。ではありません。何ですか、その可愛らしい言い方は。
白馬に乗った王子様みたいな登場をされた方の台詞とは思えません。
ドラクロワさんのお兄さんということは、ドラクロワさんより年上で。ドラクロワさんは私より年上みたいな感じですから、つまりは更に年上で。
そしてそして、ドラクロワさんに似た美人さんだというのに可愛らしさまでくっつけてしまったら、無敵じゃないですか!
あれですか。世の女性全ての心を鷲掴みにして、天下を取るつもりですか? 女性的な考えの男性もおりますから、お兄さんが投げ縄を飛ばせば芋づる式にズルズルと釣れてしまいますよ、色々と。
「うん? マンドラゴラはやっぱり反応が鈍いのか?」
お馬さんから降りたお兄さんに、ぷにっと頬に指を刺されました。
そんなお兄さんの後ろで隊員さんたちがあわあわしています。
「……カナルです」
取敢えず「マンドラゴラ」は嫌だったので、訂正を求めてみました。何故か分かりませんが、ドラクロワさん以外から呼ばれるのは変な感じがするのです。
お兄さんも同じドラクロワさんなので、そこは不思議なのですけれど。
「ああ、そうだった。シリルに失礼だと言っておきながら、すっかりそちらで覚えてしまっていたよ。お詫びに今度家に招待しよう。来てくれるかな?」
「――そういうのは結構です」
社交辞令だと分かっておりますから、頷いても良かったのですが、つい本音が出てしまいました。
おかしいです。私はこんなにハッキリと自分の意見が言える子だったでしょうか。
「隊長が断られたぞ」
「初めて見た」
「しかもあんなちっちゃい子に」
「むしろ、ちっちゃい子だからじゃないかな」
「日報に書いておくか?」
お兄さんに倣ってお馬さんから降りた隊員さんたちの言葉に、しっかり聞こえていたらしいお兄さんは額に手をあてて溜め息をつきました。
「頭の痛くなるようなことを言わないでくれ。それでは俺が節操なしのように聞こえるじゃないか」
「確かに、いつもは相手から誘われるから、断っている方だったな」
「けど、そんな隊長が自分から誘って断られたんだから、やはり日報に残しておくべきかと」
「日報のことは忘れろ」
「……はあ」
隊員さんが残念そうです。もしかして、お兄さんはいじめられてますか?
ところで、先程からこちらの皆さんの声がしません。どうしたのでしょうかと見てみますと、皆さんが緊張した表情で私を見返しました。
「?」
フォーレさんまでだんまりさんなのはどうしてでしょう。この前会ったばかりですし、私より以前からのお知り合いではなかったでしょうか。
「あ。すみません。ロロさんにお会いしていないので、まだお伝え出来ていないです」
フォーレさんを見て思い出しました。ロロさんに伝言があったのでした。
「そうか。会えていないなら仕方ない。それに、もう来てしまったから、こちらで勝手にやらせて貰うことにするよ」
にっこりとお兄さんが笑うと、隊員の一人がお兄さんの乗って来たお馬さんの手綱を掴みました。
「本当に宜しいのですか?」
「ああ、勿論だとも。俺一人がいないくらいならば、どうとでも誤魔化せる」
どうやら他の方々はお帰りになってしまうようです。内緒で力を貸して下さるのが部隊ではなくお兄さん一人になってしまったようですが、どうして内緒なのでしょう。そして、誰に内緒にしているのでしょうか。
「俺のことは気にしないでくれ。状況に合わせて勝手に動かせて貰うからね」
何度も振り返りながら戻って行く隊員さんたちを見送ると、お兄さんが穏やかな口調でそう言いましたが、皆さんは「無理です」と言いたげな表情で一礼しますと、ぎこちなく辺りに散開してしまいました。
「やはり、難しいものだな」
ポツリと寂しそうに言うお兄さんの手が、まるで拠り所を求めるように私の頭を撫でておりましたので、私は皆さんのところに行くことも出来ず、ワンちゃんかにゃんこさんになった気分で、暫くされるがままになっておりました。
白馬に乗った王子様みたいな登場をされた方の台詞とは思えません。
ドラクロワさんのお兄さんということは、ドラクロワさんより年上で。ドラクロワさんは私より年上みたいな感じですから、つまりは更に年上で。
そしてそして、ドラクロワさんに似た美人さんだというのに可愛らしさまでくっつけてしまったら、無敵じゃないですか!
あれですか。世の女性全ての心を鷲掴みにして、天下を取るつもりですか? 女性的な考えの男性もおりますから、お兄さんが投げ縄を飛ばせば芋づる式にズルズルと釣れてしまいますよ、色々と。
「うん? マンドラゴラはやっぱり反応が鈍いのか?」
お馬さんから降りたお兄さんに、ぷにっと頬に指を刺されました。
そんなお兄さんの後ろで隊員さんたちがあわあわしています。
「……カナルです」
取敢えず「マンドラゴラ」は嫌だったので、訂正を求めてみました。何故か分かりませんが、ドラクロワさん以外から呼ばれるのは変な感じがするのです。
お兄さんも同じドラクロワさんなので、そこは不思議なのですけれど。
「ああ、そうだった。シリルに失礼だと言っておきながら、すっかりそちらで覚えてしまっていたよ。お詫びに今度家に招待しよう。来てくれるかな?」
「――そういうのは結構です」
社交辞令だと分かっておりますから、頷いても良かったのですが、つい本音が出てしまいました。
おかしいです。私はこんなにハッキリと自分の意見が言える子だったでしょうか。
「隊長が断られたぞ」
「初めて見た」
「しかもあんなちっちゃい子に」
「むしろ、ちっちゃい子だからじゃないかな」
「日報に書いておくか?」
お兄さんに倣ってお馬さんから降りた隊員さんたちの言葉に、しっかり聞こえていたらしいお兄さんは額に手をあてて溜め息をつきました。
「頭の痛くなるようなことを言わないでくれ。それでは俺が節操なしのように聞こえるじゃないか」
「確かに、いつもは相手から誘われるから、断っている方だったな」
「けど、そんな隊長が自分から誘って断られたんだから、やはり日報に残しておくべきかと」
「日報のことは忘れろ」
「……はあ」
隊員さんが残念そうです。もしかして、お兄さんはいじめられてますか?
ところで、先程からこちらの皆さんの声がしません。どうしたのでしょうかと見てみますと、皆さんが緊張した表情で私を見返しました。
「?」
フォーレさんまでだんまりさんなのはどうしてでしょう。この前会ったばかりですし、私より以前からのお知り合いではなかったでしょうか。
「あ。すみません。ロロさんにお会いしていないので、まだお伝え出来ていないです」
フォーレさんを見て思い出しました。ロロさんに伝言があったのでした。
「そうか。会えていないなら仕方ない。それに、もう来てしまったから、こちらで勝手にやらせて貰うことにするよ」
にっこりとお兄さんが笑うと、隊員の一人がお兄さんの乗って来たお馬さんの手綱を掴みました。
「本当に宜しいのですか?」
「ああ、勿論だとも。俺一人がいないくらいならば、どうとでも誤魔化せる」
どうやら他の方々はお帰りになってしまうようです。内緒で力を貸して下さるのが部隊ではなくお兄さん一人になってしまったようですが、どうして内緒なのでしょう。そして、誰に内緒にしているのでしょうか。
「俺のことは気にしないでくれ。状況に合わせて勝手に動かせて貰うからね」
何度も振り返りながら戻って行く隊員さんたちを見送ると、お兄さんが穏やかな口調でそう言いましたが、皆さんは「無理です」と言いたげな表情で一礼しますと、ぎこちなく辺りに散開してしまいました。
「やはり、難しいものだな」
ポツリと寂しそうに言うお兄さんの手が、まるで拠り所を求めるように私の頭を撫でておりましたので、私は皆さんのところに行くことも出来ず、ワンちゃんかにゃんこさんになった気分で、暫くされるがままになっておりました。
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