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シルバーウルフとの戦い
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「クソ重いな!」
舌打ちしてマルクくんが文句を言いながらも、私に向けて「ふふんっ」と笑ってみせます。
「こういうのは、お前なんかより俺の方が持つのに相応しいんだよ。戦い方を教えてやるから、そこで見てろ」
そう言って、一匹のシルバーウルフに向かって行きました。
しかし盾の重さで身体がふらふらしています。
軽いからとしっかり握っていなかった私が悪いのですが、盾を持って行かれるのは困ります。
「待って下さい!」
返して貰おうと思いましたが、足を止めざるを得ませんでした。
「っ」
このような時だというのに、まだ戦いたくないと駄々をこねる私がいます。
嫌な打ち方をする鼓動を深呼吸で誤魔化そうとしながら、ズルズルと長剣を鞘から引っ張り出しました。
シルバーウルフが様子を窺うように何もして来なかったのは、私が戦い慣れしていないことを見抜いた余裕からでしょう。
チラリと後方を見ますと、負傷しているというのに、足を傷めている子は踏ん張りの利かない状態で両手でしっかりと握って。片腕を傷めている子は盾の装備の仕方から利き手ではない方の手で。二人とも戦う意思を失うことなく剣を構えていました。
タッ、と微かな音に振り返ります。シルバーウルフが私に向かって跳躍して来ました。
逃げる時間はありません。
直撃を受けずに防ぐ盾もありません。
受けるのもいなすのも、長剣だけが頼りです。
「っ……!」
やりました。シルバーウルフの肩に刃があたりました。けれど同時に相手の爪に頬が僅かに削られたようです。熱いと錯覚した激痛が広がりました。
距離が開いたのは、私の攻撃にシルバーウルフが警戒したからではなく、硬質なものにぶつかって弾かれたように、反動で長剣を落としてしまった私がよろめいて後退したからでした。
ポタリと胸元に頬から流れた血が滴り落ちます。
触れることすら躊躇われたので、そのまま血を拭うことも、押さえることも出来ません。
落とした剣を拾おうとしましたが、すぐにまた飛び掛かって来られたばかりか、別のシルバーウルフがスカートに噛みつき、ぐいぐいと引っ張ります。
「鞘で目を突いてやれ!」
そんな言葉が耳に届き、思いきって言われた通りに鞘を使うことにしました。
目を突くことは出来なかったので、心の中で謝りながら頭に叩きつけます。
こちらに飛び掛かって来た筈のシルバーウルフは、既に勾玉に変わっていました。
勿論、私が何かをした訳ではありません。
赤毛の子たちと一緒に盾を見に来た子でした。
「まだ甘いな、君は。仕方ないか」
スカートを咥えたまま、離すどころか引き千切ろうとしてくるシルバーウルフをも勾玉に変えて、男の子は溜め息混じりに呟いた後、私の顔を見て眉を寄せました。
「あの、ありがとうございます」
「盾はどうしたんだ?」
「マルクくんが……」
そう言い掛けた時、後方で悲鳴があがりました。負傷している子に一部のシルバーウルフが狙いを定めたようです。
「エリック、ダリウス!」
二人を助けに行こうとした彼は、しかし私の傍から離れません。多分武器を手にしていない私を狙って、他のシルバーウルフが迫っていたからです。
「レオ、そのままカナルから離れるな!」
ジネットさんが二人の元へ集まったシルバーウルフを蹴散らし、片っ端から倒していきます。
傍にいてくれているのはレオという名前の子だったようです。
「カナルさん。僕の後ろにいて。僕を盾にしてもいいから、無理はしないように」
「は、はいっ」
ちょっと待って下さい。こんな時なのに顔が熱くなってしまいます。
紳士です。紳士がいます!
ドキドキしている場合ではないのですが、こればかりは仕方ありません、ごめんなさい。
そんな風にレオくんに守られながら浮わついた気分になってしまっていたところで、今度は別のところから悲鳴が聞こえました。
マルクくんの声です。
盾を上手に使っているというのでしょうか。両手で持った盾の表面で、シルバーウルフを殴り付けたり叩き払ったりしています。あの薄絹はまだ出ていないようでした。
「馬鹿な奴だ」
シルバーウルフを牽制しながら、レオくんが言います。
レオくんは、昨日までの訓練でレベル10に到達していたのでしょう。何もないところから丸薬のようなものを取り出すと、シルバーウルフの方へ投げつけました。
パンパンッ、と破裂音がして何かが出てきたかと思うと、見る間にシルバーウルフの半身が凍りついていきます。そうして動きを止めたところで、また勾玉を増やしていったのでした。
「何で使えないんだよっ!」
苛立ったようなマルクくんの声。
彼もまた囲まれていました。
一体、どれ程の数の群れなのでしょう。
「遣い手と認めた者以外に扱える筈がない」
とうとう盾を投擲武器のように投げてしまったマルクくんを、ジネットさん以外の誰も助けに行こうとはしませんでした。
舌打ちしてマルクくんが文句を言いながらも、私に向けて「ふふんっ」と笑ってみせます。
「こういうのは、お前なんかより俺の方が持つのに相応しいんだよ。戦い方を教えてやるから、そこで見てろ」
そう言って、一匹のシルバーウルフに向かって行きました。
しかし盾の重さで身体がふらふらしています。
軽いからとしっかり握っていなかった私が悪いのですが、盾を持って行かれるのは困ります。
「待って下さい!」
返して貰おうと思いましたが、足を止めざるを得ませんでした。
「っ」
このような時だというのに、まだ戦いたくないと駄々をこねる私がいます。
嫌な打ち方をする鼓動を深呼吸で誤魔化そうとしながら、ズルズルと長剣を鞘から引っ張り出しました。
シルバーウルフが様子を窺うように何もして来なかったのは、私が戦い慣れしていないことを見抜いた余裕からでしょう。
チラリと後方を見ますと、負傷しているというのに、足を傷めている子は踏ん張りの利かない状態で両手でしっかりと握って。片腕を傷めている子は盾の装備の仕方から利き手ではない方の手で。二人とも戦う意思を失うことなく剣を構えていました。
タッ、と微かな音に振り返ります。シルバーウルフが私に向かって跳躍して来ました。
逃げる時間はありません。
直撃を受けずに防ぐ盾もありません。
受けるのもいなすのも、長剣だけが頼りです。
「っ……!」
やりました。シルバーウルフの肩に刃があたりました。けれど同時に相手の爪に頬が僅かに削られたようです。熱いと錯覚した激痛が広がりました。
距離が開いたのは、私の攻撃にシルバーウルフが警戒したからではなく、硬質なものにぶつかって弾かれたように、反動で長剣を落としてしまった私がよろめいて後退したからでした。
ポタリと胸元に頬から流れた血が滴り落ちます。
触れることすら躊躇われたので、そのまま血を拭うことも、押さえることも出来ません。
落とした剣を拾おうとしましたが、すぐにまた飛び掛かって来られたばかりか、別のシルバーウルフがスカートに噛みつき、ぐいぐいと引っ張ります。
「鞘で目を突いてやれ!」
そんな言葉が耳に届き、思いきって言われた通りに鞘を使うことにしました。
目を突くことは出来なかったので、心の中で謝りながら頭に叩きつけます。
こちらに飛び掛かって来た筈のシルバーウルフは、既に勾玉に変わっていました。
勿論、私が何かをした訳ではありません。
赤毛の子たちと一緒に盾を見に来た子でした。
「まだ甘いな、君は。仕方ないか」
スカートを咥えたまま、離すどころか引き千切ろうとしてくるシルバーウルフをも勾玉に変えて、男の子は溜め息混じりに呟いた後、私の顔を見て眉を寄せました。
「あの、ありがとうございます」
「盾はどうしたんだ?」
「マルクくんが……」
そう言い掛けた時、後方で悲鳴があがりました。負傷している子に一部のシルバーウルフが狙いを定めたようです。
「エリック、ダリウス!」
二人を助けに行こうとした彼は、しかし私の傍から離れません。多分武器を手にしていない私を狙って、他のシルバーウルフが迫っていたからです。
「レオ、そのままカナルから離れるな!」
ジネットさんが二人の元へ集まったシルバーウルフを蹴散らし、片っ端から倒していきます。
傍にいてくれているのはレオという名前の子だったようです。
「カナルさん。僕の後ろにいて。僕を盾にしてもいいから、無理はしないように」
「は、はいっ」
ちょっと待って下さい。こんな時なのに顔が熱くなってしまいます。
紳士です。紳士がいます!
ドキドキしている場合ではないのですが、こればかりは仕方ありません、ごめんなさい。
そんな風にレオくんに守られながら浮わついた気分になってしまっていたところで、今度は別のところから悲鳴が聞こえました。
マルクくんの声です。
盾を上手に使っているというのでしょうか。両手で持った盾の表面で、シルバーウルフを殴り付けたり叩き払ったりしています。あの薄絹はまだ出ていないようでした。
「馬鹿な奴だ」
シルバーウルフを牽制しながら、レオくんが言います。
レオくんは、昨日までの訓練でレベル10に到達していたのでしょう。何もないところから丸薬のようなものを取り出すと、シルバーウルフの方へ投げつけました。
パンパンッ、と破裂音がして何かが出てきたかと思うと、見る間にシルバーウルフの半身が凍りついていきます。そうして動きを止めたところで、また勾玉を増やしていったのでした。
「何で使えないんだよっ!」
苛立ったようなマルクくんの声。
彼もまた囲まれていました。
一体、どれ程の数の群れなのでしょう。
「遣い手と認めた者以外に扱える筈がない」
とうとう盾を投擲武器のように投げてしまったマルクくんを、ジネットさん以外の誰も助けに行こうとはしませんでした。
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