拾って下さい。

織月せつな

文字の大きさ
上 下
7 / 73

もういっそ、諦めてしまえば

しおりを挟む

 勿論私の勝手な妄想でしたから、ロロさんという方がおじいさんであっても、ゴーレムなどの人外の存在であったとしても、異論はありません。ええ、ありませんとも!
 そこは声を大にして断言させていただきます。
 しかし、しかしですね。
 挨拶の為に立ち上がった私の、およそ二倍はあるかと思われる大きさなのです。そして洗練された美しくも格好いい鎧ですが、私のイメージとしては「悪」です。暗黒騎士さんです。当然ながらゲームからの影響でありますが。
 そんな黒い鎧さんが、私の前にずももももといった効果音を背負いながら立ちはだかります。兜はすっかり顔を隠したものですから、表情がまるで分かりません。武器を所持してはいないようですが、私などは指先だけで戦闘不能になれそうです。

 うう。怖さが振り切れて笑ってしまいそうです。

「オグラ様、どうぞお座り下さい」

 ロロさんが正面の席にドカリと座っても(椅子の耐久性はバッチリです)立ったままでいた私に、キアラさんが手を貸して座らせてくれました。

「ロロさん、こちらをご確認いただけますか?」

 言ってキアラさんはテーブルの上で滑らせるようにして、私のステイタスシートを差し出しました。
 ロロさんはそれを手にして、長いこと見つめていました。あまりにも長かったので、キアラさんがおろおろしてしまった程です。

「これは」とロロさんの声を初めて耳にしました。口元もしっかり覆われておりますので、籠って聞こえます。

「既に限界値を突破している、ということではないだろうか」

 限界突破ですか? あ! そういえば私、ウユニ塩湖的な場所でハローした私と、一瞬ですが重なった気がします。同じキャラクターを重ねるという条件のゲームなら、それで正解な気がしてきました。

「限界値を突破、ですか?」
「故に、レベルが低過ぎて確定値が出せない状態と考えられる」
「なるほど……」
「或いは」

 納得したように頷くキアラさんでしたが、それを正解だと思い込ませない為にか、別の考えを付け加えます。

「何かしらの条件下でしか魔力を発動させられないのか、魔力を解放する機会がなかった為に蓋を閉じられている状態にあるのか。――気は進まないが、明日分かるかもしれんな」

 ゴクリ。私は喉を鳴らしておりました。
 明日。やはり私は戦闘の訓練に行かねばならないのです。
 ロロさんから放たれる威圧感の所為でしょうか。それとも、先程怪我をした方々を目の当たりにしたからでしょうか。
 街並みの様子とかゲーム世界のようなあれこれに、少しばかり浮かれていたところもあった私は、ここに来て唐突に――奈落の底にでも突き落とされたように、不安と恐怖に蝕まれ始めました。
 いえ、今までだって確かに不安だったし、怖かったりもしたのです。けれどそれらを濃縮させたものを浴びせられている気分なのです。
 例えるならば、これまで僅かな温もりのある水に足を浸した程度であったものを、凍りつくような冷たさの水が滝のように降り注いだ上に、粘着性を加えて全身に纏わりついてくるような感じです。
 ああ、このような説明で理解していただけるでしょうか。

「すまないが、こちらの甘さが愚劣な考えを生み出させる原因となったようだ。確かに本人の意志で参加させる訳ではないが、街を守る為にと国が指示したことで、こちらとしても本意ではなかった。故に無駄死にを避ける為に離脱させ、危険に晒さねばならなかった詫びとして給金を与えていたのが仇となるとは」

 低く唸るような声でロロさんは言います。とても怒っていらっしゃるようです。

「今回の最終日は、先に訓練を受けていた者と同じように働いて貰うことになった。生憎、昨日誕生日を迎えたばかりという者はいないようだからな」
「ですが、オグラ様は『外』からいらしたようなのです。こちらの事情を知らなかったのですから、他の方々と同じ扱いをするのは――」
「ではカナル。お前は何処から来た。何をしにこの街に来たのだ? 他の街から来たならばレベルが1というのはそれこそ考えられん。レベルが生じるのはギルドに登録してからになるが、何故以前いた街で登録していなかった? この一年、お前は何をしていたのだ」
「――」

 そんなこと、答えられません。本当のことを話して、受け入れて下さるでしょうか。頭のおかしい人だと一蹴されてしまったら、どうすればいいのでしょう。

 ――最悪、大声で泣き喚けば二度と戦闘ギルドとは関わらないようになるだろうから、頑張って叫べよ、マンドラゴラ。

 ドラクロワさんの言葉が脳裡によみがえります。

「気が付いたら、知らないところにいました。どうやって来たのか分かりません。偶然私を見付けて下さった方に助けられて、お金も何もないことから、ここに案内して貰いました。……家族は、います。いる筈なんです。お父さんもお母さんも弟もいない扱いになってるのは、嫌です……」

 話している間に涙が溢れ出てしまいました。
 帰りたい――そう言って泣き叫んだら帰れるでしょうか? いっそのこと、明日の訓練で死んでしまってもいいような、そんな気がしました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫と愛人が私を殺す計画を立てているのを聞いてしまいました

Kouei
恋愛
結婚してから3か月。 夜会である女性に出会ってから、夫の外出が増えた。 そして夫は、私の物ではないドレスや宝飾の購入していた。 いったい誰のための物? 浮気の現場を押さえるために、クローゼットで夫と愛人と思われる女性の様子を窺っていた私。 すると二人は私を殺す計画を立て始めたのだった。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

処理中です...