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Y組職業体験編

第59話《無知な少女二人は絶句する》

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 翌日の朝。時刻は6時ジャストである。
 真夏の日射しが水平線の下にまだ隠れていて、現在モール都市は肌寒い空気で満たされていた。幾何学的なビル群が建ち並ぶここではヒートアイランド現象で昼間は灼熱地獄と化す。だから朝か、もしくは熱が放射される夜でなければこんな肌寒さは味わえない。
 福本アヤノンと精霊フォルトゥーナはそんな中、体を手で擦りながらある人物と待ち合わせをしていた。
 ある人物とは、お嬢様セリアである。
「───あー、はやく来ねーかなー」
 そう呟く少女の背後には、B地区のターミナルがそびえている。
 煉瓦レンガ状の積み立て式で、窓は開けたそれに嵌め込んだ形の、至極単純な造りである。
 しかしその中を通ってる魔導車という電車はとてもハイカラで、早朝で頭がボーっとしてても、それを見ればまるで顔面パンチを食らったかのように目が覚めてしまうほどだ。福本アヤノンもその被害者だ。
 それを背景に、近くに植えられた樹木の下で、アヤノンはモジモジと待ちわびた。
 取り敢えず寒いのである。
「寒い。あー寒い。さむいさむいさむい───」
「さ、さむいのなの。夏なのに、な、なんで───」
 と精霊は震えながら嘆いた。
 手のひらサイズの彼女は現在、アヤノンの頭のうえに乗っかってブルブルしている。端から見れば可愛らしい光景であるが、そんか悠長ゆうちょうな事態ではない。
「あ、あれだよあれ。夜に熱が放出されて、冷え込んでるんだよきっと───」
「そ、それは、どど、どうでも、いいのなの───あ、そうだ」
 精霊が思い付く顔をした。すると主人のポケットまで滑り込むように降りていき、中に身を潜めた。
「ふぅ───はぁ、暖かい♪」
「あ、てめぇ! ポケットと俺の体温を有効活用してやがるな!」
「物は使いようなの。弱肉強食の世界なの」
「お前の口から『弱肉強食』なんて言葉が出てくるなんて……………」
「フフ、テレビで勉強してるのなの♪」
「害ある番組は見るんじゃねーぞ。お前すぐに信じそうだし」
「例えば?」と事例を求める精霊。
「例えば…………18禁のやつとか───」
「そ、そんな破廉恥はれんちな! 私はスケベじゃないのなの!」
「ホントかー? お前この前PSとDSチャンネルの番組欄と隈無くにらめっこしてたじゃんか」
「あ、あれは違うのなの! 単に面白いのがなかったから仕方なく───」
「仕方なく~?」
「………っ! あーもう、うるさいうるさい!!」
 見れば、顔を真っ赤に染めた小さな小さな少女が、今にも暴れそうな目でアヤノンを見ている。
 と、その時。アヤノンたちの前方から誰かが走ってやって来た。その人物は黄色の髪にツインテールで、ラサール魔法学校の制服を着ていた。
「あ、セリアだ」
 気づいたアヤノンは手を振って待ち構えた。
「はぁ……………、はぁ…………。あ、すいません………ですわ、ハァ…………。 ちょっと、遅れ………ましたの」
「いや大丈夫だよ。まだ時間的に電車は来てないし」
「ハァ………ハァ………そう、ですのね………」
 キャリーバックのアヤノンとは違って、セリアは手提げのバックだった。荷物も少ないのだし、自分もそれにすればよかったと、アヤノンは今更に後悔した。
「いやー、セリアも朝は苦手なのか。俺も苦手なんだよ」
 アヤノンはいつも目覚まし時計+プラス母親の起こしでようやく覚醒する。精霊の場合はアヤノンが起こさぬ限り起きないのだが。
「い、いいえ。わたくしはそこまでは………」
「うん? 早起き苦手じゃないのか?」
「マルコフ家にいた頃は───今の学校よりスケジュールが詰まっていましたので」
「ああ、そうか。もともとお嬢様学校に通ってたんだよな、お前」
「はい。朝補習が毎日ありましたの。お陰で毎朝早起きは余儀なくされていましたわ」
「なんだ、そうだったのか────え、じゃあ今日はなんで遅れたんだ?」
 普段から早起きが習慣付いた人間の体には、自然と『体内時計』というのが形成されていく。時間を意識的に認識してなくても、既に体が習慣という過程において習得しているため、勝手にある時間帯で目が覚めるのである。
 朝は苦手なアヤノンでも、少々その『体内時計』はやはり形成されているものである。
 では、何故今回セリアは遅刻したのか?
「はぇ!? い、いや、そ、そ、その───」
 少女はうつ向く。黄色い前髪が目元を上手く目隠しする。
 それでも頬までは隠すことは出来ない。
 セリアは頬を微かに赤く染めていた。
 それは精霊のそれとは違って、恥じらいに近い。恥じらいと言っても種類があるが、これは己の行動を思い返し、その恥ずかしさが改めて込み上げてきた物であろう。
「???」
 しかしアヤノンはそれに気づかない。
 仕方なくセリアは、
「じ、じつは! お、おトイレに───」
「なんだそんなことだったか。くだらないこと訊いて悪かったな」
 アヤノンはバツが悪そうに謝罪した。
「そんなっ! き、気にしないでくださいまし」
 嘘だった。
 トイレに行ってて遅れたなんて、遅刻者の王道回答だが、もちろんセリアはそんな事で遅れた訳ではない。
 昨夜から模索していた下着選びが決まらず、朝まで引き延ばしていたがために遅れただけだった。
 セリアが正直に言えるはずもない。
 なんで下着選びなんてしていたのかと尋ねられては、返答に困るからだ。
 理由は明確に、明瞭に存在する。
(言えるわけないですわ…………福本さんに見せる下着を選んでたなんて…………)
「おーい、セリアさん?」
「は、はいぃ!?」
 気づくと、アヤノンの顔が間近にあった。
「な、なななな、なんですの!!?」
「いや、お前なんかボーっとしてたから」
「す、すみません。大丈夫ですわ」
「本当か? 実は体調が悪かったりして───」
「違いますから! ほんっとうに違いますの!」
 額に手を当ててくるアヤノンの手をとっさに払い除けると、セリアは我先にとターミナルへと向かう。
「さ、さぁ行きましょう福本さん。もうそろそろ魔導車が来る頃ですわ」
「お、おぅ」
 アヤノンは態度が豹変したセリアを心配しつつも、少女の背中を追って行った。

 ターミナルは高い電車賃を否応なしに払うと、ようやく中へと入ることができる。
 流石はB地区のターミナルである。外見からでは想像つかなかいが、あの煉瓦状の積み木の中には数多くの店が店舗を構えている。その殆どは料理店で、B地区の繁華街から出張して来ているのが分かる。
 店は入ってすぐ、プラットホームまでの道際に建っている。
 まるでそこを行き交う人間を誘惑するかのように。
「あら、いい香りですわね……………」
 早速社会人ホイホイに捕まったのがセリアである。その香りというのはアヤノンにも伝わってきていた。
 パンの甘くて温かなあの香りだ。
 まさかこんな朝っぱらから店を開いているのか。一般常識を上回る仕事っぷりに、少女は舌を巻く。
「ね、ねえ。福本さん」
「はいはい何でございましょうかお嬢様」
 セリアが次に言う言葉が分かっていたアヤノンはふざけた返答をする。
「その…………電車が来るまで時間がありますし、少しお店に寄っていきませんこと?」
「……………………」
「な、なんですの? 何故私をそんなに見つめるのですか?」
「……………お前、朝飯喰ってないだろ」
「はぅ!?」
 図星である。呆れてため息すら出なかった。
「そうか…………朝飯を食べる時間がないくらいトイレで長時間戦い続けてたんだな、あぁそうかそうか」
「うぐぅ……………………」
 セリアの顔が少々歪んだ。もともと彼女自身がまいた種であるから否定ができない。否定しては、彼女が遅れた本当の理由を明かさねばならないからだ。
「たっく…………ほら行くぞ」
「は、はい………………」
 行き先はパン屋だ。時間はそこまで迫ってはないし、別に問題はないだろうとアヤノンは思った。
 場所は知らないため、まるで犬のごとく鼻をきかせてパン屋を探し当てた。
 運良くも、パン屋はプラットホームの近くに建っていた。
 とても小さな店だ。店名に『ちょっかりベーカリー』とある。アヤノンはその名に聞き覚えがある。確かあの繁華街に有ったものか。いずれにせよ、本店の出張だというのは分かった。
「いらっしゃいませ~、ませ~」
 店員とおぼしき少女が挨拶をする。こんな朝早くから、しかもアヤノンと同い年であろう女の子が独りで店を切り盛りしていた。衛生帽子の下から赤毛をはみ出し、緑色のエプロンを着た、独特な口調の少女だった。
 あれ、とアヤノンは口をへの字にした。
 そういえば─────。
 と、そこで赤毛の少女と目があった。
「───って、マリア!?」 
「マリアさんではありませんの!?」
「あ、あれ? 二人とも?」
 切り盛りしていた少女はマリアであった。
「何でここにいますの!? 確か私より遅く出る予定では……………」
「うん。でもこれバイトなんだよね、よね」
「バイト? 職業体験はどうしますの?」
「もちろんやるよ。早朝にこのバイト済ませて、次に体験先に行くの」
「お前大丈夫か? 無理しすぎなんじゃあ…………」
「これくらいできないと独り立ちできないよ。セリアさん、覚えておきなさい、さい。先輩からのありがたーいアドバイス」
「べ、勉強になりますわ……………」
 しかしアヤノンたちは今は客である。小さな店ではあるが、品揃えは十分すぎるほど揃っていた。セリアは少し迷ったあと、一番安いメロンパンを一つ購入した。
「はい、毎度あり~、あり~」
「マリア、あんまり無理すんなよ。倒れたら洒落になんないからな」
 マリアはそう言われるとにこりと笑った。
「大丈夫。私1日に2時間も寝れれば充分な人間だから、から」
「お前ビックリ人間かよ、初めて知ったわそんなの」
「私が持ってる特殊能力の一つよ、よ」
「どうやったらそんな能力が身につくんだよ…………」
 この労働社会に一番必要な能力なのかもしれない。もしこれを誰にでも付与できるとしたら、サラリーマンとOLが磁石に引き付けられた砂鉄のようにやって来ることだろう。
 と、そこでアヤノンは近くの柱時計を見た。無駄話のせいで、もうそこまで時間は残っていない。時計の針が速く進んでるように感じた。
「っと。そろそろ時間が危ないな。じゃあなマリア」
「失礼しますわ」
「うん。二人とも頑張ってね~、てね~」
 手を振りながらアヤノンたちは早足にプラットホームへ駆け出した。
 長い長い階段をのぼり、線路の頭上を通って、『政府中央都市』行きの乗り場へと急ぐ。
 着いたと同時に電車が到着した。電車は丸みを帯びた形をしており、前の車両は先が尖っていた。アヤノンの知るそれとは随分違った形状をしている。
 それに飛び乗ると、電車は少女二人を待っていたかのように入り口ドアを閉鎖し、発進し始めた。
「ふぅ…………間に合った」
 アヤノンは息を落ち着かせ、取り敢えず微かに生まれた汗をハンカチで拭う。
「はぁ……はぁ………結構ギリギリでしたのね」
 運動音痴のお嬢様にはきつかったようだ。息が上がっている。
「誰かさんがパン屋に寄らなかったらゆっくりできたんだけどなー」
 ガタンゴトンと揺れるなか、アヤノンは意地悪そうな笑みを浮かべ、その『誰かさん』を見つめる。
「うぅ…………何も言い返せませんわ…………」
「まあ間に合ったから別にいいんだけど」
 アヤノンは笑いながら座席に目を配った。早朝だからか殆ど乗客は見られない。これならのんびりとできるだろう。
「さっさと座ろうぜ。政府中央都市までは時間が結構かかるからな」
 電車の座席は二人ペアの観光用席だった。手前の座席に座ってみると、座り心地がとても良かった。アヤノンは現実世界でもここまで高級な席に座ったことはない。ロイヤル感が満載である。
 アヤノンとセリアが向き合う形で座った。ガタンゴトンと揺れが二人の体を揺らす。座り心地はいいが、現実世界の電車みたくサスペンションは付いてないらしい。揺れは固く衝撃が強かった。
 セリアが「あ~む」とおいしそうにメロンパンを口にしていた時。
 後方座席からペアであろう男女の会話が耳に入ってきた。
「いっだだだ……………たっくよぉ、この揺れどうにかなんねーのかぁ?」
「せんぱーい、あかつき眠いです。寝てもいいですか?」
「てめえー、こんな揺れガタガタで寝れるのかぁ?」
「刑事はいついかなる状況においても対応できるようになれって先輩言ってたじゃないですかー」
「バッカ野郎ぅ、これじゃ尻が痛くなる一方だろうがぁ」
「もう、カクテルばっかり飲むからそうなるんですよ」
「カクテルに罪はねえだろぉ!?」
 聞き慣れた声が酔ったように叫び散らした。ガタンと揺れる度に男の声は強くなる。荒れに荒れる。乱れに乱れる。
「────もしかしてこの声って」
 アヤノンは立ち上がり、後方座席を覗きこんだ。
「────あ、刑事さん?」
「だぁぁぁ───って、お嬢ちゃんじゃないかぁ」
 そこに酒臭い年齢不詳のダメ刑事、カクテルがいた。
「刑事さん、あんた何してんだこんなところで」
「お嬢ちゃんこそ、こんな朝っぱらからなんでぃ? まさか学校放り出して家出かいな? いけないねぇ~」
 そう言う刑事だが何だか愉快な顔つきである。
「違う違う」
 とアヤノンは手を振って否定した。
「俺たちは職業体験で政府中央都市って所に行く用事があるだけだ。家出でもサボりでもねえよ」
「職業体験?」
 刑事が首をかしげる。すると彼の相席である女性が刑事に、
「先輩、今は学校によっては職業体験というのを実施してる所も少なくないんですよ」
 と耳打ちする。
「へぇー、最近の教育ってそんな事やってんのかい。こりゃあたまげたねぇ」
「先輩、世の一般常識ぐらい頭に入れておいてくださいよ…………」
 相席の女性は肩を落として呆れ顔でそっと呟く。
 その女性はある意味『少女』と表記してもいいかもしれない。
 その『女性』はその辺の女子中学生程度………いやそれ以下の身長だった。
 女性用の警察服に身を包んではいるが、サイズが大きいのかぶかぶかで、まるでハロウィンで子供がムリに衣装を着てるような感じである。ミディアムの黒髪に似合う幼い顔が、さらにこの『女性』の年齢を不明瞭にしている。
 ここでは『女性』と表記しているが、アヤノン視点から見れば完全な『少女』であった。
 そしてそんなアヤノンは疑問に思う。何故こんなコスプレを着たみたいな『少女』がよりによって刑事と共に居るのか。しかも酒臭い、年がら年中酔ったようなこんな男と。
「刑事さん、その子だれなんだ?」
 だから思わず尋ねていた。
「んん? この女のことかぁ~?」
 刑事は『少女』を指差す。
「ああその子だよ。見かけない顔だけど、刑事さんの子供か?」
「俺の子供ぉ…………? ハッハッハッハ! こりゃあ傑作だ、とんだ勘違いだぁ」
「ち、違いますよ!? 暁はこの人の後輩です!」
 『あかつき』と名乗る少女が声を張りあげる。
「こ、後輩って………でも、君まだ11歳位じゃん」
 アヤノンは訝しく目を細める。さらに少女が声を張り上げた。
「あ、暁はこう見えてもう成人してるんですよ! つまりあなたより歳上なんです! 偉いんです!」
「歳上…………いや冗談だろ?」
「いや事実さぁ」
 刑事は言う。まるで生命の神秘に向かい合う科学者のような面影で。
「こんなに小さくて幼く見えるこいつだが、実はしっかりと大人なわけよ。信じられんだろうがなぁ」刑事は少女の肩に手を置いて、「こいつはあかつきっつう俺の唯一の後輩さぁ。お前らは知らんだろうが、あの『ラグナロク教事件』で本拠地を突き止めたのはコイツなんだわ」
 例の事件を大きく進展させたのはこの暁婦警の影響が大きい。暁婦警はカクテル刑事の命令通り、敵の本拠地を探っただけだと一笑に付しているが、そんな生易しい話ではない。暁婦警は寝る間も惜しんで食も取らず、ひたすら聞き込みに回ったという努力の過程プロセスがあるのだ。
 幼女体型と見てあなどってはいけない、ということである。
「先輩から話は伺ってますよ。あなた、2回も事件に巻き込まれてるようですね」
「最初の『人身売買事件』と、この前の『ラグナロク教事件』だなぁ」
 わざと刑事が思い出を引っ張り出す。
「まぁ可哀想だなぁ」
 そして他人事みたいに嘆いた。
「ほ、ほっとけほっとけ!」
 アヤノンは嫌みな刑事を睨み付けながら言った。
 アヤノンだってあれらの事件は思い出したくはないのだ。怪我して入院して、その後家族から酷く叱られた覚えしかない。
「そ、それで刑事さん、こんな朝っぱらからどうしたんだよ。なんかの事件の捜査か?」
「おめぇー、俺が年がら年中事件に首突っ込んでるとか思ってんのかぁー、えー?」刑事は腕を組み、「ある犯罪組織の捜査のために朝早くから現地へ向かってる所さぁ。あー、眠いねみー
「結局首突っ込んでるじゃねーか」
「刑事は事件と恋人になれと先輩は言ってますもんね」
 どうやらこの酒臭い刑事は相当後輩にイキッてる部分があるらしい。
「うわー…………もしかして刑事さん、独身?」
「お嬢ちゃん、そういうのはご法度だぜぃ───いや、そんな哀れんだ視線はやめろぃ。こっちも悲しくなるわ」
「暁は、先輩は独身だと思いますよ。死ぬまでずっと」
「暁、お前ちょっと顔かせぃ。ぶん殴るから」
「刑事さま、暴力はいけませんわよ」
 朝から騒がしいなとアヤノンが思っていると、メロンパンを摂取したセリアが割り込んでくる。
「女性に暴力なんて紳士としてはしたないですわ。間抜け、アホ、クズ、あんぽんたん」
「お前さんもはしたないじゃねーかぁ。てかお前さん居たのかいな。二人とも同じ体験先かい?」
「ええそうですわ。政府中央都市にある、たしか───」
だぜ、セリア」
 アヤノンが付け足す。
「ああ、そうでしたわ。でわたくし達、《警備員》の仕事をするんですわ」
「────で、ですか?」
 暁婦警の顔がその時不意にピタリと止まる。その顔に、アヤノンはドキッとした。
 目前の幼女婦警は何か後ろめたい顔つきだった。
「そ、そうです。アイザック家、ですけど………」
「───そうですか、アイザック家で警備員を為さるんですか……………」
 急にこえのトーンがガタリと落ち、それがアヤノンの心をむやみにくすぐる。
 少女たちの心に、雪崩なだれのように押し寄せてきた。
「ど、どうしたんですか。アイザック家が、何か…………?」
「────お二人は知らないようですね。アイザック家は結構では有名なんですけど」
………………?」
 ガタン、と。電車は不意に揺れを強めた。丁度傾斜に差し掛かかったようで、車体が15度弱傾いている。それでも数少ない乗客は朝早いからか寝入っていて、閉じたまぶたを開けようともしない。
 しかし、そんな中で。
 暁婦警は朝とは思えない、暗いこえで、


「───


 ガタン、と。
 車体はもとの水平を保った。傾斜を越えたようである。
 しかしたった今。
 二人の少女の心が、暁婦警の話で傾いたのは言うまでもない。


 ラサール魔法学校の少女二人は絶句していた。
 


 
 
 
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