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試練・精霊契約編

第12話《福本アヤノンと愉快なクラスメイト》

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  この世界には、一体いくらの生命体が生を獲得しているのだろう。

  数えたいと思ったけど、ちょっと無理っぽい。だって毎日何千万という命が誕生しているんだもの。けどその分、なくなっていく命も多い。
  だから私は、ってスゴいなぁと思った。
  だから…………だから…………
  お願いです、これ以上あなたの鎖で私を縛りつけないでください。



      1



「は、はじめまして………福本アヤノン………と、いいます。よろしく………」
  なんてぎこちない挨拶なんだろう。あぁ、なんて恥ずかしい。
  俺の口よ、ちゃんと動いてくれ。
  ペコリと頭を下げ、少し俺がはにかむような顔をしていると、
「「おぉぉぉぉぉぉ!」」
  と、青春真っただ中の男子たちは興奮ぎみに声を張り上げた。いや正直、同性――――心の面で――――から祝福をたたえられても嬉しくない。うん、これっぽっちも嬉しくない。
  俺の担任はクロという名の先生らしい。目をショボつかせた、頼りなさそうな教師だ。
「えーっと、福本さんはにより常識的な知識がないので、皆でぼちぼちフォローしてやってほしい。また、今日は緊急で職員会議が入ったため、授業は中止で――――」
「「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
  朗報であった。これにより野生のサルのように暴れだす男子たち。一部女子が混じっているのも驚きだった。流石は『最弱魔法使いの集まり』で名高いY組である。なんかバカが多そうだ。
  そう考えると、俺の魔力はこんなやつらよりも低いのかと、自分の現実をふと思い返してしまった。
  俺が目を曇らせていると、クロ先生は、
「こらこら、転校生の前ではしたない。それでは福本さん、空いている席に自由に座っていいから」
「は、はぁ……………」
「私はこれからしばらく留守にするので静かに自習するように。分かりましたね?」
  クロ先生は大したことも言わず、さっさと出ていってしまった。
  流石は『最弱魔法使いの集まり』と名高いY組だ。教師もその一員っぽいな。

  クロ先生退出後、男子はこぞって俺の前にドタドタと集まってきた。

「アヤノンちゃん!  ぜひ俺の隣の席に来ない!?」
「いやいや、ここは毎日髪と机にワックスをかけてる俺の隣に!」
「いやいや、ここはダイエット情報に強いこの僕の隣に!」
「あぁ!? てめぇやんのか!」
「なんだよ陰キャラ野郎が! お前は一生2次元の彼女と次元をへだてた間接キスでもしとけばいいんだよ!」
「それ結果的にキスできてねぇじゃねぇかっ!」

  流石の俺も、これは面喰らってしまった。
  あれ、おかしいなぁ? なんか涙腺がヤバくなってきた。もちろん俺は表面では笑ってごまかしているが。
  これは完全にゲームとかアニメで見るようなハーレムの光景………そう、ハーレムの光景…………。
  なんだよね?
(なんだろう…………初のハーレムのはずなのに全然嬉しくない…………)
  まぁ、理由は言わずもがな、だが。
  そんな内に、男子たちはグイグイと、グイグイと迫ってくる。
「アヤノンちゃん! 俺のところへ来なよ!」
「カモン、マイハニー!」
  いつお前のハニーになったよ!?
「いや、あのちょっと、…………というか、皆隣に女子がいるよね………?」
「大丈夫! あんなアバズレどもすぐに退かすから!」
「いやダメでしょそれは!?」
 俺の失言は結果的に男子の暴走を加速させる結果となってしまった。
 男子たちは隣の女子どもを退かさんとするべく、机を取り上げ、教室はあっという間に大騒ぎとなった。

「ちょっと男子! もうやめなさいよ!」
「どけどけどけー! 今から奪った机で城を作るんだ、だから邪魔すんな!」
「よっしゃ! これから天空の城つくろうぜ!」
「「あんたらホントバカじゃないの!?」」

  もう目的が変わっているじゃないか。小学生の発想かよ。
「これが…………Y組か…………」
「幻滅しましたか?」
  うわっと反射的に跳ね返ると、一人の少女が楽しそうに話しかけてきた。
「でもこれが日常の光景なのです。少しもおかしくないのです」
  少女はじっとその日常を見つめた。
「ハハハ…………これが日常、ね」
「ちょっとガッカリしましたか?」
  心配そうに少女は言った。
「うんうん、まったく。楽しそうでなによりじゃん」
「それはよかったのです! もし嫌であれば私が力ずくであの男子たちを落ち着かせないといけなかったのです~」
「なにそれ、ちょっと怖い」
  何気なく話をしながら、俺はどこかでこの少女の声を聞いたことがあるような………と、そう思っていた。
「あ、私はマリナーラというのです。よろしくです、アヤノンちゃん」
「ああ、こちらこそよろしく」
  取り敢えずだが、俺は男子の謎のおふざけ戦争を背景に、この少女と温かい握手を交わしたのだった。


      *


「校長先生、それは…………本当ですか!?」
「それはそれはまことじゃよ、クロ先生。驚かれたと思うが…………」
 場所は変わって 校長室。
 そこのレトロな机と椅子は、校長の特等席である。彼の前で動揺を隠せないクロ先生は、無性に頭をバサバサとかきむしった。
「あの転校生…………福本には、がないとは…………」
「クロ先生、それには語弊があるぞい。我々には一定量の魔力が必ず存在すると言われておる。それはアヤノン君についても言えることじゃ。しかしあの子には、。それだけのことじゃよ」
「し、しかし校長先生! それでは最初に行う魔法力基礎テストでは、彼女は…………」
「…………先人たちが残していった魔法書によると」
  校長の手元に魔法書がスッと独りでにやって来て、該当するページが開かれた。彼が魔法で持ってきたのだ。
  校長はその文字を辿って言った。
「『魔力は知識や経験、運動神経などからはまったく影響を受けない。そのため、個人が持つ“魔力の量”は増やそうにも増やせないし、努力によって補えるものではない』…………つまり、これは本人が努力しても何ら変わらぬ事実なんじゃ。このまま基礎テストを受けたところで、退学は免れまい」
「そ、そんな………………それはいくら何でもあんまりですよ! まだ来たばかりだと言うのに…………!」
「ま、まぁまぁ落ち着きなさい。まだわしは彼女をさっさと切り捨てようなどとは言っておらん」
「そ、それでは……………一体どうなさるおつもりですか」
  校長は魔法書を片付けると、スッと立ち上がった。その目はいつになく真剣だ。
「これは…………ほぼ噂でしかない。魔法書にも、については詳しく載っておらん。そもそも存在するかもすら分からん。だがわしは…………」
「こ、校長先生…………まさか……………」
  クロ先生にもようやく校長の言わんとすることが読めたらしい。しかしそれは決して明るいものではない。

「校長…………あなたは彼女を…………福本アヤノンをと契約させるおつもりですか?」




  








  
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