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ラサール魔法学校入学編

第10話《校長、ハゲてるってよ》

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      *


  保健室を後にし、 学園内に入ると、日本固有の風景は微塵みじんもなく、西洋の名残っぽい雰囲気が充満していた。中央にはベンチで囲まれた噴水。どこの誰かが育てている花畑。何か知らない銅像。
  これが、ラサール魔法学校…………!
  …………………。
  …………
「どう? 驚いたでしょ?」
  保健室の先生は誇らしげにこちらを見た。
「ラサール魔法学校は、この世界の中心都市、『モール都市』でも有名な名門校なの。歴史も古いし伝統があるから、学校の様式や制服も、いかにもロマンチックな物になってるわ。たっく、この様式の手入れ代が金かかるってのに、あのバカ校長ときたら………………」
「バ、バカ校長って……………」
「あ、そういえばあなた、転校生なら校長に挨拶するんでしょ?」
  そうだった。昨日の夜も、父さんにそう言われたんだった。
  保健室の先生は俺のか弱い肩をガシッと掴み、顔を近づけて、
「…………言わないでよ? 私が手入れ代で文句言ってたってこと………」
「え? ………………あ、あぁ…………」
「い・い・わ・ね!?」
「は、はひぃぃぃぃぃぃ!」
  チクられたくないなら、最初から言わなきゃいいのに………。
  俺は逃げるように学校の中へ入っていった。

「はぁ……………さてさて、やっぱ中もスゴいなぁ…………」
  中に入ると、流石は名門校だなと、改めて感じた。
  外から見れば洋式風。中も確かにそうなんだけど、どちらかと言うと『明治の日本』に近いイメージだ。あの若干和風を混ぜ混んだような、俺たち日本人には分かる、中和された感覚と雰囲気…………。
  下駄箱も無駄に豪華だし、そこいらの照明とか装飾がスゴいし、名門校はみんなこうなんだろうかと、俺は田舎者の気分になった。
  教室も沢山ある。下手したら迷子になりそうだった。さっきの保健室の先生が道順を教えてくれなかったらホントにヤバかった。
  教わった通り、俺は少しずつ迷路の中を突き進んだ。
  校長室はこの建物の一階、一番奥に堂々と鎮座ちんざしているらしい。
  有った。やっと見つけた。
  『校長室』と書かれた札までもが豪華な装飾で、俺は一瞬身を引くような思いになったが、それでも……………
  校長室のドアにノックを叩きこんだのだった。
「失礼します」
  ドアノブをくるりと回し、その塞がれた道を切り開き、するりと中に入り込んだ。
  さっと、俺は敬礼のポーズをとり、一言。
「俺は、このラサール魔法学校に転校してきた、福本ふくもとアヤノンです! 」


      *


  ラサールと聞いて、俺はちょっと、というかけっこう胸の鼓動が高鳴っている。別に性的興奮じゃないよ? 
  そう、母さんは、としか言ってなかったから分からなかったけど、ようやくこの異世界がどういう所か分かった。

  ここは、なんだ!

  はぁ、なんてことなんだろう! こんなマンガみたいなことあるか!? 

「おぉーい、聞いておるか、アヤノン君?」
「はっ!?」
  気がついたら、俺は夢に浸った世界に溶け込んでいたようだ。そう、俺はこのハゲた校長の頭を見つめつつ、魔法という概念の調べを…………
「だからアヤノン君! わしの話を聞かんか!?」
「あぁ!? あ、す、すいませんハゲ…………いや校長先生」
「いまハゲって言ったよね? 校長をハゲという代名詞で呼ぼうとしたよね?」
「え、ダメですか?」
「天然かお主はっ!? ダメに決まっておろう! ワシはここの校長であるからして――――」
「じゃあキラキラ」
「誰の頭がツルツルてかてかだと!?」
「言ってねぇよ!」
「なんと生意気な小娘じゃ! これは性育的指導…………じゃなくて教育的指導をせんといかんようじゃな……………」
「こらこらおじいさん。何を指導するつもりなの?」
  いま、俺が向かいあっているこのハゲこそが、ラサール魔法学校校長、『ハゲ校長』である。
  …………………。 
  一つ言っておく。これは本人曰く、本名だとか。
「ははっ……………名前からすでにハゲてるなんて、校長も大変ですね…………」
「そんな悲しそうな視線をこっちに向けるでない! わしまで悲しくなる!」
  あぁ、…………やっぱり気にしてるんだな。
  校長は「ゴホン」と咳払いし、腰かけた校長席を立った。
「では改めて…………ようこそ、ラサール魔法学校へ。私は先ほど言った通り、この学校の校長の『タッキー&フライドチキン』じゃ」
「ハゲだろ?」
「すいません、ハゲです」
  もういいからさっさと進めてほしい…………。
「うぅ…………ゴホン! それで、君が転校生の『福本アヤノン』君で間違いないか?」
  校長の手元には書類がある。おそらく俺のことが事細かに書かれているのだろう。
「はい、俺がその『福本アヤノン』です」
「ふむ…………口調が『俺』とは珍しいな。『僕っ子』なら見たことあるんじゃが……………まぁ、
  ホント個性的な奴が多そうだなここは……………。
「してアヤノン君。よく校長室が分かったな? ここは結構複雑じゃから、迷うと思っておったが……………」
「あ、それは保健室の先生が場所を教えてくれたんですよ。おかげで助かりました」
「保健室の…………『シルナ』のことか。あのじゃじゃ馬野郎…………」
  どうやらあの先生は『シルナ』というらしい。にしても二人の発言からして………一体二人の間に何があったんだ?
「…………まぁよい。君のことはご両親から伺っておる。なんとも…………信じられない話じゃったが…………」
「校長は…………俺のことを知ってるんですね」
「おぉ、聞いた時は驚愕きょうがくじゃったよ。君がもとは『男』じゃったとは…………しかも、『異世界の住民』ときた」
「驚いてますよ俺も…………女体化したこととか、この世界には魔法があるだとか…………」
「まぁ…………心中お察しするが…………ちょっと君に聞きたいことがある」
「な、なんですか?」
  校長はとくとくと軽い足取りでこちらにやって来て、目をキラキラさせて。
「女の体というのは、どんな感じなんじゃ!? やっぱりスースーするのか? 感じるのか? 胸を揉みたくなるのか!?」
「イね!」
  刀でブウンとぶった切る!
「ギャアアアアアア!?」
  とんだエロオヤジだ。中身が男だからって言って変なこと聞きやがって…………。

  校長も中々のキャラクターが仕上がっていて、俺は少しSAN値が下がり始めていた。
  無惨と化した校長を見て、俺はひとまず「はぁ…………」と深いため息をついた。
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