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ラサール魔法学校入学編

第2話《男なら、女体化した体を………?》

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「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」

  とある公園のトイレで、俺は呼吸の乱れを何とか抑えようとした。だが、息は徐々に荒くなるばかり。別に呼吸困難とか、そんなんじゃない。

  俺のに狼狽するあまり、過呼吸になってるだけだ。

  なぜここにいるのかというと、  病院で姿を見たあと、俺は混乱のあまり病院から時速146メートル毎時でここまで来てしまったのだ。
「…………な、なわけねーよなー!」
  と、俺は声をあげて現実から逃亡を図った。
「お、…………俺の体がになってる…………? み、見間違いだ見間違い! きっと最近エロゲーとかギャルゲーのやり過ぎで、そういう幻覚を見てしまった…………だけ…………だよな? うん、そうだよな!」
  そう、俺がオンナ…………? そんな分けないだろう。それは分かっている、でも気になるから、そーっと鏡を覗き見てみるか…………。
「ま、まぁ! 確認するまでもないけど!? でもやっぱり念には念をとよく言うし――――」

  鏡『ピッチピッチの美少女やで』

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

  俺は鏡に向かって頭突きをかまし、その幻覚を打ち払った。姿を映したそこには、俺の真っ赤な血だけが塗りつぶされる。しかし鏡は割れていない。頑丈だなオイ。
「はぁ…………はぁ…………一体…………どうなってんだよぉ」
  俺の脳は今フル回転中だ。だがいくら考えても、車に引かれて女体化する事例なんて聞いたことがない。それだと全国の交通事故で新たな美男美少女が誕生の産声『なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!?』をあげていることになる。
  俺は鏡に付着した俺の血痕を制服の袖で拭き取り、改めてその姿をこの眼で直視した。
「……………………………」
鏡『お前さんはオンナや、紛れもないオンナや。これはインスタ映えが狙えるでー』
  たしかに…………やっぱりどうみても俺は一人のにしか見えなかった。元々茶髪である特徴以外は全く以前の俺と共通点がなかった。
  髪は茶髪のとんでもないくらいのロングで、今も頭が重くて仕方がない。あとよく見ると若干身長も下がっている。瞳にはカラーコンタクトでもないのに色彩が入ってる。水色だ。あとは鼻の形…………口や眼の配置…………あと声も、何から何まで女の子であった。
「女体化したなんて……………親に言えねぇよ……………」
  色々と疑問に思うことはある。だがその前にすべきことがある。

  そう、帰宅だ。

  今日家には母さんがいて、運悪いことに父さんもいるのだ。いきなり家に帰ってきたら当然、『お前だれだ!』ってことになる。そうなればそのまま警察に「不法侵入」として逮捕されるだろう。俺は紛れもなく福本真地なんだけど……………。
「どうする?……………正直に話してみるか?『車に引かれてなんか女体化しちゃった★』とか言って……………いや変人としてどのみち逮捕だな」
  俺の体は今は女だ。俺のお稲荷いなりさんは消滅し、代わりに“おっぱい”という夢と希望が詰まった産物を携えているんだ。

  …………。

  俺はふと気づく。俺の視線がに釘付けになっているということに。
「…………………」
  俺は黙って胸をわし掴みにした。軽く揉んでみる。
  ――――ムニュ
「…………おぉ、おぉぉぉぉ!」
  胸の背後にある心臓が俺と共鳴を始める。血液の循環が異常に活発となり、それは細い細い枝先にも届いていく。やがて再び来た道を往復し、人間のある部分へと到達した。
「あ、やべ鼻血が…………」
  それでも興奮ぎみの俺は手の動きを止めなかった。
  ――――ムニュムニュ、ムニュムニュ
「さっきまで気づかなかったけど…………女体化した俺って、結構胸あるんだな…………」
  揉みながらこのサイズを脳内で計測する。Dカップ…………? いや、隠れEはあるんじゃないかコレ?
「あ、やべ…………なんかヤバい…………!」
  手をサッと離した。何かが込み上げてきそうな、そんな感じがして…………
「はぁ……………はぁ……………胸を揉むのは取り敢えずやめとくか…………」
  俺は諦めたようにカバンを持って家へと帰還した。


  俺の自宅は電車で10分の所に建っている。閑静な住宅が集まった、とてものどかな所だ。
  俺は周囲からの奇特な視線を掻い潜り、なんとか我が家の前に立った。
  中からは照明の光が漏れている。俺は我が家のドアノブを掴むことさえ戸惑った。いつもなら難なくドアを開く俺だが、今日は勝手がちがうのだ。
「すぅ………………はぁ…………………」
  意を決して、ドアを開いた。
「た、ただいまー………………」
「あ、お帰りなさ………………い?」
  さっそく玄関に現れるうちの母親。その瞳には息子を出迎える勢いがあった。が次第にそれは消え失せていく。
  母はバシャバシャと狼狽した。
「あ、あらごめんなさい! 私ったらてっきり息子が帰ってくるとばかり――――」
「母さん…………俺だよ…………福本真地だよ………………」
「………………え? 真地って……………えぇ!?」
  やはり予想した通りの反応だ。こうなるに決まってる。ここから何とか信じてもらわないと…………!
「あ、あの母さん! 信じてくれないかも知れないけど、実は――――」
  と、事情を話しかけたその時、

「や、………や…………や……………」

「やったわー! ! あなた真地でしょ? 真地なんでしょう!?」
「……………あれ?」
  なんだ、意外と? それに母の反応が異常だ。なんでこんなに喜んでるんだ?
  母はその勢いでリビングまで俺をグイグイと引っ張った。
「ちょっ…………母さん!?」
  リビングにはニュースを見ている俺の父がいた。そこに母は大声で、
「お父さーん! ー!」

  …………は? 今なんて言った…………?

「な、なんだと!? ………真地、その子が真地なのか!?」
  いつも以上に反応をみせる父は、俺に希望の眼差しを向ける。
「そうよ! !」
「そ、そうか…………! やっと、やっと…………!私はこの時をずっと待っていたんだ…………!」

  ……………え? なにコレ?

  俺はこの日、体が女体化した。
  それは俺にとって、とても信じがたく、親である二人に説明したって信じてもらえないだろうと思っていた。

  予想外だった。

  二人は疑うことなく、この茶髪の美少女が俺だと信じたのだ。しかし、そこである疑問が俺の中で生じているんだ。
  二人のは……………まるで俺が、感じだった。それはつまり…………俺はいずれ、女体化する運命であり、それをうちの両親は望んでいた………? 
  そういうことになる。
「………あの、父さん母さん、これってどういう…………」
「うん…………? あぁ、そうだったな。お前は何も知らないんだよな。スマンスマン。私たちだけで盛り上がって…………」
  父は俺のもとに近寄り、衝撃の一言を俺に告げたのだった。


「真地………お前はだったんだよ」
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