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プロローグは突然に

福本真地、死す………?

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 帰りはなんともなかった。

 …………はずだったんだ

 俺はぶらりぶらりと不規則な歩みを進めていた。別に酒に酔っているわけもなく、ただただふざけていただけだ。
 どんな時もふざけていられるのは男子の特権だと思う。どんなに苦しくても、どんなに辛くても、どんなに悲しくても。
 そしてふざけあっていく内に、嫌な記憶も、嫌な思いも全部消しとんで、最後には虹色の空だけが残る。

 ………だけど、それでもがある。

 男子の特権でも通用しない、人の心に巣食う、このだけは………
 きっと北華も同じ思いだったんだろう。
 俺は遅くそれに思い至った。
 他の奴はまったく気にしてる風でもなかった。だから北華は彼らをだと、そう揶揄したんだ。
「………なんかつまんねーな」
 俺ははやくを忘れたいんだ。あんな忌まわしい記憶は――――



      *


『悪い…………俺、もう生きてく自信がないんだよ………』

『やめろ、――――! 死ぬつもりか!?』

『ごめんな、真地。おれ、お前と友達でいれてよかったよ――――』

『――――! ――――!! 』



      *


「いやなこと思いだしちまったよ…………」
 頭を横に振りつけ、邪気を振り払う。
 もうあれは過去の話なんだ、いつまでもこれに縛り付けられるようじゃだめなんだ。

 駅に差し掛かり、もうすぐで帰りの電車がやってくる頃だった。俺は少し足を速める。だが、そこで――――

「ニャー、ニャー」

「うん? この声は…………」

 発生源は近くから。立ち止まり、周囲をすぐに見渡した。
 いた。
 ネコだ。
「おいおい…………こんなところにいたらあぶないぞ、お前」
 ネコは車道の真上でねっころがっていた。かわいいネコだった。三毛猫、というやつか?
「ニャー、ニャー、ニャー」
「たっく…………お前は死にたいのか?」
 俺はネコに近寄り、その場でしゃがみ、抱き抱える。だが――――

「うぉぉぉぉ!? どけどけー!」

「え?」

 俺の目前で、時は一瞬止まった………ように見えた。その時だけ、俺は時間を操る力が欲しいと切にねがったのだ。

 俺の視界はトラックのボンネットで埋め尽くされた。
  
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