上 下
27 / 31
魔法回路の強化

魔法回路の強化.16

しおりを挟む
 昼食を挟んで六時限目の授業が終わり、夕食が始まるまでの間が、放課後として学生に与えられた自由時間だった。買い替えを我慢しているために、だいぶ裾の短くなったスラックスの制服に身を包んだ身を包んだユーミルは、いつになく軽い足取りで、アルザールの尖塔が横目に見える学園の回廊を歩んでいた。
 授業の成果は、どれも好調。薬学も、元素学も、元々得意だった魔法歴史学も、教授に指示された課題は難なくこなしたし、歴史学に至っては、自分から手を挙げて発言できるようになっていた。
 どれもこれもが、『自信』に基づいているせいだ。最初の数回の成功に加え、あの元素学でのめざましい成果が、すっかり自信を失っていたユーミルに、再び闘志の炎を授けてくれた。

 グレンの言葉通り、精神的・身体的な活力や気力というものは、魔法回路の成長に直結しているようで、ユーミルが自信を取り戻せば取り戻すだけ、そこに比例して成果というものは上がっていった。加えて、ユーミルはもう、一人ではない。
 三年もの孤軍奮闘の結果、すっかり擦り切れてぼろぼろになった自信とやる気は、あの曄苑の大魔法士グレンが後ろ盾になると言ってくれたおかげで、元通りになりつつある。いや、むしろ、あのグレンの綺麗な紫水晶の瞳で、今もどこかから密やかに見守られているのかもしれないと思うだけで、入学したばかりの時に感じていたやる気を上回る『何か』が胸の底から湧き上がってくるようだった。

 今の自分は、一人じゃない。愛情表現こそ少々変わってはいるが、見たこともないほど素晴らしい魔法を息するように使いこなすハーフニンフの大魔法士・グレンが傍にいてくれる。こんな自分の支えになると言ってくれている。
 だったら、こんな自分をそこまで気に掛けてくれるグレンの為にも、成長しなければいけないのだとユーミルは考えていた。たとえ大魔法学校を首席で卒業できなかったとしても、落ちこぼれの地位からは脱出したい。他人を陥れたり、卑怯な方法で蹴落とすのは嫌いだった。ただ自分自身が勉強して、努力をして、力を高めて、落ちこぼれから抜け出せばいい。


 回廊から見えるアルザールの尖塔は、魔法士たちの知恵と魔力の結晶だ。
 並の魔法士では、その頂上に辿り着くことは難しく、故に、大魔法学校の卒業試験の課題として設定されている。
 首を上向けなければ見えないほど高い頂上に、果たして自分は辿り着くことができるのだろうか。あと一年足らずの期間で、卒業試験の受験資格を得ることができるのだろうか。

 ふと足を止めて、頂上を雲に覆われた尖塔の影を見つめる。
 多くの魔法士にとって、聖地であり、憧れの地でもあるアルザールに、少し前まではどれだけ手を伸ばしても届く気が全くしなかった。それが今や、少し頑張って飛び上がれば、指先が届くような気がする。
 ユーミルがそう思えるようになったのは、きっとグレンという存在がいるからだろう。週末になれば、あの曄苑はなぞのの大魔法士は、ユーミルの元を訪れると約束してくれた。早く週末になって、そして、『特訓』の成果を自分の口で報告したい。グレン流の魔法回路の開発は、まだ色々知らないことが多すぎて少し抵抗があったけれど、それでも、ユーミルにとって嫌なことだけではなかった。

『グレンのお嫁さんになる、っていうことは…やっぱり、初夜があるんだろうなぁ……』

 身体を繋いで、直接魔法の力を分け与えるという性行為を、グレンはまだ選択しないでおく、と言っていた。そしてそれは、ユーミルの気持ちひとつ、言葉ひとつで変わるのかもしれない。
 ユーミルの胸が、不意にトクンと高鳴った。

『……このまま魔法学校を卒業して…そして、グレンのお嫁さんになるっていうことは、グレンとずっと一緒にいられるっていうことなのかな…』

 常に花園の結界の中に居なければ落ち着かないのだという、美しい大魔法士グレン。彼が、あの優しい笑顔を浮かべて常に隣にいる生活を心の中に思い描いてみる。それは今までに味わったことのない、幸せな日常なのではないだろうか。

 少し頬を染めながらぼんやりと塔を眺めているユーミルの前に、突然、幾つかの黒い影が立ちはだかって、思考を遮ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集

あかさたな!
BL
全話独立したお話です。 溺愛前提のラブラブ感と ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。 いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を! 【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】 ------------------ 【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。 同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集] 等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。 ありがとうございました。 引き続き応援いただけると幸いです。】

アダルトショップでオナホになった俺

ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。 覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。 バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

こじらせΩのふつうの婚活

深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。 彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。 しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。 裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。

僕は灰色に荒廃した街角で天使を拾った。

槇木 五泉(Maki Izumi)
BL
大都会にたった一人、アルバイトで生計を立てる19歳の陽翔(ハルト)の許に、ある日、ひとりの天使が舞い降りてきた──。 年下攻×年上受。ある日突然家に転がり込んできた、ほんわりと優しい年上の男性『天使』と、孤独だったバイト男子の非日常的日常生活。 陽翔は、名前も、役目も、記憶の全てを失くした天使に『ユキヒト』という名前を付けて、築三十五年・ワンルーム・ユニットバス・ロフト付きの古いマンションで二人暮らしを始める。 中の物語は、ワンドロなどでゆっくり進めていきます。 ほのぼのイチャイチャ、時々シリアスな包容力受け路線です。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...