プラナ・ローカへようこそ〜お疲れ課長のヒミツの甘々リフレ~

槇木 五泉(Maki Izumi)

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Prana Lokaへようこそ

12.リピーター

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「……ハイ。じゃあ加賀さん、お手々いきましょう。パソコンばっかり触ってると、意外と凝るんですよねえ…手のひら」
「──う…ぁ…。それ、…すごく、気持ちいい…」

 片手を掴まれ、親指の付け根や、掌の中心の窪みの中を指先でゆっくりと解される。軽く指を反らされたり、引っ張られたりするのも、格別に気持ちがよかった。彼の熱い掌で手に触られるだけで、これほど力が抜けるとはまさか思っていなかったのに。
 そのまま上腕に掛けて、曽根川の掌がゆっくりと滑る。事務仕事で腕に蟠ってた血がゆっくりと心臓に返っていくようで、加賀は胸の奥から深い溜息を零した。

「腕が終わったら、すこし首筋触りますよ…。うん、前よりも首と顎周りのお疲れが取れて、ぐっとセクシーな色男になりました…。そうですねぇ…僕に任せてくれれば、加賀さんならマイナス五歳までアンチエイジング、軽くやれちゃいますよ?」
「そういえば、さっそく二十代の女子に言われたなあ、課長、変わりましたね、って。それだけ、曽根川さんの腕がいいんですね…。…ん、ぁ…ッ…、首のところ…されるの、好き、かな…」

 言葉を交わし続けているうちに、不思議と、以前よりもはっきりと快感の意思表示ができるようになってくる。そして、そこがいい、と伝えると、曽根川の手はその場所を的確に捉えて、強弱をつけて揉み込み、あるいは軽く撫で回してくれた。
 首の両脇を掴まえて、耳の下からすりすりと撫で下ろす体温の高い指先に、全身がゾクンと柔らかく震える。同じ男性の指で触られているというのに、瞼の上がとろりと重くなるほど心地がよかった。神経を皮膚の上から直接擽られているかのような弱いタッチが、本当に加賀を骨抜きにしていくようだ。

 首筋から鎖骨、胸にかけてを撫でるように刺激しながら、曽根川は言葉を続ける。沈黙で満ち溢れた気まずい空気の中で施術を受けるより、甘く耳当たりのいい声で適度に会話を繋いでいてくれる方が、うっかり眠り込まなくて済むので、それは率直にありがたかった。

「……若返って、すっきりした加賀さんを見たら、加賀さんのパートナーさん、驚くんじゃないですか…?」
「パートナー…?…嫁か、彼女か、ですか…。──これが、残念なことに、寂しいバツイチの独り身でね…。十五年前から、仕事がパートナーですよ…」
「えぇ?勿体ない。こんなに渋い、優しそうないい男なんて、誰も放っておかないと思うのに…」

 眉尻を下げる加賀の顔を見下ろし、曽根川はお世辞でもなく素直に、心の底からの軽い驚きを示して瞬きをしている風に見える。


 不思議なことに、巧みな手腕で全身をしっかりと解されていると、固く引き結んでいた口まで柔らかくなるようだった。普段ならば絶対に他人に打ち明けない、プライベートな『恥』の部分まで、曽根川 咲斗という名のセラピストの前で、この際洗いざらいぶちまけてしまいたくなったのだ。加賀が抱えた問題は、確かに加賀の肉体が大いに関係していた。

「──十五年ほど前に、ね。…突然、あっちの方が、すっかり駄目になってしまって。何をやっても勃たなくなって…それで、女房に浮気されて、そのまま逃げられたんだ」

 だから、今はすっかり物理的に草食のおじさんだ、と自嘲気味に加賀は笑う。
 実際、自身の男性としての機能が失われたことで、妻に裏切られ、男としてのプライドも大いに傷付く破目になった。以来、所帯を持ちたいという意欲もなく、この状態を積極的に治療しようという気にはなれずに今に至る。

「…あっちの機能不全、というのは、その──男性器の、勃起力のことですか?」
「うん、そう。…ははは、みっともない話を聞かせてしまったな──」

 こんな話を打ち明けられたところで、相手が反応に困るであろうことは目に見えていたというのに、それでも彼の前で口を割らずにいられなかったのは、一体何故だろう。
 曽根川の施術の手が、ぴたりと止まった。困惑させてしまったのかと思って真上に位置するその顔を見上げれば、彼はしばらく、難しげに眉根を寄せて何かを考えている様子だった。そして次の瞬間、彼はその美貌に、実に真剣で熱のこもった表情を浮かべ、加賀をじっと見下ろして口を開く。

「大事なことを打ち明けて下さって、ありがとうございます。加賀さん。…僕ね、それ、治せると思います」
「は──?」
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