プラナ・ローカへようこそ〜お疲れ課長のヒミツの甘々リフレ～

Prana Lokaへようこそ

10.リピーター

「さあ、じゃあ、やっていきましょうね。まず足からいきます…」
「……ん…っ…」

　曽根川の手は、相変わらず体温が高くて心地よかった。まず、革靴に押し込められていた足の裏をゆっくりと、指先と拳とを使って揉み解し、土踏まずのツボにぐっ、ぐっ、と深く指を入れられる。

　あぁ、やっぱりこれなんだ、と加賀は確信した。力加減も、指圧する場所も、全てが心地良く感じられるのは、曽根川のテクニックがあるからなのだ。
　足の指の間に指を差し込まれ、指の股を広げられて、足指を引っ張るようにして伸ばしてくる。たちまちのうちに背骨まで溶かされるような気分になり、加賀は思わず、喉の奥から淡い溜息を零してしまった。そしてそれはすぐに聞きつけられ、睫毛の長い瞳を細めて、曽根川が嬉しげに笑う。

「気持ちいいでしょう…？これはタイ古式マッサージの技と考え方なんですけど、足には、『セン』っていうエネルギーのラインが多く通っているんです。心臓から遠いし、日常生活での負担が大きい場所ですからね、そこをまずゆっくりと揉み解して、緊張を解いていくことが大事なんです。…あ、足の裏は、台湾式も取り入れてますけどね」
「──台湾足ツボマッサージって、痛いって聞くけど…曽根川さんのは、全然…」
「そうなんです、痛くないようにやってます。ウチでは、お客さんには、とにかく気持ちよくなって欲しくて…。その分、タイ式とか、アーユルヴェーダとか、別の方法で補えばいいでしょう…？でも、本当に悪いところは、痛くてもちょっと我慢して貰ってます」
「…凄いテクニックですね…。…あぁ、本当に気持ちいい──。これは、この一週間、仕事を頑張った甲斐があったなぁ……」
「はい、楽にして…。膝曲げて、腰を伸ばしていきますから…。…うん？」

　温かく大きな掌は、足の裏から、脛を包み込むようにして、ゆっくりと揉み込みながら心臓に向けて上に流してゆく。一度締めつけられた筋肉が解放される瞬間に生じる、解放的な気持ちよさにうっとりと溜息を吐いていると、加賀の太腿に触れた曽根川が、不意に手を止める。
　ちょっと失礼します、という短い言葉と共に、施術着のパンツの裾から入り込んだ掌が、直接太腿の肌の下の具合を確かめるように触れてきて、思わず喉の奥から引き攣つれた悲鳴を零してしまった。

「……ひ……！」
「…加賀さん。ここに来る前に、どこか他の整体とかマッサージとか、行かれました…？」

　曽根川の的確な言葉は、実に驚くべきものだった。まさか、軽く触っただけで、一週間も前に受けたリフレクソロジーの施術のことまで解るとは、あまりにも信じられなかったのだ。そして、左眼下に泣き黒子ぼくろのある目を大きく見開いて息を飲む加賀の様子は、声に出さずとも全てを物語っていたのだろう。ふむ、と頷く曽根川とまともに目が合うと、気恥ずかしさばかりが込み上げてきて、頬がさぁっと熱く焼けていく。

「──えぇと、一週間前に…別のチェーン店を…試したんです。…その、リフレクソロジーって、どこで受けても同じなのかどうか、解らなくて…ちょっと、興味が湧いてしまって…」
「リフレは初めてだ、って仰ってましたからねえ」
「……でも、全然違いました…。…ちっとも満足できなくて…かえってストレスが溜まった、というか…」
「ははぁ、それでまた、僕のところに来てくれたんですね…？…ふふっ、嬉しいな。じゃ、加賀さんが他のところに浮気できなくなるまで、今日はじーーーーっくりといきますからね…」
「う、浮気…ッ？……ン…ッ…」