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第五章 Memorado pri Verda(メモラード・プリ・ヴェルダ)
Memorado pri Verda.5 ※
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「──ふ、ぁ……、ん…ッ…!」
古びた大理石の暖炉に惜しみなくくべられた薪がパチパチと爆ぜ、明かりと暖気となって砦の部屋を柔らかく満たしている。その薪の爆ぜる音に、ピチャピチャと湿った水音を混ぜ込みながら、ルゴシュが鼻に掛かった声で甘く呻いた。
広い寝台の上で仰向けになったゲオルギウスの上体を跨ぐようにして、その股座に顔を埋めるルゴシュは、すっかりそそり勃った巨きな肉の槍を口に含んで、一心不乱に顔を揺らしながら舌を絡ませていた。最初のうちこそ、ルゴシュの雄の部分を同じように口の中で嬲ってやっていたのだが、二回り近くは小柄な男が自分の為すべきことに夢中になり始めると、自ずとその身体が下がっていって、同じことをしてやるのが難しくなってくる。おまけに、鋭い真珠色の牙を当てないように気を払いながらのルゴシュの口淫は、浅ければ浅いほど、もどかしくて仕方がない。お返しに咥内で弄ぶ代わりに、慎ましく閉ざされ、蕾んだ入口の縁に、香油入りの軟膏を指先で塗り付けて、浅く指先を出し挿れしてやる。低い体温に反して随分と熱い隧道の内側を構ってやると、肉付きの薄い腰がビクリと跳ね上がって、ゲオルギウスの太く武骨な指を健気なほどにきゅっと喰い締めてきた。本来、自然な交わりの為に用いられる場所ではない蕾まりは、彼が持っている恐るべき肉体回復力のせいか、どれほど乱暴に交わっても一向に慣れる兆しがない。だというのに、肉体ばかりはそこで感じる穢れた快楽をすっかり記憶していて、淡く腰を揺らしながらゲオルギウスを更に奥へ招き入れようとしてくるのが、何とも猥らがましかった。
狭窄した肉壁を慣らすための油薬には、いつぞや使ってやった、罌粟の花から抽出したという媚薬を薄く練り込んである。彼を酷く鳴き狂わせたあの日以来、それをそのまま使おうとすると相当な抵抗を受け、使い道もなかったのだが、膏薬の香油で匂いを掻き消せる程度の量を気付かれないうちに粘膜に擦り込んでやると、ルゴシュは悩ましげに乱れ、火照った姿態を晒して、存分に感じ切っていた。
そうして徐々に余裕の削がれていく壮齢の男を眺めていると、胸の内で荒れ狂う、ただこの男にだけ向かう嗜虐の衝動に凶暴なまでの拍車が掛かる。如何に捩れ、歪んだ獣のような欲望だとしても、不完全な誘引という力に支配されたゲオルギウスにとっては、抑えるべくもない衝動だった。必ず殺すと決めた相手に図らずも魅了され、葛藤の中で苦しみながら、それでもこの吸血真祖に『小さな死』を与えることで満たされる暗澹とした欲望の器がある。そして、何人の妨げもないこの空間において、殊更時間を掛けて、じっくりとその器を満たしてやりたいという欲求の存在を認識し、ゲオルギウスは半ば諦観しながらも、その慾に身を委ねることを躊躇わなかった。
「ッく、ぅ、──う……ッ…!」
「ほら、口を休ませるな、濡らしておかなければ、辛いのはお前だろう…?」
「…く──あ、ァ…っ…。」
まだ軽く撫でて油薬を塗り込めてやっただけの縁に、二本目の指を宛がってズプリと穿つと、下腹に顔を埋めるルゴシュの咽喉から少々苦しげな声が漏れる。構わずに、狭い肉の壁の中を媾合の為に造り変えるべく、ぬちぬちと音を立てて指を動かし、力の抜き方だけは覚えた内側が馴染むのを辛抱強く待ち続けた。
グリ、と指先で探り当てた泣き所を押し込んでやると、屹立した雄を深々と咥え込んだルゴシュの咽喉が、苦鳴のような声を立てる。幾度耳にしても満ち足りることも、飽きることもない壮齢の男の嬌声は、その銀色の歌声に等しいほどに若い神父の心を掴んで止まなかった。
敢えて、彼の矜持を揺さぶる言葉を投げ掛けて、その身体の熱を煽る。
「なかなかいい眺めだな、不死伯。こんなにいやらしくヒクつかせて、腰まで振って…。俺の指は、そんなに悦いか…?」
「──ッ、もう…意地の悪いことは、止せ…。キミこそ、充分だろう…?ここは、火傷をしそうな程に熱くて、こんなに硬く脈打って…。──っ、ああぁッ…!…ぁ、…もう…いい……だろ…おっ…?」
ちゅ、と音を立てて、口の中で扱き立てていた肉の強張りを離し、手のひらで包んで揺することでゲオルギウスの青い欲情を尚も掻き立てようとしてくる。そんな煽情的なルゴシュの余裕を更に削ってやろうと、内壁を指の腹で引っ掻くように激しく掻き回して、更に悲鳴を上げさせてから、ゆっくりと引き抜いた。体温の低い常の彼の肌より、心なしか火照ってしっとり汗ばんだ白皙の痩身を抱きかかえ、位置を入れ替えて、柔らかな寝台の上にトサリと横たえる。小柄な体躯へ覆い被さって影を落とす、一回り以上も大柄な若い男の首筋に、待ち焦がれていたように咽喉を鳴らしながら腕を回して縋る男の口許は濡れそぼち、翡翠の双眸は歓喜に滲んでいた。彼の翠の眸の中に映る己の顔が一体どのような昏い表情を浮かべているのかは知る由もなかったが、この先の退廃的な淫蕩を待ち焦がれる溶けた表情は、四十路の半ばから五十路の男のそれであるというのに、大層艶めかしいものであるように思えるのだった。
「──力を抜いていろ、ジェダス…。お待ちかね、だろう?」
「…あぁ、ギィ──。」
ゲオルギウスの逞しい腰を抱き取るように二本の細い脚が絡むのは、精気という飢餓感を満たそうとして急いているからなのか、或いは、穢れた快楽を待ち侘びているからなのか。何れにせよ、ゲオルギウスの為すべきことはひとつだ。
ルゴシュがしっかりと縋り付いてくるのをいいことに、彼自身の唾液で十分すぎるほど濡らされた剛直の切っ先を、媾合の為に解した慎ましやかな入口の上へと滑らせるようにして宛がう。ルゴシュが深く息を吐き出すのに合わせ、ぐっと腰を押し付けて、何度同じ行為を繰り返しても物慣れることのない隘路を緩やかに切り開いていった。
「ッく、ア、ああぁ──ッ──!」
「…ッ、いい加減に──慣れろ…っ。もっと奥まで挿入ってやる──!」
組み敷いた小さな身体で受け止めるには大きすぎる肉の楔を捻じり込まれ、ルゴシュの上体がびくびくと撓る。泣き出しそうに歪んだ眉間に、苦痛と快楽が綯い交ぜになった複雑な表情を宿して侵入の圧迫感に耐え、ゲオルギウスの背に縋ってくる力は、見た目の細さからすると考えられないくらいに強い。押し込まれる肉槍を包む肉壁は、幾度貫いても、最初はきつい程の力で押し返そうとしてくるが、難所を抜ければ存外にすんなりと奥まで進めることができた。肚の内側を暴かれる年嵩の男の唇から、悲鳴と溜息が交じり合ったような、何とも言えない声が溢れ出す。
ゆるりと腰を引き、内壁を擦り上げながら奥を叩くように突き上げた。
「ふ…ァ、──ああぁッ……!…ギィ、──ギィ…っ…!」
「──言っておくが、俺はお前に、無理矢理ここに連れ込まれたんだぞ?…この上、お前の泣き言を聞いてやる筋合いなんかない。俺の気が済むまで、たっぷり泣き喚かせてやる。精々、覚悟しておくんだな…!」
「…は、──熱…ッ…、中…、埋め尽くされ…て……苦し…ッ──!ア…ああぁッ…!」
間髪を入れず、濡れた音を立てて激しく抽挿を繰り返す。労わりも、慈しみも必要としない爛れた交わりの中、ただ組み敷いた男の苦悶と紙一重の嬌声だけが欲しくて、汗ばむ身体を打ち付けて貫くことで、己という存在をルゴシュに刻み込んだ。繰り返し、繰り返し、身体の奥に情欲の杭を打ち込みながら、この男の精神を束の間、この世ならぬ忘我の境地に追いやることで、己の中の歪み切った怨讐が確かに宥められるのだということを、ゲオルギウスは最初の頃より幾分か素直に受け入れられるようになっていた。
「…イ──ぁ、…そこ…ばかり、ッ──!…ぁ、駄目だ、…い…達く…ッ──、達く──!」
「ハハハッ、もう我慢が出来なくなったのか、いつもより随分と淫らだ…ジェダス。──いいだろう、欲しがっていたモノをくれてやる。そら、…達け…ッ…!」
腕を、足を絡ませながら、ゲオルギウスに力任せに揺さぶられるルゴシュの翡翠色の眸はぼんやりと曇り、薄く開かれた唇からは、人間にはない象牙色をした二本の牙が覗いている。一度目の絶頂感を訴えてヒクヒクとうねる内壁に絡め取られ、ゲオルギウスはルゴシュに果てを見せる代わりに、自分自身の最初の慾を吐き出すことを許した。深々と唇を重ねながら彼の腹の裏側の一点を狙いすまして切っ先で突き上げ、今わの際の悲鳴さえ我が物にせんとばかりに、激しく唇を重ねて貪り喰らう。
「──ッふ、……ウうぅ──ッ…!」
痩せた全身が波のように震え、下腹に、熱い飛沫が迸るのを感じた。身体の内側を突かれただけで呆気なく果てるルゴシュの痙攣に締め込まれ、大きく息を吐きながら、内奥に若い精液を、不死者にしてみれば食餌ともなる熱いものを存分に注ぎ込んでやった。
「…ふ──ッ、──ァ…、あ……っ。」
呼吸まで喰らい尽くす激しい口づけを静かに解くと、口許をはしたなく濡らしたルゴシュはとろりと双眸を蕩かせて、白い頬を上気させて荒い呼吸を繰り返している。男として不自然な方法で得た快楽は、ルゴシュの中でゲオルギウスが感じた絶頂とは質が異なるようで、果ててもしばらくはその身に留まり続けているものであるらしい。その証拠に、戯れに胸の上で淡く色づいた二つの尖りを指先で転がしてやると、彼は悲鳴じみた声を張り上げて、力の籠もらない身体を揺らして必死でゲオルギウスの下から逃れようとするのだ。
「やだ…、やだぁ──ッ…!──いま…駄目……ッ…!」
「何だよ、終わったばかりの時に触られると、擽ったいのか?──その割に、お前の中はまだ欲しがって喰い付いてくる。…嘘つきには、罰が必要だな。肚の中を目一杯鞭打ってやるよ…。」
「…ヒ…ぁ…、ほ──本当に、辛いってば……!ッ、ぁ、──そんなに…激し──ッ!」
若く逞しいゲオルギウスの欲情は、すぐさまルゴシュの温かな体内の蠕動に包まれて容易く奮い立つ。吐き出した精を塗り込めるよう、ぐちゃぐちゃと淫らな音を立てて中を掻き混ぜてやると、細い身体はいっそ面白いほどにがくがくと跳ね上がった。もし、吸血真祖である彼が本当に痛みや苦しみを感じているのであれば、人間であるゲオルギウスの身体を跳ね除けることなど容易い筈だ。しかし、一度こうして逃れられない快楽の連鎖に突き落としてしまうと、傷ひとつない彼の白い四肢からは、実に正直にくたりと力が抜け果てる。
神と精霊の目すらも届かないのではないかと思われる、温かな砦の一室で、ゲオルギウスの心には、間違いなくルゴシュの媚態と性的な快楽を堪能する余裕というものが生じていた。そして、それは、彼に言わせれば古井戸の底のように薄気味の悪い、人間の聖域での交わりを強いられることのないルゴシュにしても、また同じことなのだろう。いつもより随分と感度のいい肌を指先で擽ってやると、彼は甘ったるい鼻声を立ててゲオルギウスにしがみ付いてきた。汗ばむ身体から立ち昇る、甘く脳を蕩かす誘引の香気に侵されて、より貪欲に狙いを定めて最深部へと楔を突き進める。
と。
ぐぷ、と楔の切っ先が柔い肉の中に潜り込む手応えを感じた。果てだと思っていた肉の壁には僅かな綻びが生じ、更に先への路があることを教えてくれる。
途端に、ルゴシュの細い咽喉が、ひゅうっと掠れた音を立てた。自分の身体に一体何が起きたのかまるで解らない、そんな表情で大きく目を見開き、茫然とゲオルギウスの顔を見詰める翡翠色の瞳がある。
「──な……に、……こんな…の、──知らな……っ…!」
「…ふん?何百年生きてきたお前にも、知らないことがあるのか──。もっと奥まで挿入れそうだ。…力を抜け、ジェダス。このまま、ここを抉じ開けてやる…。」
「ゃ──。駄目、だ、それ、以上──!絶対…お、…おかしくなる──っ…!…だめ…ダメ──ッ…!」
「……へぇ、本当に『知らない』のか。──本当に嫌ならば、俺を振り払えばいいだけだろう。…出来ないのか…?ほら、もっと脚を大きく開け、──あぁ、もう少しだ…。」
とつ、とつ、と、小刻みに腰を捻じ込むように穿ち入れることで、最果てだとばかり思っていた隧道の壁が少しずつ緩み、楔を受け容れていく。じわじわと、まるで槍の先端にくちづけをするように少しずつ含んでいく第二の門が身体の中にあることを、ゲオルギウスは初めて知った。そして何より、そこを暴かれるルゴシュ自身ですら、まるっきりその存在を知らなかったと言わんばかりに、驚愕に凍り付いた相貌に恐怖の色すら浮かべている。
ざわり、と。
その貌を眼にした瞬間、ゲオルギウスの中で蠢く粗暴な嗜虐の大蛇が、静かに鎌首を擡げるのが解った。こうなってしまえば、最早この荒れ狂う衝動に歯止めなど掛けられるはずがない。それと知って、心の中に飼っている、神職にはあってはならない筈の狂気的な感情という獣を檻から解き放った。必死で首を揺らし、逃れようと儚く身を捩るルゴシュの両脚を抱え込み、身体を押し付けるようにして少しずつ侵食していく。
耳先の尖った、貝殻のような耳朶に淡く歯を立てて、熱し切った笑みと共にゲオルギウスは囁いた。
「不死鬼には、子宮があるのか──?なら、俺の子を孕ませてやるよ。お前が今までこの世に生み出してきた混血鬼の数に比べれば、些細なものだろう…?──ハハハッ、なんて顔だ…!…いいぞ、腹の奥に、『俺』を植えてやる──!」
「──そ…んな、…バカなこと…っ、──ッ…ぁ、お願……ッ、──止め……!」
力なく虚空を蹴って震える足を無造作に掴み、一思いに腰を使って抉り上げた、その瞬間。
くぷり、という不思議な感覚と共に、楔の切っ先が狭く蕾んだ柔肉の中に潜り込んだのが解った。うねり、締め込み、押し包む未知の快美感に、ゲオルギウスは恍惚と目を細める。
下肢が隙間なくぴったりと密着するほど深くまで身体を繋がれたルゴシュは、大きく見開いた翡翠の睛に何も映さず、ただ凍てついたように時を止めていた。混乱、驚愕、恐怖、ありとあらゆる負の感情が入り混じった表情で、最奥を貫く未知の衝撃をどのように処したらよいのか、決めかねている様子だった。
だが、その時間停止の堰も、程なく決壊を見る。
「──か、……はッ…。うぁ、……アアアァッ──!」
細く小さな身体が、じっとりと汗に塗れて、ゲオルギウスの身体の下で壊れた玩具のようにがくがくと跳ね上がる。ビシャッと勢いよく腹の上に浴びせられた、不可思議な熱い体液は、触れてみればさらりとして、精液のように青臭くもない。
悲鳴も上げられずに身悶えるルゴシュの身体に何が起こったのか、俄かには信じられなかった。濃青の瞳を驚きに見開いて、自らの指を湿す透き通った体液を眺める。
不意に、腹の底から、狂気じみた歓喜の情が嵐のように湧き起こった。そして、それを止める手立ては、今のゲオルギウスにはない。けたたましく嗤いながら、今までに誰も暴いたことのないというルゴシュの身体の再奥地を、腰を引いて押し広げるように幾度も突き上げる。その度に、声にならない悲鳴と共に、彼の雄の部分は震えながら透明な体液を放った。細腰を鷲掴みにして幾度身体をぶつけても、ルゴシュは、苦痛や怒りの色を見せることはない。今、彼の全身を脳髄まであまねく支配しているのは、自制が効かないほどの狂おしい快感なのだ。
「は──はははは、っ…!あぁ…ジェダス…、女のように達った…?ここに男を咥え込んだのは、初めてか…。だったら、この味を二度と忘れられなくなるまで、滅茶苦茶に刻み付けてやるよ…!」
「──や……め、……ゲオル…ギィ…、──も、狂…う…、頭が、アタマ…の、中が…!──は…あ、ぁッ、──だ…め…、動かさ…ないで……あぁ、助け……て…!」
「く、はは──ッ…!不死伯が、武装神父に命乞いか…?どんなに痛めつけても泣き言ひとつ漏らさなかった、あのお前が…!──あぁ、いい。お前のここは、俺にいやらしく絡んで…吸い付くように具合が良いな…。さあ、鳴け、みっともなく泣き喚けよ、ジェダス…!狂え…!狂えッ──!」
何度でも杭打たれて、我を忘れて鳴き狂う様を。
全身、瘧に掛かったようにがくがくと震わせながら、下腹をびっしょりと濡らして小さな死に近しい深い絶頂に溺れる様を。
濃い青の歪んだ視野に映して、ただ嗤いながら吸血鬼を攻め立てる男の身には、果たして、聖職者として民草に神と精霊の教えを説く資格など、あるものだろうか。
理性を手放し、黒い情念と深い怨讐に突き動かされるだけのゲオルギウスには、それすらも覚束なかった。
「──く…!」
繰り返し打ち付けられる破城槌の前に、あえなく明け渡された第二の門を心行くまで突き崩している間、ルゴシュの身体には、絶え間ない絶頂を示す痙攣が走り抜けていた。そして遂に、その細い身体の最も深いところでゲオルギウスの狂暴な堰は切れ、腰を抱え上げて引き付けながら、これ以上なく深い腹の中に二度目の精をどくどくと注ぎ込む。
気が付けば、全身、通り雨を浴びたような汗に塗れていた。呼吸は、十里を一息に駆け抜けたように荒く上擦り、心臓が張り裂けんばかりに脈を打っている。
身体の下で、どちらのものかも分からない汗と体液でしとどに濡れたルゴシュは、微動だにせずに目を見開いたまま横たわっていた。見事な銀髪は汗で幾つもの束になって額に貼り付き、見るも無残で、故に例えようもなくゲオルギウスの劣情を煽る姿だ。初め、この壮齢の不死鬼を、抱き潰して殺してしまったのかと思った。だが、ひゅうひゅうと掠れた息の音を立てる喉笛と、薄く上下する胸が、彼の命が潰えずに残っていることを辛うじて教えてくれる。
もし、この男に子宮という器官が備わっていて、正当な行為の結果、この薄い腹に子が宿ったら。
そんな馬鹿げた妄想と共に、未だにゲオルギウスの一部を含まされたままの臍の下を軽く手のひらで押さえてみると、彼は断末魔のような掠れ切った悲鳴を張り上げ、小さく身を震わせた。触れられただけで軽く絶頂を覚えてしまうほどに打ちのめした身体から、ゆっくりと身を引いて繋がりを解く。
「ジェダス──。…ジェダス?──正気でいるか…?」
「────う………、ぁ……。」
小刻みに戦慄く全身、何処に触れられても、今は過ぎた快楽の余韻を掻き立てられて悲鳴を漏らすばかりのルゴシュは、力なく寝台に横たわって、指一本動かす気力すらないらしい。
今ならば、この心臓に杭を叩き込んで屠ることも容易い筈。なのに、それができない武装司祭としての自分自身の在り方を、ゲオルギウスは内心で自嘲した。拷問のような媾合に打ち震えることしかできない年嵩の男の頬を一撫ですると、その指先に熱く静かな奔流を感じる。
「ジェダス…?──泣いているのか。」
「──う…ぁ、…あああぁ…アッ…。」
初め、無言のうちにはらはらと涙を零していたルゴシュは、ゲオルギウスの呼び掛けに、食い縛った歯の間から嗚咽を漏らし始めた。常日頃、尊大な態度を崩さないこの男が、ゲオルギウスの前で放心したまま子供のように泣きじゃくる様子は、すっかり昂った若い神父の狂暴な衝動を少なからず宥めてくれる。
くっくっと咽喉の奥で笑いながら、ゲオルギウスは恥も忘れて呆然と泣き続けるルゴシュの細身を、そっと背中から抱き竦めた。慈しみというよりは、弓を与えられた子供が初めて射落とした獲物を抱き締めて誇らしげに愛おしむに近い心境で、止まらない号泣と共に自失するルゴシュの銀色の髪に頬を押し当てて、共に寝台に横たわる。
「──あ…あ…、うああぁ……ッ…。」
「泣くほど悦かったのかよ──。可愛い奴だ。千年以上生きてきて、初めてだったか…。なら、後にも先にも、お前のここを暴けるのは俺だけだ。…言っただろうが、他の男にこんなことをさせたら、お前を殺してやる──。」
震える耳の先を甘く噛んで、そっと囁いた。その言葉が、慟哭する彼の思惟に届いているかは定かでなかったが、そう言わずにはおられなかったのだ。
「──ふ、ぁ……、ん…ッ…!」
古びた大理石の暖炉に惜しみなくくべられた薪がパチパチと爆ぜ、明かりと暖気となって砦の部屋を柔らかく満たしている。その薪の爆ぜる音に、ピチャピチャと湿った水音を混ぜ込みながら、ルゴシュが鼻に掛かった声で甘く呻いた。
広い寝台の上で仰向けになったゲオルギウスの上体を跨ぐようにして、その股座に顔を埋めるルゴシュは、すっかりそそり勃った巨きな肉の槍を口に含んで、一心不乱に顔を揺らしながら舌を絡ませていた。最初のうちこそ、ルゴシュの雄の部分を同じように口の中で嬲ってやっていたのだが、二回り近くは小柄な男が自分の為すべきことに夢中になり始めると、自ずとその身体が下がっていって、同じことをしてやるのが難しくなってくる。おまけに、鋭い真珠色の牙を当てないように気を払いながらのルゴシュの口淫は、浅ければ浅いほど、もどかしくて仕方がない。お返しに咥内で弄ぶ代わりに、慎ましく閉ざされ、蕾んだ入口の縁に、香油入りの軟膏を指先で塗り付けて、浅く指先を出し挿れしてやる。低い体温に反して随分と熱い隧道の内側を構ってやると、肉付きの薄い腰がビクリと跳ね上がって、ゲオルギウスの太く武骨な指を健気なほどにきゅっと喰い締めてきた。本来、自然な交わりの為に用いられる場所ではない蕾まりは、彼が持っている恐るべき肉体回復力のせいか、どれほど乱暴に交わっても一向に慣れる兆しがない。だというのに、肉体ばかりはそこで感じる穢れた快楽をすっかり記憶していて、淡く腰を揺らしながらゲオルギウスを更に奥へ招き入れようとしてくるのが、何とも猥らがましかった。
狭窄した肉壁を慣らすための油薬には、いつぞや使ってやった、罌粟の花から抽出したという媚薬を薄く練り込んである。彼を酷く鳴き狂わせたあの日以来、それをそのまま使おうとすると相当な抵抗を受け、使い道もなかったのだが、膏薬の香油で匂いを掻き消せる程度の量を気付かれないうちに粘膜に擦り込んでやると、ルゴシュは悩ましげに乱れ、火照った姿態を晒して、存分に感じ切っていた。
そうして徐々に余裕の削がれていく壮齢の男を眺めていると、胸の内で荒れ狂う、ただこの男にだけ向かう嗜虐の衝動に凶暴なまでの拍車が掛かる。如何に捩れ、歪んだ獣のような欲望だとしても、不完全な誘引という力に支配されたゲオルギウスにとっては、抑えるべくもない衝動だった。必ず殺すと決めた相手に図らずも魅了され、葛藤の中で苦しみながら、それでもこの吸血真祖に『小さな死』を与えることで満たされる暗澹とした欲望の器がある。そして、何人の妨げもないこの空間において、殊更時間を掛けて、じっくりとその器を満たしてやりたいという欲求の存在を認識し、ゲオルギウスは半ば諦観しながらも、その慾に身を委ねることを躊躇わなかった。
「ッく、ぅ、──う……ッ…!」
「ほら、口を休ませるな、濡らしておかなければ、辛いのはお前だろう…?」
「…く──あ、ァ…っ…。」
まだ軽く撫でて油薬を塗り込めてやっただけの縁に、二本目の指を宛がってズプリと穿つと、下腹に顔を埋めるルゴシュの咽喉から少々苦しげな声が漏れる。構わずに、狭い肉の壁の中を媾合の為に造り変えるべく、ぬちぬちと音を立てて指を動かし、力の抜き方だけは覚えた内側が馴染むのを辛抱強く待ち続けた。
グリ、と指先で探り当てた泣き所を押し込んでやると、屹立した雄を深々と咥え込んだルゴシュの咽喉が、苦鳴のような声を立てる。幾度耳にしても満ち足りることも、飽きることもない壮齢の男の嬌声は、その銀色の歌声に等しいほどに若い神父の心を掴んで止まなかった。
敢えて、彼の矜持を揺さぶる言葉を投げ掛けて、その身体の熱を煽る。
「なかなかいい眺めだな、不死伯。こんなにいやらしくヒクつかせて、腰まで振って…。俺の指は、そんなに悦いか…?」
「──ッ、もう…意地の悪いことは、止せ…。キミこそ、充分だろう…?ここは、火傷をしそうな程に熱くて、こんなに硬く脈打って…。──っ、ああぁッ…!…ぁ、…もう…いい……だろ…おっ…?」
ちゅ、と音を立てて、口の中で扱き立てていた肉の強張りを離し、手のひらで包んで揺することでゲオルギウスの青い欲情を尚も掻き立てようとしてくる。そんな煽情的なルゴシュの余裕を更に削ってやろうと、内壁を指の腹で引っ掻くように激しく掻き回して、更に悲鳴を上げさせてから、ゆっくりと引き抜いた。体温の低い常の彼の肌より、心なしか火照ってしっとり汗ばんだ白皙の痩身を抱きかかえ、位置を入れ替えて、柔らかな寝台の上にトサリと横たえる。小柄な体躯へ覆い被さって影を落とす、一回り以上も大柄な若い男の首筋に、待ち焦がれていたように咽喉を鳴らしながら腕を回して縋る男の口許は濡れそぼち、翡翠の双眸は歓喜に滲んでいた。彼の翠の眸の中に映る己の顔が一体どのような昏い表情を浮かべているのかは知る由もなかったが、この先の退廃的な淫蕩を待ち焦がれる溶けた表情は、四十路の半ばから五十路の男のそれであるというのに、大層艶めかしいものであるように思えるのだった。
「──力を抜いていろ、ジェダス…。お待ちかね、だろう?」
「…あぁ、ギィ──。」
ゲオルギウスの逞しい腰を抱き取るように二本の細い脚が絡むのは、精気という飢餓感を満たそうとして急いているからなのか、或いは、穢れた快楽を待ち侘びているからなのか。何れにせよ、ゲオルギウスの為すべきことはひとつだ。
ルゴシュがしっかりと縋り付いてくるのをいいことに、彼自身の唾液で十分すぎるほど濡らされた剛直の切っ先を、媾合の為に解した慎ましやかな入口の上へと滑らせるようにして宛がう。ルゴシュが深く息を吐き出すのに合わせ、ぐっと腰を押し付けて、何度同じ行為を繰り返しても物慣れることのない隘路を緩やかに切り開いていった。
「ッく、ア、ああぁ──ッ──!」
「…ッ、いい加減に──慣れろ…っ。もっと奥まで挿入ってやる──!」
組み敷いた小さな身体で受け止めるには大きすぎる肉の楔を捻じり込まれ、ルゴシュの上体がびくびくと撓る。泣き出しそうに歪んだ眉間に、苦痛と快楽が綯い交ぜになった複雑な表情を宿して侵入の圧迫感に耐え、ゲオルギウスの背に縋ってくる力は、見た目の細さからすると考えられないくらいに強い。押し込まれる肉槍を包む肉壁は、幾度貫いても、最初はきつい程の力で押し返そうとしてくるが、難所を抜ければ存外にすんなりと奥まで進めることができた。肚の内側を暴かれる年嵩の男の唇から、悲鳴と溜息が交じり合ったような、何とも言えない声が溢れ出す。
ゆるりと腰を引き、内壁を擦り上げながら奥を叩くように突き上げた。
「ふ…ァ、──ああぁッ……!…ギィ、──ギィ…っ…!」
「──言っておくが、俺はお前に、無理矢理ここに連れ込まれたんだぞ?…この上、お前の泣き言を聞いてやる筋合いなんかない。俺の気が済むまで、たっぷり泣き喚かせてやる。精々、覚悟しておくんだな…!」
「…は、──熱…ッ…、中…、埋め尽くされ…て……苦し…ッ──!ア…ああぁッ…!」
間髪を入れず、濡れた音を立てて激しく抽挿を繰り返す。労わりも、慈しみも必要としない爛れた交わりの中、ただ組み敷いた男の苦悶と紙一重の嬌声だけが欲しくて、汗ばむ身体を打ち付けて貫くことで、己という存在をルゴシュに刻み込んだ。繰り返し、繰り返し、身体の奥に情欲の杭を打ち込みながら、この男の精神を束の間、この世ならぬ忘我の境地に追いやることで、己の中の歪み切った怨讐が確かに宥められるのだということを、ゲオルギウスは最初の頃より幾分か素直に受け入れられるようになっていた。
「…イ──ぁ、…そこ…ばかり、ッ──!…ぁ、駄目だ、…い…達く…ッ──、達く──!」
「ハハハッ、もう我慢が出来なくなったのか、いつもより随分と淫らだ…ジェダス。──いいだろう、欲しがっていたモノをくれてやる。そら、…達け…ッ…!」
腕を、足を絡ませながら、ゲオルギウスに力任せに揺さぶられるルゴシュの翡翠色の眸はぼんやりと曇り、薄く開かれた唇からは、人間にはない象牙色をした二本の牙が覗いている。一度目の絶頂感を訴えてヒクヒクとうねる内壁に絡め取られ、ゲオルギウスはルゴシュに果てを見せる代わりに、自分自身の最初の慾を吐き出すことを許した。深々と唇を重ねながら彼の腹の裏側の一点を狙いすまして切っ先で突き上げ、今わの際の悲鳴さえ我が物にせんとばかりに、激しく唇を重ねて貪り喰らう。
「──ッふ、……ウうぅ──ッ…!」
痩せた全身が波のように震え、下腹に、熱い飛沫が迸るのを感じた。身体の内側を突かれただけで呆気なく果てるルゴシュの痙攣に締め込まれ、大きく息を吐きながら、内奥に若い精液を、不死者にしてみれば食餌ともなる熱いものを存分に注ぎ込んでやった。
「…ふ──ッ、──ァ…、あ……っ。」
呼吸まで喰らい尽くす激しい口づけを静かに解くと、口許をはしたなく濡らしたルゴシュはとろりと双眸を蕩かせて、白い頬を上気させて荒い呼吸を繰り返している。男として不自然な方法で得た快楽は、ルゴシュの中でゲオルギウスが感じた絶頂とは質が異なるようで、果ててもしばらくはその身に留まり続けているものであるらしい。その証拠に、戯れに胸の上で淡く色づいた二つの尖りを指先で転がしてやると、彼は悲鳴じみた声を張り上げて、力の籠もらない身体を揺らして必死でゲオルギウスの下から逃れようとするのだ。
「やだ…、やだぁ──ッ…!──いま…駄目……ッ…!」
「何だよ、終わったばかりの時に触られると、擽ったいのか?──その割に、お前の中はまだ欲しがって喰い付いてくる。…嘘つきには、罰が必要だな。肚の中を目一杯鞭打ってやるよ…。」
「…ヒ…ぁ…、ほ──本当に、辛いってば……!ッ、ぁ、──そんなに…激し──ッ!」
若く逞しいゲオルギウスの欲情は、すぐさまルゴシュの温かな体内の蠕動に包まれて容易く奮い立つ。吐き出した精を塗り込めるよう、ぐちゃぐちゃと淫らな音を立てて中を掻き混ぜてやると、細い身体はいっそ面白いほどにがくがくと跳ね上がった。もし、吸血真祖である彼が本当に痛みや苦しみを感じているのであれば、人間であるゲオルギウスの身体を跳ね除けることなど容易い筈だ。しかし、一度こうして逃れられない快楽の連鎖に突き落としてしまうと、傷ひとつない彼の白い四肢からは、実に正直にくたりと力が抜け果てる。
神と精霊の目すらも届かないのではないかと思われる、温かな砦の一室で、ゲオルギウスの心には、間違いなくルゴシュの媚態と性的な快楽を堪能する余裕というものが生じていた。そして、それは、彼に言わせれば古井戸の底のように薄気味の悪い、人間の聖域での交わりを強いられることのないルゴシュにしても、また同じことなのだろう。いつもより随分と感度のいい肌を指先で擽ってやると、彼は甘ったるい鼻声を立ててゲオルギウスにしがみ付いてきた。汗ばむ身体から立ち昇る、甘く脳を蕩かす誘引の香気に侵されて、より貪欲に狙いを定めて最深部へと楔を突き進める。
と。
ぐぷ、と楔の切っ先が柔い肉の中に潜り込む手応えを感じた。果てだと思っていた肉の壁には僅かな綻びが生じ、更に先への路があることを教えてくれる。
途端に、ルゴシュの細い咽喉が、ひゅうっと掠れた音を立てた。自分の身体に一体何が起きたのかまるで解らない、そんな表情で大きく目を見開き、茫然とゲオルギウスの顔を見詰める翡翠色の瞳がある。
「──な……に、……こんな…の、──知らな……っ…!」
「…ふん?何百年生きてきたお前にも、知らないことがあるのか──。もっと奥まで挿入れそうだ。…力を抜け、ジェダス。このまま、ここを抉じ開けてやる…。」
「ゃ──。駄目、だ、それ、以上──!絶対…お、…おかしくなる──っ…!…だめ…ダメ──ッ…!」
「……へぇ、本当に『知らない』のか。──本当に嫌ならば、俺を振り払えばいいだけだろう。…出来ないのか…?ほら、もっと脚を大きく開け、──あぁ、もう少しだ…。」
とつ、とつ、と、小刻みに腰を捻じ込むように穿ち入れることで、最果てだとばかり思っていた隧道の壁が少しずつ緩み、楔を受け容れていく。じわじわと、まるで槍の先端にくちづけをするように少しずつ含んでいく第二の門が身体の中にあることを、ゲオルギウスは初めて知った。そして何より、そこを暴かれるルゴシュ自身ですら、まるっきりその存在を知らなかったと言わんばかりに、驚愕に凍り付いた相貌に恐怖の色すら浮かべている。
ざわり、と。
その貌を眼にした瞬間、ゲオルギウスの中で蠢く粗暴な嗜虐の大蛇が、静かに鎌首を擡げるのが解った。こうなってしまえば、最早この荒れ狂う衝動に歯止めなど掛けられるはずがない。それと知って、心の中に飼っている、神職にはあってはならない筈の狂気的な感情という獣を檻から解き放った。必死で首を揺らし、逃れようと儚く身を捩るルゴシュの両脚を抱え込み、身体を押し付けるようにして少しずつ侵食していく。
耳先の尖った、貝殻のような耳朶に淡く歯を立てて、熱し切った笑みと共にゲオルギウスは囁いた。
「不死鬼には、子宮があるのか──?なら、俺の子を孕ませてやるよ。お前が今までこの世に生み出してきた混血鬼の数に比べれば、些細なものだろう…?──ハハハッ、なんて顔だ…!…いいぞ、腹の奥に、『俺』を植えてやる──!」
「──そ…んな、…バカなこと…っ、──ッ…ぁ、お願……ッ、──止め……!」
力なく虚空を蹴って震える足を無造作に掴み、一思いに腰を使って抉り上げた、その瞬間。
くぷり、という不思議な感覚と共に、楔の切っ先が狭く蕾んだ柔肉の中に潜り込んだのが解った。うねり、締め込み、押し包む未知の快美感に、ゲオルギウスは恍惚と目を細める。
下肢が隙間なくぴったりと密着するほど深くまで身体を繋がれたルゴシュは、大きく見開いた翡翠の睛に何も映さず、ただ凍てついたように時を止めていた。混乱、驚愕、恐怖、ありとあらゆる負の感情が入り混じった表情で、最奥を貫く未知の衝撃をどのように処したらよいのか、決めかねている様子だった。
だが、その時間停止の堰も、程なく決壊を見る。
「──か、……はッ…。うぁ、……アアアァッ──!」
細く小さな身体が、じっとりと汗に塗れて、ゲオルギウスの身体の下で壊れた玩具のようにがくがくと跳ね上がる。ビシャッと勢いよく腹の上に浴びせられた、不可思議な熱い体液は、触れてみればさらりとして、精液のように青臭くもない。
悲鳴も上げられずに身悶えるルゴシュの身体に何が起こったのか、俄かには信じられなかった。濃青の瞳を驚きに見開いて、自らの指を湿す透き通った体液を眺める。
不意に、腹の底から、狂気じみた歓喜の情が嵐のように湧き起こった。そして、それを止める手立ては、今のゲオルギウスにはない。けたたましく嗤いながら、今までに誰も暴いたことのないというルゴシュの身体の再奥地を、腰を引いて押し広げるように幾度も突き上げる。その度に、声にならない悲鳴と共に、彼の雄の部分は震えながら透明な体液を放った。細腰を鷲掴みにして幾度身体をぶつけても、ルゴシュは、苦痛や怒りの色を見せることはない。今、彼の全身を脳髄まであまねく支配しているのは、自制が効かないほどの狂おしい快感なのだ。
「は──はははは、っ…!あぁ…ジェダス…、女のように達った…?ここに男を咥え込んだのは、初めてか…。だったら、この味を二度と忘れられなくなるまで、滅茶苦茶に刻み付けてやるよ…!」
「──や……め、……ゲオル…ギィ…、──も、狂…う…、頭が、アタマ…の、中が…!──は…あ、ぁッ、──だ…め…、動かさ…ないで……あぁ、助け……て…!」
「く、はは──ッ…!不死伯が、武装神父に命乞いか…?どんなに痛めつけても泣き言ひとつ漏らさなかった、あのお前が…!──あぁ、いい。お前のここは、俺にいやらしく絡んで…吸い付くように具合が良いな…。さあ、鳴け、みっともなく泣き喚けよ、ジェダス…!狂え…!狂えッ──!」
何度でも杭打たれて、我を忘れて鳴き狂う様を。
全身、瘧に掛かったようにがくがくと震わせながら、下腹をびっしょりと濡らして小さな死に近しい深い絶頂に溺れる様を。
濃い青の歪んだ視野に映して、ただ嗤いながら吸血鬼を攻め立てる男の身には、果たして、聖職者として民草に神と精霊の教えを説く資格など、あるものだろうか。
理性を手放し、黒い情念と深い怨讐に突き動かされるだけのゲオルギウスには、それすらも覚束なかった。
「──く…!」
繰り返し打ち付けられる破城槌の前に、あえなく明け渡された第二の門を心行くまで突き崩している間、ルゴシュの身体には、絶え間ない絶頂を示す痙攣が走り抜けていた。そして遂に、その細い身体の最も深いところでゲオルギウスの狂暴な堰は切れ、腰を抱え上げて引き付けながら、これ以上なく深い腹の中に二度目の精をどくどくと注ぎ込む。
気が付けば、全身、通り雨を浴びたような汗に塗れていた。呼吸は、十里を一息に駆け抜けたように荒く上擦り、心臓が張り裂けんばかりに脈を打っている。
身体の下で、どちらのものかも分からない汗と体液でしとどに濡れたルゴシュは、微動だにせずに目を見開いたまま横たわっていた。見事な銀髪は汗で幾つもの束になって額に貼り付き、見るも無残で、故に例えようもなくゲオルギウスの劣情を煽る姿だ。初め、この壮齢の不死鬼を、抱き潰して殺してしまったのかと思った。だが、ひゅうひゅうと掠れた息の音を立てる喉笛と、薄く上下する胸が、彼の命が潰えずに残っていることを辛うじて教えてくれる。
もし、この男に子宮という器官が備わっていて、正当な行為の結果、この薄い腹に子が宿ったら。
そんな馬鹿げた妄想と共に、未だにゲオルギウスの一部を含まされたままの臍の下を軽く手のひらで押さえてみると、彼は断末魔のような掠れ切った悲鳴を張り上げ、小さく身を震わせた。触れられただけで軽く絶頂を覚えてしまうほどに打ちのめした身体から、ゆっくりと身を引いて繋がりを解く。
「ジェダス──。…ジェダス?──正気でいるか…?」
「────う………、ぁ……。」
小刻みに戦慄く全身、何処に触れられても、今は過ぎた快楽の余韻を掻き立てられて悲鳴を漏らすばかりのルゴシュは、力なく寝台に横たわって、指一本動かす気力すらないらしい。
今ならば、この心臓に杭を叩き込んで屠ることも容易い筈。なのに、それができない武装司祭としての自分自身の在り方を、ゲオルギウスは内心で自嘲した。拷問のような媾合に打ち震えることしかできない年嵩の男の頬を一撫ですると、その指先に熱く静かな奔流を感じる。
「ジェダス…?──泣いているのか。」
「──う…ぁ、…あああぁ…アッ…。」
初め、無言のうちにはらはらと涙を零していたルゴシュは、ゲオルギウスの呼び掛けに、食い縛った歯の間から嗚咽を漏らし始めた。常日頃、尊大な態度を崩さないこの男が、ゲオルギウスの前で放心したまま子供のように泣きじゃくる様子は、すっかり昂った若い神父の狂暴な衝動を少なからず宥めてくれる。
くっくっと咽喉の奥で笑いながら、ゲオルギウスは恥も忘れて呆然と泣き続けるルゴシュの細身を、そっと背中から抱き竦めた。慈しみというよりは、弓を与えられた子供が初めて射落とした獲物を抱き締めて誇らしげに愛おしむに近い心境で、止まらない号泣と共に自失するルゴシュの銀色の髪に頬を押し当てて、共に寝台に横たわる。
「──あ…あ…、うああぁ……ッ…。」
「泣くほど悦かったのかよ──。可愛い奴だ。千年以上生きてきて、初めてだったか…。なら、後にも先にも、お前のここを暴けるのは俺だけだ。…言っただろうが、他の男にこんなことをさせたら、お前を殺してやる──。」
震える耳の先を甘く噛んで、そっと囁いた。その言葉が、慟哭する彼の思惟に届いているかは定かでなかったが、そう言わずにはおられなかったのだ。
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これが性癖という方に刺されば嬉しいです。(同作はpixivに一部掲載しています)SNS(ブルースカイ)のフォローいただけますと幸いです→@makiizumi.bsky.social
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