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番外編
番外編1-1
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「えぇっと…。これ、どこに持っていけばいいんだろうなぁ──。」
性奴隷として上級淫魔のザラキアに飼われる一方、シンジには他の人間とは違い、ザラキアの為に庶務をこなすという立派な役割がある。主にはザラキアが最も苦手とする租税の計算を任せられているのだが、元々の世界で経理担当だったシンジにはどうということもない仕事だった。
かえって、大好きな主人の為に、性技以外で役に立てるというのであれば、それは願ってもないことなのだ。
豪華な白い首輪を嵌めた終生奴隷は、他の人間の奴隷とは異なり、腰布やサンダル、多少の装身具を身に着けて屋敷の中を歩き回ることが許されていた。中世ヨーロッパの建築を思わせる石造りのどっしりした屋敷の中にはそれなりにたくさんの部屋があり、ここに飼われて数カ月経っても、その全てを把握できている訳ではない。
『この部屋には絶対に入るな』と言いつけられている、性奴隷調教師としてのザラキアの仕事用の部屋を除いて、羊皮紙の束や書類や金貨を移動させることは時々あったが、何せ、持ち主のザラキアは、天職としている奴隷調教以外はてんで無頓着で大雑把な性格なのだ。どこの部屋に何を置いたかを忘れることなど日常茶飯事で、その度に、シンジは何となくそれがありそうな場所を探し回る羽目になる。
今日も今日とて、『これを他の手紙と纏めておけ』と言いつけられたものの、その大元になる他の手紙の束が見つからない。ザラキアは、留守にしているのか預かり物の性奴隷の調教に取り掛かっているのか、とにかく姿が見えなかった。
主人の手で綺麗に切り揃えて貰った黒い髪をガシガシと掻きながら、これはもう自分で探すしかないとシンジは潔く諦めた。何せ、ソドムの街に流れる時間は悠久だ。とにかく片っ端から総当たりしていけばいいのだと考え直して、幾つものドアを開けて調べて閉める、そんな作業を繰り返していた。
最後に残ったのは、今までに入ったことのない重たげな茶色い扉の部屋だった。その前で足を止め、シンジは暫し迷って考え込む。
その部屋は、特段『入ってはいけない部屋のリスト』には含まれていないが、今までその部屋に用事があったことはない。幾度か瞬きをしながら首を捻り、腕組みをして、どうしたものかと考えあぐねていた。
「──まあ、無かったら無かったで、他を探し直せばいいだけだからね。」
独り言と共に思い直し、他の部屋よりは少々重ための扉に手を掛けた。ギィ…という音を立てて、蝶番が軋みを上げる。
部屋の中には、勝手に光を放つ不思議な鉱石で作られた、炎のないランプの薄明かりが灯っていた。他の部屋とは異なり、絨毯が敷かれている訳でも、家具がある訳でもないその部屋は、一見して空き部屋のように見える。
他の部屋のように雑多なもので満たされている訳でもなく、とても手紙の類があるとは思えない殺風景な様子を少々不思議には思ったが、それでも、用がないのならば次を探すべきだろう。後ろ手に扉を閉めて一歩室内に踏み込んだその瞬間、シンジの手足に、唐突に何か温かくぬるつくモノが素早く絡み付いてきた。
「ヒッ──!」
心臓が止まるかと思うほどの驚きに、喉の奥がひゅうっと音を立てる。ここはザラキアの屋敷の中で、狂暴な魔族や怪物はいないはず、ましてシンジの首には終生奴隷の証である白い首輪が嵌めれているのだから、そもそも他の魔族が手出しできる筈はない。
手首に、そして足首に絡み付くモノの正体が解らないまま、条件反射的にジタバタと暴れるシンジの手から、握っていた羊皮紙がヒラリと落ちた。咄嗟に目をやれば、それはぬめぬめとして生温かい、毒々しいピンク色の中に茶色の斑点がある幾つもの蔓状の触腕。そして、耳をすませば、すぐ近くからフーッ、フーッ!と獣のような荒い息が聞こえてくる。
「嫌だ──!これ、何なんだよっ…!」
手首足首、そして胴体を巻き取った何本もの触腕は、そのままシンジの暴れる身体をふわりと虚空に浮き上がらせる。そして、驚愕に見開かれたシンジの目に飛び込んできたのは、この部屋の中に居たと思しき一頭のグロテスクな『生物』であったのだ。
その生物は、秋田犬より二回りは大きなサイズをしていた。内臓のようなピンク色に、黒と茶色の不気味な斑点を持つボディは粘液に塗れ、肉塊のような全身からは大小無数の触手や触腕が生えている。犬のような四本の足で立ってはいるが、その顔は犬とは程遠く、牙のない絨毛だらけの口から赤い舌をダラリと覗かせて、ハッハッと速い息を吐きながら、ギラギラと光る不気味な黒い眼で捕まえたシンジをじっと見上げていた。
咄嗟にシンジの脳裏を駆け抜けたのは、『この訳の分からない気色の悪い生き物に喰われる』という本能的な恐怖感だった。何故ザラキアの屋敷に、こんな生き物がいるのかは解らない。しかしながら、全身から触手を生やした魔物は、恐怖に竦み上がるシンジの身体に次々と触腕を伸ばし、シュルシュルと巻きつけて、肌の上を探るようにぬるんと撫で回してくる。
「い、嫌だぁ…ッ──、気持ち悪い──っ…!お、お願いだから──僕を食べないでくれ…っ──!」
シンジの懇願を理解する知恵を持たないのか、はたまた聞く気がないのか。
触手だらけの生物は、シンジの纏う白い腰布を器用に引き剥がし、内腿の柔らかい肌の上をねっとりとなぞり上げ始めた。恐怖にガタガタと震えながらも、性奴隷として完璧に調教された肌の上にむず痒い気持ちよさを覚えて、思わず鼻に抜けるような甘い声を出してしまう。
性奴隷として上級淫魔のザラキアに飼われる一方、シンジには他の人間とは違い、ザラキアの為に庶務をこなすという立派な役割がある。主にはザラキアが最も苦手とする租税の計算を任せられているのだが、元々の世界で経理担当だったシンジにはどうということもない仕事だった。
かえって、大好きな主人の為に、性技以外で役に立てるというのであれば、それは願ってもないことなのだ。
豪華な白い首輪を嵌めた終生奴隷は、他の人間の奴隷とは異なり、腰布やサンダル、多少の装身具を身に着けて屋敷の中を歩き回ることが許されていた。中世ヨーロッパの建築を思わせる石造りのどっしりした屋敷の中にはそれなりにたくさんの部屋があり、ここに飼われて数カ月経っても、その全てを把握できている訳ではない。
『この部屋には絶対に入るな』と言いつけられている、性奴隷調教師としてのザラキアの仕事用の部屋を除いて、羊皮紙の束や書類や金貨を移動させることは時々あったが、何せ、持ち主のザラキアは、天職としている奴隷調教以外はてんで無頓着で大雑把な性格なのだ。どこの部屋に何を置いたかを忘れることなど日常茶飯事で、その度に、シンジは何となくそれがありそうな場所を探し回る羽目になる。
今日も今日とて、『これを他の手紙と纏めておけ』と言いつけられたものの、その大元になる他の手紙の束が見つからない。ザラキアは、留守にしているのか預かり物の性奴隷の調教に取り掛かっているのか、とにかく姿が見えなかった。
主人の手で綺麗に切り揃えて貰った黒い髪をガシガシと掻きながら、これはもう自分で探すしかないとシンジは潔く諦めた。何せ、ソドムの街に流れる時間は悠久だ。とにかく片っ端から総当たりしていけばいいのだと考え直して、幾つものドアを開けて調べて閉める、そんな作業を繰り返していた。
最後に残ったのは、今までに入ったことのない重たげな茶色い扉の部屋だった。その前で足を止め、シンジは暫し迷って考え込む。
その部屋は、特段『入ってはいけない部屋のリスト』には含まれていないが、今までその部屋に用事があったことはない。幾度か瞬きをしながら首を捻り、腕組みをして、どうしたものかと考えあぐねていた。
「──まあ、無かったら無かったで、他を探し直せばいいだけだからね。」
独り言と共に思い直し、他の部屋よりは少々重ための扉に手を掛けた。ギィ…という音を立てて、蝶番が軋みを上げる。
部屋の中には、勝手に光を放つ不思議な鉱石で作られた、炎のないランプの薄明かりが灯っていた。他の部屋とは異なり、絨毯が敷かれている訳でも、家具がある訳でもないその部屋は、一見して空き部屋のように見える。
他の部屋のように雑多なもので満たされている訳でもなく、とても手紙の類があるとは思えない殺風景な様子を少々不思議には思ったが、それでも、用がないのならば次を探すべきだろう。後ろ手に扉を閉めて一歩室内に踏み込んだその瞬間、シンジの手足に、唐突に何か温かくぬるつくモノが素早く絡み付いてきた。
「ヒッ──!」
心臓が止まるかと思うほどの驚きに、喉の奥がひゅうっと音を立てる。ここはザラキアの屋敷の中で、狂暴な魔族や怪物はいないはず、ましてシンジの首には終生奴隷の証である白い首輪が嵌めれているのだから、そもそも他の魔族が手出しできる筈はない。
手首に、そして足首に絡み付くモノの正体が解らないまま、条件反射的にジタバタと暴れるシンジの手から、握っていた羊皮紙がヒラリと落ちた。咄嗟に目をやれば、それはぬめぬめとして生温かい、毒々しいピンク色の中に茶色の斑点がある幾つもの蔓状の触腕。そして、耳をすませば、すぐ近くからフーッ、フーッ!と獣のような荒い息が聞こえてくる。
「嫌だ──!これ、何なんだよっ…!」
手首足首、そして胴体を巻き取った何本もの触腕は、そのままシンジの暴れる身体をふわりと虚空に浮き上がらせる。そして、驚愕に見開かれたシンジの目に飛び込んできたのは、この部屋の中に居たと思しき一頭のグロテスクな『生物』であったのだ。
その生物は、秋田犬より二回りは大きなサイズをしていた。内臓のようなピンク色に、黒と茶色の不気味な斑点を持つボディは粘液に塗れ、肉塊のような全身からは大小無数の触手や触腕が生えている。犬のような四本の足で立ってはいるが、その顔は犬とは程遠く、牙のない絨毛だらけの口から赤い舌をダラリと覗かせて、ハッハッと速い息を吐きながら、ギラギラと光る不気味な黒い眼で捕まえたシンジをじっと見上げていた。
咄嗟にシンジの脳裏を駆け抜けたのは、『この訳の分からない気色の悪い生き物に喰われる』という本能的な恐怖感だった。何故ザラキアの屋敷に、こんな生き物がいるのかは解らない。しかしながら、全身から触手を生やした魔物は、恐怖に竦み上がるシンジの身体に次々と触腕を伸ばし、シュルシュルと巻きつけて、肌の上を探るようにぬるんと撫で回してくる。
「い、嫌だぁ…ッ──、気持ち悪い──っ…!お、お願いだから──僕を食べないでくれ…っ──!」
シンジの懇願を理解する知恵を持たないのか、はたまた聞く気がないのか。
触手だらけの生物は、シンジの纏う白い腰布を器用に引き剥がし、内腿の柔らかい肌の上をねっとりとなぞり上げ始めた。恐怖にガタガタと震えながらも、性奴隷として完璧に調教された肌の上にむず痒い気持ちよさを覚えて、思わず鼻に抜けるような甘い声を出してしまう。
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