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堕落の都SODOM

ザラキアの日常

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 聖書によってつむがれる、はるかな昔の物語。

 民の堕落した品性が神の怒りに触れ、降り注ぐ炎によって滅ぼされたという人間の都がある。
 その都の名は、ソドム。
 今は、退廃と享楽を何よりも好む魔族たちが主権を握り、辛うじて生き残った人間たちを奴隷にして、厳重に血統を管理して使役している。
 
 人間の奴隷たちには、それぞれの役割があった。
 単純に、人を餌とする魔族のための奴隷ドール。性別を無くして精神改造を受け、単純労働を担う労働奴隷レイバー。次の世代の子を産み育てる繁殖奴隷ブルードメア。その種である種牡奴隷スターリオン。そして、魔族の主人のありとあらゆる快楽に奉仕するための性奴隷セクシズなど、用途によって呼び名が変わる。
 中でも、人目を引く魅力的な容姿、巧みな性技、淫乱で従順な性格や気品を持つ高級な性奴隷は、『最高級性奴隷グラン・セクシズ』として血統書に登録され、その子種や繁殖力を含めて高値で取引される。
 であるから、高級な性奴隷はソドムのステータスシンボルであり、血統のいい人間の元々の素体を壊さずに、魅力を上手く引き出して調教する性奴隷快楽調教師にもまた、高い技術が求められた。



 饗宴サバトの日のショーは、超がつくほどの大成功だったとザラキアは自負している。
 あの日、たまたま出かけた帰りに気絶した迷い人ワンダラーを拾わなかったら、今の生き方はもう少し変わったものになっていたかもしれない。
 人間が人間を支配するおかしな世界で、何の楽しみもなく、同じ人間の手でいじめ抜かれた末に自殺を図ろうとしたのだというシンジは、むしろ転送されたソドムに馴染んでいくにつれて、輝きを増しているように思った。

 何せ値千金の迷い人ワンダラーで、気象は根っからの淫乱マゾヒスト。小柄な体格に、従順で穏やかな性格は、愛玩奴隷として申し分のない逸品だ。そして、ソドムの奴隷たちにはない自我や教養というものが備わっているのだから、これを手放す気にはなれない。元々、懐いてくる人間には情が湧きやすい性格だった。三十二年という年齢の割には童顔で愛らしい顔立ちは、率直に言ってザラキアの好みなのだ。

 だから、好みにふさわしい調教を入れた。奥ゆかしく、淫乱で、そして恥じらいを殺し切らないように寸止めしてやる。大衆娯楽用の性欲処理奴隷などとは訳が違うのだから、イキ狂いながら下品な言葉を吐き散らすような、だらしのない調教は入れたくない。
 結果的にシンジは文句なしの『最高級性奴隷グラン・セクシズ』のブランドを勝ち取り、同時にザラキアはまたも『最高位性奴隷快楽調教師マスター・オブ・ザ・パペット』の座を守り抜いたのだが、名声を得れば得るだけ面倒で厄介なことが増えるというのもまた事実だった。

 今日も今日とて、ソドムにはなかった全く新しい人間の血統、シンジ・ホシノの血統書登録に出掛けた帰りに、馴染みの貴族の屋敷に呼びつけられてしまった。性奴隷調教師としての腕を買ってくれる、金払いのいい太い客が何人もいて、いっぱしの屋敷を構えて住んではいたが、それにしてもザラキアの立場は位を持たない一介の上級淫魔インキュバスである。

 『なんか、シンジの奴が言ってた、人間世界の面倒くさい仕事上の付き合い…っていうヤツに似てるような気がするな、コレ。』

 目上の者に呼びつけられているのだから、適当な服装ではいけない。藍色の長い髪をきちんと結い、象牙色の角を磨き、首にスカーフを巻いてブローチを止めた優雅で堅苦しい装いで、氷や炎のブレスを吐くひれと鱗のある魔龍馬ドラゴホースが引く二頭立ての馬車を、豪華な屋敷の前で停止させる。
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