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8日目:饗宴─サバト─

宴のはじまり

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 労働奴隷レイバーたちの手によって、風呂で丹念に洗い清められた後、シンジは、人ひとり座るのが精一杯という広さの檻に入れられる。檻の中には柔らかなクッションが敷き詰められていて、閉じ込めた人間の身体を傷付けないように出来ていた。
 やがて小さな檻には厚い布が被せられ、周りはすっかり見えなくなる。

 「──いつもより慎重にやってくれよ?何せ、値千金の迷い人ワンダラーだぜ…。傷のひとつでも付いたら困るんだ。」
 「はいはい、ザラキアさんの言う通りに。──よし、そっち持ち上げろ。」
 「おう。」

 この街で初めて耳にした、ザラキア以外の誰かの声だ。雄々しくて野太い二つの声の主は、金属で作られた重たい檻をいとも軽々と持ち上げ、その中のシンジはゆらりゆらりと運ばれてゆく。
 檻は、やがて何かの荷台に大事に降ろされた。布の外は、未だ見たことのないソドムの街なのだろう。布を捲って外を見てみたいという好奇心より、外を知ることへの不安が勝った。シンジを乗せた荷台は、やがて、馬のような動物のいななきと共にゴトゴトと走り始める。

 『心配しなくていい。』
 ザラキアの言葉だけが、幾度も脳裏にリフレインした。

 そう、そうだ。ご主人様マスターは最高ランクの奴隷調教師なのだから、その所有物である性奴隷の自分は、最高の主人の手に全てを委ねればいい。
 そう自分に言い聞かせ、しばらくの間、揺れる馬車の中で身体を丸めている。ここから先で起こること、見るものは、恐らく全く想像もつかない何かだ。それでも、性奴隷セクシズは黙って主人マスターであるザラキアの指示に従って身を委ねる。
 それが、今の自分に与えられた最高で最適の役目なのだから。



 あちらこちらで、嬌声やけたたましい笑い声、喧嘩のような激しい怒号が絶え間なく聞こえる。これがソドムの街の祝祭である『饗宴サバト』の空気だ。

 今、客席と舞台ステージとをへだてる暗幕の中に、シンジとザラキアはいる。
 「緊張してる、か?──俺は人間の気分がわかる淫魔だからな、お前の気分が伝わってくる。」
 シンジの首輪の鎖を握るザラキアが、そっと小声で囁きかけてきた。その問いに別段嘘をつく理由もないので、素直にコクリと頷いて見せる。
 「…ま、そりゃそうか。幕が開いたら、お前はこの世の全ての美徳──傲慢、強欲、暴食、色欲や贅沢みたいなもんを見ることになるだろ。だが、そりゃあどうでもいい。俺たち魔族には、世の中の無法地帯化を防ぐためのいくつものルールがある。そのひとつが、お前の『首輪』だ。それを嵌めている限り、たとえ主人がどんなに格下であろうとも、その奴隷に気安く触れることはできないのさ。」

 強い者が弱い者を支配し、七つの大罪こそが美徳である倒錯したソドムという世界では、無駄な争いを止めるための厳格な掟があるのだという。つまりは、誰もシンジを傷つけたり、ザラキアの元から無理矢理奪ったりするようなことはできない。
 「だから、お前は目一杯…性奴隷セクシズとして教え込まれたことを見せるだけでいい。ほら、集中しろ。もうすぐお披露目の瞬間だぞ──。」


 その時、暗幕の向こう側から大きく、キンキンと響く耳障りな声がした。

 「──さぁ、饗宴の時も残すところ僅かでございますなァ!お集まりの紳士淑女の皆々様方、今宵最高の見世物が始まりますぞ!…最高位性奴隷調教師・上級淫魔インキュバスザラキアの名前を知らぬ方はおりますまい。そのザラキアが、何と、貴重な異世界からの迷い人ワンダラーの調教を披露するというのだから、ややや、これは嘘か誠か!皆々様の目で、しかと確かめて頂きましょうぞ──!」

 分厚い暗幕が、さっと左右に払われる。
 次の瞬間には、拍手と歓声を浴びながら、煌々と輝くランプの明かりも眩しいステージの上に立っていた。

 「おぉ、これは──。」
 「黒髪だ…。そして、顔立ちも肌の色も、まるで見たことがない…。」
 「眼の色も黒だぞ…。この街で一番高貴な色を生まれつき持っているなんて──!」
 「さすがは千年に一度あるかないかの迷い人ワンダラーだな、血統書にない人間とは…こりゃあ値が張るぞ…。」

 どうやらそこは、大聖堂のように高い天井を持つ豪華な大広間だった。ステージは、聖堂から階段一段ほど高い場所にあり、その周囲を、着飾った大勢の魔族たちが興味津々といった風情で覗き込んでいる。
 羽根の生えた者、角のある者、牙のある者、そして何メートルもある巨大な体躯をした者…見た目様々な魔種たちは、銘々に首輪を嵌めた人間の性奴隷セクシズを引き連れていた。
 どの人間もほぼ全裸で、抜けるような白い肌をして、金髪に蒼い瞳や茶色い髪に緑の瞳を持つ、とても美しい、しかしどこか作り物のビスクドールめいた風貌をしている。
 性奴隷の人間たちは、舞台の上のシンジの姿を見てもほぼ反応を示そうとしなかった。誰もかれもがぼんやりと焦点の合わない瞳孔をしていて、皆一様にとても美しい容姿なのに、どことなく不気味に見える。
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