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5日目

尽きない疑問

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 この街には、恐らく朝がない。寝て、起きて、食べて、淫らな調教を受けて、また食べて寝る。それだけのサイクルが規則正しく続いていて、一日のリズムというものを辛うじて作ることができた。
 食事は一日二回。しかし、調教が終われば大半の時間を寝て過ごしていい性奴隷の身には、それで充分だった。メニューは、一体何の肉だかよくわからないがおいしい肉のシチューや野菜のサラダ、名前の解らない果物や穀物などで、食べ慣れない味付けではあっても決してまずくはない。むしろ、夜遅くまで寝不足で労働し、コンビニ弁当や外食で三度の食事を済ませていた時よりもはるかにバランスが取れて健康的だとまで思える。
 そして一日に二回浸されるあの赤黒い湯水の風呂のせいか、肌のツヤやハリが今まで以上によくなっているような気がした。

 
 「…ほら、行きな──。」
 調教の前に、身体の奥に掃除蟲を挿入することにも完全に慣れていた。初めはグロテスクで、絶対に触りたくないと思っていた生理的嫌悪を抱かせる蟲の形状が、今ではペットのように愛らしく思えるのが不思議だった。
 この掃除蟲スカベンジャーと呼ばれる数種類の蟲が人間の身体に取り付いて、排泄物や老廃物を食べ尽くしてしまうお陰で、人間の身体中の穴という穴は排泄や排出のために使われることはない。そうなれば、その用途は『挿れる』ためのものであり、主人である魔族の快楽のために使われる、立派な『性器』だった。

 「──ん、ふ…っ。」
 腹の奥底、時として結腸の中までくぷんと潜り込んで掃除する軟体生物の動きは、少なからず確実に快楽を生み出す。だが、ザラキアの手でもっと強烈な感覚があることを教えられてしまった今となっては、その程度の刺激では全く物足りないばかりだった。
 数種類の蟲に『餌』を与えつつ檻の中で大切に飼われるソドムの性奴隷生活は、初めに思っていたほど苦痛ではない。しかし、ザラキアはこう言っていた。
 
 『七日間で、徹底的に仕込んでやる。』
 
 残りは、今日を除いてあと二日しかない。七日間の快楽調教が終われば、自分は一体どうなってしまうのだろう。奴隷調教師であるザラキアの元を離れ、どこかの知らない魔族に珍種の性奴隷として高値で売り飛ばされてしまうのだろうか。
 
 ソドムに転送されてから、シンジはザラキア以外の魔種を見たことがない。そして、魔族にとって人間はただの奴隷であり、ペットのような、いや、それよりもひどい扱いを受けるのが当然だということは、ザラキアとの会話の節々から薄っすらと理解できた。しかし、自分の行く末をザラキアに聞き出す程の勇気はなかった。聞いたところで、もし絶望的な末路を告げられてしまったら?残り二日間、心を平常に保っている自信がない。

 「──っく、…ン…。」
 体内からちゅぽりと顔を出した掃除蟲を、自ら摘まんで瓶に戻してやりながら、シンジは目を伏せて憂鬱な溜息を吐く。丁度その時、陽気な鼻歌と軽快な足音と共に、今のあるじである上級淫魔のザラキアが部屋に踏み込んできた。
  
 「どうした、シンジ。浮かねぇ顔してやがるなぁ…。昨日のアレは、そんなに効いたか?」
 「…ち、ちがいます!──えぇと、何でもありません。…はい。」
 ニヤニヤと目を細める美しい青年に顔を覗き込まれ、思わず赤面と共に目を逸らしながら取り繕う。相変わらず、絶世の美人にまともに見詰められることにだけは、ちっとも慣れなかった。人間の世界なら相手にもされない、それどころか接点さえもないだろう高級ファッション雑誌のモデルのような美青年の前では、どうしても気後れを禁じ得ない。
 ザラキアは、そんなシンジの様子に敢えて深い追及をすることなく、黒い首輪に取り付けられた鎖をジャラリと引いた。そうして、一糸纏わぬ全裸の『性奴隷』シンジは、ザラキアの後に素直に付き従ってゆっくりと歩き出す。

 「お前が、従順なタイプで良かったよ。」
 「…はい──?」
 何気ないザラキアの呟きに、シンジはふと片眉を上げる。
 「お前の話じゃ、異世界からの迷い人ワンダラーの中には、人間の癖に自分を支配階級だと思い込んでるプライドの高すぎる奴もいるってことだろ?その身分不相応なナメたプライドをバキバキにしてやるのも嫌いじゃねぇが…それだと、到底七日間では間に合わない。」

 また、だ。また、そのキーワードだ。
 今となっては妙にシンジを不安に陥れるだけの言葉の意味について、今日こそは思い切って深掘りしてみようと考えた。意を決し、大きく息を吸い込んだところで、ザラキアの足が止まる。居場所は、もう既に調教室の厚い扉の前だった。
 「さ、とっとと今日の課題を仕上げるか。…きっちり覚えろよ、返事は?」
 「──あ!…は、はい…っ!」

 かくして、シンジはまたしても疑問を解き明かす機会を失ってしまう。この要領と間の悪さがいつも災いしていた。
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