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プロローグ

入ってはいけないところ

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 やがて、蟲の頭の先が、コツン、と『終点』に当たるのが解った。自分の身体の奥のまた奥にそんな場所があるとは思ってもいなかった、入ってはいけないところまで生き物はぬらぬらとした体を滑り込ませている。
 「ひ──ッ…!」
 ビリビリと、静電気より激しい電気のような感覚がそこから突き抜け、頭の先まで駆け巡るのが解る。蟲は、構わずに終点にゴツゴツと頭を打ち付け、その更に先へと入り込もうとしているかのようだった。
 「や──ぁ、…そこ…ッ、無理…、も…う、──は、入れない…から──ぁっ…!」

 びり、びりり、と、そこを押し上げられる度に、感じたこともない強烈な快楽の電気信号が真治の脳を痺れさせる。
 「おう、ソイツは結腸の奥まで行きたいらしい。まあ、処女にはちっとキツイかもなぁ…。」
 「け、結腸…?──や、ァ、だめッ、──そんなとこ、入っちゃ…!」
 臍の下あたりの腹の裏側に、第二の窄まりがある。固く閉ざされたその窄まりを目掛けて、人間の老廃物を餌にするというおぞましい軟体生物は、幾度も頭を押し付けて綻ばせに掛かってくるのだ。そんなところまで入り込まれたら、どうなってしまうか分からない。快楽と恐怖がゾクゾクと脊椎を駆け上がり、だらしなく開いた唇で犬のように速い呼吸をしながら、肉蟲の食い込んだ腰を揺らして必死で身悶える。

 くぽり、と、腹の下に妙な感覚があった。
 先端が入り込んでしまえば、蟲はずるずるとその軟体を波打たせて結腸の門を通り抜け、我が物顔で這い上がってくる。次の瞬間、真治の下腹を突き抜けたのは、今までとは比較にならない強烈に暴力的な快感の嵐だった。
 「ひ──ぎぃッ、──あ…ぅ、──ああぁ…ァ──っ…!」
 柔らかな粘膜の柔毛を生やした蟲の身体が第二の門を容赦なく擦り付けて通り抜ける度、真治の目の前が真っ白くフラッシュする。自分の身体に何が起こっているのかわからず、拘束具を激しく鳴らして全身をヒクヒクと痙攣させた。ここは絶対に入ったらダメなところだ、と本能が告げる奥深い場所を余さず舐めるようにこねくり回されて、脳が痺れてどうにかなりそうだった。

 「ヒ…ぃ、ア、ぁ、…頭…ッ、お──おかしくなる──ぅ…っ…!」
 「あーあ、涎垂らして、グッチャグチャじゃねえか。蟲も、狭すぎて随分苦戦してるみてぇだな。──どれ。」
 ザラキアの、褐色の肌を持つ長い指が、真治のヒクつく穴の縁からはみ出した蟲の尻尾を捕まえた。
 ずるんっ!と無造作に蟲の身体が肉壁を擦りながら引き抜かれる。
 「っひ、イあ…あぁ──ッ…!」
 目も眩むような強烈な快感に、腰から下が溶けて無くなりそうだった。しかし、次の瞬間。
 「イっ──う…あぁ──あ…ひぁッ──!」
 ザラキアがぱっと手を離すと、蟲は邪魔されたことを苛立つように全身を激しくくねらせながら、再び結腸の奥までぐぶん、と頭を突っ込んでいった。
 
 その、入ってはいけないところまで一思いに擦り上げてうねる衝撃に、真治の中で何かがプツリと音を立てて切れる。浮かび上がらせた腰が、どくんっ、と脈を打った。
 「ヒぅ──うぅ…ッ…!」
 「あ!こいつ…。掃除だけで勝手にイキやがった──!」
 眼の前に、カラフルなLEDが点滅するような幻覚が広がった。目許も、口許も、情けないほどに濡らして泣き喘ぎながら、勃起した牡に触られてもいないのに、後ろへの刺激だけで射精させられてしまったことをぼんやりと感じ取る。

 しかし、真治が絶頂に達しても、蟲は動きを止めなかった。ぐぶぐぶと体内の狭窄を通り抜けながら、緩やかにカーブした肉の壁をトントンと突き、満遍まんべんなく舐め取るように身をくねらせる。
 「ひぃっ──!も──やぁ…、…イッた──、も、イッた…のにぃ…っ──!」
 絶頂を迎えたばかりの身体の奥を更にねっとりと攻め立てられ、頭の中でパチパチと火花が弾けた。今果てたばかりの牡の茎は、萎えることも知らずに鈴口から白濁をとろりと零し、このまま果てしなくイカされ続けるのではないかという恐怖すら覚える。
 「ぃ…ァ、──ぬ、抜いて…、もう──やだぁ…っ──。」
 「お前が嫌でも、コイツはナカを掃除し終わるまでは止まらないぞ。──しかし、この歳まで未調教の処女の感度ってのはすげぇな。たかが下準備でコレか。…まあ、やり甲斐があるってことだな。うん。」

 息も絶え絶えの真治の肉壁をこそげるように動き回り、幾度も小刻みに絶頂させた軟体生物は、程なくして満足したのか、ぞわぞわと芋虫のように蠢きながら真治の中からずるりと這い出していった。その蠕動だけで軽く絶頂した真治は、声にならない澄んだ悲鳴を上げながらぶるぶると下半身を震わせる。
 蟲を摘まみ上げ、元の筒に戻しながら、ザラキアは肩を竦めて片目を細め、軽く溜息を吐いた。

 「まさか、蟲を入れるだけでここまでイキ狂うとは思わなかった…。仕方ねぇ、今日の調教は終わるか。だが、シンジ。覚えとけよ。性奴隷は、ご主人様マスターの言いつけナシで勝手にイッたらお仕置きだ。…解ったなら、ご主人様マスターに返事をしろ。」
 「──は…い、──ご主人様マスター…。」

 泣き喚きすぎて、ひゅうひゅうと喉が鳴った。蟲が抜けた後の後ろの穴は、びくびくと不規則に疼きながらどこか頼りなく口を開いている。気が付けば、全身にびっしょりと汗を掻いていたし、下腹では幾度か迸らせた精液が乾いて心地悪い。屈辱的で、本来ならば絶対にいけない行為の筈なのに、それを未知の激しすぎる快楽だと受け止めてしまった自分自身が、真治はまだ信じられなかった。

 泣き濡れた瞳で呆然と天井だけを見詰めて、それでも命令に対して辛うじて従順な答えだけは返した真治の髪を、長い指を持つ大きな掌が満足げに撫でる。
 「よしよし。俺様は、飴をやるべき行いには飴を、鞭をやるべき行いには鞭を使い分ける性分だ。──ふん、今日から七日間、徹底的に快楽を仕込んでやる。お前をこれからどうするかは、七日目のお楽しみってとこだな…。」
 形のいい唇を綻ばせてニンマリと笑うザラキアが何を言っているのか、真治にはまだ理解できなかった。しかし、七日間、という数字だけが頭の奥にしっかりと刻み込まれる。



 かくして、仕事を苦にして回送電車に飛び込んだ平凡なサラリーマン・真治は、ソドムという名の異世界で、黒い首輪を嵌められた性奴隷・シンジとして、淫魔の調教師ザラキアの手にその運命を全て委ねることになったのだった。
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