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2日目
Wandererの価値
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ソドムの街の淫魔の館で、シンジに与えられた部屋は、床に敷かれたマットレスと水飲み場だけがある狭い檻の中だった。そして同じ檻の中には、人間の老廃物や排泄物を餌とする掃除蟲が飼われている。
シンジが檻の外に出るのは、二人の労働奴隷が一日二回、赤黒い湯水の張られた浴槽の中で身体の隅々まできれいに洗う時と、ザラキアによる調教を受ける時だと決まっていた。
相変わらず、調教前に尻の中に潜り込んで奥のまた奥まで動き回る、粘液と突起に覆われた軟体生物の動きには全く慣れなかったが、次からは自分で穴を広げて蟲を挿れておくように、と命令されてしまえば、主人の言葉に逆らう術はない。
「ふぅ──ッ…。」
狭い穴の中で肉壁をこそげ取るようにざわざわと動き回り、たっぷりと粘液を塗り付けてシンジを身悶えさせながら中をきれいに洗浄した蟲が、ちゅぽ…といやらしい音を立てて身体の中から出ていく。それと同時に、檻の鍵を手にしたザラキアが軽快な足取りで悠然と現れた。
淫魔や魔族というものはみんなこういう見た目なのかと思わずにはいられない程、ザラキアの容姿は均整が取れて美しかった。モデルのように手足が長く、スラリと背が高い褐色の肌をした青年は、その耳や角はさておき、人間の世界を歩いていたら誰もが振り返って見惚れずにはいられないだろう。涼やかな、睫毛の長い藍色の瞳で見詰められれば、同じ男でもうっかり魅了され、胸が高鳴ってしまいそうだ。
「さあシンジ、調教の時間だ。まず、ソドムの飯を残さず食ったことは誉めてやろう。肉付きの悪い、不健康な奴隷はそれだけで商品価値が下がるからな。」
「──ありがとう、ございます…。」
胸の前でぎゅっとこぶしを握り締め、小さな声で礼を返す。主人に褒められたら素直に礼を言うのが奴隷のしきたりだと教えられていた。もっとも、平凡な会社員だった身が、いきなり魔物の男を楽しませるための性奴隷にされたことについて、恥じらいやためらいが一切消え去ったという訳ではない。衣服というものを許されていない全裸の身体を人前に曝すのは、やはり少なからぬ羞恥を感じる。
俯き、頬や耳を赤く染めるシンジの首輪に取り付けられた鎖をジャラ、と引いて、ザラキアはゆっくりと調教室へと続く廊下を歩き出した。
「──世の中の奴隷調教師の中には、ただ恐怖と快楽だけで人間を操って、型に嵌めて、性奴隷を完全な奴隷として躾する奴もいるけどな。…同業者のやり方を悪く言う訳じゃねぇが、意思まで壊しちまったら、それで遊ぶ楽しさも半減する…と、俺様は思う訳だ。」
「──は…、はぁ…。」
調教室にいない時のザラキアは、時として実に陽気で雄弁だった。今日も今日とて、シンジを散歩中の犬のように後に従えながら、つらつらと持論を語り出す。もっとも、その奴隷であるところのシンジにまともな受け答えなどできるはずもなく、さらにシンジは、生来会話やコミュニケーションが得意な方でもない。曖昧な相槌を打ちながら素足でぺたぺたと石の廊下を歩むシンジの前で、不意にザラキアが歩みを止めた。振り返った長身の青年は、その顔に実に楽しげな笑みを浮かべ、シンジの顎先をクイ、と捕えて上向かせる。
「───だから、お前の調教のコンセプトはもう決めてある。『奥ゆかしくて淫乱な処女』だ、そうなるようにお前を躾けてやろう。…や、こんな仕事、誰も手掛けたことなんかねぇだろうさ。本当に楽しいことになるぞ…。」
「──。」
身を屈めて見下ろしてくるザラキアの顔が、かつてないほど近くでシンジを見詰めていた。形のいい唇と長い睫毛をした、涼やかで端整な青年にそうされれば、思わずどぎまぎとうろたえて視線を彷徨わせずにはいられない。それに、ザラキアは、調教と称して快楽と隣り合わせの苦痛を与えることはあっても、決して無駄にシンジの心身を傷付けるような言動を取りはしなかった。
上目遣いになりながらも、精一杯の勇気を振り絞って、恐る恐る小さな声で問う。
「──あの、どうして…僕なんかを…?──僕は格好よくもない、女性みたいにきれいでもないし、背だって低い方なのに…。こんな、何のとりえもない僕を、どうして──。」
「あぁン?」
ザラキアは、実に心外だという風に片眉を跳ね上げる。
「シンジ、お前、人間の癖にそんなつまらねぇことを考えてたのか?──やれやれ、道理でなんだか妙に湿っぽくて臆病な訳だ…。」
そして、溜息を吐きながら、シンジの短い黒髪に掌を当てて、言い聞かせるように口を開いた。
「お前、三十二年物とは思えない、なかなか幼くて可愛らしい顔してるぜ?…この街は、大昔に、人間の街が神ってヤツの怒りに触れて別の世界から切り離されて出来た。そこで生き残った人間を選別して、交配させながら血統を維持してきたから、どうしたってその時の流行に合った、似たり寄ったりの顔つきや髪や目の色をした人間に偏るんだわ。血統書外の迷い人の、実際の歳よりも幼く見える顔つき、一番高貴な闇に近い色とされる黒髪に黒い眼──。この街じゃ、お前の存在そのものが貴重な財宝なんだよ。」
「──はぁ…。」
彼の説明を聞いても、いまひとつ自信というものが湧かなかった。他の魔種は知らないが、少なくとも上級淫魔であるザラキアは、男が見ても思わず嘆息するほど端正な美貌をしている。そんな彼がなぜ、実に平凡な冴えない見た目で、まともに女性と付き合ったこともない自分をそこまで大事にできるのか、魔族やソドムの価値観というものをまだうまく理解できない。少なくとも調教室の外で、小柄で童顔のシンジを愛玩生物として扱っているようなザラキアの手付きや言葉は、全く嫌なものではなかった。
浮かない顔をするシンジを見詰めながら、ザラキアは形よく笑んだ唇をゆっくりと赤い舌先で舐めて湿した。淫蕩と快楽を好むという淫魔に相応しく、実に妖艶な顔つきだった。
「…ま、そんなくだらねぇコトなんざ、このザラキア様が綺麗さっぱり忘れさせてやるさ。──今から処女エロ穴の奥の奥までじっくりと解して、気持ちイイ、いやらしいことしか考えられなくしてやる。いいか、狂うなよ?」
シンジが檻の外に出るのは、二人の労働奴隷が一日二回、赤黒い湯水の張られた浴槽の中で身体の隅々まできれいに洗う時と、ザラキアによる調教を受ける時だと決まっていた。
相変わらず、調教前に尻の中に潜り込んで奥のまた奥まで動き回る、粘液と突起に覆われた軟体生物の動きには全く慣れなかったが、次からは自分で穴を広げて蟲を挿れておくように、と命令されてしまえば、主人の言葉に逆らう術はない。
「ふぅ──ッ…。」
狭い穴の中で肉壁をこそげ取るようにざわざわと動き回り、たっぷりと粘液を塗り付けてシンジを身悶えさせながら中をきれいに洗浄した蟲が、ちゅぽ…といやらしい音を立てて身体の中から出ていく。それと同時に、檻の鍵を手にしたザラキアが軽快な足取りで悠然と現れた。
淫魔や魔族というものはみんなこういう見た目なのかと思わずにはいられない程、ザラキアの容姿は均整が取れて美しかった。モデルのように手足が長く、スラリと背が高い褐色の肌をした青年は、その耳や角はさておき、人間の世界を歩いていたら誰もが振り返って見惚れずにはいられないだろう。涼やかな、睫毛の長い藍色の瞳で見詰められれば、同じ男でもうっかり魅了され、胸が高鳴ってしまいそうだ。
「さあシンジ、調教の時間だ。まず、ソドムの飯を残さず食ったことは誉めてやろう。肉付きの悪い、不健康な奴隷はそれだけで商品価値が下がるからな。」
「──ありがとう、ございます…。」
胸の前でぎゅっとこぶしを握り締め、小さな声で礼を返す。主人に褒められたら素直に礼を言うのが奴隷のしきたりだと教えられていた。もっとも、平凡な会社員だった身が、いきなり魔物の男を楽しませるための性奴隷にされたことについて、恥じらいやためらいが一切消え去ったという訳ではない。衣服というものを許されていない全裸の身体を人前に曝すのは、やはり少なからぬ羞恥を感じる。
俯き、頬や耳を赤く染めるシンジの首輪に取り付けられた鎖をジャラ、と引いて、ザラキアはゆっくりと調教室へと続く廊下を歩き出した。
「──世の中の奴隷調教師の中には、ただ恐怖と快楽だけで人間を操って、型に嵌めて、性奴隷を完全な奴隷として躾する奴もいるけどな。…同業者のやり方を悪く言う訳じゃねぇが、意思まで壊しちまったら、それで遊ぶ楽しさも半減する…と、俺様は思う訳だ。」
「──は…、はぁ…。」
調教室にいない時のザラキアは、時として実に陽気で雄弁だった。今日も今日とて、シンジを散歩中の犬のように後に従えながら、つらつらと持論を語り出す。もっとも、その奴隷であるところのシンジにまともな受け答えなどできるはずもなく、さらにシンジは、生来会話やコミュニケーションが得意な方でもない。曖昧な相槌を打ちながら素足でぺたぺたと石の廊下を歩むシンジの前で、不意にザラキアが歩みを止めた。振り返った長身の青年は、その顔に実に楽しげな笑みを浮かべ、シンジの顎先をクイ、と捕えて上向かせる。
「───だから、お前の調教のコンセプトはもう決めてある。『奥ゆかしくて淫乱な処女』だ、そうなるようにお前を躾けてやろう。…や、こんな仕事、誰も手掛けたことなんかねぇだろうさ。本当に楽しいことになるぞ…。」
「──。」
身を屈めて見下ろしてくるザラキアの顔が、かつてないほど近くでシンジを見詰めていた。形のいい唇と長い睫毛をした、涼やかで端整な青年にそうされれば、思わずどぎまぎとうろたえて視線を彷徨わせずにはいられない。それに、ザラキアは、調教と称して快楽と隣り合わせの苦痛を与えることはあっても、決して無駄にシンジの心身を傷付けるような言動を取りはしなかった。
上目遣いになりながらも、精一杯の勇気を振り絞って、恐る恐る小さな声で問う。
「──あの、どうして…僕なんかを…?──僕は格好よくもない、女性みたいにきれいでもないし、背だって低い方なのに…。こんな、何のとりえもない僕を、どうして──。」
「あぁン?」
ザラキアは、実に心外だという風に片眉を跳ね上げる。
「シンジ、お前、人間の癖にそんなつまらねぇことを考えてたのか?──やれやれ、道理でなんだか妙に湿っぽくて臆病な訳だ…。」
そして、溜息を吐きながら、シンジの短い黒髪に掌を当てて、言い聞かせるように口を開いた。
「お前、三十二年物とは思えない、なかなか幼くて可愛らしい顔してるぜ?…この街は、大昔に、人間の街が神ってヤツの怒りに触れて別の世界から切り離されて出来た。そこで生き残った人間を選別して、交配させながら血統を維持してきたから、どうしたってその時の流行に合った、似たり寄ったりの顔つきや髪や目の色をした人間に偏るんだわ。血統書外の迷い人の、実際の歳よりも幼く見える顔つき、一番高貴な闇に近い色とされる黒髪に黒い眼──。この街じゃ、お前の存在そのものが貴重な財宝なんだよ。」
「──はぁ…。」
彼の説明を聞いても、いまひとつ自信というものが湧かなかった。他の魔種は知らないが、少なくとも上級淫魔であるザラキアは、男が見ても思わず嘆息するほど端正な美貌をしている。そんな彼がなぜ、実に平凡な冴えない見た目で、まともに女性と付き合ったこともない自分をそこまで大事にできるのか、魔族やソドムの価値観というものをまだうまく理解できない。少なくとも調教室の外で、小柄で童顔のシンジを愛玩生物として扱っているようなザラキアの手付きや言葉は、全く嫌なものではなかった。
浮かない顔をするシンジを見詰めながら、ザラキアは形よく笑んだ唇をゆっくりと赤い舌先で舐めて湿した。淫蕩と快楽を好むという淫魔に相応しく、実に妖艶な顔つきだった。
「…ま、そんなくだらねぇコトなんざ、このザラキア様が綺麗さっぱり忘れさせてやるさ。──今から処女エロ穴の奥の奥までじっくりと解して、気持ちイイ、いやらしいことしか考えられなくしてやる。いいか、狂うなよ?」
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