2 / 73
プロローグ
SODOMの奴隷調教師
しおりを挟む
「──…おい。…おい、いい加減に目を開けろよ、──おい。」
誰かがペチペチと執拗に頬を叩く感触が、真治の意識を無理矢理に気絶の沼底から現実に引き上げた。だるい、疲れた、もう少し寝かせて欲しい。日常的に覚え続けていた根本的な想いを抱きながらも、瞼をそろそろと持ち上げて恐る恐る周囲を見渡す。真治の視界には、白い靄が掛かったように霞んでいた。ぱちぱちとまばたきを繰り返すうちに、ようやくまともに目の焦点が合うようになってくる。
「──う…、ん…。」
低く呻いて、ゆっくりと辺りを見渡した。ここはどこで、自分はどうなってしまったのだろう。記憶は混濁してまだ何も思い出せないが、妙に窮屈な恰好で椅子のようなものに座らせられていることだけは解った。ふるりと頭を揺らしながら手足を伸ばそうとしたところで、ガツン!という衝撃と共に両手両足首の動きを阻まれる。そこで、一気に思考が冷えた。
「──え…?…ちょっと…何だよ、これ──っ!」
目覚めてみれば、真治は、婦人科の分娩台のような足置きがついた椅子に深々と座らされているのだ。そして、両手首はひじ掛けに、両足首は大きく開いた足置きにそれぞれ革のベルトで固定され、身動きが取れない。おまけに、ひやりと外気を感じる身体は一糸纏わぬ素っ裸に剥かれている。あまりの恥ずかしさと訳の分からなさに混乱しながらガチャガチャと拘束を揺らして暴れる真治の頭の上から、異様に暢気で間延びした若い男の声が振ってきた。
「あー、やっと起きたか。待ちくたびれたぜ。」
「──えっ…!」
身体の奥まで曝け出す、羞ずかしい姿勢のままで、真治は声の主を見上げて絶句する。
眼の前に立って腕組みをしているのは、どう見ても身長が百九十センチ以上はありそうな、褐色の肌をしたとても背の高い若い男だった。真っ直ぐに伸びた長い藍色の髪を首の後ろでひとつに束ね、髪と同じ深い藍色の瞳が、かなり高いところからしげしげと真治を見下ろしている。
高い鼻に切れ長の目をした、整った青年の顔立ちは二十代の半ば程度であるように見えたが、そんなことより何より真治が驚愕に凍り付いたのは、彼が、横に突き出した細長く先の尖った耳朶と、山羊のように軽く反った象牙色の二本の短い角を持っていることだった。明らかに人間のそれではない片耳の先をぴくぴくと震わせる男は、まるで値踏みをするように腰を屈めて真治の顔を覗き込み、右手を伸ばして短い黒髪をぐっと掴んで上向かせてくる。
「…い、痛──っ…!」
「黒髪に、黒い眼。どんな交配をすればこんな人間が生まれるんだ?こりゃ、突然変異のとんだ稀少種じゃないか。それに、首輪も嵌められてなければ、持ち主の名前が彫り込まれている訳でもない…。見た目の齢にしちゃあ、性奴隷らしい傷もねぇときた。お前、誰に飼われてて、どっから逃げてきたんだ?あン?」
青年の言っていることが、真治にはまるで理解できなかった。絵本に出てくる悪魔のような姿をした、腰にベルトのついた膝丈の短いローブを身に纏った青年は、眉間に皺を寄せながら難しい表情で真治のあちこちに観察の視線を注いでいる。そこで初めて、真治はハッと我に返った。こうなるまでの自分の行動もおぼろげに思い出しはしたが、何より、他人に見せてはいけない両脚の間まで丸見えになるような格好で縛り付けられていることが恥ずかしくて仕方がない。頬から耳の先、そして全身がさっと熱くなり、どうにか拘束から抜け出そうと身を捩って藻掻く。
線路の先はやっぱり地獄に繋がっていて、そこには悪魔がいるのだろうか。しかし、何が目的でこんな姿勢を取らされているのかは全く分からない。
「…い、嫌です…、こんな──こんな恥ずかしい格好…っ!…どうして…、どうして、僕にこんなことをするんですか…!離して、服を着させて下さい──!」
「ハぁ?」
細長い耳朶を持ち、山羊のような角を生やした青年は、あからさまに唇を歪めてフン、と鼻を鳴らした。やおら真治の顎先を捕まえると、グイッと力を込めて無理矢理に視線を重ねてくる。
「何言ってやがる。性奴隷の分際で。人間が、服だと?寝言も大概にしろ。──そういえば、変な趣味の服を着せられてたようだが、元の持ち主はお前にどんな躾を入れたんだか。…まあ、いい。首輪ナシの人間なんか、逃がした方が悪い。この奴隷調教師のザラキア様が徹底的に調教し直して、売り物にしてやる。」
「に──人間…?…調教…?──そ、それじゃ、ここはやっぱり地獄で…僕は、悪魔を見ているのか…?」
ザラキア、と名乗った褐色肌の美しい青年は、すっかり怯えて竦んだ真治の双眸を見下ろして、顔に垂れ掛かる前髪を掻き上げながらニヤリと嗤った。
「お前、自分がいる場所も忘れたのかよ。ここはソドムの街だろ?それに俺は悪魔じゃねぇ、上級淫魔だ。」
誰かがペチペチと執拗に頬を叩く感触が、真治の意識を無理矢理に気絶の沼底から現実に引き上げた。だるい、疲れた、もう少し寝かせて欲しい。日常的に覚え続けていた根本的な想いを抱きながらも、瞼をそろそろと持ち上げて恐る恐る周囲を見渡す。真治の視界には、白い靄が掛かったように霞んでいた。ぱちぱちとまばたきを繰り返すうちに、ようやくまともに目の焦点が合うようになってくる。
「──う…、ん…。」
低く呻いて、ゆっくりと辺りを見渡した。ここはどこで、自分はどうなってしまったのだろう。記憶は混濁してまだ何も思い出せないが、妙に窮屈な恰好で椅子のようなものに座らせられていることだけは解った。ふるりと頭を揺らしながら手足を伸ばそうとしたところで、ガツン!という衝撃と共に両手両足首の動きを阻まれる。そこで、一気に思考が冷えた。
「──え…?…ちょっと…何だよ、これ──っ!」
目覚めてみれば、真治は、婦人科の分娩台のような足置きがついた椅子に深々と座らされているのだ。そして、両手首はひじ掛けに、両足首は大きく開いた足置きにそれぞれ革のベルトで固定され、身動きが取れない。おまけに、ひやりと外気を感じる身体は一糸纏わぬ素っ裸に剥かれている。あまりの恥ずかしさと訳の分からなさに混乱しながらガチャガチャと拘束を揺らして暴れる真治の頭の上から、異様に暢気で間延びした若い男の声が振ってきた。
「あー、やっと起きたか。待ちくたびれたぜ。」
「──えっ…!」
身体の奥まで曝け出す、羞ずかしい姿勢のままで、真治は声の主を見上げて絶句する。
眼の前に立って腕組みをしているのは、どう見ても身長が百九十センチ以上はありそうな、褐色の肌をしたとても背の高い若い男だった。真っ直ぐに伸びた長い藍色の髪を首の後ろでひとつに束ね、髪と同じ深い藍色の瞳が、かなり高いところからしげしげと真治を見下ろしている。
高い鼻に切れ長の目をした、整った青年の顔立ちは二十代の半ば程度であるように見えたが、そんなことより何より真治が驚愕に凍り付いたのは、彼が、横に突き出した細長く先の尖った耳朶と、山羊のように軽く反った象牙色の二本の短い角を持っていることだった。明らかに人間のそれではない片耳の先をぴくぴくと震わせる男は、まるで値踏みをするように腰を屈めて真治の顔を覗き込み、右手を伸ばして短い黒髪をぐっと掴んで上向かせてくる。
「…い、痛──っ…!」
「黒髪に、黒い眼。どんな交配をすればこんな人間が生まれるんだ?こりゃ、突然変異のとんだ稀少種じゃないか。それに、首輪も嵌められてなければ、持ち主の名前が彫り込まれている訳でもない…。見た目の齢にしちゃあ、性奴隷らしい傷もねぇときた。お前、誰に飼われてて、どっから逃げてきたんだ?あン?」
青年の言っていることが、真治にはまるで理解できなかった。絵本に出てくる悪魔のような姿をした、腰にベルトのついた膝丈の短いローブを身に纏った青年は、眉間に皺を寄せながら難しい表情で真治のあちこちに観察の視線を注いでいる。そこで初めて、真治はハッと我に返った。こうなるまでの自分の行動もおぼろげに思い出しはしたが、何より、他人に見せてはいけない両脚の間まで丸見えになるような格好で縛り付けられていることが恥ずかしくて仕方がない。頬から耳の先、そして全身がさっと熱くなり、どうにか拘束から抜け出そうと身を捩って藻掻く。
線路の先はやっぱり地獄に繋がっていて、そこには悪魔がいるのだろうか。しかし、何が目的でこんな姿勢を取らされているのかは全く分からない。
「…い、嫌です…、こんな──こんな恥ずかしい格好…っ!…どうして…、どうして、僕にこんなことをするんですか…!離して、服を着させて下さい──!」
「ハぁ?」
細長い耳朶を持ち、山羊のような角を生やした青年は、あからさまに唇を歪めてフン、と鼻を鳴らした。やおら真治の顎先を捕まえると、グイッと力を込めて無理矢理に視線を重ねてくる。
「何言ってやがる。性奴隷の分際で。人間が、服だと?寝言も大概にしろ。──そういえば、変な趣味の服を着せられてたようだが、元の持ち主はお前にどんな躾を入れたんだか。…まあ、いい。首輪ナシの人間なんか、逃がした方が悪い。この奴隷調教師のザラキア様が徹底的に調教し直して、売り物にしてやる。」
「に──人間…?…調教…?──そ、それじゃ、ここはやっぱり地獄で…僕は、悪魔を見ているのか…?」
ザラキア、と名乗った褐色肌の美しい青年は、すっかり怯えて竦んだ真治の双眸を見下ろして、顔に垂れ掛かる前髪を掻き上げながらニヤリと嗤った。
「お前、自分がいる場所も忘れたのかよ。ここはソドムの街だろ?それに俺は悪魔じゃねぇ、上級淫魔だ。」
48
お気に入りに追加
1,058
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
イケメンの後輩にめちゃめちゃお願いされて、一回だけやってしまったら、大変なことになってしまった話
ゆなな
BL
タイトルどおり熱烈に年下に口説かれるお話。Twitterに載せていたものに加筆しました。Twitter→@yuna_org
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる