蟲人の森 -蝶の王-

槇木 五泉(Maki Izumi)

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胡蝶の想い.5 ※

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 だが、程なくして、ムラサキはシノノメの口にした『覚悟』という言葉を、この身をもって確と思い知らされる羽目になる。

「ひぁ…ッ──!…は…あぁ──、く…あ……っ──!」
 
 激しい腰遣いに撃たれ、四肢に痙攣が駆け抜ける。切っ先の括れが隘路の縁まで引き抜けたところで、弱点を容赦なく擦り付けながらまたぐちゅりと戻る交接の動きは、ムラサキが今まで身に受けてきた行為とはまるで異なるものだった。
 決して粗暴ではない、しかし、巧みに腰を使って奥へ奥へと灼熱の杭を抽挿する動きは、今までの行為など、正しくほんの『真似事』に過ぎなかったのだということを、ムラサキの身に刻むことで解らせてくる。ただ奥だけを狙いすまして突き、雌の胎に確実に仔を宿させるための蜘蛛の本物の交尾の味は、味わってきた快感を遥かに凌駕していた。

「──ひぃ…、ッ、ぁ、…だめ…、また、…いく──、い…く…ぅ──ッ…!」
「…何度目だ?ムラサキ──。ッ、よく締まって…うねって、吸い付いてくる。…あぁ、いいぞ。ずっとイキっぱなしか──。がそんなにイイなら、何度でもイかせてやるからな…。」

 実に巧妙に、抉り込むように奥を開きに掛かってくる交尾器の動きを、一体彼は何処で学んだものだろう。否、きっとこれが本能というものなのだ。番った相手を一生の相手とし、この体内に交尾器の味を確実に刻み付けるための、情熱的な行為だ。
 長い髪を振り乱し、指先でかりかりと寝床を毟っても、強過ぎる快楽はムラサキを離してはくれない。

 とつとつと最奥を突かれ続けるうちに、ムラサキの中に奇妙な緩みがじわりと生じてきた。思わず下腹にぐっと力を籠め、無意識にそれを拒んでしまう。曲がりくねった行き止まりだと思っていた内壁の奥が、容赦のない突き上げを受け、少しずつ綻びようとしているのだ。突き上げられる度、その一回で目の前が白くなるような快楽に溺れ、幾度も精を吐いた屹立はとっくに音を上げそうだというのに、この上、知りもしなかった奥処を暴かれたら、この身は、心は、どうなってしまうというのだろうか。

 幾度も絶頂に引き摺り上げられ、みっともない善がり声を張り上げて泣き濡れた顔をだらしなく歪め喘ぐことしかできないムラサキに、ほんの僅かに残った理性が、この先を許すことを恐れる。まるで最奥にくちづけるようにグリグリと捻じ込まれる楔を締め出そうと力を込めるムラサキの耳朶に、不意に啄むだけの柔らかな接吻が落とされた。

 同時に吹き込まれる、短く、低く、熱く滾った、たったひとつの言葉。


「──愛してる。」


 その瞬間、白く閃いていた目の前が、鮮やかな桃色に染め上げられていくのがいっそおかしいほどだった。

 くぷり、と実に呆気ない軽い衝撃と共に、決して暴かせるまいとしていた奥処の門は、易々と交尾器の侵入を受け容れてしまう。

 ひゅうっ、と咽喉が笛の音を搾った。

 何をされたのか、ムラサキには皆目見当がつかなかった。雄の身に雌同様の子宮などある筈もないのに、ずっぷりと嵌まり込んだ二つ目の入口に切っ先を引っ掛けるように小刻みな出入りを繰り返す雄の楔は、感じたこともない、めくるめくような狂気の悦楽がそこにあるということを知らしめてくる。

「──か、…は…、ッ──!…っ、ぁ──、ァ──!」

 大きな振幅で隧道ずいどうを貫いていた交尾器は、奥に嵌まり込むと、そこをゆさゆさと揺さぶるように小刻みに抉る動きに変わった。
 ムラサキの目の前に、艶やかな桃色と青で織られた、極彩色の花弁が散る。
 産まれてこの方見たこともない、警告色のような光りの閃きが生じては消え、最早吐き出す精さえなくなった屹立の先端から、得体の知れない熱い体液がびしゃびしゃと迸って下腹を濡らすのを、止めることが出来ない。

 言葉も出ない狂おしい絶頂から降りて来られないムラサキの中を、腰を使って掻き混ぜながら、シノノメは恍惚と手を伸ばして、ムラサキの下腹を撫でてきた。
 楔に抉られている、自分自身でさえ知り得なかった奥底を真上から柔らかく撫でられれば、嫌でも裏側に強張った肉の塊を咥え込んでいることを意識することになる。
 雄蜘蛛の、一生の番いを相手に行われるという本物の交尾を受け止めて、汗にしとど濡れた全身が強すぎる歓喜でがくがくと震えた。
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