蟲人の森 -蝶の王-

槇木 五泉(Maki Izumi)

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春待つ者.3 ※

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 それから、また暫く時が流れた。朝が訪れ、夜が訪れ、恣に戯れ合っては若い生殖の欲求と、自然が生じさせたものではない快楽を満たし合う。

「──ふ、…うぅッ…。」

 絡み合った舌が、唇の狭間でピチャリと濡れた音を立てる。シノノメの下肢を跨いで腰を下ろしたムラサキの後ろ頭を手繰り寄せ、長い髪を絡めながら接吻を味わうシノノメは、辺りに仄かに立ち込める鱗粉の発情香に恍惚と酔い痴れていた。同じ種族の雌蝶を惹き寄せる翅の香気は、外つ国の毒蜘蛛にとっては発酵した果実の酒より絶品であるらしい。
 ただただ粗暴であった最初のうちより大分物慣れた手管で触れられると、ムラサキの神経は鋭く研ぎ澄まされ、肉体はいとも容易く掻き立てられた。長い冬の間に少しずつ造り変えられ、雄蜘蛛の為の器となった痩身は、その手で何処にどう触れられてもじんと鈍い疼きを覚えて仕方が無い。

 ムラサキに不自然な発情を催させる若く逸る雄の手を取り、時として導いてやりながら、互いに一糸纏わぬ身体で快楽の深みへと降りてゆく。胸肌を重ね、両足を絡め合わせると、彼の高い体温と相俟あいまって触れ合った場所から痺れるような愉悦が生じた。蜘蛛の力強い抱擁の腕は、受け身となって抱かれたことのないムラサキに、初めての蕩けるような随喜の感覚を教えてくれたのだ。

「──はぁ…!…ア…あぁっ──!」

 シノノメの上に跨ったムラサキの、最も秘めやかな深みには、奮い勃った雄蜘蛛の交尾器がしっぽりと嵌まり込んでいた。
 息苦しさと隣り合わせのめくるめく快感に全身を戦慄かせながら、汗ばむ身体を揺さぶって、繋がった相手と自分自身の肉体からだ、双方の悦楽を高めていく。細腰を両側から掴まれて揺らされると、楔を咥え込んだ内奥の壁に不規則な刺激が加わり、眼の前の白む快感に膝が崩れそうになる。悩ましげに眉を寄せ、額から幾筋かの汗を滴らせながら自ら動くことで我が身を突かせるムラサキは、余裕なく荒い呼吸を繰り返す唇を懸命に引き上げて、淡く微笑して見せた。

「──シノノメ…、…ん…っ…、気持ちが…悦い…?」

 幾ら憎からぬ相手とはいえ、二廻りも年若い異種の雄の上に跨って淫らがましく腰を使う己を曝け出すことに、戸惑いがない訳ではない。それでも、ただ自分だけが天上の楽園を見せられるのは嫌だった。
 今やすっかりシノノメのかたちだけを覚えた身体の深部は、雌のそれに近い、ただ一匹の雄を受け容れる器官になったということを認めざるを得ない。完全に羞恥を棄て去ることも出来ずにシノノメと交わり、大きな動きで身体を揺さぶることで、彼の快楽を精一杯高めることに終止する。
 気を抜けば、馴染んだ隘路が逸って先に果ててしまいそうだった。敢えて弱点を外してグチュグチュと卑猥な音を響かせるムラサキの、感極まった面持ちを見上げ、若い雄蜘蛛は唇を意地悪な角度に笑ませる。

「──あぁ、まあ上出来だが、俺を先にイかせてやろうっていう魂胆が気に食わねぇ。お前、鳴かされてる時の方が、よっぽどイイ顔になる癖に。」

 言うなり、やおらムラサキの腰に指が食い込むほど強く掴み締め、落とした腰に合わせてガツ、と下肢を突き上げる。反動で深々と楔を穿たれたムラサキの四肢に、がくがくと不規則な震えが走った。
 深く繋がったまま幾度も激しい突き上げを受け、大きく見開いた目の前に色鮮やかな光が閃いては消える。

「──ヒ…あっ…!…や、ぁ、…深…過ぎ…っ──!」
「…ハ、お前には見えねえだろうが、お前がそそるつらしてるんだから仕方ねえだろ。──ほら、どうだ?俺のでイッて見せろよ、ムラサキ…!」
「──あ…ぅッ、…駄目…、だめ、シノノメ…!も、──いく……ッ…!」

 長い葡萄茶色えびちゃいろの髪を乱し、ぴたりとその形を覚え込んだ雄に突かれながら、急速に熱を高めていく肉体をどうすることもできずに、泣きそうな顔を曝け出してシノノメの上体にただ、縋る。そんなムラサキの最奥を打ち据えるように腰を跳ね上げるシノノメの額にも、汗が滲んでいた。

 生まれたままの肢体を絡めながらひとつのところに登り詰めようとすると、決まってムラサキが先に果てを見せられる。若い雄の旺盛な精力の前には太刀打ちすら出来ない四十五令の身体は、それを知り尽くした手で巧みに追い立てられて、頭の中がくらくらと白く煮え立つようだった。
 辺りに広がる雄蝶の翅の香気は、今やムラサキさえそれと解る程に濃く漂っている。異種の毒蜘蛛を酔わせ、発情を掻き立てる薫りを吸い込み、シノノメの青い瞳が恍惚と細んだ。

「ほら、イっちまえ──!だが、この一度で終わると思うなよ…!」
「あ──ァ、アあ…ッ──!」

 一際大きな動きで穿たれ、眼の前が稲妻のように明滅した。下腹で昂った雄の器官は、触れられてもいないのに、裏側を擦られながら絶頂を極められるようになっていた。

 大きな翅ごと全身を震わせて、シノノメの腹の上に思う様に白濁の慾を迸らせる。不自然に浮ついた頂上から降りて来られないムラサキの内奥を更に荒らして派手な嬌声を上げさせた後、ムラサキの奥に留まり、シノノメはくっと息を詰めた。内側から引き裂かれるかと錯覚するほど、張り詰めて熱く弾ける強張った肉体の一部。体内に仔種こだねを吐き出すそれを慈しむようにきゅっと締め込みながら、ムラサキは虚空を見詰めて恍惚と溜息を吐く。

 この後、隘路の中に気絶するまで激しく交尾器を出し挿れされようが、或いはもう堪忍してくれと哀願するまで全身を指先で焦らされようが、シノノメがそれを好むのならばどうなっても構わないとさえムラサキは思っていた。花の盛りを過ぎ、色褪せたこの身が情欲に身悶えるのを眺めて、若い毒蜘蛛が満悦を覚えるのならば、それで構わない。

 しっとりと汗を纏った肌が、燃えるように熱かった。呆然と荒い呼吸を繰り返しながら、合間に雄蜘蛛の唇を強請ねだって首筋を引き寄せ、気が済むまで裸身で戯れた。
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