蟲人の森 -蝶の王-

槇木 五泉(Maki Izumi)

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東雲.9 ※

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 狭い口をぐぷん、と巧みに割り開かれ、圧迫感と表裏一体の、全身の産毛がそそけ立つような苦しい快美観が頭の先からつま先まで突き抜ける。折り曲げられ、肩に担がれた足指の先が、きつく丸まっては虚空を蹴り付けた。

 隘路あいろの中を引きつ戻りつ、濡れそぼった雄の交尾器が切り開き、肉叢を掻き分けてゆく。受け容れたことのない姿勢で侵入を受け、息苦しさにひゅう、と鳴ったムラサキの咽喉は、怒張した切っ先の括れに泣き処を押し潰されて、たちまちのうちに甘美な悲鳴を張り上げた。

「い…ぁ、苦し…、ッ、──そこ、…ふ、…深過ぎ…っ──!」
「…へぇ。この姿勢だと、奥まで届くのがイイのか。少し動いただけで、お前のが卑しく喰い付いてきやがる──。口では何を言っても、結局は淫乱だ。雄の蝶って奴は、これだから面白い。阿婆擦あばずれは嫌いじゃないが、何度ヤッても強情な淫乱も悪くねえ。暗くても俺にはよく見えるんだ、お前、こっちの口に咥えさせた方が美味そうにしてるぞ、ムラサキ…。」

 シノノメの指先が、きゅっと雄を喰い締めた淵をゆるりとなぞる。そして、亢奮こうふんと愉悦に多少の侮蔑を混ぜ、身を屈めて耳許に囁きを落とした。

「──この、淫乱な雌蝶が。」
「嫌…ぁ、──あ…ア、…ああぁッ──!」

 深々と嵌入された雄のもので大きく突き上げられ、ムラサキの身体が雷に撃たれたようにがくがくと震えた。言葉の刃で斬り付け、矜持ごと打ち据えた時、ムラサキの肉の隧道が呼応して引き絞られることをシノノメはよく心得ている。
 交尾器が抜け落ちる間際まで引き出し、また深々と腰を叩き付けて深みを叩きに掛かる動きの繰り返しの中で、隠し立てのできない随喜がムラサキの腰に蟠ってくるのが解った。そしてそれは、一方的にこの身を犯す蜘蛛の眼には明瞭と映っているに違いない。背中を丸めて身悶えたところで、執拗な楔の突き上げから逃れることはできなかった。
 強引に与えられる快楽に震える翅から放たれる欲情の香気こそが雄蜘蛛をそそるというのに、本能的に放たれる芳香は、ムラサキ自身にも制御することはできない。雄の楔で体内を激しく責められるだけで絶頂の兆しを見せる、このはしたない肉体と同じように。

「──あ…ァ、だめ、いく…、いくっ…!お願い…だ、…動かさ…ないで──ッ…!」
「あァ?イきたきゃ勝手にイけよ。俺は止めねえ。お前は一度イかせた方が、よく締まって具合がいい。──そら、イけ…!派手にイッちまえよ!雌らしく、奥まで突かれてイけッ…!」

 全身を激しく震わせながら辛うじて発した懇願すらも、一笑に付される。ばかりか、シノノメはますます凶暴に、急き立てるようにぐちゅぐちゅとみだらな音を立ててムラサキの奥まで叩くように犯した。大きな振幅で貫かれ、舌を覗かせて喘ぐムラサキの視野には、最早幻覚の白い花弁以外には何も映らない。肉壁の一部を磨り潰されるだけで前後不覚の境地に追い詰められていく自分自身など、認めたくもなかった。

 頭の中が白く塗り潰されるその瞬間は、すぐに訪れる。

「──や、あ、…いく…、ッ、イッ…!…いった…から──ぁッ…!」
「だから何だ、俺はまだ終わってねえ。精々、だらしなく鳴いてろ。…よく締まるぜ、お前。」

 己の下腹部に飛び散る白濁の迸りすら冷たく感じられるほどに、今のムラサキはシノノメの手で掻き立てられ、灼熱していた。中を抉られて達する絶頂の境地は、雄の身で覚えるそれとはまるで異なる。
 昇り詰めても降りてこられない体内を更にぐちゃぐちゃに掻き混ぜられた時に生じる感覚は、快楽と呼ぶには生温い。

 二度、三度、押さえ込まれた身体を波打たせながら絶頂に至っても、若者の欲情は止まることを知らなかった。二回りも年若いシノノメが満足を得るまで、凌辱のくさびは絶え間なくムラサキをさいなみ続けた。
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