蟲人の森 -蝶の王-

槇木 五泉(Maki Izumi)

文字の大きさ
上 下
21 / 61

東雲.5 ※

しおりを挟む
 全身を小刻みに駆け抜ける波の起こる感覚が、徐々に短くなっていく。解けた長い髪を振り乱し、寝床の落ち葉をカリカリと掻きむしりながら、そうしろと命じられた通りに咽喉を仰け反らせて、ムラサキは甘味を含んだ悲痛な声を絞り上げた。

「あぁ…ぁッ──、っ…も…、いく…、終わって…しまう──から…っ…!」

 背中越しに降ってくる、シノノメの昂り切った嗤い声。ムラサキが昇り詰める瞬間、一層引き締まる肉の隧道ずいどうと、一際香り高く放たれる芳香は、外来の毒蜘蛛にとっては噛めば酩酊を覚える罌粟けしの蕾のように心地が好いらしい。全身でその愉悦を味わおうと、うねる柔い肉の中に激しい動きで脈打つ交尾器を叩き付け、二対の翅の合わいに顔を埋めて大きく息を吸い込む。

 波打つムラサキの背筋の上に、数滴の汗の雫がポツリと落ち掛かり、それを合図に全身がおこりに掛かったようにがくがくと震えた。固く閉ざした瞼の裏に、幾条もの青白い稲光が迸る。

「ひ…あアぁ──っ…!」
「──、ン…っ…!」

 交接器と化した体内を穿たれて辿り着く絶頂は、雄の身体で覚える瞬時の絶頂感とはまるで異なるものだった。延々と続く、身体中を駆け巡って白い泥のように滞る快楽は苦痛と紙一重、しかしシノノメはまともな言葉も発せずにぴしゃりと精を吐いて震えるムラサキの中を、今わの際のざわめきを愉しむように大きな動きで突き続ける。

「…い──っ…、あ…、苦しッ、…もう──無理…ッ…!」
「俺のを咥え込んで離さない癖に、よく言う。…ッ、いいぜ、くれてやるよ。残さず飲め──!」

 不自然な絶頂の痙攣に撃たれるムラサキの身体の奥を、尚も執拗に抉り付けて愉悦を味わっていたシノノメが、ムラサキの中で膨れ上がり、ガツ、と奥深くを突いて動きを止めた。どくどくと注ぎ込まれる熱い迸りは、蜘蛛の雌に仔を授ける雄の若々しい精。

 所詮は交尾の真似事、異種の雄の身で受け止めたところでその仔を身籠ることもないが、老いゆく雄蝶の身でも、凶暴な蜘蛛の退屈を紛らわせるには充分なのだろうとムラサキは荒い息の下でぼんやり考える。


 やがて、満足を得たのだろう楔がゆっくり引き抜かれると、じんと疼いて解けたままの奥の口から、どろりと熱いものが溢れて太腿を伝った。
 抗うこともできず、体内に他の雄の精を注がれたのだと知らしめられるその瞬間が、ムラサキにとって最も屈辱的で、耐え難い一時だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

23時のプール 2

貴船きよの
BL
あらすじ 『23時のプール』の続編。 高級マンションの最上階にあるプールでの、恋人同士になった市守和哉と蓮見涼介の甘い時間。

溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集

あかさたな!
BL
全話独立したお話です。 溺愛前提のラブラブ感と ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。 いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を! 【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】 ------------------ 【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。 同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集] 等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。 ありがとうございました。 引き続き応援いただけると幸いです。】

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...