蟲人の森 -蝶の王-

槇木 五泉(Maki Izumi)

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東雲.4 ※

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 秋の間、充分に食餌を摂った蟲人達は、越冬の長い眠りに就く。北風の冷たさに合わせるように体温が下がり、暖かな春の訪れがあるまで、木の洞や洞窟、土の中に掘られた穴倉に籠もって、延々と眠り続けるのだ。
 餌となる蜜や樹液が無くなる季節を乗り越えるための『越冬』の習性を、シノノメと名付けた外来種の毒蜘蛛は持っていない。それどころか、いつもならばムラサキの身に訪れる筈の眠気すら、この冬には何故か訪れがない。
 それは、食餌となる蜜や花粉がふんだんにあり、木の洞に出来た蜜蜂の要塞が暖かいせいで感覚が狂っているという理由もあるのだろうが、春から夏の間に蝶の身に現われる『発情』の兆候を、シノノメによって無理矢理に引き出されているためであろうとも思えた。


「──あ…ぁ、──は…ッ──!」

 飢えて痩せこけていた時より幾分か肉付きの良くなった腰を両手で掴み、四つん這いにさせたムラサキの秘部を貫いて、シノノメが腰を打ち付けてくる。ムラサキが、いつも几帳面な程に丹念に着付けている焦茶と濃紫の和装は、帯を解かれて寝床の周囲に散らばっていた。

 温かな枯葉の中で幸福の内に越冬の眠りに身を委ねることを胡蝶に許さず、雄の蜘蛛は二日と置かずにムラサキを発情の毒牙に掛けた。交尾の真似事をしていても、シノノメは殆ど自身の衣服を解くことがない。精々上着を脱ぎ、下穿したばきを引き下ろすだけの雄蜘蛛に反して、ムラサキの装束はいつも彼の気紛れで千々に乱された。肌同士が触れる乾いた音と、ムラサキの感極まった喘ぎ声とが木の洞に響き、それを耳にすれば殊更に惨めな気分を味わう羽目になる。
 だが、下腹の更に下ではムラサキの雄の器官が硬く張り詰めて熱を持ち、濡れそぼって、解放の時を待ち侘びているのだ。

「…うぁ…ア──っ…。」
「イきそうか…?欲しがって、中がひくついてるぞ。──お前は、解りやすい淫乱だな…。」
「…ッ、き、聞かせないで──、そんな…こと…っ…!」

 シノノメの言葉通り、幾度も交尾器を咥えることに慣れた身体の奥は、いつの間にか形だけの交尾に馴染んで、快楽を拾い上げることに慣れつつあった。最初こそシノノメの麻痺毒で固さを解さなければならなかった深みへの口も、今や軽く慣らされるだけで長身の雄蜘蛛のおおきな交尾器を易々と受け容れられるように造り替えられている。

 肚の裏側の一点に、そこを押されるとどう足掻いても快感を禁じ得ない場処が眠っていることを自覚せざるを得ないばかりか、感覚というものが残されたままの狭窄は、浅い部分を交尾器の先端で引っ掛けるように擦られるだけで、擽ったさを通り越して堪らなく感じた。
 全身にしっとりと汗を纏いながら雄の蜘蛛に後ろから突かれ、意に反して腰が持ち上がっていくのが解る。小刻みに震える斑模様まだらもようの翅から立ち昇る発情の香気は辺りに色濃く漂い、シノノメの粗暴な腰遣いに拍車を掛けるばかりだった。
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