蟲人の森 -蝶の王-

槇木 五泉(Maki Izumi)

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越冬.4 ※

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 若く、繁殖のための精力に満ち溢れた雄蜘蛛の、底なしの体力と欲望を、そうされることには全く慣れていない隘路でどうにか受け止める。
 乱暴に引き抜かれ、また粘つく音と共に最奥に叩き込まれる、漲り張り詰めた雄の交尾器は、先程果てを迎えたばかりだというのに、一向に衰える気配すらなかった。

 抽挿の角度が変わり、先程そこにムラサキをおかしくする『何か』があると知らしめられた内壁の一部に狙いを定め、凶悪なまでに張った交尾器の切っ先が柔肉を推し潰すように引っ掻いてくる。

「──あ、ぁ…!…駄目…、だめ…!」

 不自然な絶頂の果てに引きずり上げられたばかりの肉体は、そこだけを狙いすましていじめる雄の交尾器を拒むようにきゅうと喰い締め、身体はムラサキの意思とは関係なくがくがくと不規則に跳ね上がった。いくら唇を引き結ぼうとしても溢れる悲鳴を耳にしたのだろう。雄蜘蛛の低く愉しげな嗤い声が、耳の奥まで入り込んで侵そうとしてくる。

 交接器として使われる孔の浅くは麻痺毒の消失と共に痛み、疼いたが、代わりに狭い入口を通り抜ける熱い雄の器官がそこにあるということを露骨に感じ取れるようになった。そして、身体を開かれる痛みより先に不自然な快感というものを教えられた身体は、楽な方に逃がれようとして、知らず知らずのうちに腹の裏側のしこりへと意識を集中させてしまう。

 全身をしっとりと覆う汗。葡萄茶色えびちゃいろの長い髪を乱して、後ろからのしし掛かる若い雄蜘蛛に身体を明け渡し、ぐちゃぐちゃと卑猥な音を立てて突かれながら、ムラサキは自分の身体が強引に発情の境地に導かれようとしていることを悟った。
 二対の翅が揺れる度、鱗粉の間から立ち昇る香気は、最早自分自身でも解るほどに艶を増していたのである。

「ッく、ぅ──う…うぅッ…。」

 腰をぶつけるようにムラサキの隘路あいろを激しく犯す蜘蛛は、雄の蝶が放つ誘引の馨りに、確かにてられていた。荒ぶる息も、激しさを増す楔の往復も、彼が一匹の雄として興奮しきっていることを、身をもって知らせてくる。

 心臓が弾け飛ぶほどに激しく鼓動し、ただ身体の奥を突かれているだけの身体が、一里を駆け抜けたように汗ばんで息が上擦る。

 これはただ不毛なだけの交尾の真似事、であるから矜持を折ってでも生に縋ったというのに、雄の身では知り得ない快楽があることを確かに思い知らされて、ムラサキは惑い、そして暗澹と絶望した。眦から、再び涙の雫がほろりと溢れ出す。
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