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毒蜘蛛.3 ※
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ムラサキより背の高い若い雄蜘蛛が確かに捉えた、両脚の間に息衝く、誰に触れさせたこともない秘められた孔。あまりの恐怖と屈辱に、軽く撫で上げられただけのそこをひくん、と竦ませてしまう。
弱く身体の小さい、可憐な少年の面影を宿す雄の蟲人が、番いの雌を見つけられなかった、あるいはただ気紛れなだけの強い雄に寄って集ってここを開かれるという不名誉があることは知っていた。そして、雄同士で惹かれ合い、不毛な番いとなる者がいることも。
ただ、そんな行いは、番いの雌を争って負けたことのない、力強く美しい蝶の王として君臨してきた自身には程遠い世界の、想像もつかない辱めに近い行為だとしか考えたことがなかった。
よもや、絶対的な捕食者であるとはいえ、二回りも年若く見える蜘蛛の雌代わりになるという屈辱を刻まれることになろうとは思いもしなかったムラサキの中には、惨たらしく喰い殺されることへの恐れとはまた別種の、敗北と矜持喪失の恐怖というものが、じわじわと地表に滲む地下水のように生じていた。
「ッ、ひ──っ…!止せ、そんなところ、やっ…いッ、痛──っ…!」
怯えと恥辱に震えるムラサキに構うことなく、雄蜘蛛の太い指が純潔の淵に無理矢理ズプリと突き立てられて、強引に体内に押し入ろうとしてきた。雌の交接器のように濡れることもない、硬い奥処。後にも先にも、そんな扱いを身に受けるとは露ほども思っていなかった痩せた体躯は、力の抜き方を知らずに固く強張り、護る術もない脆弱な柔い肉を引き裂く鋭い激痛に、高らかな悲鳴を響かせる。
幾度も、幾度も、ムラサキの奥に進もうとして食い込む乱暴に指が揺らされれば揺らされるほど、酷い痛みが頭の先まで突き抜けて、軋む身体に拒絶の力が籠もり、咽喉からは惨めな苦鳴が迸った。経験のない痛みに怯え暴れる度、跳ね上がって揺れる翅からは微かに馨る鱗粉が散り、蜘蛛の手付きの粗暴さに拍車を掛けて、気紛れに腸近くを暴かれるムラサキを酷く苦しませる。
力任せではどうあっても綻ばない蕾に業を煮やしたか、雄の蜘蛛はフンと鼻を鳴らしながら、さして深くまで暴けなかった秘所から指先を引き抜いた。左手が伸び、信じ難い苦痛と恥辱の仕打ちを受けてぐったりと俯く宙吊りのムラサキの髪を掴み締めて強引に上を向かせ、怒りと苛立ちで満ちた酷薄な貌で睨み付けながら、自らをモモイロドクグモと称した蜘蛛の若者は声を荒らげる。
「…テメェ、心の底からイラつくな、羽虫が!嬲り殺しながら喰って欲しいのか?それとも、雌代わりの交尾相手にして欲しいか?──どうされたいのか、今すぐ声に出して言え。言う気がねぇなら、気が狂うまで痛い思いをさせてから目一杯時間を掛けて喰い殺してやるだけだ。…あぁ、それこそ、この退屈過ぎて死にそうな冬が終わるまでは、テメェを生かしておいてやるよ…!」
「──あ、ぁ…。」
両脚の間の、誰の手にも触れさせたことのない深みに易々と辿り着いて暴きに掛かった非情な蜘蛛の目が、その言葉が冗談ではないことを明瞭と物語っている。白く尖った二本の牙を覗かせて粗野な苛立ちを見せる蜘蛛が舌なめずりをすれば、その赤い舌先の中央を穿って、鈍く輝く銀玉の飾りが嵌め込まれているのが見えた。かちり、と毒牙に金属の玉を打ち付ける蜘蛛の威圧を前に、ただでさえ冷え切っていた頬がさらに冷たく引き攣る。
嬲られるか、殺されるか。或いは、散々嬲られてから殺されるのか。
どれを選んでも、ムラサキにとっては耐え難い苦痛だ。だが、押し付けられた不合理極まる選択肢の中で、それでも僅かな活路に縋ろうとするのが、凍える吹雪の中を当て所なく歩き続ける蟲人としての本能であるのだった。
薄く潤みを帯びた焦茶の眸で、この身をどうにでも好きに扱うことのできる若い雄蜘蛛を見上げる。視界の中で、酷薄なその顔は酷く歪んで見えた。
そよ風よりも微かな声で、苦渋の内に紡いだ答えを口にして、ムラサキは浅く目を閉ざす。こんなにも浅ましいところまで堕ちた己を、毒蜘蛛の眼を通して『視る』ということさえも、放棄したくてならなかったのだ。
「──交尾、の、相手…を。」
雄蜘蛛の、空虚な耳の奥にまで反響するけたたましい嗤い声が、巨木の洞に木霊した。
弱く身体の小さい、可憐な少年の面影を宿す雄の蟲人が、番いの雌を見つけられなかった、あるいはただ気紛れなだけの強い雄に寄って集ってここを開かれるという不名誉があることは知っていた。そして、雄同士で惹かれ合い、不毛な番いとなる者がいることも。
ただ、そんな行いは、番いの雌を争って負けたことのない、力強く美しい蝶の王として君臨してきた自身には程遠い世界の、想像もつかない辱めに近い行為だとしか考えたことがなかった。
よもや、絶対的な捕食者であるとはいえ、二回りも年若く見える蜘蛛の雌代わりになるという屈辱を刻まれることになろうとは思いもしなかったムラサキの中には、惨たらしく喰い殺されることへの恐れとはまた別種の、敗北と矜持喪失の恐怖というものが、じわじわと地表に滲む地下水のように生じていた。
「ッ、ひ──っ…!止せ、そんなところ、やっ…いッ、痛──っ…!」
怯えと恥辱に震えるムラサキに構うことなく、雄蜘蛛の太い指が純潔の淵に無理矢理ズプリと突き立てられて、強引に体内に押し入ろうとしてきた。雌の交接器のように濡れることもない、硬い奥処。後にも先にも、そんな扱いを身に受けるとは露ほども思っていなかった痩せた体躯は、力の抜き方を知らずに固く強張り、護る術もない脆弱な柔い肉を引き裂く鋭い激痛に、高らかな悲鳴を響かせる。
幾度も、幾度も、ムラサキの奥に進もうとして食い込む乱暴に指が揺らされれば揺らされるほど、酷い痛みが頭の先まで突き抜けて、軋む身体に拒絶の力が籠もり、咽喉からは惨めな苦鳴が迸った。経験のない痛みに怯え暴れる度、跳ね上がって揺れる翅からは微かに馨る鱗粉が散り、蜘蛛の手付きの粗暴さに拍車を掛けて、気紛れに腸近くを暴かれるムラサキを酷く苦しませる。
力任せではどうあっても綻ばない蕾に業を煮やしたか、雄の蜘蛛はフンと鼻を鳴らしながら、さして深くまで暴けなかった秘所から指先を引き抜いた。左手が伸び、信じ難い苦痛と恥辱の仕打ちを受けてぐったりと俯く宙吊りのムラサキの髪を掴み締めて強引に上を向かせ、怒りと苛立ちで満ちた酷薄な貌で睨み付けながら、自らをモモイロドクグモと称した蜘蛛の若者は声を荒らげる。
「…テメェ、心の底からイラつくな、羽虫が!嬲り殺しながら喰って欲しいのか?それとも、雌代わりの交尾相手にして欲しいか?──どうされたいのか、今すぐ声に出して言え。言う気がねぇなら、気が狂うまで痛い思いをさせてから目一杯時間を掛けて喰い殺してやるだけだ。…あぁ、それこそ、この退屈過ぎて死にそうな冬が終わるまでは、テメェを生かしておいてやるよ…!」
「──あ、ぁ…。」
両脚の間の、誰の手にも触れさせたことのない深みに易々と辿り着いて暴きに掛かった非情な蜘蛛の目が、その言葉が冗談ではないことを明瞭と物語っている。白く尖った二本の牙を覗かせて粗野な苛立ちを見せる蜘蛛が舌なめずりをすれば、その赤い舌先の中央を穿って、鈍く輝く銀玉の飾りが嵌め込まれているのが見えた。かちり、と毒牙に金属の玉を打ち付ける蜘蛛の威圧を前に、ただでさえ冷え切っていた頬がさらに冷たく引き攣る。
嬲られるか、殺されるか。或いは、散々嬲られてから殺されるのか。
どれを選んでも、ムラサキにとっては耐え難い苦痛だ。だが、押し付けられた不合理極まる選択肢の中で、それでも僅かな活路に縋ろうとするのが、凍える吹雪の中を当て所なく歩き続ける蟲人としての本能であるのだった。
薄く潤みを帯びた焦茶の眸で、この身をどうにでも好きに扱うことのできる若い雄蜘蛛を見上げる。視界の中で、酷薄なその顔は酷く歪んで見えた。
そよ風よりも微かな声で、苦渋の内に紡いだ答えを口にして、ムラサキは浅く目を閉ざす。こんなにも浅ましいところまで堕ちた己を、毒蜘蛛の眼を通して『視る』ということさえも、放棄したくてならなかったのだ。
「──交尾、の、相手…を。」
雄蜘蛛の、空虚な耳の奥にまで反響するけたたましい嗤い声が、巨木の洞に木霊した。
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