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さすがに今回ばかりは殴りたいと思いましたよ僕何回かは許されると思うんですよねケツ出せば許されると思ってんじゃねえぞまあ許してしまう僕の方にも
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佐久間の紐が発動したのだ、と直感した。
「さ、佐久間あああぁぁぁー!」
思わず声を上げた岸尾は、走り出そうとして自分が解除していたトラバサミの中に足を突っ込んだ。雷のような痛みに全身を貫かれ、バランスを崩す。
「いいいいい痛あああああァァァぁ!」
反射的に右手を出そうとして、顔から地面に突っ込む。しまった、と顔を上げた時には遅かった。二対の赤い目が、じっと岸尾のことを見つめている。こうなってしまっては姿隠しもへったくれもない。
「……っ……か!」
何かを叫びながら、ドラゴンの向こうから飛び出した佐久間が駆けてくる。どんな激闘があったのか剣は折れ、爪で引き裂かれたプレートは血まみれになっていた。少し髪の毛が焦げてもいるようだ。
「何やってんですか! 終わったんなら早くずらかりますよ!」
「ごめ、足……挟まっ……」
「はあ⁉」
佐久間の後ろから追ってくるドラゴンが、こちらを向いて吠えた。闖入者が増えたことに怒っているようだ。
「これどうやって外すんですか!」
「横の部分踏ん……いや佐久間、俺はいいから早く逃げろ!」
「馬鹿野郎!」
キレる佐久間の向こうに、ドラゴンの大きく開いた口が見えた。ヌラリと光る牙と、岸尾の腕を飲み込んだ真っ赤な喉。
ちり、とそこに青白い炎が揺らめく。
「うわあぁ!」
叫んだ岸尾は、腕を伸ばして佐久間のアーマーに指をかけた。体重をかけて引き倒し、上に覆いかぶさる。
強く目をつぶって息を止める。黒竜のブレスに炙られ、丸焦げになる自分の姿が脳裏に浮かんだ。
「……?」
だが、岸尾の覚悟したように炎が吹き付けてくることはなかった。息の続かなくなった岸尾が恐る恐る振り向くと、親子のドラゴンは二人のことをただじっと見つめていた。不可解なものを見るような目に、岸尾は自分の姿を見下ろした。いつの間にか姿隠しのマントはどこかに消え、右腕のない男が間抜けにも罠にかかっている様子が顕になっている。
きゅう、と子ドラゴンが後ろ足を動かすと、がる、と親ドラゴンの方も小さく唸った。
「……先輩? どうしました?」
「わかんない……けど、平気っぽい……」
佐久間の上から身体をどかし、トラバサミを外してもらう。残りのポーションをかけると、岸尾のズボンに付いた血の跡だけを残して傷が治っていく。
「はい、佐久間くんも……ってあれ、傷がない? 血はこんなに出てるのに?」
「あ、さっき胸元を爪でやられたときに全快しました」
「なるほど、まじないの効果かあ」
確かに、プレートを貫くほどの怪我をしたら、走るどころではないだろう。岸尾が頷いていると、ぐるる、と唸り声がして親ドラゴンが顔を近づけてきた。
「あっすいません、もう帰ります」
なんだかよく分からないが九死に一生を得たのである、こんなところでドラゴンの機嫌を損ねてはいけない。のたのたと立ち上がる。だがドラゴンはその右袖をぱくりと咥えたかと思うと、猫のように首元を肩に擦り付けてきた。
「えっ、何……首がかゆいの?」
恐る恐る、硬い鱗の生えそろった首元に岸尾は手を伸ばした。指先で首の下あたりを掻いてやるが、つるつるとした鱗の上をひっかいているだけで全く手ごたえがない。
(……こんなんでスッキリできるのかな)
疑問に思いながらしばらく続けていると、フン! とドラゴンが苛立たし気に鼻から息を吐いた。
「あっ、ごめん、もうちょっと強く掻いたほうがよかった?」
「……先輩、違うと思いますよ」
呆れたような声と共に佐久間の指先が伸びてきて、ドラゴンの喉を指差す。
「ほら、ここ。逆鱗取っていいよってことだと思いますけど」
「え? なんで? いらないけど」
岸尾がきょとんとしていると、しびれを切らしたようにドラゴンはまた小さく唸った。伸ばしていた首を引っこめ、前足でバリバリと喉元をひっかく。爪に引っかかってボロボロと落ちた鱗のうち一枚を咥え、岸尾に差し出してきた。
「ほら、やっぱり」
「ええ……?」
逆鱗と言えば、一頭のドラゴンから一枚しか取れない希少部位である。万能薬になると言われ、最も高値で取引される部分だ。
「あ、ありがとう」
ぐいぐいと押し付けられる鼻の下に左手を出すと、その上に貝殻のような鱗が落とされた。岸尾が艶やかな黒色に見入っていると、ぶわりと全身が吹き飛ばされそうなほどの強風が巻き起こる。
「あっ」
慌てて顔を上げる。二頭のドラゴンは早くも岸尾に背を向け、淡色の空高く舞い上がっていた。先を飛ぶのが大きい方で、後ろから子ドラゴンがぱたぱたと後を追っている。
「元気でなー!」
小さくなっていく二頭に向け、岸尾は慌てて大声をあげた。鱗を持った左手を大きく振ると、子ドラゴンの方が振り向いたようだった。ぐらりと体勢を崩し、慌てて羽ばたく様子を心の中で応援する。
あっという間にドラゴンが豆粒のようになり、そして雲の合間に見えなくなった後も、岸尾はしばらくその空を眺めていた。
「行っちゃい……ましたね」
柔らかく撫でるような声に振り向くと、岸尾を見下ろしながら佐久間が微笑んでいた。
「……そうだね」
そう答えて、岸尾も微笑み返す。理由は分からないが目頭が熱くなってきて、慌てて視線を外す。
「帰ろうか、佐久間くん」
そして、ゆっくりと踵を返した。
「さ、佐久間あああぁぁぁー!」
思わず声を上げた岸尾は、走り出そうとして自分が解除していたトラバサミの中に足を突っ込んだ。雷のような痛みに全身を貫かれ、バランスを崩す。
「いいいいい痛あああああァァァぁ!」
反射的に右手を出そうとして、顔から地面に突っ込む。しまった、と顔を上げた時には遅かった。二対の赤い目が、じっと岸尾のことを見つめている。こうなってしまっては姿隠しもへったくれもない。
「……っ……か!」
何かを叫びながら、ドラゴンの向こうから飛び出した佐久間が駆けてくる。どんな激闘があったのか剣は折れ、爪で引き裂かれたプレートは血まみれになっていた。少し髪の毛が焦げてもいるようだ。
「何やってんですか! 終わったんなら早くずらかりますよ!」
「ごめ、足……挟まっ……」
「はあ⁉」
佐久間の後ろから追ってくるドラゴンが、こちらを向いて吠えた。闖入者が増えたことに怒っているようだ。
「これどうやって外すんですか!」
「横の部分踏ん……いや佐久間、俺はいいから早く逃げろ!」
「馬鹿野郎!」
キレる佐久間の向こうに、ドラゴンの大きく開いた口が見えた。ヌラリと光る牙と、岸尾の腕を飲み込んだ真っ赤な喉。
ちり、とそこに青白い炎が揺らめく。
「うわあぁ!」
叫んだ岸尾は、腕を伸ばして佐久間のアーマーに指をかけた。体重をかけて引き倒し、上に覆いかぶさる。
強く目をつぶって息を止める。黒竜のブレスに炙られ、丸焦げになる自分の姿が脳裏に浮かんだ。
「……?」
だが、岸尾の覚悟したように炎が吹き付けてくることはなかった。息の続かなくなった岸尾が恐る恐る振り向くと、親子のドラゴンは二人のことをただじっと見つめていた。不可解なものを見るような目に、岸尾は自分の姿を見下ろした。いつの間にか姿隠しのマントはどこかに消え、右腕のない男が間抜けにも罠にかかっている様子が顕になっている。
きゅう、と子ドラゴンが後ろ足を動かすと、がる、と親ドラゴンの方も小さく唸った。
「……先輩? どうしました?」
「わかんない……けど、平気っぽい……」
佐久間の上から身体をどかし、トラバサミを外してもらう。残りのポーションをかけると、岸尾のズボンに付いた血の跡だけを残して傷が治っていく。
「はい、佐久間くんも……ってあれ、傷がない? 血はこんなに出てるのに?」
「あ、さっき胸元を爪でやられたときに全快しました」
「なるほど、まじないの効果かあ」
確かに、プレートを貫くほどの怪我をしたら、走るどころではないだろう。岸尾が頷いていると、ぐるる、と唸り声がして親ドラゴンが顔を近づけてきた。
「あっすいません、もう帰ります」
なんだかよく分からないが九死に一生を得たのである、こんなところでドラゴンの機嫌を損ねてはいけない。のたのたと立ち上がる。だがドラゴンはその右袖をぱくりと咥えたかと思うと、猫のように首元を肩に擦り付けてきた。
「えっ、何……首がかゆいの?」
恐る恐る、硬い鱗の生えそろった首元に岸尾は手を伸ばした。指先で首の下あたりを掻いてやるが、つるつるとした鱗の上をひっかいているだけで全く手ごたえがない。
(……こんなんでスッキリできるのかな)
疑問に思いながらしばらく続けていると、フン! とドラゴンが苛立たし気に鼻から息を吐いた。
「あっ、ごめん、もうちょっと強く掻いたほうがよかった?」
「……先輩、違うと思いますよ」
呆れたような声と共に佐久間の指先が伸びてきて、ドラゴンの喉を指差す。
「ほら、ここ。逆鱗取っていいよってことだと思いますけど」
「え? なんで? いらないけど」
岸尾がきょとんとしていると、しびれを切らしたようにドラゴンはまた小さく唸った。伸ばしていた首を引っこめ、前足でバリバリと喉元をひっかく。爪に引っかかってボロボロと落ちた鱗のうち一枚を咥え、岸尾に差し出してきた。
「ほら、やっぱり」
「ええ……?」
逆鱗と言えば、一頭のドラゴンから一枚しか取れない希少部位である。万能薬になると言われ、最も高値で取引される部分だ。
「あ、ありがとう」
ぐいぐいと押し付けられる鼻の下に左手を出すと、その上に貝殻のような鱗が落とされた。岸尾が艶やかな黒色に見入っていると、ぶわりと全身が吹き飛ばされそうなほどの強風が巻き起こる。
「あっ」
慌てて顔を上げる。二頭のドラゴンは早くも岸尾に背を向け、淡色の空高く舞い上がっていた。先を飛ぶのが大きい方で、後ろから子ドラゴンがぱたぱたと後を追っている。
「元気でなー!」
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あっという間にドラゴンが豆粒のようになり、そして雲の合間に見えなくなった後も、岸尾はしばらくその空を眺めていた。
「行っちゃい……ましたね」
柔らかく撫でるような声に振り向くと、岸尾を見下ろしながら佐久間が微笑んでいた。
「……そうだね」
そう答えて、岸尾も微笑み返す。理由は分からないが目頭が熱くなってきて、慌てて視線を外す。
「帰ろうか、佐久間くん」
そして、ゆっくりと踵を返した。
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